第29話 特命課と七つの国
宮内部特命課。
相国直属の組織で、諜報、潜入等を行う。俗に言えば「忍者」、未来で言えば「工作員」。贋金作って工作員までいて、いよいよ某ならず者国家だ。
特命課がなぜ僕の直属かと言えば、僕が作ったからなのだが、実は構成員は「相国担当課」の人間だからだ。
相国担当課は元々僕の世話役である。と同時に身辺警護役でもある。語学に優れ(課長がナナコだからね)、腕も立つという連中だ。そうだな、言わば「相国御庭番衆」だ。そのうち悪代官を懲らしめる時にでも連れて行こう。
まあ元々スパイ組織が欲しかったから、新しく雇用して鍛えるよりは、すでに完成された彼らを使う方が早い。そもそも相国担当課、120人もいる。いや、多過ぎ。ほとんど遊ばせていた感じだ。
で、マナに一応相談して、うち30名を間者にすることにした。さすがに勝手には作らない。トップに内緒でナンバー2がそんな組織なんて作ったら大問題だ。
で、マナが面白がってネーミングが特命課になってしまった。頭もキレるが突然キレもする「ウキョウ君」とかやたら女を誑し込む武闘派の「ヒトシ君」がいないのはシステムの甘いところだな。
ちなみに課長のナナコも実は強い。まあ一番長く近くにいる人だからね。ちゃんと鍛えてる。どっちみちナナコが剣を抜いて戦うような状況って、もう詰んでる状況だけど。トウリ君もちゃんと鍛錬はしているが、ぶっちゃけ大したことはない。
さて、そんな特命課に特命だ。
彼らには他国へ潜入してもらう。目的は民への扇動だ。
流言飛語。ヤマトは日神様の代理人である日巫女様によって休戦以降栄えに栄えている。実りも豊かで飢える民もいない。これは真実だ。すでに噂くらいは聞いている者もいるだろう。
ここから嘘を混ぜる。日巫女様は厚く日神様を敬愛され、日々祈りを欠かさない。決して日神様の御心に反しない。
日巫女様は刺青を禁止なされた。それは日神様の御心である。刺青は呪詛であり、肌に浴びる日神様の御加護を妨げるものであると。すでに刺青をしている者も祈りにより、新たに墨を入れないことで許された。
そのことは各王にも通達したと噂で聞いたが、彼らは虚栄心と功名心からこれを無視しているらしい。
そもそも彼らは日神様への信仰心が薄く、軽んじている。だからヤマトのように栄えない。日神様への休戦の誓いも軽く考えているのではないか?
日神様の恩恵であるヤマトの富を力で奪おうと考えても不思議ではないかもしれない。
あくまで嘘の部分は「噂で」「らしい」「ではないか?」「かもしれない」で濁す。
民が疑心暗鬼になればよし。
我らも日神様への信仰心を日巫女様への忠誠で示せば豊かになるのではないか?
日巫女様の加護の下に入るべきではないか?
