第五十壱話
我、求めるは邪神の聖域を打ち破る神矢 → 我、求めるは邪神の聖域を打ち破る破邪の神矢、に変更
僕の矢を放とうとする気が充実する、の文章のある辺りを → 遠く肉眼では見えないが、的であるトーゲンに展開された邪神の聖域に向かって僕の矢を放とうとする気が充実する、等に変更しました 9/26 9/28
鳳と凰の会話の最後『……うん。悩んでいる暇はないよね』のセリフに『……何だか嫌な予感がするここまで邪神将はジャカール帝国の停戦反対派にほんの少し手を貸しているだけで東神名国とジャカール帝国の停戦の阻止に本腰を入れているとは思えない。その停戦の阻止に破壊邪神自身が動くはずがない。なのに破壊邪神がトーゲンに現れた……ということは……』というセリフと『ああ、恐らく破壊邪神の狙いはカクラ母さん達、俺達の身内だな』というセリフを足しました。9/29 ホンの少し文章を変更しました。9/30
(凰)
ファーハハハハ、「よくぞ来た! 当代鳳凰」
僕が結界に先代凰の神印を描き神力を流し込むと同時に僕とフィーロさんは炎神山の中のドーム状の広い空間へと引き込まれていた。
『……鳳、これ、どう見ても、てるてる坊主だよね』
『ああ、間違いなく、てるてる坊主だな』
そして、今、僕の目の前には赤色に焼けて高熱を吐き出す高さ五メーター程の巨大なてるてる坊主が鎮座していた。
その熱に炙られ床や壁、天井も赤く焼けドーム状の室内を赤く照らし出している。
『それに、このてるてる坊主(気象管理装置【テンテルダイジン】)……間違いなく壊れているね』
『ああ、間違いなく壊れているな』
そのニコチャンマークの顔を描かれたてるてる坊主の言葉づかいを聞いて、僕はそのてるてる坊主が僕に対してふんぞり返っているような幻視を見た。
『これが、もしこの気象管理装置【テンテルダイジン】の言語回路本来の物言いなら……』
『ああ、先代凰の趣味を疑うな』
『……うん』
恐らく僕は今、引き釣ったような笑顔を見せていることだろう。
「ああ、うん、君が気象管理装置【テンテルダイジン】、だよね?」
「うむ、そうだ。初めまして、と言うべきか? 当代鳳凰」
「ああ、うん、そうだね。初めまして、テンテルダイジン。君は転移装置とは違って、意思を持っていたんだっけかな?」
「……いや、意思ではなく思考回路が組み込まれているだけだな。わしに自我は無い」
「ああ、そうなんだ……その思考回路により僕達の事を当代鳳凰だと判断したんだね。だから、すんなりと中に入れてくれたんだ」
「うむ、……長い間、鳳凰が来るのを待っていた。わしを直せるのは鳳凰だけだからな。あと少し遅ければわしは自身の暴走に耐えきれず大爆発をしていたことだろう」フハッ、ファーハハハハハハ。
・・・何故そこで笑う、とも思うけど、突っ込むのはやめておこう・・・
「……うん、待たせてゴメンね。今までよく耐えてきてくれたね。君が自身の暴走に耐えきれず爆発していたらこのジャカール帝国は消滅してたかもしれない」
「うむ、そうであろうな」
「……ところで、一つ聞きたいんだけど、君に感情回路みたいなものは組み込まれているのかな?」
「……いや、そんなものは組み込まれておらんな」
『ということは……』
『この笑いと物言いは、間違いなくこいつの言語回路に設定されたものだな』
『……やっぱり。もし感情回路が組み込まれているなら、それが暴走の影響を受けてこんな物言いになっているのかも、とも思ったんだけどなあ……あ、もしかしたら思考回路に異常をきたしていて、その影響を受けているのかも……』
『そうか? 俺にはそうは思えんがな』
『ああ、うん、そうだね……思考回路にまで異常をきたしていたら今頃この炎神山は跡形も無くなっているよね……ということは、やっぱり、これがこの気象管理装置の言語回路本来の物言いなんだろうなぁ……』
・・・先代様、この気象管理装置【テンテルダイジン】を創った時、何か辛いことでもあったのですか?・・・
僕は僕の内で眠りに付いた先代凰に心の内で問い掛けながら大きく息を吐く。
そして、「ちょっと失礼するよ」と気象管理装置【テンテルダイジン】のボディーに触り神印回路の様子を調べる。
もちろん僕はこのドーム状の空間に入いる前に体に火傷を負わないよう神力で体を守るために結界を張っていた。
