31 ・領主とタカムラくん(その2)
なんでも大きくなっている、旧皇帝の島。
そこに戦前から島流しにあっていたタカムラくんはとびきり大きくて、弓の名人だった。
体格にしてはやや小さめの、とは言っても領主の身長ぐらいの弓を使って、狙いを定めて空を飛ぶ鳥を打つ。
なぜ大きい弓を使わないのかというと、連射にむかないからだというのがタカムラくんの説明であった。
止まってる的だったら、飛んでる鳥の3倍の距離でも当てられるんですけど、とタカムラくんは言った。
まずはじめに試しの矢というのを放ちます、そうすると鳥は気配を感じて動きを変えるのでなかなか狙いにくいのですよ。
それから立て続けに、飛行方向を予測して、2の矢・3の矢を放つ、ここらへんは潜水艦が軍艦を狙うのと同じ要領です、とタカムラくんは説明した。
つまり動きを見られて避けられるという獲物には非常に当てにくいんだな、と領主は思った。
ひゅん。
ひゅん、ひゅん。
うほ、とタカムラくんは言って、上半身半裸体の胸をボコボコとドラミングして、勝利のポーズをしたのでいい音がした。
ぼこぼこぼこ、どんどどん。
うまいこと落とした鳥の翼の大きさは、領主が両手を広げたよりも大きかった。
ところでこんな大きいタカムラくん、どうやって連れて帰ればいいの、たぶん船には乗らないよ、と領主は旧皇帝に相談した。
その点は大丈夫、とい旧皇帝は言った。
ここの島にある木で、いかだ作っといたから、それに乗せて船で引っ張ればいいよ、なんだったら鎖で縛りつけといても問題ない。
それでは最後にタカムラくんの希望により、用意した武器で共和国軍と戦える方法を伝授しよう、と旧皇帝は言った。
*
見晴らしのいい岬の先端は高台になっていて、なまぬるい風が吹いている。
タカムラくんは海のほうを見ながら、片膝をついて、肩に竹槍のようなものを置いている。
というか、明らかに竹槍で、タカムラくんの3倍ぐらいの長さと、領主の腕よりふた周りも大きい。
旧皇帝が、はい、ろんぎぬすの竹槍、と渡した得物を、まずタカムラくんはブンブンと振り回して手ごたえを確かめたのだった。
領主と旧皇帝は、近くのやぶの中から、あまりタカムラくんが興奮しないようにこっそり観察していた。
余談だけれども、竹槍というのは武芸に熟達していない農民などが使うには手頃な武器なのである。
なにしろ、先のほうを刀で斬られてみじかくなっても、引き続き先のほうが尖っているから、ヒトを、ぶす、と刺せる。
普通の刀や槍だったら、折れたりしたらもう武器としては使えないところを、竹槍ならそういうことはない。
おまけに安価でどこにでもある。
ぎらぎらする海と青空を見ながらしばらく待っていたタカムラくんは、遠くの発動機の音を聞くと立ち上がった。
回転羽根で高高度を飛行する、かつては共和国の最新鋭だった戦略爆撃機が4機、編隊を組んでやってきている。
高度は1万尺ほどだろうか、と領主は思った。
特定の機体ならば何尺ぐらいの高さだろうかということぐらいは、大戦中にひどい目に会った人たちはだいたい判断できるのである。
戦争中はタカムラくんも軍令部の命令で攻撃はできなかったんだけど、今だったら思いっきりやれるな、と旧皇帝は領主に話しかけた。
タカムラくんはろんぎぬすの竹槍を持ち、力いっぱい投げた。
速度は音速の3~4倍くらいの速さだったろうか。
戦略爆撃の一機に竹槍は突き刺さり、速度を落としたと思うと炎を上げはじめ爆発した。
ぶん、ぷすん、ちゅどーん。
こんなことして大丈夫なんですか、と領主は聞いた。
平気平気、あんなもんはもう役に立たないということを我々の科学力で知らしめてやるから、と前もって共和国軍に伝えておいたので、と旧皇帝は言った。
科学力とはあんまり関係がないだろう、と領主は思った。
とにかくあの戦略爆撃機はもはや旧型機で、おまけに今回は無人式の誘導操縦なので、操縦士も含めて死んでる人は誰もいないはずだよ、と旧皇帝は説明した。
もう一本、と言うタカムラくんだったけれど、そんなにこの槍はないんだよ、と旧皇帝は説得した。




