1.36 突入
舞之宮コンビナートの東側、荒れ果てた道路の先に廃棄区画があった。割れたコンクリートからは野草が覗き、ゲートの金具も、その先の金属コンテナ、金属設備もあちらこちらに赤茶色の錆が見える。一目見て人が立ち行かなくなってからそれなりに経っていると分かる、何処かざわざわと胸騒ぎがする場所だった。
ユイは目で見て、そして懐から取り出した時計のような機器で詳細に確認する。
「貴方の勘の通りね。……居るわ」
手前の中央作業ビルの屋上に大きなカノヨビトの気配が一つ。ユリスだ。その先、海により近い円形の作業場にカノヨビトと大きな特異点が一つずつ、そして巨大な霊子術式陣の反応があった。
「やはりあちらも私に備えている。ユリス自身が足止めしている内に従者の方があの子を分解、術を完成させる腹積もりね」
「じゃあ、アリアさんの方を私が。……まさかやり合う羽目になるなんて」
そう言いつつ優香里は頬を叩き、気を引き締める。
「あの人もカノヨビトだったんなら、やっぱり強いか?」
「強い。戦闘なら主人よりも恐らく。……だから」
ユイはホルスターから白銀に眩く光る大きな拳銃を取り出す。リボルバー式のそれを左手でやや乱暴に振るとシリンダーが露出されるが、中は不思議と空だった。
「私の力を貴方に渡す。……貴方だって強い、これで戦えるはず」
ユイが左手に力を込め銃を傾けると、空のシリンダーから光の粒が零れる。それは淡く瞬いたかと思えば大きく広がり、優香里の前に氷のように透き通った長剣の姿を現した。
「……すげ」
優香里は恐る恐るそれを受け取り、柄をぎゅっと握る。全てが氷で出来ているような見た目に反して不思議とそれは温かく、何とも言えない安心感と力強さがあった。
「……出来るだけ時間を稼いで。もし隙をつけたならあの子を連れてここから離れて。でも絶対無理はしないで。……あの子を頼んだわ、イズミさん」
頭を下げ、先にゲートへと足を踏み入れるユイに、優香里は声をかける。
「――優香里で良いよ」
「え?」
「他人行儀なのむず痒い、名前で呼んでくれ。その代わり私もアンタ、いやお前の事、もう『ユイ』って呼ぶから」
そう言って優香里はユイの元に並び立つ。同じ志を持つ者として。
「――分かった、優香里。どうか、武運を」
「おう、お前もな、ユイ」
そうして二人は廃墟に進む。打倒すべき壁と、助け出したい人を見据えて。




