表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユアハート・マイリーズン  作者: 八武希幽水


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/56

1.33 真犯人

「……え」


 由紀の前方、ユリスの背後の暗闇から突然弾けるような破裂音がした。見た目には何も変化は無い。しかし遠くないだろう場所から、音に遅れてビリビリと僅かに空気が震える感覚があった。しかし驚き戸惑う由紀をよそに、ユリスは背後を一瞥すらせず依然由紀の方に穏やかな笑みを浮かべていた。まるで背後で起きる出来事を知っていたかのように。


「さっきの男達ね、連続殺人犯。……彼ら、そのままだと当分は捕まらない筈なんだ」

「え、え?」

「そうだな……この『現世』の運命レベルで決まっているんだ。変な言い方だけどね。……あの男達、特にリーダー格の男。彼もまた特異点の一つだからね」


 佐々山と呼ばれていた、恐ろしい程目つきが鋭かった男。彼も、自分と同じ。


「そうは言ってもユキ君とは大分異なる。霊子核の濃度も強度も純度も遥かに劣る。ただ、ひたすらに壊性が強い邪悪な存在だ。彼は取り巻きと共にただただ我欲の赴くままに世界を彷徨い、周りのものも人も傷つけ犯し殺し、壊していく。そう定められた存在」


 それはユイからも聞いた特異点の事。各『現世』に点在する特異点。人であったりモノであったり思想であるソレは、そこに在るだけで周りに影響を及ぼす強い力を持つ存在。

 大衆を魅了し心躍らせる芸能人。万人を支配し命を握る独裁者。

 多くの富と名声をもたらす希少な貴石・貴金属。一発で国を滅ぼす兵器。

 国を豊かに、未来を開く発明アイデア。人と人を繋ぎ進化も破滅を起こしうる信仰。

 形は様々だ。実際に何かが『起きる』まで判断する事も難しい。だが、長い時を生きるカノヨビトならば見えざる特異点の因果、というものが見えるらしい。


「一目見ただけで分かった。あの男から伸びる負の因果律線は強く健在だ。まず捕まらない。これからも沢山殺して回る。命運尽きるまで暴れまわり、世界を傷つける」


「このままでは」と、ユリスはそこで言葉を切り、含みを持たせるように微笑む。その眼は何やら喜色が浮かんでいるようにも、悲哀に満ちているようにも見えた。


「普通なら裁かれずに駄目。だが幸か不幸か、まさしく今この世界にそういった破滅的な特異点を処理し破壊する専門家。とびきり最強の裁定者がいるのだから」


 その言葉を聞くが早いか、それはまた聞こえた。



――――ダァン!



「……駄目」


 もう、ユリスの言葉を聞いていられなかった。由紀はユリスを半ば押しのけるように路地裏の暗闇へ駆け出した。


「本当を言えば、ずっと機を窺っていたんだ。ユキ君と彼女が少しでも離れて、話ができる時間。私達と彼女にとって双方利がある提案をしたかった」


 ユリスは由紀の後をゆっくりと歩き追いながらそう独りごちる。その言葉には、どこか申し訳なさそうな、後ろめたいような寂しい響きがあった。


「その為の『贄』はアリアがすぐ見つけてくれた。その誘導も。あの男の取り巻きの意識を誘う、恥ずかしながら私の得意分野だからね。後は待つだけだった」


 由紀は再び息を切らしながら走った。場所はそう遠くない。先程空気を大きく震わせた爆音の元へ向かう。急いで、急いで、急いで。

 その音が何を意味するのか、走るその先に誰が居るのか、由紀にはもう分かっていた。薄暗い路地裏の更に奥、人気どころか生き物の気配すら無い場所。

 その先の角で、声が聞こえた。


「…………なぁ、ちょっと待て。頼む。おい、俺じゃないんだ」


 酷く焦ったようにまくし立てる男の声。由紀の記憶に新しいものだった。


「カノヨビトになりかける、なりたいと思うユキ君。それは彼女にとって絶対にあってはならない事なのだろう。何としても守り、この世界での日々を生きて欲しいのだろう」


 後方からユリスの声が静かに響き渡る。前方の角の先から聞こえる男の喚き声と重なって、由紀の頭の中で不協和音のようにグチャグチャと混ざり合う。


――だめ、ダメ、駄目。


「待て、頼むって、おい、おい! いぃ、命だけは、俺の、ふざけ――」


 男の絶叫が聞こえる最中、由紀は曲がり角から飛び出した。



「駄目ぇぇぇ! ユイ――――っ!!」

 あらんかぎりの大声で叫んだ、その直後。



――――ダァン!!!