それを煽る。民が騒げば降る王が出てくるかもしれない。あるいは民によって引きずり落とされる王も出てくるかもしれない。
最悪あちらの王がこちらを疑い、戦になっても恐らくはまともに兵が揃わないし、士気は最悪だ。
七国。ユカ版魏志倭人伝に出てくる国は30近いが、マナ邪馬台国ではだいぶ様子が違う。
未来の下関辺りに有るのが「ナカト国」。漁業を生業にする民も多く、平野が少ないためかなり小さな国だ。ただ近辺にクニがなく、ゆえに東の国境も曖昧で平和ではある。ここは最後で良い。他の国を治めたら勝手に降ると考えている。
北九州市から田川市、苅田、行橋市方面に広がるのが「トヨマ国」。南は田川の南方辺りでヤマトと接し、西は遠賀川が境だ。平野も多く、山あり海ありで大国だ。
その大国がヤマトを潰せなかった理由が次の二つの国。
遠賀川から西側、宗像、博多、太宰府、糸島までを抑えている巨大国「トキ国」。
恐らくは最強国家だ。未来人としては「そこが邪馬台国だろ?」と思う。場所的にも所謂「漢委奴国」だ。抑えている場所が凄すぎる。長く日本史で重要拠点であり続けた太宰府や日本の玄関博多。強い。
もうひとつが「ウサ国」。まんま宇佐神宮だな。豊前辺りで「トヨマ国」と国境を接し、南は臼杵市辺りまでとほぼ大分全域だ。ヤマトとは中津市と日田市を分け合って接している。ただ平野が少ないのと、温泉の地熱で農地に向かない土地も多く、領土ほどには国力は大きくはない。
「トキ国」に次ぐ大国は佐賀から長崎にかけて広大な領土を持つ「ソウマ国」だ。鳥栖辺りはヤマト領なのでそこで接している。
ここの強みは壱岐と対馬を抑えていること。また長崎の翡翠鉱山を持っていることだ。朝鮮半島との貿易が盛んで、ヤマトもかなりここからの輸入に頼っていた。もしもう少しマシな航海技術を持っていたら間違いなく九州の覇者だ。ユカが佐賀は一番イージーモードと言ったのがわかる。
ここの王はかなり贅沢をしているらしい。まあそうなるわな。
ヤマトの南はまず久留米辺りを境に熊本側。「キノク国」。久留米の南部や柳川、熊本市辺りまでが領土。平野もあり海もありかなり肥沃な領土...のはずなんだが、内情はあまり良くない。南に巨大な敵国を抱えているのだ。近年大規模な侵攻はないものの、ちょくちょくと盗賊団まがいの「クマソ兵」が略奪や破壊を行う。止せば良いのに仕返しとばかり無駄に攻め込む。小競り合い。男手が兵に取られるから田畑が荒れる。軍備費がかかる。貨幣はないけど、兵糧もだし、武器の輸入のため作物も出す。土器も作らせる。ますます田畑が荒れる。
推測だが、多分「クマソ」のそういう策だと思う。ジワジワ弱らせていき、最後に潰す。つまり「クマソ」には「軍略」がある。
最後に宮崎側の「ヒムカ国」。延岡市、日向市辺りを中心とした農業国だ。ちなみに宮崎市辺りは「クマソ領」。国土は広いが⅔は山だ。「ナカト」よりは若干国力は上かな?程度だが、残念ながら南には「クマソ」がいる。もちろん嫌がらせを受ける。こちらは守りに徹しているようだ。
そう。実はヤマトは八国の中ではかなり小さな国だ。マナが日食のハッタリをかまさなかったら多分滅びてたと思う。
しかし今となったらこの小国が頭一つ抜きん出て国力が高い。
時代を感じる。広大な領土があっても、この時代ではそれほどまでに厳しいのだ。
田畑の広さだけ収穫が有るわけじゃない。
ヤマトは上下水道を整備し、ろ過した清潔な水を飲む。それだけでも民の衛生状態が段違いだ。兵役がないから田畑も荒れない。良質な肥料を使っている。作物のデキが違う。収穫量が違う。識字率が100%に近いから情報の発信も受信もスムーズだ。
同じ広さの田畑からの収穫量が3倍から違う。
そして常備軍。兵が皆「戦争のプロ」だ。他の労働はない。常に戦争のための訓練に明け暮れている。一人の兵で徴兵された腹を空かした兵4、5人は相手にできるだろう。ウチの500人の第一軍団と戦うなら、2000から2500は最低限必要だ。
加えて装備が違う。持参の弓や槍で戦う半農兵が大半の各国に対し、全員が鉄器装備。そして時代を読まない女王様が普通にこの時代の日本じゃ有り得ない武器を揃えている。ただ正面からぶつかるだけの戦なら、多分500で5000に勝てると思う。
諜報の結果からの判断だが、最強の「トキ国」でも最大動員兵力は15000くらいだ。
さて、まず諜報をかけるのは南。クマソと国境を面していて民が一番貧しい国。
「キノク国」だ。