その為、テンテルダイジンに触っても熱は感じるが火傷はしない。
・・・どんなに酷い火傷を負っても僕の体は直ぐに治癒再生しちゃうんだけど、やっぱり熱いものは熱いし、痛いものは痛い……それに苦しい思いをするのも嫌だしね・・・
ただ、僕が羽織っていた灰色のマントフードには僕の力を抑えるだけの神印しか施していなかった為、このドーム状の空間に入った時点でそのマントフードは燃え散っていた。
そのマントフードの中に着ていた純白の聖衣には防御用の神印も施してあったためこの暴走する力と熱量にも耐えている。
『このてるてる坊主、今は暴走状態にあるためかボディーが赤色してるけど、先代凰の記憶だと、元々は純白だったみたいだね』
『まあ、この暴走状態でこれだけ熱を溜め込んでいればボディーも焼けて赤くなるだろう』
ふと、僕はこの暴走する力と熱にフィーロさんは大丈夫だろうかと思いフィーロさんの方に目を向けると、フィーロさんは少し暑そうにして座り込んでいるが大丈夫なようだった。
フィーロさんも体の周りに魔法で結界を張っているのだろう。
流石は天人と言ったところか。
しかし、フィーロさんをあまり長くこの暴走する力と熱に晒しておくのはよくないように僕には思えた。
恐らく、気象管理装置【テンテルダイジン】が炎神山の山頂に張った結界の中に入るだけでこの世界の普通の人なら例え魔法結界が張れたとしても瞬時に蒸発してしまうだろう。
それ程までの力と熱をこの気象管理装置【テンテルダイジン】は発していた。
・・・気象管理装置の心臓部と言える制御部分の神印回路が完全に失われている・・・
気象管理装置【テンテルダイジン】は炎神山全体を利用してジャカール帝国全土の気象をコントロールしている。
故に、この炎神山も含めて気象管理装置と言ってもいい。
その気象管理装置【テンテルダイジン】が気象管理システムの制御回路を完全に失ったことにより暴走しているのだ。
その影響でこの炎神山がジャカール帝国全土の大気中の水蒸気を全て吸収して、岩盤下の地下水脈に全て流してしまっている。
・・・そのせいで全く雨が降らなくなるどころか雲一つ出来なくなり、一年中日が照りつけて大気がカラカラに乾燥し砂漠化してしまったんだね・・・
僕は気象管理装置【テンテルダイジン】のボディーに触れながら一周して目視でも破損部分を確認する。
「……どんな具合だ?」
「うん……こんな状態で今までよく持ちこたえてくれたね」
てるてる坊主の頭とスカートの境目の部分、ニコチャンマークの様な顔の下の部分の一部に何か抉り取られたような大きな穴が開いていた。
そのてるてる坊主(気象管理装置【テンテルダイジン】)から少し離れた地面に透明な青いクリスタルのようなものと、何か神印に近い魔法印らしきものが刻み込まれた、恐らく刃物系統の魔法道具らしきものが砕けて落ちていた。
「君はどうしてこんな事になったのか覚えているかい?」
「……いや、この暴走の影響で記憶回路にも過負荷がかかり、多くのデーターが失われている。残念だが、この暴走を引き起こした原因の記録も失われている……ただ、その時、わしは全ての機能を停止して眠りに着こうとしていた。わしは、わしが管轄する地域の気候が人が生活するに適した気候で安定した時点で機能を停止して眠りに着くように鳳凰に命じられていたからな……その停止作業中に襲われた事だけは記録に残っている」
「なるほど……」
僕はテンテルダイジンの話を聞きながら地面に砕けて散っている透明な青いクリスタルのようなものを拾い集めていた。
その砕け散った青いクリスタルのようなものの近くに人の形をした影にような黒いシミが地面に焼き付いていた。
その人の形をした黒いシミの上には気象管理装置【テンテルダイジン】の管理者キーが落ちていた。
・・・これが、話に出てくる獣人の盗人の成れの果て、なのかな……この人を追っていた人達も気象管理装置【テンテルダイジン】が暴走を始めた時、この炎神山の山頂近くにいて、この盗人と同じ運命を辿ってしまったのかもしれない・・・
僕は黙祷する事により気象管理装置【テンテルダイジン】の暴走で亡くなった人達の冥福を祈る。
