第31話 臣下の礼
キノクとヒムカにはヤマト国内から衛兵も派遣した。ヒムカは降伏したので比較的安定はしている。キノクも意外に落ち着いてはいる。信仰心もあるのだろうが、まあ劣悪な環境にいたから今より悪くはならないだろうという気持ちもあるからだろう。
まずは餌付けだ。そして教育。日巫女政権下の民として今後は文字を学び、法を理解して貰わなければいけない。四則演算はまだ待つ。信仰心があるから大丈夫だとは思うが、一応占領地だ。急激に賢くなられても困る。
戸籍も貨幣も徐々にで構わないだろう。
何はともあれ日神暦188年8月。キノク、ヒムカ両国を吸収合併。
郡制を導入し、旧キノク国南側を「クマモト郡」、北側を「ヤメ郡」とし、旧ヒムカ国を「ミヤザキ郡」とした。
もちろんマナの命名だ。ヤマト国のネーミングの絶対的基準は「マナがわかりやすい」を第一としている。僕も最初はどうなの?とは思っていたが、正直僕もわかりやすいから最近は任せっきりだ。まあ、キノクと言われるよりクマモトと言われた方が「あの辺ね」とわかるし、政治もしやすい。
ヤメ郡はヤナガワと予想していたが、「八女茶でしょ!」とか言う理由?でヤメ郡になった。
郡にも市町村制を敷く。これはヤマト国内と同じで単純に5分割。つまり「クマモト郡北市南町」といった住所ができることになる。戸籍制度に都合が良いのだ。
今後三文字の姓が誕生することになる。つまり上記の地区なら「クキナ」姓だ。三文字姓は外様。差別が起きないように注意しないと。あと、今後の占領地の頭文字が被らないようにマナには言っておこう。
さて、問題も起きている。
まずはソウマ国。相変わらず「日神兵団」が暴れている。粘るなソウマ国。さすが大国。で、そのソウマ国から使者が来た。
逆徒討伐に力を貸せだ。
同盟国としては反乱軍だが、彼らの旗印がウチのボスなのだから変な立場だ。まあ僕の失策のせいだけど。
もちろん断る。理由としては旧ヒムカ国キノク国の混乱とクマソ対策でそれどころじゃないだ。
で、ソウマ国はトキ国にも使者を出す。で、トキ国から問い合わせの使者がウチに来る。相国は忙しい。
で、まあやはり問題となったのは民衆が「日巫女」を旗印にしていること、実際にヤマトがヒムカキノクを電光石火に領有したこと。
当初の予定はキノクを領有して、安定させてからヒムカ領有。クマソの受け持ちという負の遺産を背負いながら国を発展させて、ヤマトの統治スゲー。からのソウマに燻らせていた種火に点火。巨大国家になってからの「で?おまえらはどうすんの?ウチに合併された国めっちゃ栄えてるよね?それ見てお宅らの民衆も日巫女待望論で盛り上がってるよね?」からの外交戦略だったのだが。
トキ国から見た今の状況は隣のソウマがボロボロ。あそこは資源と貿易大国。ヤマトは小国のくせに一気にデカくなったから絶対中身スカスカ。今なら全部総取りできるんじゃないか?だろうな。
有無言わず攻めてこないのは日神様の御加護だろう。民兵だからウチに侵攻するための兵が揃わない。
だが無理矢理出兵もできなくはない。負ける気はしないが無傷とは行かない。将来的にトキ国民も統治するのにできれば殺したくもない。
しかし事態はさらに最悪な展開になる。
トキ国使者はソウマへ治安維持部隊の派兵をする旨を伝えてきた。
反対はできない。ソウマ国の要請があり、ウチも南の二国に派兵している。それに反対すればますます怪しい。民衆が日巫女を旗印にし、それを庇えば名探偵の少年じゃなくても「アレレレぇ」となる。
しかしトキ国は兵が揃うのか?士気の低い少数兵を送ったところでソウマ国がさらに混乱する気もする。そうなったらそうなったでこちらも付け入るスキができる。
などと考えていた時期が俺にも...。
結局中身が未来の平和な時代に生きたただのおっさんなだけの13歳が権謀術数など謀ってもそうそう上手くはいかないのだ。
さすがは倭国大乱を生き抜き、領土を広げ大国になったトキ国だ。
彼らはソウマ国に「日神様のお味方をする」と出兵した。総兵力2000。奴ら「反乱軍の援軍」に向かったのだ。「治安維持の派兵」か。嘘はついてない。か?
日神暦188年9月。ソウマ国陥落。トキ国領になる。
そして馬鹿がやらかす。ヤマト、トキが大きくなったものだから焦ったのか欲が出たのか?
事もあろうにトヨマ国がウサ国に攻め込んだ。もちろんウサ国も徹底抗戦中だが、すでに結構な数の流民がヤマトに脱出してきている。
生兵法は怪我の素とは言うが、これは僕の大失態だ。マナが治めた倭国大乱が再燃してしまった。
「でも統一しようって思ったら仕方なくないです?気持ちはわかるけど、キレイにはいきませんよ。むしろクマモトとミヤザキを無血占領したんだから私は成功だと思ってますけど?」
事態の責任をマナに謝ったら、キョトンとした顔でそう言われた。あ、クマモト一人死んでたわとか言ってる。
「いや、しかし...」
「あのね、トウリ君。トウリ君は私のせいで何もわからないままこの世界に巻き込まれて、しかもある日突然記憶が蘇っちゃったのにずっと私を助けてくれてるじゃないですか。でも、まあ私のせいだけど、私と違って『よし!邪馬台国にいくぞ』って前世で考えてたわけじゃないんです。だからたぶん覚悟的なものがどうしても21世紀の人なんだと思うんです。まあ...私のせいだけど」
「....」
「私は覚悟してますよ。この時代の偉い人になった以上は。私のひと言で沢山の血が流れること、沢山の人の人生が変わること。私は沢山の人を幸せにできる存在です。同時に沢山の人を不幸にもする存在なんです。もうコレしょーがないなんです。そして頼りないかもだけど、私は貴方の上司です」
この子は本当に...。
「だから私の名で全責任を負います。歴史が変わることも、沢山の人が死んでしまうことも。キレイな答えじゃなく、一番正解を考えてください。それは全部私の決断なんです。悪名だろうと歴史に名を刻めば私たちの勝ちですよ。だから私を清く正しくか弱い可愛くてちょっとお茶目な令和の女の子と思わずに、邪馬台国の女王に貴方の力を貸して下さい」
「はっ!相国トウリ。日巫女様の御心のままに」
僕はおふざけではなく、心からこの少女に平伏した。思えばこれが最初の「臣下の礼」だった。この時をもって僕は「日巫女の家臣」になったのだ。




