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28・領主と緑黄色野菜

 領主は毎日食べさせられる朝食の緑と黄色にうんざりしていた。


 また蜜柑と人参、それに芽花椰菜と胡瓜かよ。


 いえ、あと菠薐草の煮たのもありますし、枝豆と莢隠元とか、と料理番は言った。


 もういい加減飽きてるんだよそういう奴は、なんかこう赤いのとかないの。


 蜜柑と人参、赤いじゃないですか。


 蜜柑は蜜柑色で、人参は人参色なの、馬鹿じゃないの、と領主は力強く言った。


 確かに蜜柑を赤というのは世間的にもかなり無理がある、しかし人参はまあ赤といっても問題はないかもしれない。


 それに関しては、隣の領主から貢物がありました、と料理番は別の皿に盛ったものを出した。


 蕃茄、苺、それに林檎。


 林檎って赤いのは皮だけだから、正確に言えば黄色ですかね、と料理番は言った。


 領主の隣にある領地は平野部が広く、適度に雨が降ったり気温の差があったりして、農作物を作るのに適しており、米や玉葱、小麦や馬鈴薯などさまざまなものを作って領地外にも販売している。


 そしてそこの領主は、ここの領主と同じ学園に通っており、ここの領主とはさまざまな面で緊張的対立関係にある。


 領主は蕃茄をひとくち食べてみて、どうもあんまりおいしくないね、と言った。


 そこなんですよ、と料理番は言った。


 あちらの領地での農産物の担当者は、こちらの領地で、農産物に使われない土地をいくらか貸していただけないかというご依頼がありました。


 いずれ公式な文書での申し入れもあるとは思いますけど、苺食べ放題です、あと胡瓜と梨も。


 いいねそれ、と領主は言った。


 胡瓜は、野菜として食べるとおいしくはないのだけど、果物として食べればおいしいのである。


 あちらの前領主はかつては大地主であり、今の領主は民営で運営されている農産物生産組合の代表責任者だった。


 そしてこちらの領主は護謨生産を中心とする近代的化学業者の社長で、さらに当然領主だったから、なんでもかんでも領地の組合員・社員・職員に、命じようと思えば命じることができるのである。


 とりあえずこちらも非公式に、あちらの領主に会ってみよう、と領主は言った。


     *


 隣の領主の能力は、植物をうまく育てることができる能力で、当然のことながら朝早く学校に行き、学園内の領地、じゃないな、実験栽培場の植物の手入れをしてから授業を受け、午後に公務をするという生活をしているため、こちらの領主とはすれ違いである。


 学園内の偽名はミドリで、全体の印象はなんとなく緑っぽいけど、胡瓜というよりはもうすこしほわほわした、青椒っぽい感じのコで、昼すこし過ぎに実験栽培場に領主が行ってみたら、なにやら蔓草のような植物に話しかけていた。


 ちょっといいかな、と領主が言うと、わっ、とミドリはものすごい驚きかたをして、なんだ、ミカンかぁ、と、ほっとしたような声で言った。


 またマンドラゴラかと思ったよぉ。


 また、ってそんなにしょっちゅう毒植物が採れるのか、と領主は、というと話がややこしくなるので、ミカンは言った。


 ここは薬用植物とか、依存度が高いハッパとかも作ってるから、当然毒植物もあるよぉ、なんでも取り過ぎると毒だしねぇ。


 今は、食べられる朝顔の種ができないものか、朝顔さんにお願いしてたの、とミドリは言った。


 緑の円蓋つきの庭園にある屋外卓で、ミドリとミカンは飲み物を摂取しながら話をした。


 学園に接している庭園は、旧財閥が所有していたもので、季節に応じて花や樹木が色を変え、生徒だけではなく一般の帝国民にもその大部分は公開されている。


 飲み物は最新鋭の自動販売機で手に入れたので、ありふれた砂糖入り紅茶や珈琲であっても、侍女が淹れてくれるものより味にむらがなく、透明な保持瓶はほどほどに熱くて持ちやすかった。


 ミドリんところの蕃茄、味が今ひとつなのは、植物甘やかせすぎなんだよ、とミカンは率直に言った。


 えー、ひどい、ミカンって植物のことそんなにくわしかったっけ。


 そりゃ確かに、平地はすくないから米や穀物はあまりできないけど、蜜柑と茶はじゃむの原料にしたり、乾燥して売ったりするぐらいには作ってるよ、それにミドリの領地だって、果物はきびしく育ててるんじゃないかな。


 蕃茄って……果物だっけ、とミドリは言った。


 野菜と思えば野菜、果物と思えば果物だね、だから、甘くするためには甘くしちゃいけない。


 言ってることがよくわからないんだけど。


 いやそこらへん、たしかに自分でもそう思ったよ、要するに、だ、厳しい日差しの下で、土地の養分や水分がすくない崖っぷちみたいなところで育てるべきってこと。


     *


 それからしばらく後、正規な契約をして、南向きの斜面で、ヤギぐらいしか行き来できないようなところに植えた蕃茄は、濃い赤に実り、濃い味のものになった。


 どうも確かにおいしいんだけど、この蕃茄さん、ヒトを憎んでるみたいなんだよねぇ、とミドリは言った。


 にくいにくい、ヒトがにくい、いつかフクシュウしてやる、こんな感じ。


 植物の言葉がわかるってのは、便利でもあり不便でもあるな、とミカンは思った。


 今度マンドラゴラ用にそちらの領地の斜面貸してもらえないかなぁ、憎しみの苦みがよく混ざると、すげえよく効く毒、じゃなくて薬になりそうだから。


 ミカンは丁重におことわりした。

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