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5、捨身月兎(しゃしんげっと)を許さない

 翌日。結佳は事業開発部じぎょうかいはつぶのフロアで、机に座って仕事をしていた。

十二時が過ぎた頃、肩をポンポンと叩かれた。振り返ると、白衣姿の鞠子きくこがいた。

鞠子は上機嫌な大きい声で言った。

「ユ~イさん! お昼食べに行きましょう!」

対照的に、結佳ゆいかの表情は険しかった。眉間みけんにシワが寄り、目も半分しか開いていない。

「あ、キクだぁ…。うう…、あんたは元気でいいわねぇ」

「あら? 昨日のお酒、まだ残ってます? 飲み過ぎですよ」

「キクって、いつもお昼休みは上機嫌よね。どうして?」

「簡単な話です。『①ゴハンを食べれる』・『②ユイさんと一緒』。そりゃあ機嫌も良くなりますよ。『大好物』が二つ並ぶんだから、上機嫌で当たり前でしょ?」

「アハハ、それはありがと。でもどうしたの? 事業開発部に来たりして」

「いや、どうしたもなにも、ユイさんを迎えに来たんですよ。お昼ゴハンですよ!」

「いつもアンタは食堂のカウンター席で、仕事の書類を見ながら先に待ってるのが常でしょう? 何かあったのかと思っちゃうよ」

「あっ、たまたま用事でこのフロアに来たんですよ。時計を見たらもうお昼だから、ついでにユイさんを誘っちゃえって思っただけですよ」

「ふーん」

結佳がゆっくりと立ち上がると、遠くにいた若い男性社員が言った。

丈璃乃たけりのさーん、お電話です。ジョルノさんという方からです。二番です」

そう言われた途端、先程まで眠そうな顔をしていた結佳だったが、一気に目が見開いた。

「えっ! ジョルノ先生?」

急に態度が変わった結佳に、鞠子は驚いた。

「わっ、ビックリした! 急に元気になりましたね」

「キク、先に食堂に行っててくれない? 電話が終わってから私も行くよ」

「あ、ここで待ってます」

鞠子はそう言うと、結佳の机に軽く腰かけた。そして受話器を取り上げた結佳を見ていた。

「お電話代わりました、丈璃乃です。ジョルノ先生? もしもし? …切れてる」

結佳は残念そうに受話器を置いた。

鞠子はそんな結佳に聞いた。

「わざわざ電話してくるなんてね。でも、どうやって電話番号を調べたんでしょう?」

「最初にアパートに行った時に、名刺を渡した…っていうか、置いてきたの。だからだよ」

「そっか、なるほどね」

結佳は視線を落として考え込んだ。

「なんの用事だろう? 流石にOKの返事ではないだろうし…。条件の交渉かな?」

鞠子は疑わしい表情をして言った。

「そんなちゃんとした用事ですかねぇ? デートでも強要する気じゃないですかぁ?」

「そうかな? そんな積極的なタイプじゃないよ。うーん…」

「電話して聞いてみたらどうです?」

「彼の家、固定電話無いんだよね。スマホの番号は知らないし。勿論もちろん、ラインも知らないの。この電話も非通知だ。ジョルノ先生ならそうするかもね」

結佳はさらに数秒考えた後、言った。

「今から行こうかな? 気になるな…」

鞠子は焦って言った。

「ユイさん! そんなぶっきらぼうな電話一本で行く必要なんて無いですよ! ユイさんを『子供の使い』みたいな扱いをされたら、私は我慢できないです!」

「でも---」

「ユイさん、普段から言ってるじゃない。『レシの言いなりにならない事も大事』だって。こっちの立場が弱くなるんでしょ? 電話があったからって飛んで行ったら、それこそ言いなりですよ。止めておきましょう。それに明後日に行くんでしょう? じゃあ良いじゃないですか」

鞠子の必死の説得に、結佳は渋々ながらも納得したようだった。

「うん、分かったよ、キク。そうする」

「ふーっ、良かった。ユイさんは本当に働き過ぎなんだから、気を付けてくださいね」

「は~い、分かりました。ありがとう」

翌日。鞠子は会社に『風邪だ』と偽って休んでいた。そして朝から乗用車の中に潜んで、ジョルノのアパートを監視していた。

ジョルノが外出すると大きく距離を取って、歩いて後をつけた。十分ほど歩いてたどり着いたのが、『バール』と呼ばれる形態の飲食店だった。

店名は『Caffé Florian (カフェ フロリアン)』

木目調が印象的な、落ち着く感じの店だ。テーブル席がいくつかあり、カウンター席もある。カウンターには椅子が無く、立食形式だ。


鞠子は二人用のテーブル席に座っていた。三メートルほど先のカウンター席には、ジョルノが立っていた。カウンターには、サンドイッチと温かそうな飲み物が置いてある。

鞠子のテーブルには、オレンジジュースだけが置いてある。

鞠子からはジョルノの横側が見えた。一口飲み物を飲むと、たっぷりと間を空けてからサンドイッチを少し食べた。その繰り返し。急いでいる様子はない。


「こいつがジョルノか…」


鞠子は内心でそう思いながら、ジョルノに悟られないように観察していた。

すると、横に現れたウエイターが言った。

「ホットコーヒーでございます」

鞠子は驚いて言った。

「えっ? 頼んでませんよ」

「あちらのお客様からです」

ウエイターが右手を向けた先は、ジョルノだった。

 鞠子はジョルノの隣に移動した。

そしてコーヒーカップの乗ったソーサーを、カウンターに無造作に置いた。


ガチャ!


少しコーヒーがこぼれた。そして厭味いやみったらしい口調で、ジョルノに言った。

「コーヒーご馳走さまでーす。私、コーヒーはブラック派なんで、嬉しかったでーす」

「やっぱりな」

「なにがよ?」

「『黒』だって言ってんだ。俺に好意的な心境の持ち主なら、礼を言うか・理由を訪ねに来るだろう。まったく関係が無いなら、気持ち悪がって帰る。敵意を持っている人間なら---」

「ケンカを売りに来ると?」

「そう。単純だが、分かりやすくて効果的。俺の周りを嗅ぎまわってるから観察してたんだ」

「いつから気付いてたの?」

「今朝」

「えっ! そんなに早くから? 嘘だ」

「俺のアパートは、四方・数十メートル先まで、防犯カメラで周知できるようにしてある。監視は定期的にしているから、すぐに気付いたよ。ずっと同じ車が駐車してたら怪しむだろ」

「じゃあ、ここに来たのはワザと?」

「確証はなかったけど、店内でずっと俺を見ている奴がいれば確定だからな。まぁ昼食も兼ねているが」

「要するに私、おびき出されたんだ。慣れているんだね」

「で、なに? 仕事の依頼? 内容によっては受けるけど、高くつくぜ」

「あれ? 裏の研究屋って認めるの? 意外ね」

「今までは相手の出方を探ってきた。けど最近、『女性相手に話を誤魔化すのは簡単じゃない』って学ぶ機会があってな。それに尾行までしてるって事は、ほぼ調べがついているんだろ? 誤魔化しても仕方ない。厄介そうな依頼なら、絶対に受けないし」

