第53話 身の上話
「しかしムサシ殿はなぜあのようにお強いのですか?」ケイジが真面目な顔で聞く。
「オマエさんだって孤児が何でそんなにデカく育つんだよ?」ムサシが笑う。
「気になるな。ムサシは師でもいるのか?」
僕の質問に首を振る。否定。
「ワシはずっと我流ですよ閣下。なぜ強い?それはワシが弱いからでしょうな」
ムサシは盃の酒を見つめる。
「小さいガキの頃に戦で集落が襲われましてなあ。兵隊がウチの母を襲ったんですわ。親父は戦に出てたから俺が守らなきゃって、気付いたら棒切れ持ってその兵士を殴り殺してました。母はすぐに俺を抱きしめてくれました。そして俺を稲田に放り投げました。母の所に二人の兵士がかけてきて、俺は体が固まってしまって動けなかったです。少し先でずっと母が犯されとりました。...動けなかったなあ...」
ムサシが酒をあおる。
「戦が落ち着いて、親父も帰ってきて、元の生活に戻ったんですが...ガキながら解るんですよ、以前と何かが違うと。しばらくして母が孕んでいるのが解りました。まあ親父の子じゃないですわな。そしてある日の夜、母はおらんくなりました。親父は死んだように腑抜けました。俺は家には居たくなかったからいつも山にいました。山でひたすら棒切れ振り回して、自分の弱さが悔しゅうて悔しゅうて。あの時、こう動けてれば、いや、こう動けてたら、いやもっとって何度もあの日を繰り返して、あの兵士達を何度も斬り続けました。で、気付いたらこうなりましたわ」ハッハッハと最後にムサシが笑った。
「俺にもわかります。俺もそんなものです。あの日、俺がもっと戦えたら。俺は母者の下で生きながらえました。母者はずっと俺に被さってくれてました。あの時母者を刺していた連中の顔を俺ぁ何度も何度も斬り続けとります。でも本当は弱かった自分自身を斬っとるんです」
ケイジもグイっと盃を傾ける。
「だからデカくなったんであります!もう誰にも覆い被さられんようにな」ハッハッハとケイジも笑う。
「すまんな。あまりしたい話でもなかっただろう?」僕は謝る。21世紀の僕には考えられない幼少期の体験だ。
「いやいや、閣下。逆じゃ、逆。こういうのはたまには外に出さんと心を蝕むもんだ。一人で抱え込むのはいかん。かといってどこでもここでも話すことじゃないからの。酒のせいにして、こういうとこでしか語れん。シミジミ語って笑って終われる。酒はやはり良いものよ」
ムサシがニッと笑って見せた。
「そうじゃそうじゃ!別に悪いことだけでもないですからな。そんな俺の弱さは閣下やお頭の役に立っちょります!」
「そうだケイジ?お頭とはケンシン殿よな?ありゃ美人になるぞ。オマエやヤタロウは惚れとるのか?」
ムサシ。セクハラだぞ?
ケイジが笑う。
「お頭はやっぱりお頭ですな!女としても美しいが、不思議とお頭にはそう言う気にはならん。あるのはただ戦場で共に駆け戦い続けたいという気持ちだけです!」
気持ち良いくらい本音だろうな。ケンシンにはそういうカリスマ性がある。
「それにウチのお頭は閣下に惚れとりますからな」
「止めて」
「誠か!?良いじゃないですか、閣下。年の頃も近いでしょうあの娘。あ、でもいつもくっ付いてるおっかない美人がどうなるんだ?」
「止めて」
「ナナコ殿ですか?あの人もありゃ閣下に惚れとりますな。閣下くらいの方なら2人3人囲っても問題ありますまい!」
「いやいやケイジ。あの二人だぞ?斬り合いになるやもしれん。斬り合えばナナコ殿に分があるのぅ」
「マズイっすね。お頭、騎兵隊召集しそうだなぁ。嫌だな俺、ナナコ殿に突然するのは...」
止めてくれ。気まずくなるから。
「ところで、そのナナコだが」話を変えよう。「ムサシから見ても彼女は強いのか?」
「...6合ですな」
「6合?」
「頭の中で俺と斬り合ってみましたら6合目で斬れました。俺はここを浅く斬られましたが」ムサシは自分の鼻から目の下辺りを指でなぞる。強いってことかな?
「俺はどうです?」ケイジ。
「オマエさんとはやりたくないなあ」ムサシが笑う。「9合で斬れるが左手首が飛んでいったわ」
ほう。こういうのは熱いな。
ヤマタイ国ランキングはムサシ、ケイジ、ナナコ、ケンシンの順か。
「まあ、しかし...」
ムサシが盃に酒を手酌で注ぐ。
「一番やりたかないのはマモル殿だな」
え?あの置物強いの?
「変な国であろう?」ヒムカ王がカフク兄妹に声をかけたのが聞こえた。
「クマソもお宅も勝てるはずがないわ」




