第41話 作戦会議
「遠路ご足労かたじけなく」
カズマサ大佐が抱拳で出迎えてくれた。
「前線の防衛、苦労をかける。早速だが状況と今後の方策を確認したい」
カナの先導でクマモト庁舎に入ったのは翌朝遅くの昼前に差し掛かった頃だった。アヤセが待っていて、すでに移動した司令本部の砦へと案内をしてくれ、到着したところだ。
「最新の偵察の報告からクマソ軍は夕方にはこの辺りに陣を敷くかと考えられます」
カズマサは近隣の地図の一点を指す。特命課制作の細部地図だ。なかなかできが良い。未来の作図を教えているだけはある。
「随分近いな」
「はい。最後の休息でしょうな。日が昇れば一気に進軍してくるでしょう。我々はここに陣を張りコレを迎え撃ちます」
小高い山際と小さな川で挟まれた平野を指す。
「ここなれば大軍も横には広がれず、こちらを包囲することが困難かと考えます」
なるほど。さすがだ。僕もちゃんとそういうことを学んだ方が良いな。
ケンシンが僕の左側半歩後ろから地図をのぞき見ている。小さいからつま先立ちなのがかわいい。普段は凜として堅苦しい彼女がちょこちょこ見せる少女らしさがギャップ萌えというやつだな。
しかし右にナナコ、左にケンシン。カズマサ大佐は「相国って女好きだな」って思っていないだろうなあ。「弥生時代の相国に転生して美女護衛と美少女将軍を戦場で侍らせてます!」うん。最悪な響きだ。ケイジかヤタロウも連れてくれば良かった。ちなみに二人は隊をまとめつつ休憩だ。
「夜襲は愚策か?」僕が尋ねる。
「ですな。十分警戒されていましょうし、無理をして多少削ったところで、でしょう。なまじこちらの『力』を見せてしまうよりは寡兵と油断している相手と正面決戦で、短期殲滅を狙いまする」
「力」。つまり射程距離。遠方から敵陣に夜襲で飛び道具をぶっ放すのは?と僕が聞いて、大佐が、どうせ全滅できるわけでもないし辞めとけ。1000、2000削って警戒させるより、アホ面ぶら下げてくる7000を一気にやっちゃう方が良いぜ?って言ったのだ。さすがプロだなあ。僕なら夜襲して「よし半分近く削ったぞ」って喜んでいただろうな。
「で、7000をどう捌く?」
「敵が弓の射程外ぎりぎりまで迫った辺りでバリスタ、投石機、強弩、長弓。全てを一斉射撃します。この一撃で敵の前衛から後衛までの全てに損害と混乱を与えます。こちらも前進し、先頭は連弩隊を射程内まで横いっぱいに広げます。矢を撃ち尽くしたら抜刀。全軍で突撃。あとは乱戦となりましょう」
「最初の一撃でどれだけ損害と混乱を与えられるかだな。乱戦になった時もまだ兵力は相手が上だろうからね」
「はい。そこからは練度と装備で力押しになりますな」
「騎兵隊の仕事はここだな」
「はい」
間髪入れずにケンシンが返事をした。
「説明してみよ」
ケンシンの理解力を測る。
「はい。我々騎兵隊は衝突の『前』。連弩隊の射撃を合図に敵後方に突撃。撹乱させます」
え?『前』なの?『合わせる』つもりだったんだが...。何でか聞いてみよう。
「衝突前の先行の理由は?」
もちろんわかってるよって顔で聞く。トウリ君にも立場がある。
「はい。乱戦が始まれば前方の兵は興奮状態になり、後方で何かあっても気付かない。故に先に後方を騒がせ、前方の注意を削ぐことが肝要かと」
すげぇ。さすが軍神の名を持つ少女。
「騎兵隊の力添え、心強い」
カズマサがニコリと笑う。
「数はわずか20騎だ。当てにしすぎるな」
「ところで閣下。この戦が終わればそこの者を第二師団に譲っていただけないでしょうか?」
カズマサがケンシンに目をやる。
「佐官に推挙し我が副将に取り立てたい」
さすがに見る目がある。が、馬鹿を言うな。
「貴殿が百、二百の首級をあげ、クマソの王の首を刎ね、とって返してトキ王の首をも刎ねて、その褒美に寄こせと言っても譲らんわ。この者はこの相国の至宝ぞ」
大笑いして返す。
「武人の誉れだな。其方が羨ましい」
優しい顔でカズマサはケンシンの方を見ていた。
振り向くとケンシンが泣いている。
「他所の国の孤児の身には余るお言葉。我が生涯、この身は相国様の刃としお使いいたします」
重い重い。ちょっとカッコイイ断り方しようとしたらやり過ぎた。たまに自分の発言力を忘れてしまう。
いや、普通に落ち着いたら結婚してカゲカツでも生んで幸せに暮らしてくれ。
まあ、でも本音でもある。
ケンシンは我が至宝だ。
そのうち何千もの騎兵を指揮させたい。
「しかし、日巫女様の身には日神様の加護が宿り、相国様の身には月神様の加護が宿ると聞くが、其方が身には戦神様の加護でも宿っておるか?」
カズマサが笑った。
笑えない。
多分軍神が宿ってる。
ちなみに日巫女と相国に宿っているのは女子高生とオッサンだ。