「厄介そう? 例えば大手製薬会社のスカウトとか?」

「お前…上内製薬の人間か?」

「そうだよ。しかもお前の上司になる女だからね。覚えておきなよ」

「上司ね…。で、その上司様が俺に何の用だよ?」

鞠子は険しい表情になって言った。

「お前に釘を刺す為だよ。ウチに来たら、私の部下になる。そこはわきまえてもらうよ」

「ウチの会社は年功序列だと言いに来たのか?」

「お前の経歴は知らない。ただ、来日してから四年間の功績はすごいよね。先輩に聞いた。桁違いの実力者だって分かるよ」

「それはどーも」

「でもね、タンパク質関係…セプロラビィに関しては、私と同等…というより、私の方が上だよ。『天才だ』ってチヤホヤされてウチに来て、偉そうにするなんて私が許さない」

「だから、行かねーって。しかし分からないね。それ、新しい作戦?」

「どういう意味よ?」

「そんな事言ったら、俺がスカウトに応じなくなるかもしれないだろ?」

「だよね。だったら断りなよ」

「あのスカウトの人に頼まれて、そんな事を言いに来たのか?」

「違うね。あの人は、お前を獲得したくて仕方ないんだ。そんな訳ない」

「みたいだな。二千万円もらえるらしいじゃないか。そりゃそうだ」

お金の話を持ち出された鞠子は、若干の怒気を込めて言った。

「お金は大きな理由だけど、それだけじゃない」

「じゃあなに?」

「お前がウチに来てセプロラビィの研究に参加してくれたら、大きな進展があるって信じてるからだよ。お前みたいな金の亡者と一緒にするな。依頼者から法外な金を巻き上げてるクセに」

「…」

「あれ? 黙っちゃった? まぁ本当の事だもんね」

ジョルノは冷たい視線で言った。

「いや、大したもんだと思うね。毎日決まった場所に集められ、決まった時間を拘束されて、何をどうしようが、給料はたいして変わらない。しかも半分は税金で持っていかれる。国から見たら、お前らサラリーマンって、働かせ放題の人間サブスクなんだよ。よくもそんな馬鹿らしい事を大真面目にやっているよな、感心するよ」

そう言われた鞠子は、若干の怒気どころか、完全に怒って言った。

「今日は来て良かったよ。お前の人間性が分かったからさ。誰がお前なんかと働くもんか。組織で働く事の意味も価値も分からないくせに。お前なんか一人で一生、寂しく『研究オタク』でもやってるがいいさ。ユイさんには悪いけど、諦めてもらう」

「ユイさんって? ああ、あのスカウトの女の事か。二千万の為に必死だもんな。よくやるよ、ほんと。あの女こそ金の亡者だと思うけどな」

「…もう一度、言ってみな」

「聞こえなかった? おの女こそ金の亡者だと言ったんだよ。自分で何かを生み出す訳でもなく、人を右から左へ動かすだけで大儲け。ボロい商売だ。気楽でいいぜ」

カウンターに置いていた鞠子の両手は、こぶしになって震えていた。

そして言った。

「私は怒ったぞ---」

「はぁ? なんだって?」

鞠子は店内に響くような大声で叫んだ。

「私は怒ったぞぉ! ジョルノ・ヴェロネージィー!」

 ここはジョルノのアパートの部屋。畳んであるマットレスに、ジョルノと鞠子が並んで座っていた。鞠子はジョルノの額の上部に、軟膏を塗っていた。

沁みるようで、ジョルノは唸っていた。

「いてて…」

鞠子は手当しつつ、心配そうに言った。

「痛かった? ごめんね」

「あのなぁ、コーヒーカップのソーサーで、俺の額を割った奴の言うセリフかよ? それ」

鞠子は足元に置いてある救急箱から、ガーゼとサージカルテープを取り出して貼り始めた。

「完全にプッツンしちゃったけど、お前の血を見て我に返ったよ。でも意外だね。こんな何もない部屋に、救急箱があるなんて思わなかったな」

「これでも一応は、『医薬の研究者』なんでね。薬があっても不思議じゃないだろ?」

「アハハ、そうだね」

「それにしても、どうやって俺の名前や住所を知ったんだ? あのスカウトの人と、俺の情報を共有してるのか?」

「違うよ。一昨日おとつい、一緒に飲んでたらその人が酔いつぶれてさ。その隙にちょっとスマートフォンを拝借したんだよね。アハハ…」

「怖い女だな」

鞠子はガーゼをテープで固定し終えた。

「これで良しと。あのさ、どうしてなの?」

「ん? なんの事だよ」

「さっきのバールでの話。お前…じゃなくて、アンタさ、私をワザと怒らせたんじゃない?」

「そうだ」

「何故?」

「お前が何者か見極めたかったから」

「どういう事?」

「俺の所には、いろんな人間が来る。本当に困っている人間から、俺を利用し尽してやろうとする奴まで色々ね。それを見極めるには怒らせるのが一番早い。人は怒ってしまったら、感情の制御が利かなくなる。うっかり本音を言ってしまいやすいんだよ」

「なるほどね。アンタの中で私は、『キレやすい女上司』に認定された訳だ」

「いや、違うね。『仕事熱心で、仲間想いの女』ってトコかな」

「えっ? どうしてそうなるの?」

「俺に会いに来たって事は、一緒に働くかもしれない奴がどんな人間か知りたかったんだろう? 実力の程度も含めて。それはもう、俺の面接に来たようなもんだ。仕事だよ」

「そうかな? もう一つの『仲間想い』ってのは?」

「家族ならともかく、仕事仲間を馬鹿にされたからって、よくもまぁ、あそこまで怒れるもんだ。よっぽど好きなんだな、感心するよ」

鞠子は少し照れた表情で言った。

「いやぁ、そうかなぁ?」

「嫌味で言ったんだけど」

鞠子はガクッと肩を落とした。

「なんだぁ」

「『好きなんだな』と言ったのは、本気で思っているけど」

「うん、好きだよ。私の親友であり、お姉さんなんだ」

鞠子は真剣な表情に戻し、反省している態度で言った。

「あのさ、さっきは悪かったよ。私が挑発するような事を言ったから、ケンカになった。そこは私が悪かったって認める。暴力も振るっちゃったし。でもね、アンタのユイさんに対する言葉。あれは本当に許せないから。私を見極める為であったとしても、あれは無いからね」

「うん、それは謝るよ。酷かったと思う。悪かった」

鞠子は目を丸くして言った。

「あれぇ? 素直に謝るなんて、すっごい意外! どうして?」

「本気で思っていないからだよ。え~っと、あの人、名前なんだっけ?」

「丈璃乃 結佳 (たけりの ゆいか)だよ」

「そう、丈璃乃たけりのさん。あの人を金の亡者だなんて思っていない。尊敬したぐらいだ」

「えっ? そうなの?」

「俺を調べるために、研究の裏取引を調べたりしたみたいだ。それは普通の調査では足らないから、非合法な手段も必要だったろうし、危険な目にも遭ったかもな。その上に肝心のスカウト対象は、評判通りの気難しい奴。それでも笑顔で機嫌を取らないといけない。粘り強く交渉しないといけない。そんなの誰にでも出来る事じゃない。大したものだよ。金の事は勿論あるだろうが、それは苦労に見合った、正当な対価だと思うしな」

