003 ☖ イレギュラー
オレこと 吉村 要 は今、
「それで、一刻も早く情報がほしくてアポ無しでのりこみに来たの?」
現合社という出版社の事務所の中で女性に睨みつけられていた。
アポって何だろう。
ノリコって誰の名前だろう。
別にその人を見に来た訳じゃないから否定しておこう。
「ちがい、ます」
「じゃぁ誰にアポとったら良いの?」
アポって確認ってことかな。よく解らないけど。
「編集長、さん、です」
「……はぁ」
女性は頭を掻いた。そして名刺を出される。
そこには編集長という文字が書かれてあった。
「だから、私がその編集長よ。だけど今日は誰とも会う予定は入ってないの。それに貴方のことを私は知らない。誰の伝手で来たの?」
あぁ、そうか。
やっと解った。
前回 までは巫女さんが女性を紹介してくれたけど、今回は紹介が無いのか。
だから 前回の記憶 がオレにはあるけど、この女性には無いから怒っている。
「巫女さんに、教えてもらって」
「……巫女さん?」
「あ、えっと。……美島の超人、に」
女性は目を丸くした。
あれ、オレ、何かおかしなことを言ったのかな。
「あの子が……私のことを、覚えていたの?」
「え? あ、はい(?)」
「そう。……ちょっと確認とってくるから待っていて」
女性はそう言って奥へと行ってしまった。
女性は 和田 梅子。
有名だった出版社から数名で独立、起業したばかりの出版社。そこのやり手の編集長。エッセイやコミックなど、全てが超能力に関する内容しか載せないという点で話題をかっさらっているらしい。
もっとも、オレはそこまで詳しくない。
だけど、 前回 も 前々回 も、4月に巫女さんが紹介してくれるのが和田さんだったので、今回はオレだけで会いに来た。
前回までと同じ ならば、和田さんに同行して漫画家さんのお手伝いをすることになる。
トーンを貼ったり、ベタ塗りをしたり。
お給料はもらえないけど、好きな作業をして好きな人に喜んでもらえるなら、それ以上のことは望まない。
あくまでも、好きな人の傍に少しでも長く居たいだけ。
例え好きな人が死んでしまう未来でも。
巫女さんに確認はとれたものの、今日は帰ってもらいたいと言われたので、後日会う約束をした。
そして出版社の事務所を出たところでグーパンチを食らった。
「ぐふっ」
オレをわざわざ迎えに来てくれた相手は 五十嵐 厳龍。いつもオレと出会う度に殴ってくる親友。
「お前を親友だと思ったこと、一度もねぇよ」
厳龍は音神で、巫女さんの契約者。巫女さんは契約した全員の能力を使わせてくれているので、巫女さんと同じく厳龍も読心術が使える。
いや、巌龍の方が巫女さんに使わせてくれているのだったかな?
殴られた腹部を擦りながら顔を上げれば、厳龍はオレに手を差し伸べてくれていた。
厳龍に引っ張られて美島市の自宅に戻れば、またもグーパンチを食らわされることになった。
二発目はオレ専属の執事、麻生 光によるもの。
「学校の補講を抜け出し、護衛も付けずに東都まで行った分の罰です」
あぁ、それの分なのか。てっきり今日の朝食を庭に埋めた件かと思った。
が、次の瞬間には三発目を食らった。
今度は親父に派遣された執事、風見 和希のもの。
「朝食はしっかり食べろって言っただろ。もったいない!」
「だって、お腹、空いていなかったから……」
「お前なぁ」
厳龍が呆れた表情をして溜息をついていた。
「確かに神核を持っていると空腹にならないし実感が無いのは解る。それでも食わないと肉体が成長しないんだぞ? ずっとチビのまんまで良いのかよ?」
「それは……イヤだが」
「だったら食え。料理を用意した奴だって、お前に食って欲しいから作ってくれてる訳だし」
「……わかった」
言われてみれば、料理を準備するのは手間がかかっている。それを無下にしているのだから、オレが悪い。
「それから、貴方は次期首相で次期智神様となる御人なのですよ? 貴方の身に何かがあってからでは遅いのです。護衛か執事、又はそこに居る音神でも構わないので同行させて下さい」
