第38話 ユカ号の功績。あの姫
日神暦189年12月16日。
交易艦ユカ号が二度目の航海から帰還した。今回も馬などの動物と武器や鉄、様々な植物を持ち帰った。さらに今回は朝鮮半島にも寄港している。
ユカ号がもたらした恩恵はかなり大きい。馬や鉄はもちろんだが、牛や羊、山羊等、当時日本にはいなかった動物が手に入ったのは大きい。もちろん食肉にするには数がいないが、繁殖させる。山羊のミルクは乳製品をもたらすし、羊の毛は言わずもがなウールだ。ちなみに鶏はすでに日本にもいた。
馬も100頭近く揃ったが、ケンシンの騎兵隊に30頭預け、残りは繁殖のために国が管理する。今は急ごしらえの牧場地としてヤメ郡の低山に放牧している。
戦争が収まれば阿蘇に大きな牧場地を作り、様々な動物をどんどん繁殖させていく予定だ。
特に注視してなかったが植物を持ち帰ったのはファインプレーだ。ユカ号艦長の「ナトのセイイチ」が航海中に思いつき、上陸班に指示を出して、食用できるものとその種を集めさせたらしい。本人曰く海上の食事が保存が利き、火や水を使わずに食せるものとして焼いた飯(つまり煎餅)や野苺のドライフルーツを練りこんだクッキーみたいなものばかりで、これを改善したかったからで、ユカ号は動物輸送のため、土を盛っているエリア(開閉できる屋根付きだ)もあるから、種も船内で蒔いて発芽させられるかも試したかったらしい。
まさに鄭和の船も船内に畑を持っていたというから引き続き、船内農業を許可し、改めて肥料と土を積み込ませている。
セイイチ艦長、素晴らしい。僕が知らないだけでセイイチって名前の優秀な船乗りでも歴史上にいたのかな?
ナトのセイイチは少佐から中佐へ昇進させ、副艦長含む乗員達にも褒美を出す。
ちなみに持ち帰った食物や種が人参、大根、蜜柑、生姜、梨...。有りそうでなかったものたち。これは僕も嬉しかったが、マナは発狂したかのように喜んだ。これらの栽培に成功すれば食文化が一気に高くなる。いやぁ大根って古代より日本の野菜だと思ってたよ。大陸由来だったんだ。
てか、この時代の日本人ってかなり肉食に偏っていたんだな。野菜が思ってたより種類がないもの。
ちなみに我々のヤマタイ国ではすでにラーメンがある。煮干し醤油ラーメンだ。マナが麦の生産を奨励しまくっている。国民よ、麦を食え!だ。米に比べて気候風土のせいか麦は育ちが悪いのだが...。ちなみに今日の僕の朝ごはんはパンと蜂蜜と目玉焼きだ。
熊の子ウーフか?
あと特筆すべきユカ号の功績は書物を持って帰ったことだろう。
もちろん写しだが、老子や孔子と言った同じみのものだ。孫子はなかった。残念。曹操より先に注訳つけてやりたかったな。冗談だけど。
ナナコが航海に同行し通訳業務をした女官達を集めては現地の話を聴きたがっている。落ち着いたら連れて行ってあげよう。僕も行きたいからね。
ケンシンの第一騎兵隊は上々の仕上がりだ。なぜみんな簡単に馬に乗れるようになっているんだ?
その辺の話をケンシンに聞いたら
「私らは潜伏中に狩りをしてましたから。ひとりが猪や鹿に飛び乗って制御して、みんなで一斉に突くんですよ。いや、猪や鹿に比べたら大人しくてかわいいじゃないですか!」
いや、どんな狩りの仕方だよ。この中高生みたいな女の子が猪にしがみついてたって?え、お母さんデカイオオカミだったりするの?黙れ小僧なの?
ああ、でもキャラ的にはケンシン確かに被ってるな。小柄な女の子が馬上に前傾姿勢で槍持って走ってて、デカイオオカミみたいな二人がその左右後方に付き従ってる。うん。ソナタは美しい。
ちなみに名前が「ケンシン」な理由もわかった。保護された後に戸籍登録のため、名前箱を皆で引いたのだが、ケイジの後に同じ箱に手を突っ込んだらしい。まあ、ミヤザキ郡だったからまだ文字が読めない人も多かったし、分からずそのまま前に倣ったのだろう。これは職員のミスだ。
で、そちらは男性用だと、慌てて職員が引き直させようとしたが、本人が「いや、誤ってこちらを引いたのも、その結果この名を引いたのも全ては日神様の御心でしょう。私はこの名を頂戴致す」と、そのまま登録したそうな。
まあ、この時代の人にはどれが男向けの名で、どれが女向けの名なんてわからないから、本人も職員もまあ、いいかってなったんだろうな。
しかもそれで「ケンシン」を引くって。もう絶対システム絡みだ。鬼小島連れてるし。
まあ確かに謙信女性説ってあったけれども。
「はー?なに?その子。めっちゃ会いたいんですけど」
ケンシンの話をするとなぜかマナのツボに入ったらしく大爆笑だ。
「本人も会いたいんだと。『僭越ながら相国様もお若く驚きましたが、日巫女様もお若い見目麗しき女性と聞いています。そんな方が斯くも豊かな国を作られたとか。一度ご尊顔を拝謁したく思います』って言ってた」
「固いな~、ケンシンちゃん真面目な子だねぇ、会いますよ全然。ご尊顔なんて幾らでも見せますよ」マナは楽しそうに笑う。
「で?なんで騎兵隊はトウリ君の直轄にしたんです?ケンシンちゃんが面白いからですか?」
「まだ馬が少ないからね。他の部隊と一緒に運用するには騎兵の数が揃わないし、少数騎兵は機動力を活かすのが1番だからね。大軍に20騎そこら混ぜても仕方ないだろ?別動隊として臨機応変、神出鬼没に動いてもらうために全体の指揮から外したかったんだ。伝令や偵察、奇襲から敵の中を走り抜ける撹乱作戦とかが任務になるだろうから、もう僕が直接動かそうかなと」
「でもそれだとわりと最前線にトウリ君いないとってなりません?ナンバー2がそれだと拙くないです?」
「まあ逆にナンバー2が前線にいるのは士気が上がるし、現場判断がスムーズになるだろ?それに馬は速いよ。例えばアリアケ港から朝に伝令が出たら昼にはここに余裕で着いてるよ。今は半日かかってるからね。スピードは戦では本当に重要だよ。兵は神速を尊ぶは本当だね」
翌12月17日。戦端が開く。
南。動いたのはクマソ国だ。




