表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/25

歪み

王都・冒険者ギルド

「……で?途中撤退?」

受付の言葉に、ケフィルの眉がぴくりと動いた。

「はぁ?聞き間違いじゃないよね?」

「Sランクパーティが、Aランク帯ダンジョンで撤退って言ってんの?」

露骨に苛立った声。

周囲の冒険者たちも、ちらちらとこちらを見ている。

「……安全を優先しただけだ」

ガウィンが低く答える。

「安全ぉ?」

ケフィルが鼻で笑う。

「何それ。あたしたち、そんな雑魚パーティだったっけ?」

空気がピリつく。

「ケフィル、言い方があるだろ」

メディアが静かにたしなめる。

「は?事実でしょ?」

「実際、ボクの魔法もレナの矢も通り悪かったし」

「ガウィンも被弾してたじゃん」

ぐさぐさと刺さる言葉。

「……調子が悪かっただけだ」

ガウィンが言い返す。

「はぁ!?」

ケフィルの声が一段大きくなる。

「“たまたま”であんなにズレるわけないでしょ!?」

「全部おかしいんだよ今日の戦闘!!」

その言葉に——

レナが小さく口を開いた。

「……ケフィルさん」

「もしかして、ですけど……」

全員の視線がレナに集まる。

「“何かが足りない”感じ、しませんか……?」

——ドクン

一瞬、ガウィンの心臓が跳ねた。

だが。

「は?」

ケフィルが即座に反応する。

「何それ、精神論?」

「具体的に言ってくれる?」

レナは少し迷ったあと——

「……前は、もっと楽に戦えてたと思うんです」

「敵の動きも読みやすかったし……連携も、自然で……」

「だから何?」

ケフィルの声が鋭くなる。

「今は“自然じゃない”って言いたいわけ?」

「……はい」

小さく、だがはっきりと頷くレナ。

その瞬間。

「……はぁーーー……」

ケフィルが大きくため息をついた。

「やってらんない」

頭をガシガシとかく。

「つまりさぁ」

「誰かが足引っ張ってるって言いたいんでしょ?」

空気が凍る。

「ケフィル、それは——」

メディアが止めようとするが、

「違うなら違うって言えばいいじゃん?」

ケフィルは止まらない。

「レナ、“誰”なの?」

視線が、じわりとレナを追い詰める。

「……それは……」

言葉に詰まるレナ。

その沈黙が——

最悪の形で受け取られる。

「……ああ、そっか」

ケフィルが、にやりと歪んだ笑みを浮かべた。

「“言えない”んじゃなくて、“言いにくい”んだ?」

そして——

「ガウィンのこと?」

「っ!!」

ガウィンの拳が、ぎゅっと握られる。

「ふざけるな」

低く、押し殺した声。

「違うなら証明してよ」

ケフィルは一歩も引かない。

「さっきの戦闘、誰が一番ミスってた?」

「被弾してたの誰?」

「それは……!」

ガウィンが言い返そうとする。

だが。

「やめてください!」

レナが思わず声を上げた。

「そういう言い方……よくないです!」

「は?」

ケフィルがギロッと睨む。

「じゃあ何?みんな完璧でしたーって?」

「違うでしょ?」

「……みんな、少しずつズレてるんです」

レナが必死に言う。

「誰が悪いとかじゃなくて……」

「甘いんだよ」

ケフィルが遮る。

「そうやって曖昧にするから弱くなるの」

静まり返るギルド。

周囲の冒険者たちも、完全に聞き耳を立てている。

そして——

「……あーもうイライラする!!」

ケフィルが杖を床に叩きつけた。

「こんなんじゃSランクとか笑わせんなって感じ!!」

その言葉に、

ガウィンの中で何かが切れた。

「……言い過ぎだぞ、ケフィル」

低く、だが明確な怒気。

「は?事実じゃん」

「俺たちはSランクだ」

「簡単に崩れるようなパーティじゃない」

「もう崩れてるじゃん」

即答だった。

「……っ」

言葉を失うガウィン。

「現実見なよ」

ケフィルが冷たく言う。

「今のあたしたち、“弱い”よ」

その一言が——

決定的だった。

沈黙。

誰も、否定できない。

そして。

「……今日は解散だ」

ガウィンが絞り出すように言った。

「頭冷やせ」

「は?逃げるの?」

ケフィルが嘲る。

「これ以上話しても無駄だ」

ガウィンは振り返らない。

「……ちっ」

ケフィルが舌打ちする。

レナは俯き、

メディアは不安そうに二人を見ている。

——バラバラになりかけたパーティ。

その中心には、

誰も口にしない“空白”があった。

(……なんなんだよ、これ)

ギルドを出ながら、ガウィンは思う。

(何が足りない?)

答えは——

もう、すぐそこまで来ていた。

だが彼らはまだ、

それを“認める覚悟”がなかった。

一方その頃、王宮では——

「アロスよ!今夜の宴だがな!」

「またですか!?」

「当然だ!主役はお主だからな!」

「いや主役って……!」


笑い声が響く王宮。

崩れていく元パーティと、

満たされていくアロス。

——運命は、はっきりと分かれ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