恐らく、気象管理装置【テンテルダイジン】の暴走により獣人達が住んでいたこの地方には急激な気候変動が起き、多くの獣人達が犠牲になった事だろう。
・・・獣人の盗人は、この気象管理装置【テンテルダイジン】の気象管理システムの制御回路を日の神の宝物とでも勘違いしたんだろうなあ・・・
確かに気象管理装置【テンテルダイジン】を構成している物質は先代凰が産み出したこの世界に二つと無い物質で稀少なものではあるが、この世界にそれを加工する技術は無い。
・・・まあ、この制御回路も青く輝いていて綺麗だから宝石として飾るにはいいんだろうけど・・・
問題は、この世界には無いはずの気象管理装置【テンテルダイジン】の制御回路を抉り取る程の力を持った魔法道具がこの世界にある、という事だ。
・・・確か、クリスティーン婆さまが言っていた気がする、婆さまの姉であるアテート・オオトリが作った魔法道具の中には神をも殺せる物がある、と・・・
僕はバラバラに砕けている青いクリスタルのような制御回路を復元再生させながら足元に砕けて落ちている魔法道具に目を向ける。
・・・恐らく、この砕けている魔法道具はその一つなんじゃないかな・・・
僕は再生復元させた、気象管理装置【テンテルダイジン】の気象管理システムを制御するための神印回路を組み込まれた青く輝くボーリング玉ほどの大きさの球体を、てるてる坊主の頭とスカートの境目に開いた穴の部分に埋め込み気象管理装置【テンテルダイジン】本体の神印回路と繋ぐためにてるてる坊主の抉られた部分を再生復元させる。すると、気象管理装置【テンテルダイジン】に組み込まれている先代凰の神印回路が輝きだしてるてる坊主だけでなく僕達のいるドーム状の空間が白銀色に輝きだした。いや、恐らく炎神山全体が白銀色に輝いていることだろう。
少しして、その光が収まると凄まじいまでの高熱に満たされていたドーム状の空間は、人が快適に感じられる気温と湿度に満たされていた。
「当代凰よ、感謝する。これで、わしは再び役目を果たすことが出来る。これで先代凰が望んだ人々が快適に暮らせる気候を再び創り出すことができる」
僕の目の前には純白に輝くてるてる坊主が鎮座していた。
「うん、治ってよかったよ……治ったついでに一つお願いがあるんだけど……」
「うむ、何だ? お前の願いなら無条件で何でも聞いてやるぞ」
『うわー、暴走が止まれば物言いも多少は改善されるかと思っていたんだけど……』
『考えが甘かったようだな』
『……うん』
僕は笑顔が引きつるのを感じながら口を開く。
「ああ、うん、ありがとう。……お願いって言うのは、今すぐにコルクー平野、君の管轄する地域の東端に位置する平野にまとまった雨を降らせて欲しいんだ」
「ふむ、……お安い御用だ。それだけでいいのか?」
「うん、よろしく頼むよ、テンテルダイジン」
僕は気象管理装置【テンテルダイジン】に共同管理都市トーゲンのあるコルクー平野に雨を降らせることを頼んだ後、地面に砕けて落ちている獣人の盗人が使ったと思われる魔法道具を拾い集める。
「フィーロさん、それじゃあトーゲンに戻ろうか」
僕は砕けた魔法道具を集め終わると地面に座り込んでいるフィーロさんに声を掛ける。
気温が下がったことで一息ついていたフィーロさんはその白虎の顔に笑みを浮かべて「うむ、そうだな」と立ち上がる。
「ならば、わしが転移装置のある麓まで送ってやろう」
僕が返事をするよりも早く気象管理装置【テンテルダイジン】は退去装置を起動したらしく、僕は体全体に浮遊感を感じ目の前の景色は瞬間にして転移装置のある村の遺跡に変化する。
「まったく、普通、いきなり人を放り出すかなあ、……あのてるてる坊主は、人の話を聞かないんだから」
そこはもう夜が明けかけているようで、その転移装置のある村の遺跡は薄ぼんやりとした朝の光に包み込まれつつあった。
そして、この炎神山が発していた熱気はゆるやかにではあるけれど確実に収まってきているようで、あれほど立ち上っていた陽炎は弱まり数を減らしてきている。
直にこのジャカール帝国で感じる朝の空気も爽やかなものになると僕は確信を持つことができ、嬉しくなってついつい頬が緩む。
「さてと、フィーロさん、悪いんだけどトーゲンに戻る前にこの魔法道具を復元したいんだけど、いいかな?」
「うむ、構わんぞ」
