第52話 要人捕虜収容所
今日は自分の祈祷所に居る。何となくナナコと居辛いからだ。
マナの祈祷所ばかり使っているようで、実は時たま来ている。
一人になりたい時もある。
外の時計を見る。19時過ぎか。ゼンマイ時計。まだまだデカイな。小型化は難しいか。まあアレすらオーパーツだけど。
マナ号ユカ号には取り付けたが、実はまだ7台しかない。御殿場に3台、船に2台。後の2台は開発課の外工場だ。小型化の研究に使われている。
何だか話し相手が欲しい。今日は一人になりたくて来たわけでもない。
マナの祈祷所は呼ばれない限りは行けない。まあそりゃそうだ。女の子のプライベート空間だからな。
こういう時にハメをはずす場所が僕にはある。バレたら怒られるけど。
ちょうど今日は新入りが入ったしな。
起きているかな?
要人捕虜収容所。
まずは騎兵隊宿舎に行く。ケイジを呼び出す。騎兵隊の悪ガキとは仲が良い。ヤタロウは呼ばない。アイツは要領悪くてケンシンに嘘がつけない。
一応護衛くらいは連れて歩いてないと周りが五月蝿いから、ケイジがうってつけだ。ケイジの名のとおり固くないし、気さくだ。
「相国閣下。今日も?」ケイジが出てくる。
「収容所だ。新入りが入ったんだ」
「へぇ、どこのどちら様です?」
「トキ国の宰相と妹」
「本当っすか?!大物じゃないですか!ウチの元王様大丈夫かよ?...で、土産は...」
「ちゃんとある」手荷物を見せる。ケイジがニヤける。菓子と茶と酒と干し肉。
「ちなみにケンシンには何て言い訳しているんだ?」
「怒らないで下さいよ?閣下に頼まれて剣の稽古をしていると」
「なぜそれで怒る?」
「お頭が私がやるって言うから..まあ、実は閣下は下手だからお頭に知られるのが嫌なんだと。だから俺から聞いたの閣下には内緒でと言っとるんです」ケイジが笑う。
「あながち間違ってないから構わないさ」
「お頭に知られたくないって言ったら顔赤くして『ウム、そうか。お怪我などさせぬようにな』と。お頭は閣下にホの字でござろう。いやぁあのお頭がのう」
「止めてくれ。気まずくなる...」
「賑やかですな。閣下」
収容所の見張りの一人が声をかけてきた。「今日は新入りが来たから来るやもと張ってて正解で御座った」
ムサシが酒を見せる。
実は我ら3人ちょくちょく収容所に遊びに来ていたりする。
「あらあら?これは閣下。いらっしゃいませ。ちょうど子ども達は寝てしまいましたが...」
元ヒムカ王妃。気立ての良い30代半ばくらいの人だ。
「そうか。菓子を持ってきたから明日でも食わせてやってくれ」
「まあ、ありがとうございます」
「新入りはどうだ?」
「ここの説明は致しましたわ。あまりお元気が無さそうでしたが、落ち着かれてはおりますよ」
「そうか。気にかけてやってくれ」
「まあまあ閣下。とりあえず上がりましょうぞ!」ケイジがドカドカと屋敷内に入って行く。「お~い!王様~」。
子ども寝てるって。
ヒムカ王とはこうして何度か話をしている。特にもう収容所に居なくてもよさそうだが、まあ一応戦後の裁判待ちだ。
「これは閣下。それとムサシ殿にケイジ」
「すまんな、夜分急に」
「何の。夜分急しか来られないお立場。ワシはまだ王だったからワガママもできたが、閣下はそうはいきますまい」ヒムカ王が豪快に笑う。
「そのワガママで俺達平民は苦労させられたわ!」ケイジがニヤニヤ突っかかる。
「もう充分懲らしめられたんたから許せ」
元ヒムカの王と孤児。
「おい、ケイジ。新入りを呼んでやれ」
ムサシが手酌で酒を注ぎながら言う。
「承知仕った」機嫌よく立ち上がり廊下に出て行く。「王妃!新入りはどこです!」だから子ども寝てるって。
「これは...如何したことでしょう...」
カフクが部屋に来て戸惑う。
「おう。宰相殿と妹御。まあ座られい」
ムサシに促され、二人は腰を降ろす。
「酒はいけるかの?ロクなものはないがまあまあ飲みなされ食いなされ」
「アンタが言うな!」
ヒムカ王とヒムカ孤児。なぜか仲が良い。
「そうだ!カシ殿、そこの二人は貴殿の必殺の初手を破った者だぞ」僕が笑う。
「騎馬特攻ですか?」
カシが驚き二人を見る。
「近衛兵団第一部隊隊長のムサシだ。」
「騎兵隊副長のケイジじゃ。アレは肝が冷えましたぞ!」
「騎兵がいるだろうとは予想してましたが、南にいると。たとえヤマトにあっても20騎そこらかと思っていました。一体何騎お持ちなんですか?」
「20騎そこら」
「まさか?」
目でケイジに振る。
「俺達騎兵隊は26騎だ。あの時はムサシ殿が来たから27騎かな」
「52騎出したのですが」
「コヤツ1人で7騎倒しおったわ」
酒をあおりながらムサシがケイジを指差す
「ムサシ殿は15騎じゃないですか」
「誠か!?」それは僕も初めて聞いた。
「良かったのう、ワシらは早々に降伏して。こんな化け物達に攻め込まれてたらこうして酒なんて飲んでないのう」ガハハとヒムカ王が笑う。
「お頭が4騎討ちましたよ。ヤタロウが6騎。皆1騎は倒しましたぞ!」
「まてケイジ。数が合わんぞ?1騎足りん」
「ん?えっと...あれ?本当っすね。誰だ?嘘戦果報告した奴は」
「計算がカシみたいに速い」
カフクが驚く。
「ああ。ウチは算術を全国民が習っているからな」
「全国民がですか!?」
カシが声をあげる。
「そうだ。男も女も全員だ」
「勝てるわけなかったか...。でも羨ましい。女も学べるのが...」
「僕らは逃げてくる国を間違えたね...」
「なんじゃ?ウチのお頭、騎兵隊隊長は女だぜ?」
「其方、女の副官なのか?なぜじゃ?相国様、なぜ貴重な騎兵隊を女に預ける?」
「お頭が一番戦が上手いからのう」
「そういうことだ」
カシがボロボロ泣き出した。
カフクがカシの肩を抱く。
「申し訳ありません。カシは女の身ゆえ苦労致しました故...」
「構わんよ。酒は笑って飲むも泣いて飲むも良し。飲まなきゃ笑えんこともあれば飲まなきゃ泣けんこともあろう。なあ閣下」
「ムサシが泣くこともあるのか?」
「月の光に涙を隠す。そんな酒を飲む日だって俺にもあるさ」
「ワシはないのう」
「王様は黙ってろ!」
「ワシの部屋じゃろ!」
「国の施設だ」




