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フードの人物

 襲いかかる六本の角と二本の爪。フードの人物は臆することなく両の手を突き出した。

 すると、どういう訳か四匹のタクトは何かの壁に阻まれるように動きを止めた。その異質な力の正体を知っているルートとハイドは、舌打ちをした。


「やはり、厄介だね。『魔法』と言う奴は」

「おいルート、ここには人もいねえ。使って良いよな?」

「そうだね。出し惜しみしている場合じゃない。ボクも……」


 ルートはポケットの手を突っ込み、隠していたもう一匹を取り出した。同時に、出し惜しみはなしと言うルートの言葉に反応して、ハイドが手を顔の横に持ってくる。


「行くぜ……魔法がてめえだけの専売特許だと思うなよ?」

「まずは、あの障壁を破壊するよ。行け、ベアード、《オールアンチ》

 

 ルートがタクトを放る。障壁に向かってまっすぐ飛んでいく、直径三十センチほどの不気味な虫。その正体は、俗に『クマムシ』と呼ばれる生物である。

 特徴は何と言っても、体の代謝等をほぼゼロにする『乾眠』時における異常なまでの生命力。

 百五十度から絶対零度までの気温、無酸素状態、強力な圧力、放射能など、ありとあらゆる過酷な状況下での生存が可能となる。

 そして、それをモチーフにされたタクトなので、当然性能は桁違いに格上となる。このベアードと名付けられたクマムシ型タクトを一言で言い表せば『不死身』。動くことこそできないが、衝撃にも強く、どんな環境だろうと生きていける。

 ベアードが使えるスキルは一つ。それこそが《オールアンチ》。全てを拒絶し、消し飛ばす、攻防一体のスキルだ。それにより、フードの人物が張っていた障壁が崩れ去る。


「さあ、ぶちかませハイド!」

「絶対に、逃がさねえ!」


 ハイドが右手を前に突き出した。瞬間、その手から無数のレーザーが射出された。真っ直ぐに延びていくレーザーが、フードの人物に直撃して爆発を引き起こす。直後に、四匹のタクトが追撃に向かう。

 しかし、そのタクトたちはすぐに返り討ちにあった。   


「なっ……強すぎだろ」

「それでも、引き下がる訳には行かない」

「当たり前だ。こうなりゃ、久しぶりに本気出すしかねえな」


 ハイドは一歩前に踏み出した。心を落ち着かせ、体の奥底に眠るエネルギーを取り出す。

 ――このふざけた力の謎、あいつなら知ってるはずだ。

 それを聞きだすために、勝たなければならない。そのためには、ハイド自身が闘わなければならない。この場で一番の実力者はタクトでも、ましてやルートでもなくハイドなのだから。

 ――まあいいさ。前世でも、闘うことしか出来ないクズだったんだからな。


「それでも、この世界よりは幾分マシだったがな……!」


 言って、地を強く蹴る。空高く跳躍し、岩盤をさらに蹴ってフードの人物へと接近する。右拳を握り、まずは様子見のストレートを放つ。とはいえ、常人が喰らえば一発でお陀仏の威力だ。

 そのパンチを、軽く受け止めて、フードの下の口が動く。


「やるな。もうすっかり人間を超えている。よくもまあそこまで魔法を使いこなせるものだ」

「お世辞のつもりか? それよりも秘密を喋ってもらいたいんだが、な!」


 ハイドの放った蹴りを、今度はバク転で躱してから、フードの人物がハイドと同じような光線を放つ。


「舐めんな!」

 

 オウム返しの様に光線で応戦をする。

 ――行ける。勝てるぞ!

 勝機を見出したハイドは、光線を撃ちながらも、縄を創りだした。そして、油断しきっている相手に向かって、その縄を伸ばす。


「捕えた。仕掛けろ、ルート!」

「もうやってるよ。これで、ボクたちの勝ちだ」


 無造作に縛られたフードの人物に向かって、再び角と爪が襲いかかる。逃げる場所などはない。体を八つ裂きにされるか、串刺しにされるかのどちらかだ。

 そんな絶体絶命の状況でも、フードの人物は臆せず呟いた。


「どうやら、順調に進んでいるようだ。計画は。ただ……」


 黒いフードが唐突に消え、タクトは攻撃対象を失くした。次の瞬間、上空から光の弾丸が降り注いだ。突然の攻撃をまともに喰らい、タクトたちは大ダメージを負った。

 その一瞬の出来事を見たルートは、歯軋りをして叫んだ

 

 

「っく、まだ追いつけないのか!」

「いや、流石だよ。空間移動テレポートを使わなかったらこちらの負けだった。やはり、君たちは素晴らしい人材だ」


 そこまで言って、右手を突き出した。ゾクリと、嫌な予感が体をめぐる。《オールアンチ》は体への負担が激しいので、使えるのは一日に一回までだ。

 ――どうする、倒れるの覚悟で使うか?


