第五十弐話
(シルバー・ファングル大将軍)
俺は共同管理都市トーゲンを出るとサンドリザードを駆り、トーゲンに向かう人で賑わっているコンスー河の岸辺まで俺を迎えに来て来ていた者の先導により夜空に煌めく星の下停戦反対派のジャカール帝国軍第三軍と第四軍の集結地へと向かう。
・・・第三軍第四軍共にトーゲンから西、約二時ほど行った所で合流する手はずになっている・・・
俺の後ろにはミーニャが付いて来ていた。
俺は少しスピードを落としミーニャの隣に並ぶ。
「ミーニャ」と俺がミーニャに声を掛けると「はい、何でしょう?」とミーニャは笑顔で応える。
「……お前は十分に役目を果たした。メフィール皇子の下に戻ってもいいだろう」
ミーニャは一瞬ピクリと片眉を動かした。が、表情は変えずに応える。
「恐らくシルバー大将軍は、私の事をメフィール皇子の密偵だと思ってその様な事を仰っているのだと思います。ですが、残念ながら私はメフィール皇子の密偵などではありません。……ただ、少なからず皇子の手の者に情報を流していたのは事実ではあります。が、皇子に流した情報と同じだけの情報を貴方にも流しましたし、大将軍が停戦反対派の主導者であることは皇子にも勿論皇帝陛下にも伝えていません。……私は地獄の底まで貴方にお供します」
「そうか、分かった」と言うが早いか、俺は腰に差した大剣を抜き放ちミーニャの乗るサンドリザードの頭を跳ね飛ばした。
制御を失ったサンドリザードの体からミーニャは弾き飛ばされ砂の上に転げ落ちる。
「ミーニャ! 砂漠で迷子になれば死ぬだけだ! トーゲンに戻れ!」
俺はミーニャにそう叫ぶとサンドリザードに鞭を入れた。
・・・ミーニャ、お前が俺に付いて来たら、きっとお前は俺と共に死を選ぶだろう・・・停戦反対派でもないお前がこんな馬鹿げた事で死ぬ必要はない・・・お前は生きて幸せになれ・・・
(メフィール皇子)
「メフィール皇子、ジャカール帝国軍第一軍、一五〇〇名出陣準備出来ております!」
私がジャカール帝国のコルクー砦に入ると狼族の第一軍副軍団長のルガー・メンフィルが私に報告する。
私がシャイナ教大神殿から出るとき私の服装では外で見張っている停戦反対派の者達に直ぐに見つかる。と、アジーナ大神官が一般人の服を用意してくれたお蔭で、私と警護のガスール達は停戦反対派の者達に気付かれることなくトーゲンから出ることが出来た。
「うむ、皆の食事は?」
「済んでおります」
「よし、私の着替えが済んだら直ぐに出る」
「はっ!」
私は砦の自室に入ると直ぐに鎧を身に纏い戦支度をする。
そして、支度を済ませると第一軍の兵一五〇〇が整然と並ぶ砦の門内にある出陣のための広場へと向かう。
「今回の戦いは反乱軍にこのコンスー河を渡らせないことを目的とする! 反乱軍には親友、もしかしたら親兄弟がいるかもしれん。だが、今、東神名国との戦争を終結させねば我がジャカール帝国に未来は無い! 心を鬼にして、皆、私と共に戦ってくれ!」
私の言葉を篝火に照らされる広場に集まった第一軍の兵達は真剣な表情で聞く。
そして、砦の巨大な門が開く。と同時に、私が「出陣!!」と気合を込めて言うと、ジャカール帝国軍第一軍の兵達は「「「おう!!」」」と地響きのするような気合の籠もった声で応え、私を先頭に前進を始める。
・・・光の神子よ、きっと間に合わせてくれる、と私は貴女を信じているぞ・・・
(キリマル)
トーゲンの街中は夜明け前だというのに停戦を祝う者達でごった返していた。
わしはその道に溢れる人混みや少なからず人通りのある路地を避け、ジャカール帝国の停戦反対派の者達が向かっている所へと向かって建物の屋根づたいを駆けていた。
・・・停戦反対派の者達が向かっているのは、このトーゲンの西壁、恐らくジャカール帝国側の衛兵の詰所だな・・・
わしがそう考えながら駆けていると、ふと夜空が明るくなったような気がして目を空に向ける。と同時に、思わずわしは足を止め愕然とした。
・・・何てことだ、……このタイミングで、そう来るか・・・
一瞬の事だったため他に気づいた者は少ないだろうが、満天に降る数数え切れない程の流星がわしの目には映っていた。
