1.48 少年とメイド
そこは、何も無い世界だった。
白いような、灰色のような、透明のような、煙のように掴めない世界。
白い木々が生い茂ったかと思えば既に無く、建物が立ったかと思えば灰燼に帰す。
生も死もない、きっと何処にも行けず何処からも辿り着けない筈の世界だった。
「――そうか」
そんな所に、由紀は居た。目の前には人に戻ったユリスと、力を使い果たしたかのように瞼を閉じ彼の膝で瞳を閉じるアリアがいた。
「私は。……いや、僕はもう、辿り着いていたんだね。自分の『楽園』に」
自分の膝元で静かに眠るアリアに、ユリスはこの上なく愛おし気な視線を送る。
「あんなに強情になって……自分でも子供っぽいって思う。だけどね、ユキ君。僕は本当にそれが自分の本心だって思ってた。自分の至らなさで招いた破滅を償い、それが帳消しになるくらい人を救って。それで……皆に認められることが」
アリアの頬を撫でる。それは主人が従者に向ける目では、もう無かった。
「……こんなに長生きをして、漸く自分が欲しかったものと言葉が分かるだなんて。それがこんな近くにずっとあっただなんて。我ながら間抜けだ。そう思うだろう?」
「ユリスさん……」
由紀はそんな風には思わなかった。ただユリスとアリアの姿を見て、どうしようもなくなる程の感情が沸き、それを顔に出さずにはいられなかった。
ユリスはそんな由紀を見て微笑む。最後まで自分の命を狙ってきた相手にそんな顔ができる、きっとこの広い世界で最も優しい子に。
次第に由紀の視界が揺らぎ始める。ここでの役目を終えたと言わんばかりに、白けた世界が一層薄く形を喪っていく。目の前のユリスとアリアの姿も、だんだんと。
「……サクラ・ユキ君。最後の最後に、お詫び代わりの内緒話だ」
消えゆく前に、ユリスは手を指し伸ばしながら、口を開く。
「――――カノヨビトになる方法を、教えてあげる」




