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殺人鬼少女  作者: 朱殷
第3章 新しき生活
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第3章8 一ヶ月

 



 ふわりと、開け放った窓から風が吹き込む。月明かりに冷やされ、お風呂上がりの火照った身体を撫でる。服の隙間から放たれ身体に纏っていた熱気が何処かに飛ばされ、気持ち良い。ホブほどにまで短くした髪のおかげで、よりそれを実感する。


 フレルたちがこの屋敷に住まうようになってから早一ヶ月。色々な出来事があった。

 良いことも、悪いことも。けれど概ね楽しかったことに差異はない。フレルたちもこの屋敷に、町に馴染めていることを実感する。初日と比べれば、確実に。


 初日、フレルはリリーに連れられ町に出た。



───────────────



 屋敷を出て、庭を抜け。フレルたちはリリー先導の元、町に向かった。途中までは並んでいたのだが、フレルはうさちゃんを抱くはめになった。


 いまだに人並みとは言えないけれどある程度体力の付いてきたフレル。身体も歩幅も小さくて少し気を抜けば置いて行ってしまいそうな兎。今まではそれで良かったとしても、差が目立つことになった。


 フレルは以前の自分のことは棚に上げ、呆れたように息を付いて抱え上げる。まるで勝ち誇ったように口角を上げて。


「僕だって急げば……」


 なんて呟きは聞こえなかったことにした。ただの言い訳には聞こえなかったから。何か問題を起こしそうに思えたから。


 リリーは何処か行きたいところがあるのか、迷うことなく町を歩く。町と言ってもそれほど大きくて栄えているものではない。遅れていると評した方が正しいくらいだ。


 馬車がすれ違うことも難しいくらいの道幅。これでもきちんと舗装された大通りと呼ぶのだから驚きだ。少し首を左右に動かし脇道を見れば、舗装なんて全くされていない荒れた道。土が剥き出しで酷いなぁが使っている気配もないくらい狭く暗い。誰にも飼われていなさそうな野生動物がゴミを漁っている。


 家と家は離れていて、間には草木が生い茂っている。畑にでもしているのだろう、手入れされている場所もあるがまちまちだ。何の植物かと目を凝らしてもよくわからない。花すら咲いていなくて雑草と同じに見える。


 人通りは少ないが活気はある。遠くの方で談笑でもしているのだろう三人組が見える。大通りに人通りが少ないのを良いことに、まるで庭のように走り回る子供たち。

 これにはきっと時間のせいもあるのだろう。家の中からは人の気配を感じた。


「お前、はじめて見る顔してんな」


「変な髪型だし、変なもの持ってるし。何処の誰だよ」


 必死にボールを追い掛けていた子供たちのヘイトがフレルに向かった瞬間だった。



───────────────



 そんな風に部外者扱いされたなあと懐かしむように目を細める。あの時はリリーがそれに反応しなかったのでフレルたちも無視することになった。最後まで威嚇されていたのを思い出す。

 たったの一ヶ月、されど一ヶ月。子供の心は揺れ動き易いもので、今ではいがみ合うこともなくなった。


 すれ違えば微笑み、挨拶くらいはする。それくらいの関係。悪くはない。

 フレルが町に出ることはそう多くない。体力を付けるために庭で運動し、稀に町に出るくらい。その程度なのに子供たちと和解できたのは、リリーがフレルとの間を取り持ったおかげだ。リリーと子供たちの関係をフレルは知らないけれど、それなりの時間を共に過ごしたのだろうと言うことは簡単に推測できた。


 フレルの部屋も、リリーのとまではいかずとも変化した。以前までのシンプルからは打って変わって、可愛らしさ溢れる部屋に。部屋を見渡して、リリーの影響が強いのだろうなと感想を零す。

 半強制的に装飾された部屋。一部趣味に合わないものもあるけれど、これはこれで良いかと思い始めているのも事実だ。


 充実した一ヶ月。忙しそうにしていることが多かったフレルの両親とは違い、ここの人たちは皆フレルに構ってくれる。リリーも、ユースも。怖そうに見えたガブリエルさんも運動に付き合ってくれる。


「ねぇ、うさちゃん。私、この家に来られて良かった」


 うわ言のように口を動かす。急に話しかけられたことに驚いたのか一度耳をピクリと振るわせる。それを隠すように笑みを浮かべて


「一度、眠ると良い」


 うさちゃんの手が、手に握る何かが小さく光った気がした。


 瞼が重い。眠ってしまいそうだ。まだ眠るには早い時間。外は相変わらず真っ暗だけど、時計の針がそう告げている。


 まだ、普段は寝る時間じゃないのに。未だ体験したことがないくらいの睡魔。疲れが貯まっている訳でもないはずなのに。まるで何らかの力が外部から掛かっているかのように。

 そう疑うことすらもできないくらい、フレルの思考力は奪われていた。脳の半分以上が活動を止める。


 フレルはだんだんと重量を増す身体を支えていられなくなり、ぱたりと机に伏せる。ベッドへと移動する余裕すらない。もう、立ち上がる余力どころか瞼を持ち上げておくだけの余力すらない。

 そして、声を出す力も。


 フレルの意識は、闇に落ちる。


 そしてフレルが倒れるのを見計らったように動き出すのは睡魔の原因、白兎。そっと、近くにある柔らかな毛布をフレルにかける。やったこととは裏腹に優しい手付きだ。


 どうしてなのか、その理由を問うことができる人物はここにはいない。そしてきっと、聞かれていたとしても答えることはなかっただろう。誰一人にさえも了承を得ていない、独断によるものだから。


「……フレル、ちょっと待っていてくれるかな?すぐに戻るから」


 聞き手のいない台詞を虚空に話しかけ、全ての鍵を閉ざす。そうして出来上がるのは完全な密室、安全な空間。少なくとも今この瞬間だけは。


 真っ白な兎の姿は、夜闇に溶ける。




短くですが、切り良いのでこれで。

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