「それ故に、今は大人しくしていてもらいたい」


 今までの物とは比べ物にならないほど大きなレーザーが、二人を貫いた。

 激しい爆音と、爆風、爆炎。その光景を見て、フードの人物は踵を向けた。


 それを確認して、ある人物が声を上げた。 


「さて、危ない所じゃったのう」

「あ、あなたは……」

「何で、あんたみたいなじいさんがここに居るんだ?」

 

 助けに入ったらしい老人が、髭をなでて答える。


「なに、暑いから涼みにの。それより、最近の若いやつらはここを登るのがブームになっとるのか? さっきも上で見かけたが……まあええわい」

「ちょっと待ってください。あなた、もしかして……」


 ルートの言葉を遮るように、老人が指を振る。


「その先は言わんでもいい。ワシは、犬のおまわりさんじゃ」


 ほっほっほ、と笑い声をあげながら老人は下山していった。姿が見えなくなってから、ハイドが尋ねる


「で、何者なんだ、あのじいさん」

「……写真で見た姿と名前くらいしか知らないけど……確か」


 その続きの言葉は、やけにゆっくりと告げられた。


「名前はクオン。『マエストロ』の一人だよ」

「…………え?」











 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  

「え?」

 

 同刻、ハイドたちより遥か上空で、ルークは呟いた。


「ここ、千八百メートル地点じゃん」


 地図を何度も確認して、現在地を特定するが、やはりここは千八百メートル地点。いつの間にか、こんなに上まで来ていたのだ。

 

「一体誰がここまで運んだんだ?」


 疑問はそこに一集されるが、考えてみても分かるはずがない。

 ――まあ、運が良かった、と考えるべきか。

 そう思い納得したルークは、地図をしまって立ち上がった。あと二百メートル。ここまで来たのなら、引き下がるわけにもいかない。

 洞窟を出る。途端に、強烈な雪風が吹き付ける。思わず転びそうになってしまうほどだ。が、何とか踏ん張って前へと進む。

 ――なんて寒さだ。重装備がまるで意味ないようだ!

 それでもルークは歩いた。無心で、ただ頂上に着くことだけを目指して。黙々と、ゆっくりと足を動かし続けた。

 ここを乗り切りさえすれば、もう足手まといではなくなるかもしれないのだ。

 挫けないための心の核など、そんなもので十分すぎる。



 果たして、四時間かけてルークは二百メートルを登りきった。頂上の洞窟に倒れ込むように入り、どっと息を吐く。

 ――やった!

 自分の力で、と言うと語弊があるかもしれないが、それでもやった。


「さあ、来てやったぞ。姿を現せよ、チェイン!」


 叫んだ瞬間、青い体を持つ龍が何処からともなくやってきた。しばらく迂回して、ルークの近くへ寄り添う。


「……本当に来たのか。お前、バカだろ?」

「いきなりなんだよ! お前が来いっつうから来てやったんだろ!」

「にしてもだ、普通もう少し体が出来始めてくるだろう。十歳で『ゼロマウンテン』を登ろうとか、正直言って狂ってるぞ」

「……ユーマにもそれ言われたよ」


 苦笑いしてそう言い返し、ルークは寝転がる姿勢から胡坐を組む姿勢に変わった。そして、指を突きつけ言う。


「で、これで認めてくれるのか? 俺のことを」

「貴様のようなアホに着いて行くのは不安だが……まあいい。もともと、ここに来れればそのつもりだったしな。ただ、あんまし俺をがっかりさせるようなら、いつでも牙を向けるぞ。それを忘れるな」

「ああ、善処するよ」

 

 鼻を鳴らしたチェインは、背を向けて言った。


「着いてきな。面白い物を見せてやるよ」 

 



 

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