それは鞠子も普段から思っていた事だったので、胸がスッキリした。

「うん、そうだね。私もそう思うよ。ところで、ユイさんにも使ったの? 『怒らせて見極める』って作戦をさ」

「いや、使っていない。話し始めてすぐに分かったからな。『この人は、人と接する巧者だな』って。だから、会話の中からどんな人か探る事にした」

「ふーん。で、どうだった? ユイさんは」

「負けたよ。とても俺の手に負える相手じゃない。会話はずっとリードされっぱなしだし、押すトコロはガンガン押してくるし、引くトコロはサーッと引く。説教もされたし。つかみどころがまるで見つからない人だな。参ったよ」

「アハハッ! そうそう! お説教は、私もされるよ。それにやっぱり、口では女相手…しかもユイさん相手に勝てないからね」

「みたいだな。勉強になった」

「天才学者に勉強させてやった! ザマー見たかぁ! ねっ? ユイさんは大した女でしょ?」

ジョルノは呆れ顔で言った。

「ハイハイ、おっしゃる通りで」

鞠子は嬉しそうに、笑顔で言った。

「ジョルノ。アンタは噂とは全然違う。やっぱり会って話さないと、分からないもんだね。そうだ、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は『玖口 鞠子 (くぐち きくこ)』。よろしくね。キクって呼んでいいよ」

「呼ばない」

「あれま。で! どうするの?」

「なにが?」

「ウチへ来る気あるの?」

「無い」

「私さ。事前の情報と、今日会った第一印象の段階では、同じ会社で働くなんて嫌だった。でも今は違うよ。仲良くやっていける…とまでは言わないけど、一緒に働いてみたいと思い始めてる。アンタの実力を、身近に見てみたいし」

「だから、行かないって。何度も言わせるなよ」

「それはお金の問題? それともサラリーマンが嫌って事? ジョルノって、サラリーマンを軽蔑してる感じがするもん」

「していない。働いている人を、軽蔑なんてする訳がないだろう」

「えっ、違うの?」

「さっき言った事は、サラリーマンの長所というか、ストロングポイントを言ったんだ。お前を怒らせたいから、悪く聞こえるような言い方をしたんだよ。個人で出来る事なんて、どれほど才能があってもしれている。統率のある組織が社会には必要だ。社会を構成する一員になって・会社を回して・しっかり税金を納める。言葉にすると簡単だけど、凄いし、大切な事だと思っている」

「そっか。でも、ウチに来る気はない? さっき言った、『私が上司になる』は例えだよ。私や会社を利用するぐらいの気持ちでも構わないんだから」

「それ、丈璃乃さんも言ってたな」

「アハハ、そうなんだ? 私はユイさんには影響されっぱなしだから、似ちゃうんだね」

「俺はとにかく、組織に向かない人間なんだ。良く言えばね」

「悪く言ったら?」

「自堕落なんだよ。朝起きる時間なんて決めたくない。したくない事はしたくない」

「ふーん。報酬の件は? ウチに勤めたら、他社よりはかなり多くもらえるよ。でも、今のジョルノの裏研究に比べたら、落ちるのかな?」

「うん。倍でも足りない」

「ひぇ~、マジっすか。そりゃぁ就職なんてしたくないよね」

「金はもういいんだよ。もう一生分は稼いだから。今の仕事は趣味同然」

「すごいね、一度は言ってみたいセリフだよ。じゃあ、お金はどうしてんの? 貯金?」

「札束を使って焚火たきびしてるよ。アパートの前で、栗と一緒に焼いてる」

「焚火って、無茶を言うね。それに栗ってなに? 栗を焚火で焼くの?」

「イタリアでは、焚火で栗を焼くんだよ。まぁ日本で言う『焼き芋』だと思ってくれ」

「フフッ、そうなんだ。今度食べに行くよ。札束を焼く時に声を掛けてね」

少し笑った鞠子だったが、真剣な表情になって言った。

「今、私は気持ちが固まった。もうジョルノが来ても来なくても、どっちでもいいよ。どちらにしても一長一短があるって分かったから。ただ嘘で良いから、ウチに就職してくれないかな?」

「どういう事だよ?」

「報奨金の事は知っているでしょう? ユイさんがもらえるようにしたい。でも、すぐに辞められたら報奨金の制度は成立しないの。半年でいいんだ。半年経ったら、適当な理由を付けて辞めてくれていい。『パワハラされた』とか言って、私を悪者にしてくれていいよ。アンタにもその期間は給料はでる訳だし。額は不満だろうけどね。悪い話ではないでしょ?」

「いや、悪い話だよ。半年間、自分に合わない生活をさせられて、しかも収入は下がる。昨日今日知り合った人間に、そこまでする義理はない」

「どうしても?」

「ああ。お前や丈璃乃さんに悪い感情は持っていないが、家族や友達のような感情も持っていない。それは当然だろう?」

そう言われた鞠子は、残念そうな表情になって言った。

「…だよね、分かったよ」

鞠子は辛そうな表情で、持参していたカバンを手元に取り寄せた。渋々と遅い手つきで、中から小さな茶色の紙袋を取り出した。そして、それをジョルノに手渡した。

そして重い口調で言った。

「はい、これ。私には、アンタを満足させられるような額のお金は用意できないからね。最終手段だよ」

「なにそれ?」

ジョルノは首を少しひねりながら、左手で受け取った。そして右手を紙袋に入れて、中を取り出した。小さくて薄い、ピンク色の可愛らしい柄の入った箱。ビニール包装がしてある未開封品で、お菓子に見える。紙袋を床に置き、小箱を両手で持つと、じっくりと見た。

ジョルノは眉間にシワが寄った。

「これって…?」

避妊具だった。数秒それを凝視した後、鞠子に目をやった。鞠子はうつむいていた。

ジョルノの方は見ず、辛そうに声を絞り出した。

「頼むよ…、これで納得してもらえないかな? お願いだから…」

鞠子が懇願して、数秒が経った。その間、鞠子の体は小刻みに震えていた。

ジョルノは低い声で、静かに言った。

「おい」

鞠子はジョルノの声で、肩が『ビクッ!』っと反応した。そしてゆっくりと顔を上げて、ジョルノと視線を合わせた。その表情は、何かを決意したかの様だった。

次の瞬間---


パチン!


