第25話 考古学者と助手
西暦2040年
講演会で懐かしい街に来た私はマナのお墓参りをし、その足でそのまま講演会に出た。地元出身の考古学界の有名人ってことでなかなかの盛況だった。
次の予定もこの街だ。明後日に母校で講演。あの学校の高校生が考古学なんて興味ないでしょうに。
「先生の母校ですよね?あそこの高校、進学校で有名じゃないですか。先生昔から頭良かったんですね。あと可愛い子も多いって。先生は美人だから納得です」
墓参りのあと、講演会場で合流した助手のハルト君だ。大学院で博士号を取ったばかりの考古学者の卵。真面目で頭も悪くないのだけど、飄々としてて掴み所のない青年だ。
「私にお世辞言っても講師にはなれないわよ?しっかり勉強して論文書くか、おべっかに弱そうな教授に言うかにしなさい」
「お世辞じゃないですよ。でも先生と同郷って何か嬉しいですね」
私の車の助手席でハルトが言った。
「同郷?あなたもこの街の出身?」
「言ってませんでしたっけ?まあでも中学までなんで。親の仕事の都合で高校からは他所に。俺だけでもばあちゃんの家からコッチの高校通いたいってゴネたけど結局ダメで」
「そう。じゃあハルト君は昨日はそのおばあちゃんの家に?」
「いえ。ばあちゃん一昨年に亡くなっちゃいました。俺、ばあちゃん子だったから滅茶苦茶泣きました」
「そう。残念ね。」
車は母校に到着する。明後日の打ち合わせ...まあ、というか挨拶に来たのだ。
「うわぁ、なんか女子校って感じですよね!でも最近じゃどこも共学になってるから珍しいですね女子校」
「どんな感じが女子校なのよ」私が笑うとハルトもヘラヘラ笑う。
「なんか空気?ですね。やっぱり違います」
車を来客用の駐車場に止めて、懐かしい校舎を見上げながら職員来客用の玄関に向かう。前もって連絡をしていたので教頭先生が出迎えてくれた。私の学生時代は学年主任だった。出世したね、お互い。
「ようこそ、いやおかえりなさいですかな?立派になられましたね」先生は微笑みながら手を差し出す。
「お久しぶりです。この度は呼んでいただいてありがとうございます」私はその手を取り、握手に応じた。昭和のオジサンって握手好きだよなって思う。
「こちらこそ。後輩達に話を聞かせてあげて下さい」
「考古学者の話なんかに興味ある女の子なんていませんよ」私は笑う。
「いえいえ。貴女に憧れる子もいますよ?」
「まさか」
私達は校長室へ通された。
ここに来るとマナのことを強く思い出す。先生達もきっとそうだ。私の姿を見たらマナを思い出すだろう。でも誰もマナの話は出さない。だからどこか思い出話がぎこちなくなる。
私と言えばマナ、ってくらい連んでたから。
だから先生達にとって私の思い出はマナが必ずセットにいるのだろう。だから、「久しぶりね」、「変わらないね」みたいな言葉しか出ないのだ。
別に話してくれて良いんだけどな。あの時、私がシコタマ泣き叫んで暴れたもんだから、何か私にマナの話はタブーみたいになってしまった。
「では明後日よろしくお願いします」
私は母校を後にした。
「あんまり良い思い出ないんすか?」
車に乗り込むとハルトが聞いてきた。
「そんなことないわ」
「でもなんか先生、ずっと悲しそうでした。学校の先生もなんか距離あったし」
勘の良い子。
エンジンをかける。
「で、どうする?私は実家に帰るけど、あなたはどこに運べばいい?」
「あ、はい。あのう...ひとつワガママなお願いしても良いですか?」
申し訳なさそうにハルトが聞いてくる。
「内容によるわね」
「あの、ばあちゃんの墓参りしたいなって」
「まあ、感心ね。良いわよ。どこ?」
「アッチの山の近くの霊園、知ってます?」
ハルトが指を指す。
「知ってるわ。よく知ってる」
「本当に良いですか?」
「良いわ。おばあちゃん喜ぶわよ」
「ありがとうございます。あ、道わかります?」
「大丈夫。よく知ってるって言ったでしょ?私もこの街の人間なんだし、何より今朝行ったばかりだからね」
どうしたの?マナ。
もしかして私を呼んでる?
私に何か伝えたいの?




