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ユアハート・マイリーズン  作者: 八武希幽水


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1.32 公爵の思惑②

 暗がりの路地裏の中、由紀はユリスと共にゆっくりと進む。ユリスの手から発せられる淡く白い灯りで進む道は照らされ、背後の建物には二人分の影法師がひょろ長く伸びる。


「私の生まれはユキ君の世界で言うと西欧の文化圏に近くてね。中々の名家……うん、はっきり言えば国一帯の政を担う家系だったんだ。先祖は元々地方の一地主だったんだけどね、高祖父の代から外交関係で活躍し始めて成り上がったらしい」

「やっぱり、貴族の方だったんですね。ユリスさん。気品があるから、アリアさんも」

「ふふ、ありがとう。はっきり言われると少し照れくさいな。アリア、彼女も同じ世界出身なんだ。カノヨビトになる前からずっと私の我儘を聞いてもらってる。頭が上がらない存在だよ……いや本当、普段ずっと優しい分だけ怒ったらとても……うん」

「え、ええ?……あぁ、でも分かる気がします。大人しくて真面目そうな人ほど……」

「そうそう。大分前、レヴィと出会う少し前だったかな、あの時は――」


 道中、由紀の不安を取り除く為かユリスは様々な話をしてくれた。

 自身の出自の事、故郷の事。アリアと過ごした日々の事。カノヨビトとして世界を旅してまわった時の出来事。楽しい事、面白い事。

 元々人と話す事が好きで、得意なのだろう。薄暗い闇の中をユリスと共に歩く中で、由紀の荒立っていた心は不自然な程に落ち着き始めていた。そうなると、次に気になる事が当然目の前の彼の事になる。


「何故、今君の霊子核を、魂を奪わないのか。知りたいかい?」

「はい。……何故」


 当然見透かしたように問いかけるユリスに内心ドキンとしつつもたじろぎはせず、由紀は聞く。実の所さっき以上に今は自分にとって危険で生きた心地がしない、筈なのだ。それなのに彼から殺気と言えるものが感じられない。むしろ安心すら覚えるくらいだった。


「理由は幾つかある。一つ、私が発動したい霊子術式の準備に今暫くかかるんだ。時間にしてあと二、三日。その前にここで君に手を出したとして、あの『桜華の亡霊』の裁定から逃げられる気がしない。……恐らく、この世界諸共全て吹き飛ばすんじゃないかな」


 あまりに大げさな言い様に冗談だろうと由紀はユリスの顔を覗き込む。しかし、彼の目つきは真剣そのものだった。


「二つ目の理由は、私のカノヨビトとしての信念だ。私が他者を害する場合は私に賛同し魂を預けてくれる者、それと私達の願いを阻止しようとする者だけ。だから最後の鍵となるユキ君も、出来得る限り説得をしたいんだ」


 そこで少しユリスは想いを馳せるように目を瞑った。


「……もっとも、レヴィはそれも込みで自ら汚れ役を買う気だったみたい。命を賭して君を彼女から遠ざけ、私達の元に届けようとしてくれた」

「……っ。それじゃあ」

「あぁ。あの日、君の学校での出来事は遠くから見ていた。『桜華の亡霊』にも感知されないようにね。自慢じゃないが子供の時から得意なんだ、かくれんぼ」


 ユリスは悪戯っぽく笑った後、「だが」と、再び真剣な眼差しで由紀を見据える。


「おかげで興味深いものが見れた。……ユキ君が内に秘めるもの、この『現世』の本質を超える力。それが三つめの理由」

「それ、は」


――あの時、レベッカさんの心が確かに見えたんだ。


 ユリスが見つめる由紀の幼さの残る大きな瞳。今は深く吸い込まれそうな黒色だが、レベッカに襲われた際、鮮やかな青色となって彼女を退けた正体不明の力。


「特異点は本来、周りの環境や人に対し一定以上の影響を与えるものだ。……だが、あんな世界の法則に当てはまらない程大きな力を見せるのは稀だ。ましてレヴィ、カノヨビトに干渉し返す程の力なんて。はっきり言おう」


 ユリスはそこで立ち止まり、由紀に向き合う。


「ユキ君はどうやら、既に世界を逸脱し始めている。カノヨビトになりかけている様だ」

「僕が……カノヨビトに」


 それは。果たしてどう反応すべきなのだろうか。つまりこの世界から追い出されそうになっている、という事になる。焦り恐れるべき状態なのだろう。


――だけど。


 もしそうなら、『楽園』に。『彼世の女神』に。結実に。


 由紀の心に一瞬浮かんだ驚喜の感情は図らずも顔に出ていたのだろう。ユリスは困ったように首を振り、溜息を吐いた。


「ユキ君には悪いけど、それは駄目だ。絶対駄目。私はこの世界と繋がったままの君が欲しい。……そして、幸いにも『桜華の亡霊』もそれにはきっと同意見だろう」

「ユイも?」


 喧嘩別れする際の彼女が脳裏によぎる。しかし、自然の成り行きでそうなるなら。


「彼女はカノヨビトの中でも特別だ。誰よりも長い時間『彼世』に在り、『彼世』の安寧と秩序の為に裁定者としてずっと戦い守り、そして殺してきた。その割に滅多に表舞台に出てこないものだから実在するのかしないのか、伝説の存在みたいに言う同胞も多い」


 ユリスは思い出したかのように、ほんの少し笑みを漏らす。


「彼女、凄く綺麗だったね。実は私も目にするのは二つ前の『現世』で出会ったのが初めてだったんだ。元々レヴィから話は聞いてたんだけどね? あんなにも美しくたおやかで、何よりも強くて、そして恐ろしい程使命に忠実な人だとは思わなかった」


 それには由紀も同じ意見だった。だからこそ余計に気が沈む。カノヨビトになって『楽園』を目指し結実を取り戻したい、という自身の望みなど、どう説得しても彼女が許す筈もないのだから。


「……そう。世界の安定の為だけに動く存在。しかし此度この世界で活動する彼女は、それまでの感じと、レヴィから聞いていた特徴とやや異なるものを感じたんだ。私はそこに付け入る隙を見た。だから今ユキ君と此処でこうして待っている」

「待っている?」

「言っただろう。彼女は世界を守る為にしか動かない。他者との交流は最低限。特異点が世界から逸脱しそうだとて、自然の成り行きに任せて遠くで傍観するだけ。裁定対象である私を優先する筈。そんな中でユキ君、彼女は君の所でどうしていた?」

「……ただずっと、傍に居てくれていました」


 最初は記憶を消し無かった事にし、二度目はすぐに立ち去ろうともしていた。しかし引き留めてからはどうだろうか。少なくともユリスやレベッカが言うような冷たい対応では無かった。今日一日だって表情こそ変わらなかったが、恐らく楽しんでいたような感じすらする。何より、自惚れで無ければ自分の作った料理を食べる時なんて実に――。


「それがおかしいんだ。ユキ君が類まれな特異点だとしても異常。だから私は考えてみたんだ。元来何よりも無機質な彼女が君という一個人に柄に無く執着する理由。それは特別な『思慕』か、……或いは『負い目』、だ」



――負い目。



 使命の為守る者と守られる者、ユイと自分の間にそんなものある訳が無い。なのに、何か心当たりの無い筈の嫌な予感がどろどろと由紀の心にこびりつくように離れなかった。


「……ユイは、僕に悪い事してなんかいません。今なんかむしろ――」


 思わず由紀がそう反論しようとした、その時。




――――ダァン!



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