王子(王女)たちと風呂
王宮 大浴場 夜
湯気が立ち込める広い大浴場は、王族専用の特別な場所だった。石造りの壁に施された魔導灯が柔らかな光を落とし、大きな湯船からは甘い花の香りが漂っている。
「アロスよ! 遠慮などするな。さあ、こちらへ」
エベル王女(第一王子)が、赤いショートヘアを濡らしながら笑顔で手招きした。湯に浸かった上半身が、湯気越しに艶やかに輝いている。引き締まった肩から鎖骨のライン、そして胸元にかけての滑らかな曲線が、はっきりと見えた。
俺は湯船の端に座ったまま、慌てて視線を逸らした。
「え、えっと……本当にいいんですか? 俺みたいな者が一緒に……」
「当然だ。 お主はもう我らの護衛。 王宮の者として、遠慮は無用と言ったであろう?」
エベル王女の声は明るく、しかしどこか甘い響きを帯びていた。隣では、桃色のショートヘアを泡だらけにしたルーリ王女(第六王子)が、小さな体を湯に沈めながら、ちらちらと俺の方を窺っている。頰がほんのり赤いのは、湯のせいだけではないようだった。
少し離れた場所では、グラリス王女(第二王子)が湯船の縁に腰を掛け、槍の手入れをしながらこちらを眺めていた。長い紫の髪が濡れて背中に張り付き、獣のような鋭い瞳が楽しげに細められている。
「ははっ、兄貴がそんなに積極的になるとは珍しいな。 アロス、逃げんなよ? オレも混ざるぜ」
グラリス王女が立ち上がり、湯の中に入ってきた。逞しい肢体が湯を弾き、水音が響く。その動き一つ一つに、戦士らしい力強さと、女性らしい柔らかさが同居していた。
俺は湯に深く浸かりながら、心臓の音がうるさいのを自覚した。
(……これは、ちょっとヤバい状況じゃないか……?)
エベル王女が俺のすぐ隣に移動してきた。距離が近い。湯気の中で、彼女の息遣いがはっきり聞こえる。
「ふふ……アロスの寝顔も可愛かったが、 こうして近くで見る生の顔も良いな。 緊張しているのか? 肩が固いぞ」
細い指が、俺の肩にそっと触れた。温かく、柔らかい感触。軽く揉むように動かされると、思わず声が漏れそうになった。
「え、えべる王子……!?」
「エベルで良いと言ったであろう。 護衛と主の間柄だ。もっと気軽に……」
彼女の指が、肩から背中へ滑っていく。湯の中で肌が触れ合う感触が、妙に鮮明だ。ルーリ王女は少し離れた位置から、恥ずかしそうにしながらも、じっとこちらを見つめている。
「アロス様……肩、凝ってますか……? 私も……少し、手伝います……」
小さな手が、反対側の肩にそっと置かれた。ルーリ王女の指先はまだ幼さを残しつつ、丁寧に動く。二人の王女に同時に触れられる状況に、頭がぼうっとした。
グラリス王女が笑いながら近づいてきた。
「二人とも甘いな。 アロスみたいな戦士は、もっと強く揉んだ方が効くぜ? ほら、こうだ」
グラリス王女の力強い手が、俺の背中に回された。戦士らしい握力で、しかし不思議と痛くはない。むしろ、凝りがほぐれていく心地よさに、思わずため息が漏れた。
「あ……そこ、気持ちいい……」
「ほらな?」
グラリス王女が得意げに笑う。その拍子に、彼女の胸が俺の腕に軽く触れた。柔らかく、弾力のある感触。俺は慌てて体を引こうとしたが、湯の中で思うように動けない。
エベル王女がくすくすと笑った。
「グラリス、焦らすな。 アロスはまだ慣れていないのだから…… ゆっくり、味わうようにしてやろう」
その言葉の意味を、俺は上手く理解できなかった。ただ、三人の視線が自分に集中していることだけは、はっきりと分かった。
湯気が濃くなり、視界が少しぼやける。肌と肌が触れ合うたび、甘いざわめきが胸の奥で広がっていく。
ルーリ王女が、小さな声で囁いた。
「……アロス様の肌、熱いです…… もっと、近くに……来ても、いいですか……?」
その瞬間、俺の理性が危うく飛ぶところだった。
「みんな……少し、控えめに……! 俺、まだ心の準備が……」
グラリス王女が豪快に笑った。
「準備なんざ、戦場じゃ必要ねえだろ? けどまあ、今日は初日だ。 ほどほどにしておいてやるよ」
エベル王女が、俺の耳元で優しく囁く。
「ふふ……今夜はこれくらいで許してやる。 だが、これからは毎日こうして、 アロスを『労わる』つもりだぞ? 覚悟しておくがいい」
湯の中で、三人の王女たちの体温が、俺を優しく、しかし確実に包み込んでいた。
大浴場の外では、使用人たちが控えめに待機している。中から漏れる笑い声と水音を聞きながら、誰もが小さく微笑んでいた。
——王宮に、新しい風が吹き始めていた。