「ありがとう、それじゃあ、ちょっと待っててね」
僕はフィーロさんに微笑みかけてから手に持つ砕けた魔法道具を復元させる。
・・・うわ、これはまた、ここまで圧縮して極小の魔法印を作り出しているのも驚きだけど、【強化】【補強】【清浄】【付加】【召力】【神来】等々、数種の極小魔法印により極小な回路が複雑に組まれ、それぞれの魔法印の能力と効果が絶妙なバランスで影響しあい、その魔法印回路が一つの強大な魔法印のような能力と効果を発揮するように纏められ、先代の鳳凰の神力を引き出す神印に近づけているんだ……これなら僅かだけど神界にある鳳凰の本体から神力を引き出してこの世界の者達でも扱うことができる……ただし、一回こっきりの、命がけになるけれど……でも・・・
『……これは凄い! これ程の魔法回路を作れるなんて……アテート・オオトリ、流石は先代凰の娘だけの事はあるね』
僕がその刃の両面に先代の鳳と凰の神印に似た(極小の魔法印回路により形作られた)大きな魔法印が刻まれたスモールソードの魔法道具を復元させて感心していると鳳が呆れた声を出す。
『凰、感心するのはいいが、そんな魔法道具がまだこの世界に幾つかあるというのは不味いんじゃないか?』
『そうだね、これでは僕達に傷一つ付けられないけど、僕達意外の神界の神である邪神だけでなく、例えばゼンオウやゴオウにもある程度のダメージを与えられる。そんな物の力がこの世界に向けられたら大変なことになるよね。然も不味いのは魔法の使えない獣人にも扱えるということだね』
『そうだ、……だが、その魔法道具を使った者もただでは済むまい』
『うん、多分、このスモールソードを使った獣人の盗人も気象管理装置【テンテルダイジン】が暴走する前にこのスモールソードの力に耐え切れず絶命していただろうね』
『恐らく、この世界でその魔法道具をまともに扱えるのは先代凰の娘であるアテートとクリスティーン、それとゼンオウ、ゴオウの力を受け継いだ者、そして、先代鳳の心臓を奪った破壊邪神とその力を分け与えられた者ぐらいのものだろう』
『うん……そうだね』
・・・いったい幾つ、アテートが創った魔法道具が破壊邪神の手に落ちているのか・・・
僕の頭にその懸念が過ぎった瞬間、僕は身に覚えのあるものの僅かな気配それを内包した邪悪な気配を感じ身を震わせた。
『これは、まさか……』
『ああ、間違いなく先代鳳の心臓の気配と邪神の気配だな』
『そんな、……まだ封印は破られていないはず』
『この気配からして、恐らく破壊邪神の一部が結界を強化する前、結界が緩んだ時に邪神将達と一緒に抜け出してきて何処かで力を蓄えていたのだろう』
『そんなことって、しかも……この気配がする方角って……』
『ああ、間違いなくトーゲンの方角だ。お前の加護を受けている者達は大丈夫だろうが……他の者達がこの破壊邪神の神力を受けて発狂するまでにどれ程耐えられるか……』
『うん、でも、この突然の現れかたって、……誰かがトーゲンに破壊邪神の神具でも持ち込んでその神具を利用して転移したのかも……』
『恐らく、ジャカール帝国の停戦反対派の者達に手を貸している邪神将がトーゲンに潜り込んだのだろう』
『何にしても不味いよ……トーゲン全体が破壊邪神の神力による聖域に覆われていたら僕がクロガネやカクラ母さま達の神護の指輪を使って転移することも出来ないし、邪神の神力の影響で転移装置も使えない。天人であるフィーロさんの力ならあっという間にトーゲンに着けるだろうけど、それでも間に合わない……カリン姉さまを助けた時には何事もなくすんだけど、僕や鳳が下手に力を解放して飛んで行ったらこの世界自身に傷を付けかねない』
『ああ……破壊邪神に先手をとられたな……となれば、先ずはここから破壊邪神の聖域を打ち破るしかあるまい』
『……うん。悩んでいる暇はないよね。……何だか嫌な予感がする……ここまで邪神将はジャカール帝国の停戦反対派にほんの少し手を貸しているだけで東神名国とジャカール帝国の停戦の阻止に本腰を入れているとは思えない。その停戦の阻止に破壊邪神自身が動くはずがない。なのに破壊邪神がトーゲンに現れた……ということは……』
『ああ、恐らく破壊邪神の狙いはカクラ母さん達、俺達の身内だな』