「きっとそれが『彼女』の願いであり、『彼女』の犠牲の代償なのだから」


 由紀に追いついたユリスは、呆然と立ち尽くす彼の背後から囁くようにそう言った。

 目の前に広がる光景。遠くから届く街明かりと建物の間から覗く星空の光によって僅かに照らされたその場所は凄惨な様相を呈していた。

 地面に転がる二つの大きな影。手前の、由紀のすぐ足元には間の抜けた表情のまま額の穴から血を流す坪川の遺体。その先には驚愕と恐怖の色に染まった野田の変わり果てた姿があった。

 そして、その奥。つい先程の絶叫と破裂音が発せられたであろうその場所。

 路地の壁にもたれかかり憤怒の表情をしたまま息絶えた佐々山の前、左手に白金の拳銃を握りしめ、死人より死んだような無表情で見下ろし立つユイの姿がそこにはあった。


「…………ユ、イ」


 小さく呟いた由紀の声に応じるようにユイはゆっくりと顔を向ける。彼女の血のように紅い瞳と、由紀の今は黒い瞳が互いにぴったりと見合った。これまで見せてきたものと同じ筈のその仏頂面は、由紀にとってこれ以上ない程恐ろしく、この場で一番見たくないものだった。

 その場で生きて立っていたのはユイだけでは無かった。ユイの背後の暗がり、由紀の背後に立つユリスと対になるような形でアリアが静かに佇んでいた。表情はユイに負けず劣らず暗く、由紀を痛々しいものを見るような、そして何処か申し訳なさそうな顔で見つめている。


「……アリアから聞いての通りだ、桜華の亡霊」沈黙を破るようにユリスが話しかける。


「今夜の所はもう、私達は帰らせて頂くよ。ユキ君に対しどうするかは当然自由。だけど出来る事なら貴方の善性を信じたい。それが私達にとって最後の好機を得ることになり、何より貴方が望む事になるのだから。そうだろう? ユイさん」


 そう微笑みかけるユリスに対し、ユイは眉一つ動かさず見つめ返す。しかしそれを了承と解釈したユリスは最後に由紀に耳打ちする。


「次はこちらから迎えに行くよ、ユキ君。準備を完璧に整えて。……出来る事なら私達に賛同した上で魂を捧げてもらいたい。皆の幸せのために」


 ユリスはそのまま数歩下がると、路地裏の暗闇に溶け込むように消えた。主人と息を合わせるように、アリアの方も音も無くその場を立ち去ってしまった。

 残された由紀、そしてユイは暫くの間無言で立ち尽くしていた。由紀が遅れて気づいた事ではあったが、今のユイの服装は由紀がプレゼントした服ではなく、元の暗闇より暗い漆黒の制服姿だった。ユイは一瞬俯いた後、未だ握っていた拳銃をホルスターへゆっくりとしまい、再び由紀の事を無機質な表情でただ見つめる。由紀は思わず目線を足元に下げるが、そこには変わり果てた坪川と野田の姿。またぎょっとし目をそらす。


――――怖い。


 ついさっきまで、会いたくて仕方がなかった彼女。一秒でも早く見つけ出して、そして謝りたかった。言いたい事も、聞きたい事も沢山あった筈。

 それが、いざ彼女を前にして全てはじけ飛んでしまった。頭の中で彼女にかけるべき言葉を必死で探しても泡のように浮かんでは消えていく。

 自らの想い人を手にかけ、下卑た笑いと共に自身をも害そうとしていた悍ましき男達。それが今、二度と動かず物も言えぬモノとなって転がっている。そんな壮絶な光景を生み出しその中で独り佇むユイは。カノヨビト、『桜華の亡霊』は。

 由紀が目から恐怖の色を隠せない程に、忌むべき姿だった。


――怖い、怖い、怖い。


 逃げ出したい。だけど。


「これがカノヨビトの、『私』という存在の本質よ」


 由紀の中で混沌と渦巻いていた感情を見透かし応えるように、ユイは小さくそう呟いた。


「ユリス達も、他のカノヨビト達も、そして私も本質は変わらない。還るべき世界も持たず、己の欲か信念によって勝手に『現世』に干渉し、暴れ、そして傷つけていく」


「……ユイは、違うでしょう? あくまで皆の為に。でも、こんな、一方的に殺すのは違くて、でも」


 漸く吐きだす事が出来た、しかしまとまりのない由紀の言葉をユイは聞き、その上で首を振り否定する。


「違わない。ユリス達は自分の願いの為にあなたの魂を狙い殺そうとする。私は私の判断によってこの世界に害を為すこの者達を一方的に撃って、殺した。同じ人殺し」


 人が生きる世において殺人は最も重い罪の一つであり、それは由紀の世界でも当然そうだ。しかしそれを犯したからといって単一の思慮や判断によって簡単に裁いて良いものでは無い。人治であれ法治であれ然るべき規則やルールに従って罪を見定め、善悪を決した上で公正な裁きが下される。

