1.52 無き世界にて
そこは、何も無い世界。
そうである筈のその場所に、人影が二人。抱きかかえる男と、膝に寄りかかる女。
「――意地悪な人ですね、ご主人様」
そう言い、咎めるような顔で見上げたアリアに、
「……むー」
むしろ不満を返す様にユリスは頬を膨らませた。
しばしの後、ハッとした様子でアリアは訂正する。
「……意地悪です、ユリス。貴方という子は」
「…………ははっ。そうだね。自分でもそう思う」
赤らんだアリアの顔が可笑しくて笑みが零れる。ひとしきり笑った後、ユリスは言う。
「まぁ、過程はどうであれ結末としては長年の野望が完膚なきまでに叩き潰された訳だし? そんな宿命の敵である彼女に対し一つ。そして何より、自身の運命と向き合い自身の為に道を開かんとする少年に一つ。……悪くないだろう?」
「しかし……それでは余りにも」
「……いや、彼女の為というなら一層そうあるべきだ。何故なら、彼には彼女が必要で、それ以上に彼女には彼が必要だろうから」
アリアは悩まし気に案じ、やがて思い至り目を閉じる。
「そう……でしょうね。えぇ」
白けた世界がまた、朧げな幻となって消えていく。アリアは愛しい男の胸に抱かれ、ユリスは恋しい女を優しく抱きしめた。
「……終わった僕達は、せめて此処で願い続けよう」
消えゆく中で、ユリスはまるで神様に祈りを捧げるように、静かに呟いた。
「――彼女らの愛と、彼らの勇気が、全てを救う物語を」




