元パーティメンバー ガウィンたちのその頃
王都近郊・ダンジョン《灰哭の洞穴》
Sランクパーティとなったガウィンたちは、
新たな依頼を受け、この洞穴へと足を踏み入れていた。
「……妙だな」
ガウィンが眉をひそめる。
「妙って何が?」
ケフィルが杖をくるくる回しながら軽く返す。
「いや……敵の動きがやけに速く感じる」
その言葉に、レナが小さく頷いた。
「……私も思ってました。なんだか……狙いが正確というか……」
「はぁ?気のせいでしょ」
ケフィルが鼻で笑う。
「相手はAランクモンスターだよ?あたしたちが苦戦するわけないじゃん」
その時——
ガァァァッ!!
洞窟の奥から飛び出してきたのは、
鋭い爪を持つ魔獣グレイファングが三体。
「来たぞ!」
ガウィンが剣を構える。
「任せて!」
ケフィルが詠唱を開始する。
「《炎槍》——」
だが——
「えっ……!?」
放たれた魔法は、
いつもより明らかに“遅い”。
そして——
ドンッ!!
一体のグレイファングに直撃したものの、
吹き飛ばすほどの威力はない。
「な、なんで……!?」
「ケフィル、威力が足りてない!」
レナが叫びながら矢を放つ。
だが——
キンッ!!
弾かれた。
「うそ……防御、こんなに高かったっけ……!?」
違う。
モンスターが強くなったんじゃない。
——自分たちが、弱くなっている。
「くっ……!」
ガウィンが前に出る。
剣で一体を受け止めるが——
「重い……!?」
腕にかかる負荷が、明らかに増している。
「ガウィン!」
メディアが慌てて回復魔法を飛ばす。
淡い光がガウィンを包む。
……だが。
「……回復量が少ない?」
メディア自身が、一番驚いていた。
「そんなはず……いつもならもっと……!」
その瞬間——
ザシュッ!!
「ぐっ!?」
ガウィンの肩に爪が食い込んだ。
血が飛び散る。
「ガウィン!!」
レナが叫ぶ。
「なにやってんのさ!」
ケフィルが苛立った声を上げる。
「ちゃんと避けてよ!」
「無茶言うな!」
ガウィンが歯を食いしばる。
「動きが……鈍いんだ……!」
数分後。
なんとか三体を討伐したものの——
全員が荒い息を吐いていた。
「……はぁ……はぁ……」
「ちょっと……なんなのよこれ……」
ケフィルが苛立ちを隠せない様子で言う。
「Aランク相手に、こんな消耗するなんてありえないんだけど?」
「……」
誰も答えない。
言葉にできない違和感が、全員の中にあった。
「……なあ」
ガウィンがぽつりと呟く。
「……俺たち、こんなに弱かったか?」
その一言で、空気が止まった。
「は?」
ケフィルが顔をしかめる。
「何言ってんの?あたしたちはSランクだよ?」
「そうだ……Sランクだ」
ガウィンは自分に言い聞かせるように繰り返す。
「なのに……さっきの戦い……どう見ても……」
「たまたまでしょ」
ケフィルが強く言い切る。
「調子が悪かっただけ。そういう日もあるって」
「……」
レナは黙ったままだ。
メディアも、何か言いたげに視線を落としている。
さらに奥へ進む。
だが——
その後も戦闘は安定しなかった。
回避が遅れる。
攻撃が通らない。
連携が噛み合わない。
ほんの少しずつ。
だが確実に、“ズレ”が生じている。
「……一旦戻るぞ」
ガウィンが低く言った。
「え!?まだ全然進んでないじゃん!」
ケフィルが不満をぶつける。
「この状態で進むのは危険だ」
珍しく、ガウィンが引いた。
その判断に、誰も反論できなかった。
洞穴の外。
夕日が差し込む中、四人は無言で立っていた。
「……ねえ」
レナが、ぽつりと呟く。
「前は……こんなこと、なかったですよね」
その言葉に、全員の視線が一瞬だけ揺れた。
「……」
沈黙。
誰も、その“原因”を口にしない。
——いや、できない。
「……帰るぞ」
ガウィンが背を向ける。
だがその表情には、
わずかな焦りが滲んでいた。
(……なんでだ)
歩きながら、ガウィンは考える。
(何が足りない?何が違う?)
頭の中で、これまでの戦いを反芻する。
Sランクに上がる前。
もっとスムーズだった連携。
無駄のない戦闘。
圧倒的な安定感。
そして——
ふと、ある光景がよぎる。
後衛で、静かに魔法をかけ続けていた男。
目立たず、文句も言わず、
ただ黙々と役割をこなしていた存在。
「……いや」
ガウィンは首を振る。
(ありえない)
「あいつは……ただの付与術師だ」
そう言い聞かせる。
だが——
胸の奥に、小さな違和感が残る。
その頃、王宮では——
自分たちが“手放したもの”の価値を、
まだ誰も理解していなかった。




