第27話 兵隊と麦
日神暦188年5月。
僕と内政部、外交部はいよいよ八国の統一プロジェクトを本格的に検討しだした。
ちなみに内政部と外交部とは文字通り国内の政治全般を受け持つ部署と対外政策を受け持つ部署だ。
日巫女の日神から巣立つための国作り宣言から、これまでの日巫女の神託だけの政治ではなく、内政、外交、軍、宮内部の4つの専門部署を立ち上げ、政府とした。
企画立案は僕で命名はマナ。
内政部、外交部、軍部、宮内部とマナらしくもなくオーソドックスな命名になったが問題は中身だ。僕としては、僕自身も役職が相国だから、時代に沿った役職を各部に作ろうと考えていたのだが、例の「細かいこと気にするな、わかりやすくしろ」のマナ精神で中身はとっても馴染みある役職だらけになった。
言ってしまえば上から「部長」「課長」「係長」。サラリーマンかよ...。ちなみにそれぞれに「補佐」の役職があり、課長にも一課長二課長と数がある。
軍事を司る「軍部」に至っては「将官」「佐官」「尉官」になっている。ちなみに元衛士隊隊長のシンゲン氏は大佐だ
。
元衛士隊としたのは現在衛士隊は解散しているからだ。
元々常勤兵は300程度で軍隊というよりはただの日巫女の近衛兵団だったが、この三年の大改革の成果で職業軍人が1500程度まで揃っている。御殿場内に常勤しているのは今は100人程度で、これが正式に「近衛兵団」。他400人程度は領内に散り、各地で治安維持、警察的役割を果たす「衛兵団」。つまり対外戦争に出せるのは1000人程度。御殿場外に新築された兵舎の都合もあり、500人ずつ二部隊。「国軍」だ。シンゲン氏は正式には「ヤマト国軍第一兵団長ミナのシンゲン大佐」となる。うん。何か未来的だ。
国の組織図としてトップに日巫女、その下に相国トウリ、その下に並んで内外軍宮の四部の部長がいる形になる。「ナナコ」は宮内部の相国担当課の課長だ。かつての通称「日巫女軍団」はほとんど内政部にまわったが、一部は宮内部の技術課になっている。
で、問題がかつて争っていた7人の王だ。
一応は日巫女を中心とし、それぞれ矛を収めて共同体となることに同意している状態のまま今日まできている。
その中身は言わばただの同盟国だ。未来で言えばEUに近い感じかな?いや、五銖銭が流通しているのがウチだけだから違うか?NATOとかの方が近いのか?
結局は各地を各王が統治していて、一応に日巫女を立ててくれてはいるが、内政干渉などできるわけがない。
これらを統一しないことには本格的な外交は難しい。海外から見れば今はただの辺境の島の中の小さな国でしかない。
しかし逆に言えば八国を統一し、完全にひとつの国になれば、九州の半分と本州の隅を領土に持つ完全に無視はできないそれなりの国家になる。
話し合いで解決するか、戦争で統一するか。極論は二択だ。
相手の力は正確にはわからないが、国力や軍事力でなら正直ヤマトが一強だ。どのクニとやっても勝つ自信はある。
ただ軍事行動を起こすと恐らくは七つの国すべてが協力して一番厄介なヤマトをまず潰すだろう。さすがに四面楚歌どころか7面待ちテンパイだ。
正直今でも怖い。頭一つ抜きん出て栄えるヤマトを見て、自分達も供にとはならずに、一強は危険だからまずは協力して潰してしまえといつなってもおかしくない。
連日内政部と外交部の部長達と会議をするもこれと言う案が出ない。
というか、そもそもどうやってマナは乱世を一度終わらせたんだ?
「日神様から争うことなかれと神託がありました」のひと言で「はい、わかりました」となるものなのだろうか?
