第22話 相国
「ウォォォ!相国!相国!」
凄いテンション。こんな地響きなんて前世も今世も初めてだ。
マナは慣れたもので堂々と立ち尽くす。いや、慣れじゃなくて元々そういう性格なのかな?
日巫女の神託発表が終わり、今まさに相国に就任したところだ。
眼下には御殿場の1500人。天領の管理者100人、クニ中の集落の代表者達が何十人とがひしめく。
他の7つの国の王や代理が右横の来賓席的な場所に座っている。まさかの10歳児相国をどう見ているのか?
「日神暦185年1月1日。今日をもって我がヤマトは新たな国となる。日神様とこの日巫女、そして月神の御使いトウリ相国の下、汝ら日神の子らよ!皆がひとつとなり力を合わせることを願う!」
マナが〆の演説をし、大歓声を受けながら我々は壇上を降り、そのまま屋敷に帰る。
しかしマナは本当に絵になる指導者っぷりだった。日巫女の姿がそう思わせるのか?いや、たぶん違う。立ち振る舞いや表情、声の抑揚。全部マナの成したものだ。
この人は普通に独裁者の素質があるのだろう。意外とマナの前世も有名どころの人物なのかもしれないな。信長とかでもしっくりくるかも。
「大儀でした、相国。着替えてきます。相国も一度自室に戻られるが良い。改めて案内を送る」
日巫女モードのマナ。まだ周りの目があるからね。
「は。では一度下がります。また後ほど参上仕ります」
こちらは差し詰めマナーモードかな。
女官のミクナと供に与えられた屋敷内の自室へ帰る。自室に入ると大きくため息をついた。
「肩凝るよ。慣れないね、ああいう儀式」
「いえいえ。相国様も中々御立派でしたよ」ミクナがクスクス笑う。
「日巫女様にはかなわないよ。やっぱり様になるね、あの方は」
「あの方は本当にさすがです。普段は親しみやすい御方なのに、ああいう場面では誠に神々しい。でも相国様もお歳にされてはいつも大人びていらっしゃる。御使い様達はやはり常人とは違いますね」
「ありがとうミクナ」
ミクナは推定16~8歳の女官だ。頭が良く中国語もできる。マナが僕に付けてくれた専属女官の一人だ。
本来、日巫女にしろ相国にしろ女官が軽々しく話すなどもってのほかだ。
しかしそれはあまりにも自分達の方も窮屈だからと何人かの上位女官や使用人、衛士にはそれを緩和している。総勢50人程で、目印に赤い紐に翡翠の環を通した物をネックレスのように首から下げている。
マナ曰く「ざっくばらん隊」だそうだ。
そしてもちろんミクナもざっくばらん隊員というわけで、気楽に話せるのが助かる。
ミクナに手伝ってもらい着替え終わると、ミクナが熱い茶を入れてくれた。
そう。なんと茶がすでにある。
山茶、即ち自生の茶葉を栽培に成功している。量がないので庶民の口には入らないが。他にも果実の木の葉などを独自にブレンドし試行錯誤して何種類かのグラスティも開発していたから驚きだ。
マナのそういうところは本当に感心するし、素直に尊敬する。
まあ、コーヒー豆がないか探させた話をそのあとに聞いたのでしっかりポンコツっぷりも見せている。
「ミクナも飲みなよ。今日は寒いから温まる」
「はい。ではいただきますね」
ミクナは美人さんだ。というかマナが僕の女官をキレイどころで揃えたらしい。ハーレムルートに突入させたいのかな?
しかしトウリは10歳だ。キレイなお姉さんだなあって思うけど、それだけだ。
中身は大人だが、どうもそういうところは10歳児であることの方が強いみたいだ。
なかなか複雑な体だな。あの名探偵もこんな気分か?いや、彼はちゃんと思春期だったような。まあ中身も高校生だからね。コッチは枯れたオジサンだ。
「ミクナもこのあとの会議は出るの?」
「いえ、私は今日は出ませんよ。部屋で漢字の勉強を致しますわ」
平仮名片仮名四則演算を難なくマスターし、中国語もマスターした超エリートのミクナ。ついにはマナに頼んで漢字の勉強を始めたらしい。もうこの人が相国で良いんじゃないか?転生者達より遥かにチート。
「時間ある時に中国語教えてよ。代わりに僕が漢字教えるから」
「相国様も漢字がわかるんですか?」
「もちろん。僕だって御使いだからね。漢字は中国語を僕らの読みに直したものだから、中国語ができるミクナはすぐに使いこなせるよ」
「そうなんですね!でも私、中国語は会話できますが、読みはまだ全然です」
まあ中国語話す人はいるけど、中国語で書かれた書物はないからね。仕方ない。
「そのうち中国とも交易するから、きっと色々な読み物も手に入るさ」
しかし、マナが「中国語中国語」って言うものだから、みんなが「漢」を「中国」って言っているんだよね。
中国って「中華人民共和国」の略だから。
「漢」が「中国」になってて、「漢字」が「日本語」になってしまっているんだが。
これ、どこかで直した方が良いのかな?
「楽しみです。そのためにも相国様には頑張っていただかないとですね」
「失礼致します。日巫女様より相国様お呼び立てでございます」
戸の向こうでそう声がした。
「いってらっしゃいませ。相国様」




