第40話 第2師団長
時は少しさかのぼり、カナとアヤセが到着したクマモト郡庁舎内の第2師団司令部。
第2師団長ヒサのカズマサ大佐。
「ご苦労様。相国閣下の言伝を承ろう」
初めは驚いたが慣れたな。馬にも「人」にも。カズマサはそう思った。
彼は馬という生き物を初めて見た時は少し腰が引けた。こんなものに人が乗って操れるのか?と訝しもした。
さらに驚いたのが相国閣下の秘蔵っ子が「本当に子ども」だったことだ。
相国には何度も会っていて、僭越だが、子どもなのにやはりしっかりしたものだと感心はしていた。最近では背も高くなられて見た目はだいぶ大人びてきたと彼も思っていたのだが、目の前の騎兵隊達は全くもってあどけなさ残る少年少女だったのだから無理もない。
しかも隊長は女の子だ。
カズマサは内心「騎兵隊とは相国閣下の遊び相手なのか?」と思った。
しかし騎兵隊は二度三度と道程の確認と訓練を兼ねて司令部に来て、幾らかの言葉を交わして彼らの熱意と技術の確かさを納得したのだった。
第2師団長で大佐。肩書きは大層だが、この男は存外にまだ若い。27~29歳、30代には見えない。丸顔で優しい顔をしている。実際に性格も温厚で人懐っこいところがあり、比較的考え方も柔軟だ。兵の人望も厚い。
それでも師団長で大佐。もちろん戦は強い。
徴集兵として少年期から実戦経験を積んできた。同じ集落の若者達のリーダー的な存在で、戦になると仲間達と背中合わせに円陣を組んで戦い、いくつもの戦場で常に生き残り、大小の手柄を立て近隣でも有名な若者になった。
衛兵隊に誘われると二つ返事で入隊し、その実力と人望で出世した矢先の相国の大改革があり、第二戦団団長に抜擢され、そのまま第2師団長だ。
「相国様は御殿場を出立。第一騎兵隊を引き連れてこの司令部へと御着陣になります。尚、師団の指揮権は大佐が引き続き持つようにと。相国様は我ら騎兵隊のみ指揮を取ると」
「了解した。戦の指揮はお任せあれと伝えてくれ」カズマサは笑顔で頷く。
「また相国様より、敵の距離、規模を報告されたしと」
「うむ。我が師団の第3戦団が構築している国境付近の陣より現在20km程南を行軍中である。敵推定兵力は7000。」
カナが懐紙を出して筆記する姿にカズマサは合わせるようにゆっくりと喋る。
筆ペン。持ち手の中を空洞にし、中に煤と膠を水に溶かした墨汁なる物を入れ、その先端に獣の毛を束ね膠で固めたものを差し込む。そこに徐々に染み込んだ墨汁で字を書く。日巫女が伝えた神の御業を試行錯誤の末に開発部が再現した物である。
「大軍を出してきた故に多方面からの侵攻はないと踏んでいるが。搦め手くらいは注意した方が良いかもしれんから国境付近の衛兵に注意警戒と戦場武装を指示している。会敵は明後日の早朝と想定した」
普段の衛兵は治安維持、警察的な職務時は帯刀と篭手のみで行動する。戦場武装とは小規模な賊の討伐時などにする武装で、胸当てと短槍と短弩が加わる。ヤマタイ国では国内が豊かなので賊は見当たらない。訓練でくらいにしかしない装備だ。
クマモト郡には現在1200名の衛兵が配置されている。破格の数だが、こちらには軍が一個師団しか来てないのでその配慮だ。
ヤマタイ国の職業軍人は15000だが、内3000は衛兵、つまり警察消防。2000は補給部隊だ。総師団兵は9000で残りの1000は海兵になる。
「想定される戦場はクマモト郡南市南町の南東郊外」未来の熊本県御船町、城南町、甲佐町辺りである。
クマソ軍は未来で言う八代市方面から山沿いに進軍し、川を渡って熊本市に侵攻するルートだ。
「近辺には以前より小規模な砦を築いているので、明朝早くに司令本部を移す予定である。決戦は打って出て野戦にて行う」
第二師団の総兵力は1500。7000に対し野戦にて決戦は普通は愚策になる。しかしトウリの考えのとおりに現状のヤマタイ国では守りを固めるのはジリ貧になるだけなことをカズマサも理解していた。
装備差と練度と戦術で押し切るしかない。




