第46話 鬼神
「相国様。何ですか...あの化け物は...。日巫女様の守護鬼神でありますか?」
到着した先には驚きの光景があった。
敵の亡骸と主を失った馬達。そんな中で胡坐をかいて盛り上がっている大男3人。
「お~、閣下!随分と遅参ですぞ」
ムサシが笑う。ムサシの対面、こちらに背を向けて座っていたヤタロウとケイジが慌てて立ち上がり頭を下げる。
いや、ムサシ。お前と別れて感覚3~40分くらいしか経ってないぞ?
「いや素晴らしい若者達ですな!このデカイの達、一振りで敵兵二人を吹き飛ばしますぞ!ワシは必要なかったやも知れん」
ヒロミの報告。
敵騎兵に発見され、追われているところでケンシン達に出くわす。
会敵一閃、先頭のケンシン、ヤタロウ、ケイジがすれ違いざまに全速力でヒロミを追っていた敵騎兵をなぎ倒して始まった。
お互いに足を止めての乱戦。ヤタロウとケイジの鬼神の如き働きで敵騎兵を蹴散らす。敵は後方十数騎が乱戦から離脱し、御殿場方向へと走ろうとした。
ヒロミが3騎でこれを追うために騎首を返す。先を行く敵騎兵。
そこに前方からムサシが来た。ムサシは太刀を抜きすれ違いざまに2騎の兵の首を刎ねるとそのまま馬上から敵騎兵の馬に飛び移り騎手を小太刀で刺し、太刀で隣の敵騎兵の首をまた飛ばす。追いついたヒロミ達が後ろから短弩でそれぞれ各ひとり仕留め突撃。挟撃してこれを殲滅。
間髪入れず乱戦に飛び込むムサシ。ムサシが駆け抜けると敵騎兵の首が宙を舞う。
そういやもうひとりチートいたわ。
マナ曰く「拳銃持ってても勝てる気がしない」男。名前に「天下無双」が宿る男。
これ、もしかして迎撃しなくてもコイツら御殿場で全滅してたんじゃないか?
まあそれは冗談。ムサシ一人で御殿場内を駆け回る騎兵はさすがに無理だ。
足を止めて乱戦していたからこその活躍。
倍の騎兵を足止めした騎兵隊あっての結果だ。
しかし僕も甘かったな。護衛は不要?
もし離脱した騎兵が数騎でも抜けてきていたら死んでたかもな。
とにかく、トキ国の必殺の一手を潰した。
馬まで手に入った。
さて、次はこっちのターンだ。
翌1月9日。
トキ軍が大人しくなった。おそらく必殺の一撃が失敗したと気付いたのだろう。
ヤケクソ気味にぶつかってきていた連中はさっさと自国側へと引いた。
こちらから踏み込んでも良かったが、こちらは少数で広い国境線を守っている。踏み込めばその分国境線が間延びして隙ができてしまうから下策。
こちらも必殺の一撃が必要になるが、トキ軍の本営が解らない。おそらくは太宰府辺りが本来は本拠地、首都だろうが多分今は居ない。下手すると罠かもしれない。
ではこちらの一撃はどこに打つか?
相手が想像もしないが、嫌がるところ。
壱岐対馬。
この時代、基本的に海上で戦うことはない。戦いようがないのだ。
海上を進むことでいっぱいいっぱいの航海技術しかない。
兵の輸送くらいはする。10人そこらを乗せては行ける。100送ろうと思ったら10隻出せばいいが、下手したら何隻かは到着できない。天気予報なんてない。晴れてたから舟を出したら海上が荒れたなんてザラだ。馬を運ぶのに何人何頭が海の藻屑となったんだろうな、トキ国は。
そして我が軍にはマナ号とユカ号がある。この時代で地球上最強の船だ。僕らが知っているとおりに歴史が進んでも、あと1000年は最強の船。大砲を積んだ大型船が登場するまでは敵なしだろう。
まずは対馬を落として、壱岐を落とす。
海軍兵500人。
これをユカ号とマナ号に分担して対馬に上陸させる。ロクに守備兵も置いてないだろう。
もちろん僕も行く。マナ号に乗船だ。騎兵隊は置いていく。機動力を海の上になんてもったいない。陸で不測の事態に備える機動力だ。
じゃあ僕の必要性?
ないね。ただのロマンだ。大型戦艦、乗りたいじゃないか。守備の指揮?素人の僕よりシンゲン達の方が良いだろ。
総大将はマナだし。
まあその総大将は戦勝祈願と称してずっと祈願所に籠もって名前作り中だけど。
この日の夕方にはクマソ方面軍からの報告が入った。
ちょうど夕食時だったので食事をしながら聞いた。
現地はだいぶ苦労しているようだ。
苦戦ではなく苦労。
平野が少ないことで進軍が大変だとか、荒廃が激しい集落が多く、保護対象が多いだとか、保護対象が暴れたとか村人が石投げてきたとか。
まあ今後統治することを考えたら無茶はできないとこだが。しかしゲリラ化した民兵とかは怖い。一応衛兵団を増加して投入しているが。
多少の犠牲は目を瞑り、サッサと進軍してクマソ攻略が一番だが...煮え切らないとまたマナに怒られそうだな。
戦争は難しいものだ。
「クマソ方面は思いのほか手こずっているみたいですね」
ナナコ。前から疑問だったんだけど、この人なんでいつも僕の部屋でご飯食べるんだろ?部屋隣じゃん。
「なんせ領土が広いからね。ウチは数が少ないからどうしても時間がかかるよ。無理に奥へ奥へと進んで補給線を絶たれたら大変だからね。進んでは周囲をある程度安定させてってやっていかないと」
クマソとトキ。どちらかが終わればある程度は残りに兵を回せるんだが。
「志願兵達を投入なさっては?」
「素人を増員しても戦況は変わらないよ」
志願兵は3000人も集まった。しかし今は後方支援で安全圏までの輸送くらいしかさせてない。一応訓練はしている。だが士気は高いが戦場に放り込むほどの練度はないから、師団に放り込んでも連携が難しい。師団長達も扱いに困るだろう。ウチは職業軍人だから強いが、逆に職業軍人だから素人を混ぜられない。まあ容赦ない指揮官なら肉壁に使うんだろうけど。
無論いよいよ本土決戦まで追い詰められたら戦って貰うしかない。
「いえ、占領地域にです。確かに多少の危険はありますが、比較的安全ですし、民の保護と慰撫を任せては?なんせ同じ平民ですから、気持ちも通じましょうし、軍人相手よりも幾らか気持ちも和らぎましょう」
それだ。




