第11話 この物語にタイトルをつけるなら
三度目の謁見。
昨夜は早めに切り上げた。お互いに夜型人間になってしまっては大変だからね。続きは明日にと僕から言った。僭越だな。
まあ、日巫女も一番言いだし辛かった僕の転生の理由と状況をようやく話せて、そして泣いて詫びて、僕が許したことで安堵からか気が抜けて疲れているように見えたしね。
で、改めて呼び出しがかかって三度目の謁見になったわけだが、今回は随分と状況が変わった。
まずまさかの昼間だった。ちょっと遅めに起きて朝食をいただき、さて手持ち無沙汰だなと、戸の向こうに控えている女官に少しくらいなら散歩しても良いかと聞こうかな?と思っていたら先に女官が戸を開けて日巫女様の呼び出しを告げた。今日も夜かと思っていたので驚いた。
案内の女官も新しい人だった。20代くらいの女官。年末年始のバイトで巫女さんをやっている大学生みたいに見えた。
魏志倭人伝に「女官千人」とか書いてたような気がするが、実際千人いるんだろうか?ま、あれはユカ日巫女の話だし、コッチの日巫女は事情が違うのかな?
案内された先も違った。屋敷を出て御殿の敷地の奥の隅(日の位置的に多分北東側)に向かう。慣れとは怖いもので無作法にキョロキョロ辺りを見ながら歩く。トウリ君10歳の子どもだし、逆にコッチのが自然なのかも。
しかし...明るい中で改めて見渡すとこの時代には明らかに不穏なものがあるような。
いや学者だったわけじゃないし、そんなに時代考証わからないけど、さすがにアレは無かったんじゃないか?
「こちらを登りそのまま中へ。日巫女様の御前でございます」立ち止まった女官が言う。目の前には木製の簡易ながらしっかりとした階段。わりと傾斜は急。見上げれば二階建て一軒家の一階部分が柱を残して無くなり二階部分だけになったみたいな建物。高さもそんな感じだ。
急階段を慎重に登る。扉はない。代わりに長い暖簾?が垂れ下がっていた。土足OKかな?
暖簾の片側を片手で軽く上げて中に入る。
「おはよう御座います」中に日巫女が座っていて、笑顔で挨拶してくれた。「どうぞ気楽にしてください」
「おはよう御座います。ここは?」僕は部屋を見渡す。六畳間くらいかな。外から見たらもっと全然大きかったけど。アッチにドアが三つある。別室があるのか。
「祈祷所です。一応設定では私が一人でここに籠もって占いしたり神託を問う場所になります。ほら、コレ神棚です」
日巫女の後ろ、段の上に大きめな社の模型みたいなものがあって真ん中には弥生時代じゃお馴染みの銅鏡。
「まあ実際はご存知のように私占いも祈祷もできないから、私専用のプライベート空間なんですよ。基本この小屋は許可なく日巫女以外の人間は立入禁止の空間なんで。気晴らしにお昼寝したり、書き物したりしにちょくちょく籠もってます」日巫女は笑う。
「外にあったアレとかもここで開発してたり?」
「アレ?」
「水車。さすがにアレはこの時代にこんな所に普通はないよ」僕は苦笑いする。
「みたいですね。水車くらいならあるかなと思ってたけど」
「思えば周りの堀に水が張ってあったもんね。周りより少し小高い土地なのに」
「はい。お城のお堀には水があるもんじゃないですか。でもここってそばの川より土地が高いから。で、水車作って汲み上げちゃえば良くね?って気付いたんですよ。ただ素人だから大変でした。連日ここに籠もって設計したんですよ」
「お城の堀には水があるもの、って発想がすでに千年以上先の未来だよ」僕の言葉に日巫女は驚きの表情を見せる。
「え!そうなんですか?」
「戦国時代の城はほとんどが空堀だよ。水車はまあ多分そんなにオーバーテクノロジーじゃないと思うけど」日本にはまだ無かったはずだけどね。
「はい。水車の話したらみんなキョトンとしてたからちょっとやっちまったかなとは思いましたけど。でもおかげでこの部屋の『使い方』がわかったんですよね、お昼寝以外に」日巫女はクスクス笑う。「だから今日、トウリ君にはここに来ていただきました」
使い方、ねぇ。
「神託」
「です。さすが大人ですトウリ君。すぐにわかるから話が早い。そうです。何か作りたい、始めたいって思ったらここで考えたら良いんですよ。で、全部『神託があった』って言えば疑問反論もなく受け入れられちゃいます。で、今日トウリ君がこの部屋に入ったじゃないですか?これって滅茶苦茶特例なんです。と言うか私以外がこの部屋に入るの月イチの掃除で入る高位の女官以外じゃ初です。案内の子にここに連れてきてって言ったら凄い驚いた顔してましたもん。今頃女官達の間でトウリ君って何者なのって噂になってますよ、きっと」