 ユイは、『彼世』の裁定者は違った。彼女一人の判断で生きるべき者、死ぬべき者を見定め、世界の為と評して裁定し鏖殺できるというのだ。


 それが、気ままに世界を流離い奪って殺すカノヨビトの本質であるというように。


「あなたが夢見るカノヨビトはそういうロクでもない存在だという事、もう分ったでしょう?……仮に『楽園』を目指す旅路に出たところで、あなたに出来るというの? 他者を押しのけ、時に私や彼らのように他人を傷つけ殺すことが」


「そ、れは」


 諭すように、或いは強く言い聞かせるようにユイは続ける。結実を取り戻せるなら何だって出来る、と内心抱いていた決意が簡単にぐらついていく。


「私はできる。私はそうしてきた。今までずっと。『彼世』の為、『現世』の為、世界全ての安寧の為に、守り殺してきた。誰よりもずっと長く。沢山、沢山」

 ユイはそう言いながら、怯えた様子の由紀に一歩一歩近づいてくる。気配が目に見える程の威圧感に由紀は怖気付くが、か細く震える足と目線はそこに固まったままだった。


「それはこれからも変わらない。ユリス達を裁定し、あなたを守り切った後。この世界から立ち去った後もずっと。世界を守る為だったら誰であっても殺し壊して、破壊の因果律線を断ち切る。例えこの男達のような悪党であっても、時の権力者であっても、その時点まで皆を救った英雄であっても、無辜の子供であっても――――」



 そこでユイは言葉を切り、由紀の顔をじっと見て告げた。




「例え、あなたが大切にしてあげた幼馴染の少女であっても」




――――――――え?


 最後の言葉の意味が、耳に聞こえた通りに由紀には理解できなかった。


「……こいつらではない。彼らは小さな要因の一つに過ぎない」


 飲み込めていない、という様子の由紀に、ユイは言い聞かせるように呟く。


「彼女は、こんな男達に殺されて終わるような存在ではない。だから問題だった。だから私が終わらせる必要があった」


 由紀が間違えないように、しっかり頭に入れて理解させるかのように、今度ははっきりとユイは言い放った。






「――神城結実は、私が殺した」







 静かな、とても静かな夜の路地裏。建物の間を吹く風すら殆ど音を立てず、その静寂はユイの言葉が響き渡った後も同様になる筈だった。

 なのに、由紀の耳はドクンドクンと塞ぎたくなる程の爆音に襲われていた。数刻経ってそれが自分の心音であると漸く理解できた。同時に額からブワッと冷や汗が浮かび、悪寒が止まらない。言葉にならない音が口からヒュー、ヒューと漏れ出た。

 尋常ではない様子の由紀の前にあって、それでもユイの表情は変わらず、ただただ見つめ返してくるばかりだった。どんなものよりも美しいと感じていた彼女の顔、その佇まいが途端に恐ろしく無機質な人形のように見えて、由紀は目に恐怖の涙を浮かべる。


「――――何、で。……何で!?」

「彼女が、あなたに匹敵する強い特異点だったから」


 漸く吐き出せた由紀の問いかけに、ユイは淡々と応答を返す様に呟く。


「……神城結実は元々この『現世』に対して壊性の強い因果律線を多く持って生まれてしまった。つまり、あなたのこの世界に害をなす極めて悪性の強い特異点だった」


 由紀がユイやユリス達から何度か聞かされていた、特異点の話。生物無生物事象問わず、存在するだけで世界とその周りに強く影響を及ぼすもの。由紀は自身がその中でも周りに安定をもたらす創性の強い特異点だという。だからユリス達はその魂、霊子核を狙っているし、ユイはそれを守り世界の均衡を保つのだと。

 結実は、その逆だったとユイは言うのだ。


「あの子は! 結実は悪い人なんかじゃない……少なくとも、進んで誰かを傷つけたりとか、絶対にしない! なのに――」

「彼女のそれまでの在り様や意志、思考は関係無い。ただそう生まれてしまっただけ。仮にこれまで破滅的な部分を見せなかったとして、それは恐らくあなたが傍に居たから」


 特異点が実際に力を持ち、周りにそれを示すのには様々な形がある。生まれた時から周りに存在感を放つものや、成長と共にそれを増大させるもの。

 或いは、レベッカに襲われた際の由紀のように、外部から何らかの干渉を受けた時。


「神城結実が破壊の『特異点』として目覚めた理由は、……悪いけれど私にも上手く説明が出来ない。その内の一つにその男達、彼らに首を斬られた事があるのだろうけど。自力で逃げた、らしい後の事は分からなかった」