かなり大きな音がした。ジョルノが避妊具の小箱で、鞠子のおでこを叩いたのだ。

「いったぁい! なにすんのよ!」

鞠子に怒鳴られたジョルノは、避妊具を手放した。小箱は無造作に床に転がった。

ジョルノはやや怒り気味に言った。

「あのなぁ、お前なにやってんの? これで俺が『はい、分かりました』って言うと思ったのか? 俺は社交性の無い偏屈だけど、外道じゃあないんだよ」

「私って会社の男に人気あるんだよ。連中が会社や女子社員に内密で行っている、社内の人気投票…まぁミスコンだね。三百人位いる本社の女子社員の中で、毎年ベスト五に入るんだから」

「だから?」

「格好つけて、やせ我慢しなくていいよ。その代わり、条件を飲んでほしい---」

鞠子が言い終える前に、ジョルノは右手のひらを、軽く振りかぶった。

「わっ、分かったから! もうおでこ叩かないでよ! マジで痛いんだから!」

ジョルノは振りかぶった右手を降ろした。

そして穏やかに言った。

「俺はお前の家族でも友達でもない。でもな、女が傷つくのを平気で見ていられるほど薄情でもないんだ。だからもう、やめておけ」

「あっ、うん。分かった」

「ここまでしようとしたのは、丈璃乃さんの為か?」

「…うん」

「じゃあ聞くけど、俺がここでお前を抱いて、入社したとしよう。丈璃乃さんがそれを知ったら、どう思うだろうな。考えてみたか?」

「えっと…、悲しむと思う。メチャクチャ怒られると思う。私、そんなの辛い。悲しいよ」

「それが答えだよ。もう止めておけ」

「うん。ありがとう」

鞠子の体の震えは止まっていた。

鞠子の落ち着いた様子を確認したジョルノは言った。

「用事は済んだよな? じゃあそろそろ帰れよ」

鞠子の目を見て言ったが、返事は無い。鞠子はジョルノの顔をジーッと見ていた。

ジョルノはもう一度言った。

「聞いてるか? そろそろ帰れよって言ってんだよ」

視線は合っているが、ジョルノの話が耳に入っている感じはしない。鞠子は自分の顔をグッとジョルノに近づけた。ジョルノは思わず、顔を後ろに逸らした。

「ちょっと! あんまり顔を近づけんなよ!」

鞠子とジョルノが直接知り合って、二時間も経っていない。

じっくり顔を見たのはこれが初めてだった。

「ふ~ん、なるほどね。この顔かぁ。この顔立ちなら、ユイさんが高得点を付けたのも分かる気がする。うん、やっぱりね。私の推理は間違っていなかった」

「なんの話をしているのか、さっぱり分からない」

「フフ、こっちの話。なんでもないの。それよりお腹空いたよ。この辺りのお店知らないからなぁ。何処かへ連れてってよ」

「いや、もう帰れって!」

 先程のバール、フロリアンに二人はいた。店のマスターがいて、カウンターを挟んでジョルノ・鞠子が並んで立ち、マスターと向かい合っている。鞠子は深々と頭を下げた。

「先程は、本当にすみませんでした。反省しています」

ジョルノも一緒に頭を下げた。

「僕も謝ります。すみません」

マスターは豪快に笑った。彼の名はジュゼ。と言っても、それは店用のニックネーム。本名は伊崎英則 (いざき ひでのり)。五十歳の日本人だ。背は百八十センチあり、体は鍛えられていて、スタイルが良い。白いカッターシャツに、黒色のネクタイ。下はタイトな黒色のパンツだ。

「ガハハ! 良いって良いって! お皿代は弁償してもらったし・掃除も手伝ってもらったし、問題無いよ。むしろ、面白い見世物が見れて感謝しているぐらいさ」

「見世物ですか?」

「ああ。ジョルノが初めて女の子を連れてきたと思ったら、皿で頭を割られるなんてさ。痛快だったよ。ガハハ!」

ジョルノは困り顔で言った。

「マスター、キツイなぁ」

鞠子は横目でジョルノを見ながら、ニヤリとした顔で言った。

「へぇ~。女を連れてきたのは初めて? ふーん」

鞠子はマスターに聞いた。

「ジョルノは、このお店の常連なのですか?」

「そうだよ。聞いているかもしれないが、コイツはイタリア人だからさ。イタリアのバールをコンセプトにした、この店を気に入ってくれたみたいだ。週に二~三回は来てくれるよ」

ジョルノはマスターに続いて、鞠子に言った。

「日本人がイタリアで、日本の大衆食堂を見つけた感じかな? 食事が最高なんだよ」

「ガハハ! ありがとよ!」

 時刻は十七時を過ぎた。四人用のテーブルに座り、向かい合わせで二人は座っていた。

テーブルにはミネストローネとフリッタータ、パンはフォカッチャが並べられた。

鞠子はそれを見て歓声を上げた。

「うわ~、美味しそう! 今日は誰かさんのせいで、お昼ゴハン食べそこなってたからなぁ」

「いや、お前のせいだけど…。しかし驚いたよ」

「なにが?」

「スラスラとイタリア料理を注文するからさ。しかも全部、一般的な家庭料理だから。イタリア人が日本の大衆食堂で、迷うことなく焼き魚と味噌汁を注文しているようなものだからな」

「あら、不思議だと思った? 私に興味が沸いた?」

「いーや」

鞠子はジョルノの方を見て驚いた。カプチーノがポツンと置いてあるだけだ。

「あれ? 食べないの?」

「まだ十七時だからな。早すぎる」

「早すぎるかな? まぁベストタイムではないけど、夕食時だと思うけどね」

「日本人はそうだろうけど、イタリア人は違う。だいたい、二十時三十分くらいが普通だ」

「ふーん、まあいいや。私の食べるトコロ見てなさいな。いただきます…じゃなくて、

「Buon appetito (ブオナアッペティート)。間違ってないよね?」

「ああ」

「へへーん、どうだぁ。手も合わさなかったぞ」

ジョルノは少し笑みを浮かべて言った。

「可笑しな奴だな」

鞠子は食事に夢中なのか、聞こえていない様子だった。鞠子は嬉しそうに言った。

「美味しい! イタリアの家庭料理って、こんな感じなんだよね。想像したのと違ってたよ」

「なんでもトマトソースや、オリーブオイルをかけると思ってたんだろ?」

「うん、本当に思ってたよ。ちょっと恥ずかしかな」

「別に恥ずかしくないよ。イタリア人だって、日本人が毎日寿司を食べてるって思っている人もいるからね。誰だってそんなもんだ。異国の食生活なんて想像できない」

「そっか。でも、ジョルノは国籍はイタリアでも、親は日系人なんでしょ? 日本の食事は慣れているんじゃないの?」

「いや、慣れてない。親は『イタリアに慣れるように』って、食事も生活環境も、なるべくイタリア寄りにしてくれた。だからイタリアでの生活に違和感はなかったよ」

「で、その慣れ親しんだイタリアを離れて、どうして日本に来たの?」

「本場の寿司を食べに来たんだよ。イタリアのは創作寿司だからな。シャリにトマトが乗ってたりするんだ。日本の方が美味い」

「ちぇっ、また内緒かい」


しばらくして、鞠子は食事を終えた。テーブルには食器類が無くなり、温かいカプチーノが置かれている。鞠子は一口飲んだ。少し表情がゆがんだ。

「うわぁ、甘いなぁ。美味しいけど、ちょっと私には甘いかも」

「確かブラック派って言ってたな? だとしたら甘く感じるだろうな。それほど砂糖は入っていないんだが」

「分かってたんなら、勝手に注文しないでよ」

「お前、丈璃乃さんと仲良いんだろ? だったら飲み物の嗜好も近いのかと思ってさ」

「えっ…?」

「丈璃乃さんもブラック派だったけど、カプチーノを気に入って飲んでたんだよ。お前もそうなるかと思ったんだが、違ったな。まぁ飲み物の嗜好なんて、人それぞれだから」

鞠子は思い出した。結佳が『カプチーノなんて嫌いだ』という話をしていた事を。

そして力のない声で言った。

「あのさ、ジョルノ。世の中には、嘘をつかなきゃいけない時ってあるよね? そういう時の嘘は仕方ないんだよ。その人は悪くない。それは分かってほしいな」

「まぁ、そう思うけど。話が抽象的すぎて、なんの事やらさっぱり分からない」

「アハハ、いいのいいの!」

鞠子は笑顔でカプチーノに口をつけた。

「うん、美味しいよ! カプチーノも悪くない!」

「ホントに可笑しな奴だ」



イラスト:migmag

挿絵(By みてみん)