まあ前世でも50代のオッサンが知り合ったばかりの女子高生の部屋に上がり込んだら凄い驚かれるし、何者?って噂になるわな。
「まあそもそも突然日巫女様にお呼び出しされ、わざわざ三人の護衛が迎えに来て、連日人払いしてクニのトップと話している集落の少年ってだけで多分すでに皆さん『何者?』ってなってるでしょうけど」
「はい。で、これでトウリ君は完全にクニのナンバー2になっちゃいます」
そりゃ協力はするつもりだったけど、相談もなしにいきなりですか...。
「また勝手に巻き込むぅ...。僕が『平凡なサラリーマンだったけど弥生時代に転生してスローライフを満喫します』ってつもりだったらどうするの?」
「毒を喰らわば皿までってヤツですよ。『弥生時代に転生してスローライフを送りたいのに女王様が放っといてくれません』でいきましょう」
「昨日まで『勝手に巻き込んでごめんなさい』って泣いてたじゃないスか...」
「偉大なる先代の日巫女様の御言葉です。『なっちゃったものは仕方がない。ただのアンラッキー』。もう巻き込まれちゃったんだから諦めてください」日巫女はニッコリと笑う。
昨日の今日でまあ...。最近の若い女の子ってのは切り替えが早いというか開き直りが潔いというか。
「まあ、そりゃ協力するつもりではあったよ、ちゃんと。君の壮大なこの修学旅行についてきた大人としてね。それに話を聞いちゃった以上は僕もこの『卑弥呼システム』気になるし。君がどういう方針で行くにしろできることは手伝うさ」
「ありがとうございます!さすがトウリ君。頼りにしてます。てかトウリ君はトウリ君で良いですか?名前。以前の名前に改名します?存じ上げないけど」
「トウリでかまわないよ。幸い変な名前でもないし。それに僕は君と違ってちゃんと混じりっけなしにトウリとして生きていたんだからちゃんと馴染めてるし」
「あ、そっか。つい先日までただのトウリ君10歳の人格だったんですよね。そのわりにすごく自然に未来のオジサン人格受け入れちゃってるからホントびっくりです。本当に実は転生2度目とかじゃないですよね?」
「『弥生時代に転生したけど、実は2度目の転生なんで楽勝です』みたいな?て、冗談だけど。もちろん初転生だよ。少なくとも記憶を持ったままってのはね。自分で言うのもだけど、トウリと前世の僕って元々なんか性格似てるんだ。生まれ変わりってそういうものなのか、たまたまなのか、卑弥呼システムの影響なのかはわからないけど。流れに身を任すタイプなんだよ」
「そうなんですね。あ、ちなみに実は今の私って名前ないんですよ」
「名前がない?」
「はい。日巫女って極端な話『役職』なんですよね。読む時はヒノミコが正式でなぜか呼ぶ時はヒミコってなってるけど。コレ名前じゃないんです。ほら、生まれた時に日巫女の証の勾玉握ってるでしょ?だから生まれた直後に『ヒミコ様だ』ってなるわけ。だから結局ずっと日巫女としか呼ばれないんです」
なるほど。卑弥呼は個人名じゃなく役職名説もあったよな。
「ヒミコは真名ってわけじゃないんだね」
「そりゃさすがに名前まで一緒はないでしょ」
「ん?」
「てか私、名乗りましたっけ?」
「え?なにが?」
「前世の名前。え?なんで知ってるんです?」
何のこっちゃ?
「いや、知らないよ。なんだい急に?」
「え?でも『ヒミコはマナってわけじゃない』って...」
ああ...なるほど。
「君は前世で『マナ』って名前だったわけだ」
日巫女の真名はマナ。
「ああ、マナってアレですか?あの『真名は決して知られてはいけない』みたいな中二病的なヤツ。なんかトウリ君ってさっきからオジサンなのに転生物のタイトルみたいなことばかり言っちゃうし、意外と中二病ぽい人なん?」マナが大笑いした。誰が中二病だ。クーデター起こすぞ。
「別に真名って中二病単語じゃないぞ?」
「ハハハハ、ごめんなさい冗談ですって!ハハハ。とにかく『転生したらヒミコでした』にご協力お願いしますね。ハハハハ」
「『何度やり直しても部下の裏切りで邪馬台国が滅びるんですが』乞うご期待くださいませ」