今は亡き我が主、天の神子、神武様は神界に対する抵抗力が弱まっているこの世界に新たな神界の神の干渉がある可能性を予測していた。
・・・だが、タイミングが悪すぎる……天人界の門はまだ閉じられたまま・・・当代鳳凰であるシャインは未だ幼く神力を使うことも出来ない・・・
わしは顎の無精髭を弄りながら眉間にしわを寄せる。
・・・いや、まだ大丈夫だ・・・新たに干渉してきた神界の神が実際に行動を開始するには寄り代となるものがその神力に馴染まなければならない。それには、まだ時間がかかるはずだ・・・
わしは気を取り直して再び走り出すと、今やらなければならない事に集中する。
わしは停戦反対派の者達の動きを神護の指輪を使い確認しながら駆けていく。
・・・奴らの目的地は分かったが、さて、どうしたものか……恐らく、爆薬の起爆装置は衛兵の詰所の何処かに隠してあるのだろうが・・・
このトーゲンに入り込んでいる停戦反対派の者達は表向きは、それと気づかれるような行動はとっていないだろう。でなければ、この共同管理都市トーゲンに入ることはできない。
停戦反対派の者達は殆んどの者が軍務に属している者達ばかりだ。当然、このトーゲンの衛兵の中にも顔見知りの者がいるだろう。
・・・ということは、衛兵の詰所にも自由に出入りができる……というか、さっき、もう既に二人ほど入っていったな・・・だが、まだ起爆装置を起動していないという事は……何か合図を待っているのか?・・・他の者達は詰所を囲うように動いている……恐らく邪魔が、メフィール皇子の手の者や怪しい者が入らないようにする気なのだろう・・・
わしが速度を上げようとした時、その停戦反対派の者達に近づく者達をわしの神護の指輪が捉えた。
・・・この反応は、クーレ達シャイナ教聖騎士団か・・・
シャイナ教聖騎士団の者達は停戦反対派の者達に近づくと精霊魔法を使って眠らせているようだった。
エルフの使う精霊魔法は簡単に言うと、魔力を精霊に譲渡しその対価としてその精霊の力を借り目的の事象を起こさせる。
精霊はこの世界と直結している存在だと言われ、この世界を構成するエネルギー体から直に力を引き出すと言われている。
その為、精霊魔法は普通の魔法より魔力の消費量は遥かに少ない。
故に魔法探知魔法陣にも引っ掛かりにくい。
・・・しかも聖騎士にまで選ばれた者達だ。魔法探知魔法陣に引っ掛かって起爆装置の近くにいる停戦反対派の者を刺激するようなへまはせんだろう・・・
わしがジャカール帝国側の衛兵の詰所の近くの建物の屋根まで来た時、そのわしのいる建物の近くで停戦反対派の者が二人、精霊魔法により眠らされたところだった。
・・・あれは、・・・「クーレ!」
わしはその眠らされた停戦反対派の獣人に近づくマントフードに身を固めた者に、周りに気を配りながら屋根から飛び降り近づいて声を掛けた。
「ああ、これはキリマル殿……」
少し驚いた表情を見せながら此方を振り向いたクーレは、声を掛けたのがわしだと分かるとホッとしたような表情をする。
「シャイナ教が何故動いている?」
「……はい、私達はシャイン様の命でこのトーゲンに害を為す者がいないか見回って取り締まっているところです」
クーレは少し考えるように間を開けた後、フードを脱ぎその綺麗な新緑色の髪と尖った耳を表に出すと緑黄色の綺麗な瞳を細めわしの問い掛けに答えた。
「そうか……」
「そう言うキリマル殿は何故ここに?」
わしはクーレの問い掛けにどう応えるか、わしは頭に立てたちょんまげを触りながら悩んだ。
この停戦の為の大切な時期に、停戦の障害となりかねない事態は避けなければならない。
シャイナ教は停戦条約調印の立会人の立場にある。
・・・シャイナ教がジャカール帝国の停戦反対派の爆薬の事を知れば東神名国に公式に報せなければならなくなるだろう・・・そうなれば、東神名国も知らぬ振りをする訳にはいかなくなる・・・最悪、停戦の白紙撤回、にまでは至らないまでも停戦の時期が遅れるのは確実だ・・・それは、東神名国にとってもジャカール帝国にとっても好ましくはあるまい・・・