「うん、悪くない。良いと思うな… あっ、カプチーノの話だよ!」




「今日は人生初の『張り込み』なんて事をしたからね。頑張ったから、甘いものが欲しくなるのかな? フフッ」

「それにしても、俺の様子を直接を見に来るなんてな。なかなかリスクを背負うと思うけど。自分の部署に来そうな対象者は、いつも見に来るのか?」

「ううん、違う。アンタが初めて」

「どうして今回に限って、見に来ようと思ったんだ?」

「ユイさんのアンタに対する反応が気になってさ」

「反応?」

「本当は言いたくないけど、アンタには聞く権利がある。だから話すよ」

「権利か…。じゃあ聞くよ」

「ユイさんがレシピエントと交渉している期間、よく話を聞かされるんだ。まあはっきり言ったら愚痴だね。でも、それは私を信頼してるからこそ言ってくれるんで。『これで少しでもユイさんの気持ちが軽くなったらいいな』って思えてさ。嬉しいぐらいだよ」

「じゃあ、俺の『愚痴』も聞かされた訳だ」

「それがさ、変なんだよ。いつもだったら機嫌が悪そうに話すんだけど、なんかテンション高いというか、機嫌が良いというか…」

「それは普通じゃないか? 俺との交渉が上手く進んでると思ったとか? 報奨金の事が頭に浮かんだとか? それなら機嫌も良くなるだろう」

「違うよ! そういう事じゃない! …つまり、スカウトの件を抜きにして、アンタに会う事そのものを楽しみにしている感じがあったんだ」

「俺に? まさかな」

「私もどっちなのか、確信が持てなかった。だから試したの」

「試すって?」

「昨日、ユイさんを騙したんだ。アンタの名前を使ってね。二人には悪いけど」

「騙す?」

「ユイさんがアンタに対してどう反応するか、見ようとしたの。昨日の昼休み、後輩の男性社員に頼んで、お昼休みに公衆電話から、ユイさん宛に電話をかけさせたんだ。アンタの名前を使ってね。ユイさんが電話に出たら切るように指示して」

「へぇ」

「その電話を受けた他の社員から『ジョルノさんから電話です』って言われた時のユイさん、嬉しそうだったんだよね。レシの名前を聞いて嬉しそうにするユイさんなんて、初めて見たよ。だからアンタに興味が沸いたんだよね。ユイさんをこうさせるのは、どんな奴なのかって」

「う~ん、考え過ぎだと思うが」

「最初アンタに会った時は、『こんな奴に会って何が嬉しいのかな?』って思ったけど、今は…ほんの少し・わずかに・ちょっぴりだけ分かる気がする」

「な、なに言ってんの? ひどいな、お前…」


鞠子のカプチーノがほとんど無くなった頃、意を決した感じで鞠子が口を開いた。

「ジョルノ、お願いがあるんだ」

「いや、だからそれは---」

「違う、そうじゃないよ。もうウチには来なくていい。断ってくれていいから。アンタにはアンタなりの事情や考えがあるって分かったから。これ以上は無駄だろうし」

「あ、そうなのか。じゃあお願いってなんだよ?」

「明日、またユイさんが勧誘にくるよ。当然、アンタは断ると思う。それで良いから、邪険にしないでほしいの。断っていいから、優しく言って。傷つけないでほしいんだ。スカウト業って本当に大変なんだよ。終電近くまでレシの事を調べて準備して、当のレシへは気を使って機嫌を取らなきゃいけない。私達研究系の人間とは、また違った激務なの」

ジョルノは少し、肩を落として言った。

「そうか。俺も接し方が良くなかったかもな。反省するよ」

「まあ、それも仕方ない面もあるんだ。ユイさんには悪いけど、一種の『押し売り』が家に突然やってきたのも同然だからさ。ユイさんも、その辺りは割り切ってるよ。でも、たまにいるんだよ。偉そうにしたり、条件を上げてくるだけならまだしもさ。ジョルノの言う『外道』みたいなのがね。最低な要求をしてくる奴が」

「それは、さっきみたいな?」

「そう。だから、ユイさんには傷ついてほしくな---」

鞠子はそこまで言うとハッとなり、話を止めて言い直した。

「あのっ! ユイさんがそういう要求に応じたって事じゃないから! そういう要求をされた事があるって話だから! 誤解しないでよねっ!」

ジョルノは深くため息をついてから言った。

「分かってるって。丈璃乃さんは、ほんの数時間接したぐらいだ。でも、節度のある人だと思うよ。そんな事はしないだろうな」

「うん、良かった。信じてよね」

結佳の名誉の為には仕方のない嘘だった。

少し安堵している様子の鞠子に、ジョルノは聞いた。

「で、どうするんだ?」

「どうするって?」

「俺が言えた義理じゃないが、これで報奨金は無くなるだろう?」

「そうなんだけどさ。これ以上、アンタは巻き込めないよ。だから私がなんとかする」

「なんとかするって?」

「私さ、これでも高給取りなんだよ。同世代の二~三倍じゃあきかないぐらい」

「まあ、上内製薬の心臓部で働いているんだから、当然かもな。…って、まさか?」

「自分で用意するよ。『会社から丈璃乃結佳に、今までの功績を称えた臨時ボーナスが出る』とか装ってさ。社内の人にも頼んで、偽装の協力をしてもらう。その人にもお礼はするしね」

「それ、いくらぐらい払う気?」

「まあ、一千万円くらいなら用意できると思う」

「そこはお前の判断だから、俺は止めないけどね。しかし分からない。仲が良いからって、そこまで出来るもんかな?」

鞠子はキッパリ言い切った。

「できる。できるよ。ユイさんの為なら、お金ごとき幾ら失ったって惜しくない」

真剣な目で言う鞠子に、ジョルノは圧倒された。

「そうか、お前の目を見て分かるよ。余程なんだな」

「ジョルノ。私とユイさんの馴れ初めを聞いてくれない? これでアンタの感情に変化が起きるかもしれない。万が一の可能性だけどさ。同情を引くために、お涙頂戴のような嘘や誇張はしないって約束するから」

「…分かった。聞くよ」

「私さ、慶京理塾 (けいきょうりじゅく)大学出身なんだよね」

「へぇ、有名な薬科大やっかだいだな。それに大学としても難関だろ? 日本で一、二を争うくらい」

「あっ、知ってんだ? どうやって、日本の大学の事なんて覚えたの?」

「もう日本に四年住んでいるから。優秀な薬科大学の名前は、自然と耳に入るよ」

「私は子供の時から何かをじっくり考えるのが好きでさ、自然と研究者の道を目指すようになってた。すでに大学でも、それなりに成果は出してたの。成績も首席だったからか、苦労したけど上内製薬に入社できた。研究職に憧れていたから、嬉しかったな」

