第21話 別れ
僕は一時帰宅が許された。思えば記憶が蘇ったその日のうちに突然呼び出され、着いて早々に「卑弥呼システム」なんてワケのわからない無茶苦茶な話を二晩かけてされて、三日目にはこのクニの発展を考えさせられて、四日目には相国に就任が内定。
四日間だぞ?中身は59歳だけど、10歳の少年だぞ?
何の下準備もなく、単に記憶が蘇っただけで良く対応したよ。自分で自分を褒めてあげたい。
というか、あのマナ卑弥呼。そういうところからも流れ無視して突っ走る性格が溢れてやがる。
「また、迎えを遣ります。私の記録からたぶん私の誕生日はあと23日後ですから。その日が相国就任と改革発表になります。日神暦185年1月1日です。だからトウリ君は20日後に迎えに行きますね。それまでに改革案、こちらでも調整しますし、あとトウリ君の祈祷所も急ピッチで作っておきますね。材料なんかは全然予備があるから、いつもの日巫女軍団人海戦術で十分間に合いますから。あ、でも井戸がないかも...。下に水槽作るか...間に合うかなあ」
とか言ってたな。良いようにしてくださいませと言っといた。
「ご家族はどうされます?御殿場に引っ越してくるなら受け入れますよ」
それは断った。トウリ君の家は超庶民だ。いきなり集落を離れてあそこで暮らすのも性に合わないだろう。弟のカルリなんてまだ推定5~6歳だ。変に特権階級意識持っちゃっても困る。僕は家族をちゃんと好きだし、正直寂しい。だからと言って僕の家族だから特別扱いみたいなのは何か違うし、嫌だ。僕がこの時代に生まれたのには意味があった。ならば別れは仕方がないことなのだ。
そう割り切るしかない。
10歳まで育った家。集落。家族。友達。集落の大人達。
僕は未来人でもあるが、マナやユカとは違い「純粋にトウリ」でもある。59歳のおっさんだけど、10歳の少年でもある。
ある日突然、僕だけが異質な存在になる。
「ご家族にはこちらから話しましょう」
マナのその提案も断った。
家族だから。自分でちゃんと話したい。
家族か。
2025年に残してきた家族。妻とは付き合いの長さと年齢とで、さすがにラブラブって感じではなかったけど、ちゃんと愛してたし、沢山感謝している。あの平々凡々な人生で彼女と出会い、結婚できたことは本当に素晴らしい奇跡だ。幸せだった。
長男は大学出たらすぐに結婚して、昔から要領の良い奴だったから仕事も上手く行ってたみたいだし。ハハハ、考えてみたらあの時のアイツの息子、孫より僕のほうが年下だ。11歳だったな。本ばかり読んでる大人しい子だったけど、もしかしたらもう大人になっているかもな。
長女は妻に似て負けず嫌いだったな。結婚もしないでバリバリの仕事人間だった。さすがにもう結婚したかな?兄ちゃんの子を可愛がってたし。母親としてもやり手な気がするよ。
涙が出ていた。記憶が蘇ってからすぐにバタバタしたから、思えば家族のことをゆっくり思い出す暇がなかった。
護衛の衛士が気付いたみたいだけど特に何も触れなかった。
大切な家族と別れたことを思い出し、そして今からまた別の大切な家族と別れる。
ユカさん。君は凄いよ。こんな哀しみを何度も何度も。それを全部背負ったまま。
卑弥呼システム。やはりこれは呪いだ。
ユカさん。本当にお疲れさま。本当に、本当によく頑張ったね。僕は君を尊敬する。
そしてマナ。わずか17歳で人生が終わった少女。そしてこの呪いを引き継いだ少女。
そうだね、ユカさん。彼女にまでこんな哀しみを背負わせるべきじゃないね。
終わらせよう。この呪いを。君の決断が正しかったものにしよう。
どうすれば終わりかわからないけど、マナの言うとおり、邪馬台国と卑弥呼を何としても後世に残してやる。システムがそれを拒否するならば。
ユカさんやユカさんの以前の旦那さん。ユカさんが巻き込んでしまった人たち。僕もだ。そしてマナ。
僕らがこの世界のこの時代で生きたんだと言う誰も知らない歴史を必ず未来に刻み込む。
そしていつか、その世界線の先に僕らが皆生まれ変わることができたらいいね。
「ここで大丈夫です」
集落の途中で衛士を返す。少し先に僕らの家。日が沈みかけて、ちょうど夕食時かもしれない。
「トウリ!」母親がすぐに僕に気付いて飛びついてきた。
「ただいま」僕は笑顔で返した。
家族に話をした。マナと考えた話だけど。
日神様の神託。月神様の力があの日僕に宿ったこと。その力を日巫女様の御側で役立てること。このクニが大きく変わっていくこと。僕は相国という日巫女様に継ぐ役職を賜ること。
家族は黙って聞いてくれた。
「トウリ」父が言葉を発した。「つまり日巫女様のため、このクニのためになる力を月神様にオマエはお借りしたということだな?」
僕は頷く。
「日巫女様がこのクニのためにその力を貸してくれと仰るのだな?」
僕は頷く。母が声を殺して泣いていた。弟のカルリも子どもながら真顔でちゃんと聞いていた。
「月神様よ、よくぞ我が子を選んで下さった!月神様の御使いとし我が子トウリを差し上げましょうぞ!」父はそう叫ぶと僕の肩を両手でしっかりと掴んだ。
「トウリよ、忘れるな。オマエは御使い様であり、それでも同時に我が子だ。ワシらを皆より特別に扱うことは罷り成らん。次に日巫女様のもとに行けばワシらは相国様と一介の民じゃ。それを心せよ。しかしワシらは家族だ。そのことはお互い口にせずともしっかりと胸に刻もう」
父が泣いていた。僕も泣いていた。母も、カルリも、みんなで泣いた。
外からも泣き声がした。僕が帰ってきたことを聞きつけた人たちが様子をうかがっていたんだろう。
「トウリよ!オマエはワシらの誇りじゃあ!」外で叫んだのは集落の狩り名人キルテイさんだ。僕に色々教えてくれた。
「戦になったら駆けつけるからよう!オラァ毎日槍と弓の練習するで!日巫女様と相国様をお守りして手柄立てるけのう!そん時はトウリの手で褒美をくれよ!」
「俺もじゃ!」「ワシも!」
仲の良かった年の頃が近い連中が騒ぐ。
家族皆で泣き笑いだ。
「あんちゃん。俺も早く大きくなって戦働きでエラくなるぞ」カルリが笑う。
「カルリは父ちゃんと母ちゃんをしっかり手伝えばいい」僕はカルリの頭を撫でた。
ちなみにまだあと20日ここにいるんだけどな...。この空気、明日の朝ちょっと気まずいな...。
家族。良いものだ。
弥生時代だろうが令和だろうが、ね。