この時にはフィーロさんもその気配に気付いたようで、フィーロさんは険しい顔でトーゲンの方を睨みつけていた。
「フィーロさん、お願い! 僕を炎神山の頂上まで連れて行って!」
「分かった!」
フィーロさんは僕の頼みに一つ返事で応え僕をその背に乗せてくれる。
僕は手に持つアテートのスモールソードを懐に入れると、フィーロさんの背に飛び乗る。
そして、破壊邪神の聖域を打ち破る武器を産み出すためその武器をイメージしやすいようにその特徴を唱えるように言の葉にする。
「世界を産む神、生命の神たる凰より産まれ出づるは和弓、其は全長二百二十七センチ、その姿は小反り、大腰、胴、鳥打ち、姫反りの名を持つ美しい曲線を描く成り場からなり、その弓幹(弓本体)は竹の如き温かみと柔軟性、鋼の如き強靭さを持ち我が求める神矢を生み出さん。その弦は如何な力を持ってしても切れぬ強靭さと柔軟性を持ちその引き手に弓懸(弦を引く手の親指付け根に弦を引っ掛ける部位のある革手袋)を生み出さん。その全てを破壊と創造の神たる鳳凰が身を持って生み出すもの成り」
僕が唱え終えイメージが固まると僕は胸の芯に鳳凰刀を産み出した時と同じ愛しさを伴う熱が生じるのを感じる。
そして、僕の胸元から赤子が産まれ出るように和弓の先端、先に小さな白銀の羽根を生やした弭(弓の先の弦を取り付ける部分)が、産声を上げるように眩い白銀の光と共に頭を出したかと思うと、僕がイメージした純白の和弓が徐々に僕の胸から白銀の光を溢れさせながら迫り出してくる。
その和弓は完全に僕の胸から生まれ出ると、その放っていた眩い光は優しく淡いものとなり、先に出ていた本弭(弓を手に持った時、下になる弓の先端)と最後に出てきた末弭(弓を手に持った時、上になる弓の先端)を入れ替えるように縦に回転し、直立した姿で僕の前に立つ。
その純白に輝く弓の弓幹は、和弓独特の優しい曲線を描きながら強靭さを感じさせる反りを持つ。そして如何な力にも断つこと叶わぬ金色に輝く弦を凛と張っている。
僕はその和弓の美しい姿に深い愛しさを感じ、弓幹の大腰の上にある握りに左手を伸ばし愛しい我が子の頭に優しく手をかけるように握り締める。すると、鳳凰刀の柄を握り締めた時と同じようにその握りからその和弓のこの世に生まれ出た喜びと己が使命遂行への強い意思が伝わってくる。
そして、それを持ちそれを使う結果に対する責任と義務の重さがずっしりと伝わってくる。
そんな僕の産み出した和弓の感触に更に愛しさを感じながら口を開く。
「命名、神弓、神鳥弓。君の名前は神鳥弓だ」
僕がその和弓に対してそう言うと、その和弓、神鳥弓は嬉しそうにキラキラと輝く。
それを見て鳳凰刀と同じく僕は可愛い我が子が満面の笑みを見せてくれたような気がしてつい頬が緩んでしまいそうになったが、今は時間が無かった。
僕は直ぐに神鳥弓に我が子に話し掛けるように優しく声を掛ける。
「神鳥弓、破壊邪神の聖域を打ち破るために、あなたの力を貸してくれるかな?」
神鳥弓は僕の言葉にまるで応えるように輝きを増す。
僕はそれに対して「ありがとう」と、微笑み感謝を述べた。
その時には炎神山の山腹の岩肌を飛ぶように五回ほど蹴って駆け上がり、背に僕を乗せたフィーロさんは炎神山の山頂に着いていた。
僕はフィーロさんに跨ったまま神鳥弓の弓幹の握りを左手で持ち弦の中仕掛(弦の中腹、矢を番える部分)を右手親指の付け根で挟み神鳥弓を打起こす(上に持ち上げる)。と同時に、「我、求めるは邪神の聖域を打ち破る破邪の神矢。其は全てを無に帰す破壊の神、鳳の神力を宿す物なり」と唱える。と、神鳥弓の白銀に輝く純白の弓幹が金色に輝きだし握りを持つ左手の上あたりにその金色の光が集まって光の矢を生み出し始める。と共に、金色に輝く弦の中仕掛部分を持つ右手に弓懸が生じる。
鳳の力を宿した金色の神矢が完全に姿を現すと、僕は神鳥弓を気を高めながらゆっくりと引き分け、引き切る。その数瞬の後、遠く肉眼では見えないが、的であるトーゲンに展開された邪気邪念を放つ邪神の聖域に向かって僕の矢を放とうとする気が充実する。と同時に、僕はそのトーゲンに向かって破邪の神矢を放つ。
『間に合え!』という思いを込めて。
その僕の思いの籠もった金色に輝く破邪の神矢は光線となってトーゲンへと向かった。