「上内製薬の研究部って、どれくらいの倍率なんだ?」

「うーん、公式発表はないけどね。でも書類選考の段階から数えたら、二百倍は越すかな?」

「すごいな」

「入社してからも、私の勢いは止まらなくってさ。重要な仕事をどんどん任されるようになってきたんだ。私も嬉しいから頑張って、ますます良い結果が出た。でも、やっぱり光っていると、闇ができちゃんだよね」

「闇って?」

「妬み。嫉妬だよ。当時の上司からね。私は当時二十四歳で、上司は五十くらいだったかな? 本当に最低な奴だったよ。今思い出すだけでも体が震えるからね」

「へぇ」

「私の成果が目に見えて自分を上回った途端、嫌がらせが始まったんだ。物を隠したり、私にだけ伝達事項を伝えないとか、小学生レベルのね。みんなの前で、耳の鼓膜がキリキリするぐらい怒鳴りつけたり。私の使っている机を真横から蹴り上げたりね。その上に、私や他の部下の功績を、自分の功績にして報告したりしてね。ホントにクズでケチな野郎だったよ。でも、私もこの勝ち気な性格だからさ、一歩も引かなかった。そうしたら作戦を変えてきたんだ」

「作戦?」

「研究には直接関係無いような仕事を、山のように押し付けてきたんだ。料理人で例えるなら、料理はさせてもらえずに、皿洗いばかりさせられている感じかな。しかも量が半端じゃない。残業どころか、家に帰れなかった。勿論、休日なんてもらえない。帰れるのが十日に一日ぐらいだった。でもね、帰っちゃうと、落とし穴があるんだ」

「落とし穴?」

「寝ちゃうんだ。家に帰った安心感と、使い慣れたベッドのおかげで、ぐっすり眠れてしまう」

「えっ? それは良い事だろう?」

「普通はね。でも、深夜一時にクタクタになって帰って、六時間後の早朝七時には出勤しないといけない。ぐっすり眠ったらダメでしょ?」

苦笑いをしながら言う鞠子の言葉に、ジョルノは恐ろしくなった。

「それ、本気で言ってんの?」

「今考えたら『まさか』なんだけど、当時は大真面目おおまじめの本気。もう自分の力では、起きれなくなってた。スマホのアラームを最大にして、耳元で鳴らしても起きれないんだ。意識がうっすら分かるくらい。そういう場合、どうしたら起きれると思う?」

「いや、ちょっと想像がつかない」

「濡れタオル。全然絞っていない、びしょびしょのタオルを、顔にかけてもらうんだ。しかも真冬にね。お母さんは凄い嫌がったけど、私が涙ながらに懇願したんだ。『私を起こして』って。歯を喰いしばって、泣きながらやってくれたよ。私より辛かっただろうね」

「どうしてそこまでして? 他社に移る選択肢もあったろう?」

「私が薬の研究職に着くのは、子供の頃からの夢だったんだ。良い環境で研究する為には、良い大学に入る必要があってさ。小学校四年くらいから、ずっと勉強漬け。親に強制されたからじゃなくて、自分から望んでしたんだ。小学四年生から就職するまで、私、テレビを見た覚えが無いよ。スマホどころかガラケーだって持った事ない。上内製薬に就職が決まってから、慌ててスマホを契約したくらいだからね」

「とにかく、時間の全てを勉強に使った?」

「そう。友達もできない孤独な世界で、血を吐いてもおかしくないほど努力した。大学に入っても、それは緩めなかった。おかげで主席で卒業できて、世界有数の製薬会社、上内に就職できた。そして、まさに『夢が叶った』って感じで研究職に就けたんだ。家族みんなで抱き合って喜んで…。あの時のお母さんの顔、一生忘れないよ。だから自分の研究の為にも、家族の為にも、環境で劣る他社になんて移れなかった」

「そうか…」

「だから、負けたくなかった。仕事の争いで負けたのならいいよ。でも、妬みで狂ったクズオヤジになんか、絶対に負けたくない。死んでも負けないって本気で思ってた」

「そのクズオヤジを制止できる人間っていなかったのか?」

「いないんだ。そいつはウチの研究部の部長。研究部はウチの会社の花形であり、稼ぎ頭だからね。クズは指折りの権力者なんだよ。周囲の人達は私を気の毒には思っていただろうけど、助けはしなかった。いや、助けられなかったんだよ。私はそれを責める気はないよ」

「うん」

「もう帰る時間が惜しくてさ。毎晩、食堂の壁際のカウンター席で突っ伏して寝るのが、普通になってた。仮眠室なんて物もあるけど、体を横たえたりして寝たら、起きれなくなるから」

「…」

あまりに凄惨な話に、ジョルノは返事ができなくなっていた。

「そんな日が半年続いた。そしてついに、最後の時が来たんだ。いつも通りの奴隷労働が終わって、深夜に食堂のカウンターに突っ伏した。でも、寝れないんだ。代わりに涙があふれてきてさ。悔し涙なんて枯れ果てたはずなのに、もう止まらない。嗚咽も止まらない。私、その時に自覚したの。『あ、私死ぬんだ。死のうとしているんだ』ってね。今になって考えてみたら、それは嬉し涙だったんだよね」

「嬉し涙?」

「そう、嬉し涙。死んだら、この地獄から解放されるんだって。助かる方法が見つかったって。本気でそう思った」

「…」

「そんな風に思って泣いていたら、左側の…隣の椅子が引かれたんだ。そこに、私の知らない誰かが座ってさ、優しく言ってくれたんだ。『どうしたの? 大丈夫?』って。それが---」

「丈璃乃さん?」

鞠子は安心した表情で言った。

「そう、ユイさんだった。ユイさんにとって私なんて、他部署の初対面の人間。でも、ずっと話を聴いてくれたんだ。泣きながら言う私の話を、ずっとね。アドバイスする訳でもなく、説教をする訳でもない。ただただ、聴いてくれた。『そっか、大変だったね』って。その後に、ユイさんは言ったんだ。『二週間頂戴』って。『必ず助ける』ってさ」

「力になってくれたんだ?」

「その時はユイさんがどんな人で、社内でどんな立場の人かもしれないから、半信半疑だった」

「それは心強いけど、そんな巨悪を打ち負かすのは、一筋縄ではいかないだろう?」

「って思うよね? でもユイさんは一発でやった。時間だと十分間ぐらいかな?」

「まさか? どうやって?」

「そのクズは決定的な証拠が無いだけで、不正をしまくっているのは有名だった。会社の癌だった。なんとか失脚できないか・追い出せないかと、みんな思っていたよ。ユイさんも顔と名前は知っていたからね。話していたら『アイツか!』って言ってたから」

「そうか。雪山で言えば、『不満』っていう積雪(積雪)は、たまりにたまっていた訳だ」

「うん。ほんの少し刺激を与えて、雪崩なだれを起こせば---」

「一気に崩れるという訳か」

「ユイさんのやり方はシンプルだった。会社のある部屋でクズと二人っきりになって、自分で自分のカッターシャツを破いて、泣きながら『助けてー!』って叫びながら飛び出して行った。それだけなんだよね」

