第49話 快進撃と想定外
日神暦190年4月
ヤマタイ国軍は快進撃だ。
南では第二師団と第六師団が合流。クマソ全土をほぼ制圧し、小高い山の上にある屋敷に籠もったクマソ軍を麓で囲んでいるようだ。後はもう降伏か玉砕か。
両師団はさすがに無傷ではないが、全然健在だ。
次の報告はクマソ陥落だろうな。
北ではマナ号ユカ号が散々に暴れた。対馬、壱岐の占領後は博多を襲撃。艦砲射撃で散弾をばら撒いてきた。博多の港は壊滅状態だ。上陸はしたが、場所的に寡兵では守りづらいので占領はしない。捨て置かれた物資の回収のみだ。しばらくして復旧工事が始まったくらいの時にまた寄って散弾をばら撒いてやろう。
続けて未来の宗像辺りを襲撃。神話の地だ。バチ当たりだな。かまわない。どうせ卑弥呼システムという「呪い」がすでにあるのだ。
なまじか壱岐対馬陥落を知ってしまったトキ国は悲惨だ。海側から侵攻されていると知り、それこそ博多や宗像のような海側の重要拠点に兵を戻してしまった。
こんな化け物戦艦が待っているとも知らずに。まあ知ってても守るしかないが。
ひしめく守備兵達に遥か先の海上から放たれた石礫が上空から降り注ぐのだ。それも1回2回じゃない。
そのまま北上し、我々は先にナカト国に寄る。本州顔で日和見中のかの国にサプライズだ。
未来の彦島に屋敷を構えるナカト国王をヤマタイ国相国が表敬訪問だ。
君ら何してるの?日巫女様も首傾げてるぞ?で、どうするの?あ!明日朝一小倉門司辺り天気が悪いらしいから近くに舟を出さないようにね。なんか晴れのち石らしいから。
文字通りの砲艦外交。
翌日、朝から門司、昼から小倉を砲撃。
再度彦島に寄る。
いや~凄かったね?この辺りじゃ石礫が降るんだあ。日神様が御立腹なのかな?ここも近いんだから気を付けてねえ。え?なに?銀?どうしたの?え?くれるの?
翌日にはナカト国から舟が30隻が三度往復して、350の兵が関門海峡を渡った。
沿岸の主要地を軒並み破壊されたトキ国はさらに混迷の事態に陥る。
内乱の発生だ。
特に被害が大きかった博多の惨状が伝播したのだろう。なんせ阿鼻叫喚の地獄絵図だったからな。1000近い守備兵を配置してたものだからね、そこに尖った5~10cmくらいの石が大量に何度も降り注ぐのだ。血飛沫肉片舞いまくりだね、現場。
占領後のこと?
それはトキ国にはあまり関係がない。こちらから見れば彼らは信仰を捨てた国だ。
日巫女=日神様の御使いの世界で、名指しで日巫女を否定し罵った国だ。
クマソは同じ日神信仰でも日巫女は元々受け入れてなかった。だから「君達は知らなかっただろうけど、日巫女様は日神様の御使いで悪い人じゃないんだよ?」の教育が民には必要だ。
トキ国は違う。彼らは「1度は神の御使いである日巫女を受け入れていた」のだ。
神の御使い?知らねえよ、日巫女?誰だよそれ?と、日巫女様は日神様の御使いなんだ!でも最近気に入らないからやっぱ偽物っしょ!は全然違う。
だから敢えて徹底的にやる。そうした方が、日巫女様は本物だ。我々は本物の御使いに弓を引いてしまったんだ。天罰だ!これは日神様を裏切った国への天罰だ!となる。生き残った者は生涯許しを請いながら日巫女を畏れ敬うだろう。
で、現に内乱発生だ。
まず国境近くの小国が軒並み降伏してきた。博多近辺の小国では「やはり日巫女様は本物の御使い。むしろやらかしたのはコッチの大王では?」そんな考えが拡がり始めた。
もちろん降伏を申し出た小国の王達にはちゃんと言ってあげた。
「降伏?なにが?あのさ、悲しいけどコレ戦争じゃないんだよね。日神様の天罰。僕らはそりゃ許してあげたいよ?でもさぁ、自分の御使いを偽物だ何だと言われ攻められたわけじゃない?日神様がねぇ...。いや、君らの立場はわかるよ?でもねぇ...日神様がなあ...。神様も納得して許してくれる材料があればねぇ...」
そんな感じの内容の話をしてやったのだ。サラリーマンナメるなよ。得意なんだよ。
「弊社と致しましては、その辺の融通ももちろんなのですが...先方がですねぇ...」
「御社担当の私としても御希望には添いたいところなんですが...なかなか部長がですねぇ...」
まずは自分より上の立場の人間のせいにする。だ。
で、「わかりました!何とか私、頑張って説得してみましょう!ですから一つお力をかして下さいませんか?」だ。
なぜかあの「日神様神兵」が復活。
「日神様の御心は日巫女様とともにあり」の旗印に一斉蜂起。
で、トキ国は今の大王を倒して日巫女様の下、加護という名の文明開化を謳う「倒幕派」とあくまで現国王を敬いヤマタイ国を討つべしの「尊王攘夷派」で争っている。
マナ号ユカ号が黒船みたいになったような感じだな。
我が国はこれを無視。どちらが勝とうが知ったことではない。勝手に攻めてきて、返り討ちにあったものだから内輪揉め。もしもトキ国が優勢だったら何の疑問もなくこちらの首を狙ってきただろうに。
そんな風見鶏はなまじか味方しても良いことはない。
所詮は権利者達の醜い処世術のなれの果てだ。
我が国はあくまでトキ国と戦争状態。それ以上でもそれ以下でもない。
日神暦190年5月。
クマソ陥落。何度か降伏勧告をしたらしいが、最後は玉砕に出たらしい。何だかんだ戦闘民族だったんだな。
その報告があって数日後。予期せぬ来訪者が来た。
衛兵からの報告では、北市の北町内の村から通報があったのが始まりらしい。
見ず知らずの小汚い男と女がふらりと現れ「自分はトキ国の宰相である。日巫女様に謁見したい」と男が言い出したらしい。
通報を受けた衛兵がとりあえず二人の身柄を確保し、事情聴取をしたが男は同じことしか言わない。女の方は気が触れているようで目は虚ろ。時折ブツブツと言葉を口にするが意味不明。本物か偽物かも不明。で、こちらまで報告が上がってきた。
「本物か?」
「わかりかねます。ただ一応彼らの持ち物を押収しお持ちしました」
武器の類はない。竹簡が一束。勾玉の首飾り。耳飾り...汚い男女の服。身体検査の時に着替えさせたのだろう。
竹簡を広げる。漢文か。貿易があるから漢語は理解できるんだろう。
竹簡をナナコに渡す。ナナコがそれを黙読する。
「政務に関する書類の類かと。内容は去年の税収のことと、ウサ国での建築物についてかと。無理矢理に訓読みした部分もありますが、前後の内容を考慮しました」
「重要な情報を持ち出したってわけではないか...」
「はい。まあただ旧ウサの建築物が気になりますね。あるいは現在の本拠やもしれません。かなりの規模で建設しているようですね」
「荒唐無稽な話ですが、高価な装飾品を身につけ、服も汚れて破れてはいますが、物は良いものかと。中国の者が着ているものに近しいかと見えますので万が一にも本物かとも」
衛兵長が言う。
確かに。
「会ってみるか。日巫女様に会わせるわけにはいかないがな」