「でも、今日は、」
言いかけたら四発目を食らった。
全てが同じ位置だったのと、今回のは強烈だったので蹲ってしまったが。
「勝手に私の名前を使った分よ!」
「うげっ。マジかぁ」
何かを察した風見が呟いていた。
痛みが引いて顔を上げれば、仁王立ちになっている巫女さんがいた。
巫女さんの本名は 如月 咲九。厳龍のハンリョ(?)らしい。
「あの編集長と私が再会するのは数日後。そこで貴方のことを話しして、4月末に紹介する。それが 前回までの流れ。
というか、あの人が昔の会社で私の母の編集担当だったから一度すれ違った程度しか面識がないのに、私があの人のことを詳しく知っていたら相手が驚いてしまうでしょうよ?」
巫女さんの話しはいつも長い。そして早口で内容の流れも早い。
だからオレが理解する前に話しが先へと進んでしまう。
それに気づくのはいつも厳龍で。
「かいつまんで言えば、咲九はまだあの編集長と仲良くなっていないんだよ。
だから編集長に咲九の名前を出したところで『どうして自分を知っているのか?』ってなっちゃったんだよ」
なるほど。だから今日は帰宅を促されたわけか。
巫女さんと仲良くなる時間が欲しかったってところかな。
「解釈が全然違うけど……それで良いわ。面倒だから」
巫女さんは大きな溜息をついていたけど。
うーん、何か違ったのかも。
「言っておくけど、私を介さなかったから編集長の貴方への信用度はマイナスからのスタート。しばらく思い人には会わせてもらえないわよ」
「えっ?!」
「そりゃそうでしょ? 相手は中学生。それも将来、有名な漫画家になっても問題ない技術を既に持っている子。しかも異性。信頼度マイナスってことは不審者と大差ないんだもの」
「そんなぁ。早く会いたくて、行ったのに」
「弟の件よりも、思い人関連の方がすぐに理解できるとか、お前……」
厳龍のツッコミはスルーしておいた。
だけど執事の2人も巫女さんの発言に頷いて同意を示していたことから、項垂れる。
きっと、それが世間というモノなのだろう。世知辛い。
「それで? どうせアンタのことだ。その件だけでここに来た訳じゃないんだろ?」
「えぇ、もちろん。この件で要に確認しておきたいことがあるのだけど?」
「オレに?」
風見の疑問に答えた巫女さんがオレを見つめる。
「何で今日だったの?」
「……え?」
「だから。何で今日、学校がお休みでもない日に編集長に会いに行ったの?」
確かに、という表情で厳龍がオレを見た。
が、言われてみれば、どうしてお休みの日にしなかったのか、自分でも解らない。
「何で……だろう?」
巫女さんが目を細くした。
そして溜息をついてから視線を執事2人に戻す。
「今日、駅前で襲撃事件があったの、知ってる?」
「えぇ、存じ上げています」
答えたのは光だった。光はオレをチラリと見てから続ける。
「要注意人物が美島市内に入り込んでいるらしく、その人物への奇襲と耳にしましたが」
あぁ、だから光はオレを心配して殴ったのか。
「それ、逆よ。今回の襲撃者は忍び、ようは忍者ね。それも暗殺を生業にしている集団で、連携もとれていた。貴方の言う要注意人物は他の国籍のようだから、恐らくは要を襲撃しようとして、間違ってその要注意人物を襲撃しちゃったのではないかって結論」
「あぁ、だから要様に先ほどの質問だったのですね。もしかしたら要様が何者かに嗾けられて単独行動をとったのではないか、と」
「そういうこと。でもまぁ、解らないなら仕方ないけど」
「ん? でも、前回って要注意人物なんて市中に居たか?」
「居ないですね。もう1つはその件ですか?」
「大正解」
2人の執事の質問に答えた巫女さんは失笑する。
「今回はイレギュラーが多すぎる。前回通り にはならないと思った方が良いわ」
次話は月曜か木曜の投稿になります。
……間に合わなかったらごめんなさい。頑張ります。