「それは効果あると思うけど、そんなに上手くいくか?」

「ユイさんは、用意周到だったよ。まずは一週間かけて、クズの会社での行動パターンを把握したんだ。罠にかける部屋を決める為にね。クズが普段行かない部屋でやったら、クズが誘い込んだと思ってもらえないから。調査の結果、クズは十三時くらいから、資料室で頻繁に昼寝をしているのが分かったんだって。それでユイさんは何日かに分けて、クズに何回も話し掛けてた。そして何か適当な理由をつけて、資料室に誘いをかけた。ウチの会社は所々に防犯カメラがあるからさ、資料室に入る廊下も映っているんだよね。だから自分一人で入るんじゃなくて、クズと二人で一緒に入るようにした。しかも、先頭がクズになるようにね。これで映像的には、クズに誘われた感じになる。それで---」

「実行、という事か」

「そう。クズは『違う! その女が勝手にやったんだ!』ってわめいたけど、誰も信じない。会社の癌で疎ましい奴と、社内で評判の仕事のできる美人。もうどちらを信じるかなんて、明白だけどね」

「それがキッカケで『雪崩』が起きた?」

「そう。これを機会にクズを不満に思ってた社員が一斉に蜂起してさ。研究成果の横取り・出入り業者との癒着・パワハラ・セクハラ…etc。証拠の書類や音声データとかを提出した人も多くて、クズの不正が全て明るみに出た。私への殺人並みの脅迫じみたイジメも、他の社員が証言してくれてさ、クズは失脚したよ。不正で貯めた財産も、全て会社への弁償で消えたらしいね。それどころか莫大な借金を背負ったってさ。出張で北地に行った社員が、『田舎町をホームレス姿で歩いているのを見た』って言ってたらしいよ」

「そうか、良かったな。最悪の選択をせずに済んで」

「うん、良かったよ。あの時ユイさんに出会わなかったら、私は確実に死んでいた。言い過ぎでも比喩でもない。ユイさんは『命の恩人』なんだ。一千万円くらい、安いでしょ?」

「うん、そうだな」

「騒動が収まった時、改めてユイさんの所へ行ったんだ。

『ぜひお礼をさせてください! なんでもしますから!』ってね。『全財産ちょうだい』って言われたら、喜んで渡したと思う。でも、ユイさんの望むモノは違ったんだ。笑顔で言われたよ。『じゃあ、友達になって』ってね。もう体が痺れるくらい嬉しくてさ。それからは友達。大親友だよ。私が男だったら結婚してるな」

「それからは、ずっと仲が良いんだ」

「うん。食堂で初めて出会ったカウンター席。あの席で、なるべく一緒にお昼を食べるんだ。私にとって、それは幸せな時間。一緒にどうでもいい話をしている時が、本当に癒しでさ。ユイさんの笑顔は最高なんだ。私はその笑顔に誓ったの。『ユイさんを幸せにしよう。その為ならなんだってやる。ユイさんは私の姉なんだ』ってね」

「そうか」

「ねぇ、ジョルノも何度かユイさんと話したでしょう?」

「ああ、そうだ」

「ユイさんの笑顔、どうだった? 最高でしょ?」

「まあ、良い笑顔の人だとは思ったよ。ただ---」

「ただ?」

「お前以外とは、違う笑顔なんじゃないか? 言わば『本当に笑っている』かどうか。本当の笑顔を引き出せるのは、お前だけなんだろうな」

ジョルノがそう言うと、鞠子の頬が赤くなった。

「あ、そうかな? それはかなり嬉しいかも」

嬉しくて悦に入っていた鞠子だったが、それが収まると言った。

「ねぇジョルノ、今言った話は本当なんだ。アンタの同情を引く為に言ったんじゃない。私はともかく、ユイさんがいる会社で働いて損はないよ。それでも考えは変わらない?」

ジョルノは一呼吸おいて、申し訳なさそうに言った。

「すまないな、俺は今の生活を変える気はないんだ」

「変える気はない…というよりは、変えられない事情があるとか?」

「無いよ、そんなの」

「せめて、理由を教えてくれない?」

「いや、もう言ったけど」

「朝起きるのがイヤ? そんなの納得できない」

「別にお前に納得してもらう必要もないんだけど」

「じゃあ、日本に来た理由だけでも教えてよ。あっ、『お寿司を食べたかったから』は通用しないからね」

「あのさ…。お前、俺の事を買い被り過ぎなんだよ。気まぐれで日本に来て、自堕落にフリーで仕事しているだけ。秘密裏ひみつりにやっているのは、その方が儲かる。普通にやったら、色々なトコロから天引き・中抜きされるからな。あと、苦手な人付き合いもしなくていい。日本流で表現すると、要するに俺は、タダの『研究オタク』なだけ。分かった?」

鞠子はあっさり言った。

「分かんない」

「あのなぁ…。でも、分かった。色々な話を聴いて、お前と丈璃乃さんの絆の深さは分かったよ。同情した訳じゃなくて、敬意を表して約束は果たすから」

「約束?」

「丈璃乃さんに邪険な態度はとらない。丁寧に理由を話して諦めてもらう。それでどうだ?」

「うん、分かった。ありがとう、ジョルノ・ヴェロネージ」

素直な笑顔でお礼を言う鞠子に、ジョルノは照れた。

「ああ」

 時刻は十九時を過ぎて、すっかり暗くなっている。二人は外を歩いていた。ジョルノはアパートへ・鞠子はアパート近くにある、自家用車を置いてあるコインパーキングを目指している。

十字路に差し掛かると、立ち止まって鞠子は言った。

「じゃあ、私はこっちだから」

「知ってるよ。コインパーキングにでも車を停めているんだろ?」

「そうだよ」

「行こうぜ」

「どうして?」

「女一人を夜道に歩かせられないだろ。早く行こうぜ」

「ふぅん…」

二人は十字路を右に曲がった。歩きながらジョルノは聞いた。

「一つ分からない事がある」

「なに?」

「丈璃乃さん。優しい人なのは分かった。でもお前と出会った時は、赤の他人だろ? どうしてそこまでしてくれたんだろうな。作戦は成功したからいいものの、失敗したら、丈璃乃さん自身が失脚する。解雇じゃあ済まないかもしれない。だから分からないんだ」

「あっ、それは聞いたよ。そうしたら、言われたんだ。『昔の私みたいで、放っておけなかった』ってさ」

「私みたい?」

「そう。ユイさんも、同じような経験をしているんだよね。私みたいにクズ人間のイジメじゃあないけどね。ユイさんの場合は、女上司との衝突。それ自体は仕事上の正当なやりとりだったらしいけど、その女上司は優しさの欠片かけらもない人でさ。ユイさんにきつく当たってたんだ。ユイさんも負けじとやりあってたら、精神的に追い込まれたみたい。私のように死までは考えなかったらしいけど、体壊してさ。心療内科でもらった薬を飲みながら仕事をしていた時期もあったんだって。それで食堂で泣いている私の話を聴いた時、放っておけなかったんじゃないかな。当時の年齢も、私と同じぐらいっだったらしいよ」