等とわしが返答に悩んでいると、クーレは何かに気がついたようで、「ああ、すみません。シャイン様の命とは言いましたが、シャイン様にはお願いされたということですし、私達は今、職務としてではなく個人的に動いているだけです」と、先ほどの言葉を訂正し、「それに、ほら、私は聖騎士の格好をしていないでしょ」と、笑顔で灰色のマントの下に着るアルヴァロム王国のエルフの普段着である薄衣の服をわしに見せる。
「そうか、……何だか、すまんな……」
わしは若いエルフに気を使わせた事に少し申し訳なさを感じながら、「実はわしも個人的に動いているだけなのだが……」と前置きをして応える。
「……ある筋からの情報で、ジャカール帝国の停戦反対派の者達が爆薬をこの共同管理都市トーゲンに仕掛けた、と聞いてな。停戦反対派の者達の動向を追っていたところだ」
「なるほど、やはりキリマル殿も我々と同じ目的でしたか」
「……ということは、お前達も爆薬の事を知っていたのか」
「はい。……恐らく起爆装置はあの衛兵の詰所ですね」
「ああ、恐らくな……ただ、問題なのはジャカール帝国の衛兵の詰所にどうやって入るかだ。人やエルフであるわしらでは中にいる停戦反対派の者に気づかれずに入るのは難しいだろう」
獣人は生活魔法以外の魔法は使えないが、それだけに魔力等の力には敏感だ。
特に室内ではそういった力に獣人は気付きやすかった。
その為、エルフは精霊魔法の【隠行】を得意とするが、その【隠行】を使っても室内で停戦反対派の獣人に近づくと直ぐに気づかれる可能性があった。
「ああ、それに関しては大丈夫です。停戦反対派の者達が詰所に入った直後にメフィール皇子の部下がその後を追って詰所に入りましたから、起爆装置を起動される前に取り押さえられるでしょう。私達は念のため詰所の周りにいる停戦反対派の者達を取り押さえているだけです」
「そうか、……ならばわしも手を貸そう」
「いえ、キリマル殿の手を煩わせる程のことではありません。獣人は魔法耐性は高いですが私達の精霊魔法にはそれ程耐性はありませんから……直に片が付くことでしょう」
「……そうか」
わしはクーレ達に眠らされた二人の獣人を肩に担ぐ。
クーレとその部下の男性のエルフは自分達がその獣人を運ぶと言ったのだが、「これくらいはさせてくれ」と、わしが半ば強引にその獣人二人を肩に担いだのだ。
そうして、わしは申し訳なさそうにしているクーレ達と話しながら衛兵の詰所へと向かった。
「ところで、キリマル殿、貴方はこの爆薬の事、疑問に思われませんか?」
「ん? 疑問とは?」
「私達は最初の内、シャイン様のめい、いえ、お願いで動いていましたが、その途中でメフィール皇子から爆薬の事を聞き、停戦反対派を捕らえるための協力を要請されたのです」
「ふむ……」
「私が話に聞いていたメフィール皇子ならば、この停戦条約の締結の直前になる前に停戦反対派の者達が隠した爆薬の位置を特定し処理出来ていたのではないかと思うのです。なのに、それが出来ていなかった。それが何だか腑に落ちないのです」
「……これは、あくまでわしの考えなのだが、恐らくメフィール皇子は隠された爆薬の位置を特定することは出来ていただろう。ただ、それを直ぐに掘り出すことが出来ない位置にあった……」ここまで言ってわしは、ふと思い至ったことを口にする「……そうなると起爆装置には既に起爆出来ないような細工を施してあるのかも知れん。……だが、何事も不測の事態というものがある」
「それで、このトーゲンにいる爆薬の爆破に動く停戦反対派の者達を全て捕らえるために私達に協力を要請してきたのですね。このトーゲンに潜り込んでいる停戦反対派の者達を全て把握するなど、光の神子様のこの神護の指輪でもないかぎり無理でしょうから」
「恐らく、そういうことなのだろうな……」
わし達が衛兵の詰所に着いた時には、詰所の周りに獣人の衛兵達が集まっていた。
その衛兵達の集まっている所には数人のエルフとその足元には縛られ眠っている獣人が十数人転がされていた。
わし等がそこに近づくと衛兵隊の隊長らしき獣人と二人の獣人の衛兵が此方に駆け寄ってくる。
