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殺人鬼少女  作者: 朱殷
第3章 新しき生活
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第3章11 質問攻め

 




 うさちゃんが侵入者を皆殺しにした翌日。朝食を終えたフレルはベッドの隅に腰掛け、膝の上に座るうさちゃんの耳を弄って遊ぶ。

 昨晩、意図せず入眠がはやかったため、ぐっすりと眠れたので今のフレルは元気だ。そのおかげで手の動きが荒いのだが、うさちゃんとしては全てをフレルの所為にできる状況でもなく甘んじて受け入れるしかなかった。


「今日のユース、何か変じゃなかった?」


「そうかな?僕は特に気にならなかったや」


「ふぅーん」


 何か気付いたかもと思ったが、期待していた反応は得られなかった。――どうやら考え過ぎらしい。フレル一人しか気付いていない事柄などそう多くない。そこで思考を無意味だと切り捨てた。


 しばらくした後、うさちゃんで遊ぶのに飽きたフレルはごろんとその場に寝っ転がり、近くに積んである本に手を伸ばす。

 それはエルヴァスの歴史について書かれたもの。ユースが貴族学園に通っていたときの教科書らしい。それは教材らしく、真偽の怪しいくらい昔のことから現在までを掻い摘んで書かれていた。

 途中、やたら神について誇張して綴られていて現実性に欠けるのが玉に瑕だけれど、


 曰く、神がこの地を住みやすいものに変え、建国を手伝ったらしい。これをうさちゃんに見せたところ嫌そうな顔をしていたのできっと間違っているのだろう。誰にでも間違いはある。昔のことともなれば尚更だ。


 最近、こんな風に自堕落に過ごすことが増えた。机に向かって、座って本を読んでいたフレルはもういない。何が人をこうも変えたのか。


「フレル起きて、リリーだよ。そんなにごろごろしてたらまた怒られる」


 突然、そんなことを言われた。慣れたものだ。


 うさちゃんはその自慢の耳で、遠くの足音を拾う。そして足音の差でそれが誰なのか聞き分けている。ただ通り過ぎるだけの場合もあるが、リリーはフレルたちに用事があるときは心なしか足音が跳ねているそうだ。


 高性能な呼び鈴だね。以前そう言ったら怒られたのでぐっと堪える。


 ベッドに吸い寄せられる身体を強引に起こし、扉の前に立つ。大きな耳がなくても足音が聞き取れるくらい、二人の距離は近付いていた。


「いらっしゃい、リリー」


「きゃっ――」


 タイミング良く開け放つとリリーの悲鳴がする。リリーの顔が殊の外近くて、狙っていたことだけれど肩が小さく跳ねた。

 これを毎回のようにやっているのだが反応が衰えなくて楽しい。

 いつまでも慣れてくれないので今後が心配になる反面、反応がなくなるのも寂しいので慣れてほしくない。微妙な感情の間で葛藤する。


「毎回のように――はぁ、どうして私が来たとわかったの?」


「超高性能な呼び鈴がいるからかな」


 部屋の中へ招き入れながら独り言のように呟いたそれに返答する。ついさっきまでは堪えていた台詞。フリのようなリリーの言葉だったので咄嗟に言ってしまったが、大丈夫だ。怒られてもここには仲間がいる。


 そんな期待感を強引に預ける。尚、伝わったのはうさちゃんにだけでジト目を貰うことになったが。


 リリーを部屋の中に招き入れ、フレルたちは横並びにベッドに座る。向き合った方が雑談もしやすいのだが、この部屋には机と対になった椅子が一つしかない。一人だけ硬い椅子に座るくらいなら全員が柔らかいベッドに座る方が良いだろうと言う粋な計らいである。

 決して、フレルが落着く自分のテリトリーであるベッドから離れたくないなどと言う理由ではない。


 リリーは何かを探すようにキョロキョロと首を動かす。何度も来ているのにまだ居心地が悪いようだ。


「またごろごろしていたでしょう?」


 使用した痕跡のない綺麗な机、何かを乗っけていたことを伝える枕、乱れた布団。その全てが結論に理由を与えている。

 どう言い訳したものかと、気まずそうに視線を逸らすフレルが意図せず答え合わせをしていた。


 このやり取りも恒例行事となっている。それなのに治らないのはリリーに本当に咎める意識がないから。フレルがこのやり取りを楽しみにしている故にごろごろとしている節もあるまでだ。


「――それは?」


 リリーが珍しいものでも見るように、目を見張って指をさす。それはリリーが来るまでフレルが読んでいた本だ。枕元で開いたままに伏せている。


 本は格別珍しいものでもない。雑多に溢れている訳ではないけれど、流通していない訳でもない。手に入れようと思えば簡単に入手はできる。

 何をそんなに驚いているのだろうと思いながら、その本に手を伸ばす。急いで置いた所為でページが折れ曲がってしまっていた。


「ユースの昔の教科書らしい。読む?」


 フレルは今開いているページに指を挟みしおり代わりにした後、リリーにも見えるように高速でページを捲った。

 たくさんの文字が川のように流れる。どう頑張っても目で追うことは叶わない。

 けれどそれで良いのだ。文字を読ますのが目的ではない。所々に挟まる挿絵さえ見てくれればそれで良い。


 ――そんなフレルの想いは、簡単に潰えることになった。


「フレルあなた、そんなに難しい本が読めるの!?」


 良い所産まれのフレルと、そうでないリリー。その差を思い知らされる。


 先述の通り、本は格別珍しいものではない。それほど高価でもなく、庶民だろうと手に入れようと思えば手が届く程度の値段。フレルのその知識は間違っていない。

 けれど出回っているほとんどの本は絵本のような形式だ。内容はどうであれ、読みやすいよう挿絵を多用している。

 だからこんな、文字だらけの本は珍しいのだ。読む人も、読める人も少ないから。


 フレルは話が合わないのを悟ると、元の場所に本を戻す。リリーの出自は話してくれないので知らないけれど、基本的に家に引き籠もっていたフレルとは違い、リリーは活発な子だ。

 本に興味を持ってくれたのかと喜んだけれど、そうではなかったらしい。


「気の所為であれば良いのだけれど――今日のユースさん、少しおかしくはなかった?」


 リリーの知らないところで一度流された話題。その予想外よ状況に、隠しきれずうさちゃんの耳が小さく震えた。


「人には一つや二つくらい、隠したいことがあるんだよ」


 すかさずフォローをいれる。


 ユースが何をしているのか、隠しているのか、うさちゃんは知らない。けれど推測はできた。


 それは、昨日の事件の処理。人が何人も死んだのだ。それを隠蔽するにはたくさんの問題がある。


 まずは、書類。国は国民の人数を把握しようとしているので、死んだら届け出なければならない。それの準備。

 そして、残された家族への対応。全員が独り身であれば楽なのだが、そう甘いことなどない。これに関してはご愁傷様と、そればかりだ。

 そしてきっと、ユースは何故あんな自体になっていたのか調べるだろう。どれだけ探っても真なる答えはでないはずだ。答え合わせをしてあげる義理もないので、心の中で小さく諦めることをおすすめした。


「うさちゃん、実は気付いてたでしょ?」


 そして続くのは質問攻め。普段よりも元気なフレルの口は、留まるところを知らない。昨日のことはフレルに知らせたくないうさちゃんと、面白そうだからと聞くフレルたちの戦い。午前が潰れた。




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