「そう」

「だから、さっきの約束お願いね。優しく断ってよ」

「優しくか…。それって、そんなに大切な事なのか?」

「うん、大切だよ。アンタの才能は大したものかもしれないけど、相手に優しく振る舞えない人に、大した未来はやってこない。この言葉は、ユイさんの受け売りなんだけどね。その女上司と衝突して疲弊した生活を続けている内に、そう思ったんだって」

「ふぅん」

「アンタに良い未来がやってこないって事は、病で苦しんでいる患者にも未来がこないって事なの。それは心しておいてよ。別に『ニコニコ愛想よくしろ』って言ってるんじゃあないんだから」

「優しくってどうすればいいのか、俺には分からない。でも丁寧に話すように努力するよ」

「やれやれ…」

「あのさ、聞きたい…いや、教えてほしいんだけど」

「えっ? 教える? うん、良いけど。なに?」

「『優しく』って、具体的にどうすればいいんだ? しかも女性相手だと、余計に分からない」

「それって、ユイさん相手にって話だよね?」

「そうだ。また会うだろうから」

「簡単だよジョルノ。アンタならできるから」


二人は立ち止まり、向かい合った。

しばらく話し込み、鞠子はジョルノに言って聞かせた。


話を終えると鞠子は言った。

「Capisci? (カピシ?)」 → 分かった?

「Ho capito Grazie (オカピート グラッツィエ)」 → 分かったよ、ありがとう

「アハハ、私のイタリア語、通じたんだ。嬉しいな」

 二人はコインパーキングに到着した。

鞠子はジョルノに向かい合って言った。

「あのさ、聞いていい?」

「なに?」

「アンタはなんだかんだ言っても、私やユイさんのワガママに付き合ってくれている。まぁ、結果的にそうなってるだけ、とも言えるけどね」

「ん…、そうか? 自覚ないけどね」

「理由が分からないの。ウチのスカウトを断る以上、もっと強硬な態度に出てもおかしくないよ。私は無視してもいいし、私を使ってユイさんに『絶対もう来るな』と、念を押したりもできる。私が頼んだとはいえ、どうして優しくしようと努力するのかなって思ったの」

「まぁ、お前達は仲間だからかな」

「仲間? 私達とジョルノが?」

「広い意味でだ。『同業者』って意味だよ。例えばイタリアで日本人同士が会ったら、他人同士でも『私達は仲間だね』と思うくらいの感覚だ。友達だと言っている訳じゃない」

「かなり距離はあるけど、まあ仲間意識は湧くかな」

「そんな人達が、しかも可愛い女の子達が、頑張ったり・悩んでいるんだと知ったんだ。協力はしないが、邪魔はしないし、気の毒にとは思うから。それだけの事だ」

鞠子は甲高い声を上げた。

「はっ? それ本気で言ってんの?」

「思ってるよ。社交辞令で言ったんじゃない。俺だって多少は人間らしい感情はあるんだぜ。頑張ったり・悩んだりしてる同業者がいるなら、少しぐらいは気の毒になと思---」

鞠子は大声を出して、ジョルノの話を止めた。

「そっちじゃない! もう一つの方だよ!」

「もう一つの方? いや、他には言ってないが」

「分かってないの? もしかして、自覚が無くて言ったの?」

「だから、なんの事を言っているんだよ?」

鞠子は不敵な笑みになり、ニヤリとして言った。

「へーぇ、そう見えてたんだ。私やユイさんを見て、そう思ったんだ。ふーん。しかも自覚が無いって事は、お世辞じゃない本心。なるほどねぇ」

「さっきからなに言ってんの? 分からないんだよ」

「ユイさんが言ってた。アンタは会話中、うっかり本心が漏れる事があるって。私はてっきり欠点の話をしているんだと思ってた。でも違うのかもね」

「よく分からんが、俺は本心を漏らしたりしない」

「プッ、バーカ!」

「なっ、なんだぁ?」

ジョルノは顔をしかめたが、鞠子は機嫌が良さそうに言った。

「ジョルノ! 最後にクイズです! 当てたら豪華賞品を贈呈! やってみない?」

「なっ、なんだよ急に?」

「今、思いついたんだよ。アンタに損はないよ。どうよ?」

鞠子の爛々(らんらん)とした目を見たジョルノは、渋々応じた。

「分かったよ。で、なに?」

「さっき言ったよね? 社内のミスコンで、私は三百人の女子社員の中でベスト五に入ったんだ。正確には三位だった」

「ああ、そう聞いた。へぇ、三位なんだ」

「ユイさんもベスト五に入ったんだよ。ここでクイズ! ユイさんの順位は私より上だと思う? 下だと思う? 同点の三位は無いよ。さぁどっち?」

間髪入れずに、ジョルノは答えた。

「丈璃乃さんが上」

「ちょっとぐらい悩めよっ!」

「クイズの答えにクレームつけるな。じゃあ『丈璃乃さんが下』って言えばよかったのか?」

「えっ? それはまぁ…、あまり嬉しくないかも。ユイさんは美人だよ。私はユイさんには恩義を感じているけど、それは関係ない。あんな美人は、他に知らないもん」

「それなら俺の答えは問題ないじゃないか」

「ま、まあそうなんだけどさ」

「分からない奴」

「えーい! お前みたいなアホバカ鈍感博士に、今の私の気持ちなんて、一生分からないよ!」

「ア、アホバカ---」

「まあクイズには正解したんだ。『豪華景品』はあげるよ」

鞠子は肩からかけていたバックから、A五サイズの手帳を取り出した。付属のペンでなにかを書き、ページを破った。そしてその紙を四つ折りにして、ジョルノの右手に無理矢理握らせた。ジョルノは自分の右手の拳を見ながら言った。

「これなに?」

「豪華景品だよ。ウチの会社の男達にも、それを欲しがっている奴は大勢いるんだからね。簡単にはあげないけど、ジョルノならいいよ。あげる」

ジョルノは右手の拳を開けようとした。すると、鞠子の声がそれを止めた。

「おっと、家に帰ってから開けてよね」

「分かったよ」

「ジョルノ。アンタは明日、またユイさんと会う事になる。時間は…そうだね、十四~十六時くらいかな? ユイさんはアンタのアパートへ行くよ。そこでお願いなんだけど---」

「今日、お前と会った事は話すなって言うんだろ?」

「あら、気が利くね」

「違う。その方が面倒が無いからだよ」

「素直じゃないなぁ~。さて、もう帰るよ。今日は良い一日だったな」

「良い一日?」

「どんなに変な奴かなと思って来てみれば、とりあえず話はできる奴だった。ユイさんに優しくするって約束も取り付けたし、夕ご飯もご馳走してもらったし。まあ良い日かな。ジョルノはどうだった?」

「良い日だよ。皿で頭を割られて流血した日」

「あっ、そっか。良い日で良かったね。アハハ!」

鞠子は自分の車に近づき、スマートキーを使って解錠した。

ドアを開け、乗り込む前に言った。

「じゃあね、ジョルノ。

Ci vediamo dopo (チヴェーディアオドー!)」 → また会おうね!

「No! no! (ノ! ノ!)」 → 会わないよ!

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