36・領主と特等席の子供(その1)
領主は子供が嫌いだった。
嫌いではなく苦手と言った方がいいのかもしれない。
つまり、殺してやりたいほどの憎悪とかではなく、たんに 一緒にいるとどうも居心地が悪くなるだけである。
子供はうるさいし小さいしすばしっこい。
高いところにはのぼりたがるし、低いところにはもぐりたがる。
しかし客観的には、現在の領主自身でも、オトナと言えるほどの心も体もないわけなので、オトナになったら 多少は その気持ちは変わるのかとは思っていた。
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その日は領主は帝都に行き、新皇帝に会う予定を立てていた。
新皇帝が即位してからもうかなり経つけれども、公の場に顔を見せたり、派手な即位式があったわけではない。
なにしろ、現在の帝国は主権を持っておらず、内政・外交・立法その他、独立国としての業務は、ほぼ共和国を含む連合諸国によって仕切られている。
かつて統帥権を含むあらゆる権力の最上位にいた皇帝は、今は「権力の象徴」として、国民が決め、連合諸国が了承した書類に署名をするだけが仕事なのである。
いずれ主権が回復したら、というのが帝国の仮政府の説明ではあった。
ただし、国内では300有余の諸領地、かつてはそれぞれが独立した国であった領地の領主には、会ってもいいんじゃないの、という連合諸国総司令官の許可が出ていたので、領地の大きいもの、帝都から近いもの、小さくても産業その他経済力のあるもの、などから順番に、せっせと、平日には3〜4人の領主には、新皇帝は謁見していた。新制度的には、特に命令や指示を出せるわけではないから、ただの「面会」だけれども。
昔ふうに言えば「お目みえ」。領主としての立場を皇帝が保証する、という、ずいぶん前から形式的なものになっていた儀式のひとつだ。
いつがいいですか、という宮内庁からの連絡で、けっこう先まで埋まってるんだな、と確認した領主は、4節ほどあとの休日明けに仮予約をした。3日ほど経つと「お待ちしております。前日の取り消しは、事故・急病を除くと許されませんのでご了承ください」その他細かな注意事項が通知として来て、いよいよその日になった。
公務としては特別のことだから、使い慣れていた一等席より上の、特等席を予約することにした。
こういうのには皇帝側から金が出るもんだと思ってたけど、戦後の皇室はそこまで金がなかったのだろう。
領主のいる土地から王都まではほどほどの距離であるため、特別急行列車を使う。
領主の土地より少し遠い、産業が栄えていて人口も多い領地からは超急行列車が出ており、それを使える者は無停車で帝都まで行くことができる。
領主のいる土地はそこまで 遠くはないので、各駅停車より少しだけ早い特急列車だった。
その日は午後の早めに新皇帝とお目みえをして、その後は領主が兼任の社長をしているごむ会社の、帝都支社が採用した新社員を含む全社員に、よろしく、と対面の挨拶という儀式がある。
長くなりがちな演説内容は、前もって通知で各人に渡しておいた。帝国の未来を築くのは、これからのあなたたちです、みたいなの)。
そしてその日の夜は取引先との接待ということで、バーッと行きましょう課長、じゃないな宴会大臣、でもなくて、えーっと副商業大臣のノリヘーが付き添ってくれることになっている。
この人物は、酒が飲めて自身の宴会芸が披露できるような立場以上のものを望む野心や欲を持たず、平和を愛し、仕事を人にまかせるのがうまいため、一度帝都支社長の打診をしたところ、いや、私の芸はまだまだその域に達してませんので、と固辞したので、今は適当な役職名の疑似管理職についている。
というよりむしろ、接待にしか興味がなかったのかもしれない。
帝都訪問の前日は、領主の地にある本社での新入社員歓迎会・慰労会ではりきりすぎたため、列車の特等席では、通路をへだてた反対側で、ぐっすり、がーがーと眠っている。