最近あまりマナに会っていない。なんでも石鹸作りと養蜂の実現に夢中になっているらしい。相変わらず好き放題だなあ。
しかしマナのおかげで結果的には文化、生活の両レベルが上がっているのは確かである。なんせヤマトにはすでに味噌も醤油も小麦粉もある。ただ大豆にしろ麦にしろの畑、また様々な製造施設の場所が不足しているのが現状だ。言っても領地は福岡県の⅕に満たないし、それは平野ばかりではないのだ。やはりここにも統一国家が望まれている。
「おかえりなさいませ」
会議を終えて自室に帰るとナナコがすぐに部屋にきた。十二帖程度の僕の自室の隣に彼女の六帖程の自室がある。おそらく丁度部屋にいて、僕が帰ってきたことに気が付いてわざわざ来てくれたのだろう。
「戻りました」
「ちょうど先程日巫女様から頂き物が届いたのでお持ちしました」
「頂き物?」
「はい。食すものだそうで。相国様と一緒に召し上がるようにと」そう言ってナナコは手に持っていた包みを下に置き、丁寧に開いて、中から出てきた小さな箱の蓋を取った。ああ、養蜂の試作巣礎が上手くいったんだな、これは。
「何でもとても美味なるものだと、持ってきた女官が随分興奮していたので、実は相国様のお帰りをお待ちしていました」ナナコが笑う。
「先に食べていいのに。クッキーだね、コレ。最近養蜂始めたから、蜂蜜使ったんだろうね」
「蜂の蜜ですか?」
この時代の甘味は植物の蜜だ。収穫量も少ないからかなり貴重品で僕はもちろんマナさえもおいそれとは口にしない。以前からマナは「スイーツ欠乏症」とかいう自分の考えた謎の持病を口にしていて、一度「沖縄に船を出そう」とか言い出したことがある。もしかしてサトウキビ?サトウキビは沖縄原産じゃないからこの時代に行ってもないんじゃないか?と言ったら「もう無理」とふて腐れて寝転んだな。アレだ、きっとスイーツ欠乏症の症状だ。彼女が残念な子と言うわけじゃあない。
まあそこから養蜂に目をつけて実行するとこが彼女の凄いとこだ。まあ凄いのは宮内部の生活課と土木課か。たぶん国内で一番ブラックな職場だな。労働基準監督署と労働基準法でも作ってあげようかな?
「美味し~い!サクサクとしてて、口の中でポロポロになって。染み込んだ甘みが口の中に広がって、凄く美味しいです!」
なんかそのうち「シャッキリポン」とか言い出しそうだな。ナナコ。ここは僕も期待に応えて「これがクッキーだって?なっちゃいないね」とか言った方がいいの?いや、言わないよ。言ったら僕が「本物のクッキー」を食べさせなきゃいけなくなるからね。
「うん。良いね。疲れた時に甘いものは身にしみるよ」13歳とは思えない感想を言ってしまう。でも美味い。たぶん未来の蜂蜜の方が全然甘いのだろうけど、まともな甘味のない時代を13年も生きていると、これで十二分嬉しい甘さだ。
10枚あったクッキーはナナコが7枚食べた。薦めたわけじゃなく勝手にバクバク食べた。まあナナコだから7枚ということにして流そう...いや、だとトウリだから10枚説が...。
13歳の少年を前にお菓子を多く食べる20歳過ぎの女性。甘味とは魔力だ。
さすがは元「ざっくばらん隊」。
ちなみにざっくばらん隊も解散、というか自然消滅している。最早御殿場内の皆がざっくばらん隊と化している。
まあ僕もその方が好ましいけどね。
歩くたびに前方の人が平伏していくのはさすがに嫌だ。時代的には正解なのだろうけど。
「さすがは日巫女様ですね。こんな美味なるものをお作りになられて」蕩けた顔で余韻に耽るナナコ。うん。甘味とは魔力だ。どうせ自分の祈祷所に確保しているだろうからまた貰ってきてあげよう。




