37・領主と特等席の子供(その2)
新皇帝の顔は知られていないので有名だった。
さまざまな理由はあるにしても、新帝国ではかつてほどの皇帝の神格化がされているわけではなく、公式の音声は定期的に、月に何度かは放送されていた。
皇内庁が一般人に皇帝の顔を見せることに慎重なのはさまざまな理由が考えられており、たとえば画像(御真影)の扱いに対する法的規制、加工や戯画化に対する制限とかがまだ整備されていないせいだとか、警備の問題とか、そもそも新皇帝は実在するのか、とかいろいろ言われている。
公式には、新皇帝による新帝国の新領主との公式面会が完全になされていない、というものもあった。
領主も300諸侯、自治体の長として、以前から、この日とかだったら空いてますけど、いつの何時にしますか、と馴れ馴れしいながらも強圧的な依頼を超えた命令を受け取った。
実のところ、新憲法に基づく即位式が行われるまで、今の皇帝は仮皇帝であり、儀式も簡素になるかわり、個別の対面と友達登録が下賜されるのだった。
公務としての王都への出張は、領主ははじめてのことだった。
近隣の領主同士による情報交換会・懇談会は回り持ちで定期的に行なわれ、それはほぼ地元のうまいもの食べる会になっているけれども。
帝都まではほどほどの距離で、無駄な金を使うこともないため、領主になる前はほどほどの私服で、二等車で庶民とともにときどき行っていたけれども、正規の領主であり、帝国の産業の一つの要でもある護謨会社の社長でもあるため、今回は同行の者と一緒に、一等車に乗っていた。
薄灰色の席と薄緑色の通路は広く、通路を隔てて同じ列の会社の営業(宴会)部長は、乗車前に買った鰻弁当を食べ、麦酒を飲んだら、それじゃ、と言っていびきをかいて寝てしまった。
今晩は社外の人間相手の接待が主ではなく、大広間で、研修期間を終えて社員になった若者のお目見え会なので、社長兼領主も、ひとこと挨拶をしなければならない。
領地で採用した公務員は、ほとんど以前からの顔なじみだったため、年度はじめに、それじゃよろしく、と集会で言うだけだったのだけれども。
ある程度、王都から離れている領地の長は、直通の超特急で行けるのだけれど、領主の住む駅からは、停車駅の多い特急を利用するのが普通だった。
列車は空席も次第に埋まってきた。
空席の窓際席を通して、領主は線路沿いの水田が、以前見たときよりもはるかにすくすくと育っているのが確認できた。
涼期前には黄金の稲穂が垂れ下がることだろう。
今は、領主が乗っている車内の床と同じ色をしていた。
領主は、王都の駅に着くまで、学校の課題を遠隔作業で片づけることにした。
いつもなら倍速モードでとっとと済ませるところだけれども、現生徒会長のツグミから、いざというときに、と守り刀として渡された懐剣を身につけているため、通常モードでしか作業ができないのである。
現生徒会長は、私の念を込めました、ということなので、その能力、つまり「相手の能力を無効化する能力(念)」が、その懐剣には溜まっている。
どのくらいの間効くの、と聞いたら、1旬くらいかな、だそうだ。
なお、いざというとき、というのは、皇帝を暗殺したくなったときに、だそうである。
王都には予期できない危険もあるから、多分役に立ちます、と言ってくれたんだけど、今のところ、領主の倍速能力は使えない。
領主が倍速で作業するということは、周りの時間も倍速になるわけだから、物理や魔力攻撃はうまくかわせない可能性があるのである。
それにしても、通路を走る子供がうるさい。オヤはいないのか、監視してないのかは不明だけど、わーっ、と言って向こうにいき、おなじ感じで向こうから走ってくる。
耳を押さえて走ってるのは、自分の声もうるさいのか。