「ご苦労様です。話は聞きました。我が帝国の者達がご迷惑をお掛け致しました。詰所に侵入した者達も捕らえてあります」
そう言いながら衛兵達は、わしから停戦反対派の獣人達を受け取る。
「これで全員か?」と、クーレが衛兵の詰所の前に立つエルフ達に声をかけると、「いえ、まだ数人逃げていますが直ぐに捕らえられるでしょう」と、一人の若いエルフが応えた。
わしは神護の指輪を使って逃げている停戦反対派の獣人達を確認する。と、若いエルフが言った通り逃走する停戦反対派の獣人達は次々に捕まっていっていた。が、
「ん? 一人見逃しているぞ」
わしはエルフ達が追っている停戦反対派の者達から離れた所に停戦反対派の獣人が一人いる事に気がつく。
恐らく、仲間が囮となって逃がしたのだろう。
その時、クーレもその獣人に気がついたようだった。
その獣人は衛兵の詰所から北のかなり離れた都市壁に張り付くようにして何かをしているようだった。
わしは「まさかっ!」と叫ぶと駆け出していた。
クーレもわしと同時に駆け出していた。
わしがその獣人を神護の指輪で視ると、その壮年の獣人はスモールソードで都市壁を掘っていた。
わしとクーレがその獣人を肉眼に納めた時、クーレは精霊魔法の呪文を唱え終えその獣人に精霊魔法【深き眠り】を掛けた。が、その獣人は手に持った都市壁の中に隠されていた取っ手を引ききったところだった。
その獣人は役目を果たせたことに満足の笑みを浮かべ深い眠りへと倒れ込む。と同時に、ドドッ!!!と地響きがして、その獣人がいる近くの都市壁の基礎部分が爆発する。瞬間、わしは、チイイ!! と気合いを込めマジックアームスのブレスレットを変化させた二刀一対の魔法刀、双刀の滅斬刀に魔力を込め、その爆発する都市壁の基礎部分と地面に向けて双刀の滅斬刀を振るい全てを切り裂き滅する斬撃を複数放つ。
その斬撃は爆発した都市壁の基礎部分と地面の部分を、まだ崩壊の力が及んでいない都市壁と発火していない地面の火薬の埋まった部分を切り離し切り取るように抉り都市壁の外側へと吹き飛ばす。と同時に、クーレが精霊魔法【火精の怒りの鎮め歌】を唱え爆発の威力を抑える事で被害を出来るだけ抑えた。
破壊された都市壁は距離にして三十メーターに及び都市側の地面を長い所で十メーターほど深さは深い所で五メーターほど抉っていた。
都市壁の外側の地面の抉り取られた部分はコンスー河にまで達し、河に近づくほど広く深くなっており、都市壁近くまでコンスー河の水が入り込んできていた。
・・・ちと力を入れすぎたか・・・
運が良かったのは爆発した爆薬が埋められていた位置が都市壁の外側だったということだろう。
これが都市壁の内側に埋められていたら甚大な被害が出ていたはずだ。
その爆発により吹き飛んだ辺りは緑地帯となっていて運よく建物も人気も無く爆発に巻き込まれたのは起爆装置を作動させた停戦反対派の獣人とその都市壁の上にいた数人のジャカール帝国の衛兵だけだった。
その衛兵も重傷は負っていたがシャイナ教聖騎士団のエルフ達により即座に救出され手当を施されたため命に別状は無いとのことだった。
この爆発で死亡したのは起爆装置を起動させた獣人だけだった。
わしは爆発を抑えることに成功した直後、直ぐに神護の指輪で停戦反対派の者達の動向を確認したが西壁近くには停戦反対派の者は捕らえられた者達以外いないことを確認していた。
逃走していた停戦反対派の者達も皆既に捕らえられていた。
何とか最小限の被害で事が済んで、わしがホッと息を吐いた時、ドンッ!!と執政官屋敷のほうで爆発音が轟く。と同時に、魔法探知魔法陣のけたたましい警報がトーゲン中に鳴り響いた。瞬間、わしは執政官屋敷に向かって全力以上の力を出し駆け出していた。
(オーマン)
俺は停戦反対派の者達を執政官屋敷に引き込むための準備を四半時ほどで済ませ、ジャカール帝国共同管理都市トーゲン執政官屋敷の二階の明り取りの窓から、光石に光を灯したランタンを振って停戦反対派の者達に合図を送る。
間も無くして停戦反対派の者達は建物や木の陰から姿を現し、執政官屋敷の扉の両脇に立っている衛兵に気付かれないように闇に乗じて前広場を素早く移動し、声を上げられる前に素早く当身を食らわせその二人の衛兵を昏倒させる。
