第13話 残らない文字
「ところで、書き物をするって話。もちろん僕らは文字を知っているからわかるんだけど、やっぱり他に文字はないの?」
「他に文字って日本語意外ですか?象形文字みたいな?」
いやさすがに象形文字は古すぎ。
「いやそうじゃなくて。ほら、僕らの未来では邪馬台国は文字がなかったって言われてたんだけど知ってる?」
これが実は腑に落ちていない。ユカ卑弥呼は6度も挑戦して、一切文字を残そうとしなかったとは思えない。
「ああ、私も多少は勉強してきたんで。それ、ユカもオカシイって言ってました」
「じゃあやっぱりユカさんは文字を広めたんだね」
「はい。識字率もかなり高くしたし、邪馬台国の記録も作ってもいたって。でもなぜか2008年に戻ると何も残ってない。だから当初ここを架空の異世界だと思っていたって」
「でも魏志倭人伝には残った」
「です。4度目でやっと。で、5度目、6度目にそれを踏まえて挑戦して、で、さらに文字数が増えた私達の知ってるあの魏志倭人伝ができたって」
ふむ。国内ではなぜか一切痕跡を残さない邪馬台国も海外では残せると。
「ちなみに魏志倭人伝で邪馬台国までの道のりがあるけど、あれって結局ドコだったか知ってる」
「6度目ですよね?場所は佐賀ですよ。吉野ヶ里遺跡は場所的に邪馬台国の一部だって言ってました。だからユカもあの辺掘って色々出てきたのなら、文字も見つかるはずなんだけどオカシイって。竹や木はもちろん紙も使ったし、石碑みたいな物も作ったからひとつも出てこないことはないだろって」
「仮説だけど、卑弥呼システムはどうも国内には文字情報は何も残させないような仕様になっていて、国外にはそのシステムの力は及んでない」
「ですです。私もそれ思いました」
「でも四度目の時に旦那さんが中国に飛ばされているってことはシステムの力は一応及んでいるのか...。それに魏志倭人伝の道順は佐賀だったらおかしくなっている。あの通り進めば佐賀どころか突拍子もない所に行ってしまう。それも卑弥呼システムの力のせいなのかなあ?」
「あ、ソレ、ユカの話だと距離とかデタラメに書いたんだろうって言ってたからシステム関係ないかもです」
「デタラメ?なんでわざわざ?」
「使者が自分の評価のために、それと二度と行きたくなかったからだろうって。アレ、やたら千里、千里って書いてるでしょ?アレは遠いアピール。そもそも5度目のあとの記述と全く同じだったけど、5度目の邪馬台国って近畿だからねって。なんで佐賀と奈良の道順一緒なのよ?てかどっちにも着かねえよバーカって」
マジかよ...。まあでも、なるほどだ。
「滅茶苦茶遠く長い道のりを頑張って行ってきました。いやぁ大変でした。その分ご褒美は弾むんでしょ?ニチャア。ってことか。考えたら全然有り得る話だね。それじゃあ確認しましょとはならないだろうし、遥か海の向こうの小さな蛮族の地なんて。当時の魏にはわざわざ遠征する旨味はないし、頻繁にやり取りしたい程の国家でもないだろうし。あんまり近くに書いたら書いたで『近いじゃん。よし、オマエ倭人担当な。定期的に顔出しとけよ、何ならアッチに役所作るから引っ越せ』ってなる可能性も有るわけだ」
「はい。ユカの意見もそんな感じでした。だからこれはシステム関係なしに単に人為的なものじゃね?って」
「ちょこちょこ出てくるユカさんのセリフって、だいたい口が悪いね...」
「実際口悪かったですもん。ガサツだし、だらしないし。でも今なら気持ちわかりますよ、私。ずっと日巫女なんて堅苦しいことやってたんだからそりゃあんな感じの女の子になるなって」
「なるほどね。まあ卑弥呼システム、そんなに簡単には謎は解けないよね。なんせユカ卑弥呼が6度挑戦してやっと魏志倭人伝だから。で、マナ卑弥呼としてはどういう方針で行くつもりなんだろう?」
「もちろん。ユカの意思を継いで卑弥呼システム攻略を目標にします」
「ユカさんは攻略したかったの?」
「ですよ。だって医者になった時に誰かになすりつけるなんて簡単だったはずですもん。でもそれをしなかった。このわけわからない繰り返しを自分で終わらせるつもりだったんだと思います。誰にも押し付けたりせずに。あの子、私にさえ本当にギリギリまで躊躇ったんだと思う。多分、あの時に前世トウリ君が現れなかったら、きっとユカは結局自分が卑弥呼続けたんじゃないかって。今でも悩んでるかもです」
「ふむ。しかし攻略と言っても結局何をどうすればこの卑弥呼システムは終わりを迎えるのか?だな」
「私が思うには、たぶんなんだけど、どうにか未来に邪馬台国をちゃんと残せたら勝ちじゃないですかね?」
「勝ちって...。勝ち負けなのか、これって」
「だって、国内でどんなに未来に邪馬台国の痕跡を残そうとしても消されちゃうんですよ?つまりシステムはそれを邪魔しているってことだと思うんです。邪魔するってことは痕跡をちゃんと残されたら困るってことじゃないです?」
「いや、困るって、そもそも一体誰がなんで困るんだ?」
「いやいや、もうこの際システムの正体とかどうでも良いんですって。難しく考えちゃう時点で相手の手のひらの上だと思うんです。正体とか目的とかぶっちゃけシカトしましょう!」
「えぇ...」
「ユカも結構考えちゃうタイプだったんです。あの子って根が真面目だから。理系だったし」
理系関係あるのかな?てかそもそも医者だったんだし...。
「こういう意味がわからない相手はまともに相手しちゃダメなんですよ、絶対。だからもう何が正解だとか難しく考えずにとにかくガンガンやって行けば良いんですって。そしてもうグイグイ爪痕残しまくって、もう歴史が邪馬台国を無視できないくらいグチャグチャにしましょう。そうしたら自然とシステムの正体とか見えてくるかもですし」
作戦。ガンガンいこうぜ!
しかし確かに意味不明なことには無茶苦茶で対抗するというのは一理あるように思える。うん、悪くはない気がする。
「OK。わかった。とにかくガンガンいこうぜだね。うん悪くないかもだ。とにかく国外には記録が残ることを考えたら外国と交流だ。そのためにはただの辺境の蛮族じゃなく無視できない大国をまずは目指すべきじゃないかな?」
「もういっそのこと世界征服狙いましょう!100%邪馬台国歴史に刻みますよ!」
「それ、さすがに無理だから...」
もしかしてマナってちょっと残念な子?
「え?無理ですかね?」
「ここってスタート地点で世界の辺境中の辺境だよ?お隣中国はすでに大漢帝国。あの巨大な国土にしっかりとした律令制があって、貨幣経済が成り立っていて、文武百官がちゃんと政治をやってるんだ。それに比べてこちらは『日巫女様、御神託を~』で政治やってて、長閑に慎ましく田畑耕しながら狩りしてて、最近になって『鉄器パネェ』とか言ってるんだよ?文明レベルが桁違いだ。ある程度追いついたとこで人口と国土も桁違い。漫画じゃないんだから、ちょっと未来の記憶がある程度の一般人と女子高生がいるくらいで世界どころかそんなお隣さんにも歯が立たない。爪痕残すどころか跡形もなく消されるよ」
「そっか~。目標は大きい方が良いと思ったんだけどなあ」
ユカ卑弥呼が良かったなあ...相方。
「ま、何にせよこの国をまずは発展させよう。そこからスタートだ。現実的な計画を立てよう」