 ユイはそう説明しながら黒いコートの内に手を入れ、そこから大きな紙袋を取り出し由紀の前に差し出す。見覚えのあるそれは、今日由紀達が訪れた洋服店のものだった。


「……ユリス達の指摘は、正しい。あなたの幼馴染に手をかけた私にこれを受け取る資格は無い。そもそも、今日みたいに良くしてもらう資格も」

「……………………」


 由紀が選び、今日一日袖を通して街を見て回った白いワンピース。恐らく途中立ち寄った際買った本やグッズも一緒に入っているのだろう。それを返す様にするユイに対し、由紀は何と返答すれば分からず、呆然としたままだった。


――ユイが、結実を殺した犯人。


 今、ユイが言った。由紀の目の前で。


――何故、そんな事を。


 今、ユイが言った。結実が自分と同じ特異点で、世界を壊す危険な存在だから。


――そんなの、知らない。だってそれまで、普通に。


 今、ユイが言った。それまでの事は関係無い、そうなったから殺しただけだと。


――ありえ、ない。ユイがあの子を。嘘だ。だって、そうでしょう。


 もう、由紀は知っている。彼女は嘘をつかない。そういう人だから。


「……なんで」


 くしゃくしゃになって泣きながら、そう吐き出す由紀に、ユイは一瞬だけ目を逸らし、


「……本当は、ユリス達を対処し、この世界を『彼世』から完全に隔絶した後に、最後にあなたの元に向かうつもりだった」


 紙袋を地面にゆっくりと下ろし、由紀の目の前に歩み寄る。


「その前に、あの桜。彼女が今際の際に示したあの場所に、あなたが居たから」


 小さく呟き、由紀の手をゆっくりと取る。びくりと由紀の身体が跳ねた。


「それは言い訳だった。だから、今あなたに判断を委ねる」


「……何、を」


 戸惑ったまま由紀にユイは懐から取り出したものを握らせる。



「私はあなたの幼馴染を殺し、あなたの日常を壊した。世界を守る為とは言え、あなたという特異点の在り様を乱した罪。私にとって史上最悪の失態は、償わなければならない」


 手が、冷たい。由紀の右手、ユイに握らされたモノ。金属の質感。


「あなたが私を許せないなら。憎いなら。……それを晴らして前に進むためなら」


 ユイはゆっくりと由紀の手を引っ張り持ち上げ、自身の額にそれをしっかりと押し付けさせた。



「え」

「――今、私に罪を贖わせなさい」

 白銀に光る、ユイのリボルバー銃を。



「……――――っ!? やめてよっっっ!」


 されるがままにされていた由紀は遅れてその意味を認識した途端、悲鳴に近い大声で叫び、思わず銃を地面に投げつける。ガンッと鈍い音が静かな路地裏に響き渡った。落ちた銃をユイは変わらず無機質な表情で拾い上げホルスターにしまい、そのまま由紀に背を向け歩き出した。


「待って。……お願い、待って。ユイ」


 分からない事だらけ。追及してもきっと今以上の事は教えてもらえない。怒るべきか悲しむべきかすら判断できない。だけどこのままユイを行かせてしまったら二度と彼女が自分を見てくれない事だけは由紀にも肌で感じた。

 由紀の呼び掛けにユイは振り返らないままその場で立ち止まる。ただ静かに、頭をほんの少しだけ項垂れさせたその後ろ姿は、常に人形のように振る舞ってきたユイをして初めて「迷い」とも言える気配を漂わせていた。

 やがて、彼女は重々しく口を開く。



「――彼女、神城結実からあなたに言伝がある」

「……言伝」

 俄かに沸き上がる嫌な予感に、それでも由紀は静かに言葉の続きを待つ。



「――『会いに行けなくてごめんなさい。私の事は忘れて、どうか幸せに』」



――な。


「何、それ」

「それが神城結実の最期の願い。……確かに伝えた」


 思わず漏れ出た由紀の言葉にユイは答える。言い聞かせるように。


「『彼世』の裁定者として、彼女の人生を終わらせた。その対価としてこの遺言をあなたに届け、そして私はこの願いを遂行する。それが私と神城結実の間に交わされた契約」


 そこでユイはもう一度だけ由紀の方に振り返り、宣言する。


「私はあなたを守る。あなたの日常を守る。あなたの『幸せ』を守る。あなたが特異点だからではなく、それが彼女との約束だから」

「――――――――っ」

「ユリス達を始末し、この『現世』を閉じた後。またあなたに会いに行く。私の処遇は全てあなたの意志に委ねる。……考えておいて」


 由紀が言い返したい言葉は、彼女の血のように紅い視線に気圧され全て霧散してしまった。そしてユイは視線を路地裏の先に、今度こそ由紀から離れ、遠ざかってしまう。


「……待って。お願い、ユイ、駄目」


 由紀の悲痛な声にも、もう何も返さない。

 暫くして、暗闇の向こうで何かが勢いよく空へ飛び立ち風を切る音が聞こえた。




「――――――――ユイ」




 その日、ユイが由紀の元に帰ってくることは、終ぞなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