そして、停戦反対派の者達は俺が閂を外しておいた執政官屋敷の大きな前扉を音を立てないように慎重に開き中の様子を確認しながら、執政官への申請書や嘆願書などの各種書類の受付カウンターがある、二階まで吹き抜けとなっている広いホールへと入ってくる。
俺が所属していた班の停戦反対派の者達十五人は、先にホールに入いった者から素早くカウンターの裏の二階に通じる扉へと向かい、その扉を開こうとする。が、俺により鍵を開けられている筈のその扉はビクリともしなかった。
その時、昏倒させた衛兵を引き摺って最後に入ってきた停戦反対派の者達が執政官屋敷の扉を閉めた。と同時に、ホールの二階の通路にいた俺は手を上げ合図を送る。と、二階の手すりに取り付けられた光石の入った複数のライトの蓋が開けられ、侵入者である停戦反対派の者達が照らし出される。
その時、停戦反対派の者達のリーダーから影が共有庭園に通じる通路の扉へと走ったように俺は感じた。が、扉が開いたような気配は無く俺の気のせいだったようだ。
ライトが停戦反対派の者達を照らし出した時には既に二階の通路に並んでいる俺の部下である皇帝直轄近衛軍の近衛兵達は狙撃用の炎神鎚(銃)の照準を停戦反対派の者達に向けていた。
「よーし、お前達! 持っている武器を全て捨てて両手を頭の後ろに組んで床にうつ伏せになれ! 少しでも俺が命じた以外の動きをしたらその瞬間脳天を打ち抜くからそのつもりでいろ!」
「オーマン!! きさ」パンッ!
停戦反対派の者達のリーダーが俺に罵声を浴びせかけようとした瞬間、室内に乾いた破裂音が響いてそのリーダーの頭を炎神鎚の弾丸が貫いた。
「言った筈だ!! 俺が命じた以外の動きはするなと! 口も動かすな! お前達は皇帝陛下の御心も知らず皇帝陛下の意に反した反逆行為を行いっている! 有無を言わさず今すぐにでも射殺すべきところだが、皇帝陛下の温情により生かされているということを知れ!!」
停戦反対派の者達は観念したようで俺の指示通りに武器を捨て床に伏せる。
それを確認すると、俺の合図で二階に通じる扉と衛兵の待機室の扉が開きメフィール皇子の残していったジャカール帝国軍第一軍の兵が停戦反対派の者達を拘束するために出てくる。
俺は停戦反対派の者達を全て拘束したのを確認すると・・・俺の仕事はここまでかな・・・と、首を鳴らしながら動かしハアッと息を吐く。
その時、東神名国共同管理都市トーゲン執政官屋敷の方から何者かが戦闘をしている気配を感じる。
俺は後始末を部下に任せ・・・俺の気のせいならばいいが・・・と思いながら、執政官屋敷の武器庫に寄り光の神子様を迎えに行ったときに持っていったものと同じ、炎神鎚よりも大口径の炎雷鎚とまだ一つしかない試作品の特殊弾を持って、近習と近衛のみが通行を許可された通路と階段を使い執政官屋敷の屋根へと出る。
そして、東神名国共同管理都市トーゲン執政官屋敷の方を見ると、夜闇の中、誰かと誰かが屋根の上で戦っているのが見えた。
俺は屋根の上に炎雷鎚を固定して照準器を覗き込む。
二人の動きが早すぎて炎雷鎚の照準器ではその動きを追うことが出来なかった。
・・・なんて奴らだ、多分、俺では明るい所でも目で追えない・・・
その二人は、それ程までの攻防を繰り広げているのだが、その戦闘範囲は狭く、ほんの一瞬ではあるが固定した照準器の照準の中で止まる事がある。
そのお蔭で誰が戦闘をしているのかは分かった。
・・・一人は光の神子様の護衛兼お側付きの、クロガネと言ったか……もう一人は、何だ、禍々しく黒い靄を纏っていてよく分からんが……腕が六本ある? まさか、あれが乱世の狂気、邪神将という奴か・・・
俺はその禍々しい黒い靄を纏う六本腕を見ていると、自分の心の奥にある闇が際限なく膨らみそうな気がして怖気立つ。
光石→魔石の一種、日の光を当てておくとその光を吸収し暗いところに持っていくと、その光を吸収した時間と同じ時間その光を放出する。魔石灯の中にも入っている。主にジャカール帝国の山地からその鉱石が産出される。




