第五十話
二千数百年前を二千百数十年前に変更しました。9/26 9/27
(キリマル)
・・・今日の午前中には東神名国の国主、神名マサトラ殿がこの共同管理都市トーゲンに入る・・・オーマンの情報では、場所までは分からんがジャカール帝国の停戦反対派の手によってこのトーゲンの数ヵ所に爆薬が仕掛けられているという事だが・・・
わしはこの共同管理都市トーゲンに入って直ぐに、シャインの神護の指環を使いこのトーゲンに入り込んでいるジャカール帝国の停戦反対派の者達の人相と動向を調べ始めた。
そんな中、半年ほど前、わしは酒場でオーマンと知り合い意気投合した。
その時には公式な場での面識はあったため、お互いの立場を知っていた。
そのため意気投合はしたものの初めの内はお互い本音で話をする事は無かった。
・・・まあ、相手はジャカール帝国の皇帝直轄近衛軍近衛中将、わしは一応東神名国国主の妹姫で停戦交渉の担当者でこのトーゲンの東神名国側の執政官でもあるカクラ殿の側近だ。下手な事は話せんわな・・・
だが、酒を酌み交わす日々を重ねるにつれ、互いに信頼するに値する漢だと認め合い情報交換をす仲にまでなった。
そのオーマンがシャインを迎えに行くためこのトーゲンを離れる日の前日、爆薬の事をわしに伝えたのだ。
・・・ジャカール帝国軍がこのコルクー平野から兵を退く時に仕掛けられたらしい、という事だったが……その時には、まだこの共同管理都市トーゲンの図面も引かれてはいなかったのではないか?・・・その証拠に爆薬が仕掛けられている可能性が最も高いはずの執政官屋敷の下からは爆薬は発見されなかったとオーマンは言っていた・・・だが、重要施設が建てられる大凡の位置は予測して埋めているはず・・・ジャカール帝国では日を避けるために北側に家を建てる。対して東神名国では日差しが入りやすいように家を南側に建てる傾向があると聞いたことがある・・・撤退時のドサクサに紛れて相当量の爆薬を軍の監視下から秘密裏に盗み取り埋めていったのだ、両国の建築の違いに気付いたり考えたりする暇など無かっただろう・・・
この共同管理都市トーゲンの執政官屋敷はトーゲンの南の端に建てられている。
両国の執政官屋敷の周囲の地下からは爆薬は発見されなかった。とすれば、恐らく執政官屋敷の立つトーゲンの南側とは反対、トーゲンの北側、一般住宅街の下に爆薬が埋められている。と、わしは踏んでいた。
神護の指輪を使って爆薬を探索してみたのだが、わしは火薬は見たことがあるが、このトーゲンに埋められているという爆薬の実物を見たことが無くイメージする事が出来なかった為、神護の指輪でも何処に埋められているのか見つけ出すことは出来なかった。
そこで、今、わしは一般住宅街に近い居酒屋で一杯やりながらシャインの神護の指輪でジャカール帝国の停戦反対派の者達の動向を確認しながら網を張っている。のだが・・・
・・・よく考えてみると、あのメフィール皇子がその事に気付かない筈がないし、それでいてトーゲンの北側を調べていない筈がない。と思うのだが……住民に気づかれないように調べているとはいえ、未だに爆薬が発見できていないというのはどういう事だ?・・・
そんな事を考えながら酒を飲んでいると、神護の指輪がトーゲンの町に散らばっていた停戦反対派の者達の動きの変化をわしに伝えてきた。
・・・ふむ、執政官屋敷に張り付いている者達が一箇所に集まってきているな……これは、爆薬とは別か……そっちはオーマンに任せておけば大丈夫だろう・・・問題は他の奴らだな……何故そんな方に向かっているのか・・・
わしは少しの間、想定外の方向へと向かう停戦反対派の者達の動きを疑問に思っていたが、「そうか、それを狙っているのか!」と立ち上がり、わしは店主に詫びを言いつつ付け払いを宣言して駆け出していた。
(オーマン)
「様子はどうだ?」
俺が停戦反対派の俺の班の者達と共に東神名国、ジャカール帝国、両国の共同管理都市トーゲン執政官屋敷とシャイナ教大神殿を見張っていて夜半を過ぎた頃、黒いローブで体全体を被い黒いフードとベールで顔を隠した俺達の班のリーダーが姿を現した。
「両国の執政官屋敷にこれといった動きは無いな。神殿の方からは複数人のエルフがマントフード姿で出て行ったが私服だったからお祭り騒ぎの夜の町にでも繰り出したのだろう」
「そうか……では、これより、執政官屋敷に入り陛下を我らが元にお連れする」
「……という事は……」
「……そうだ、武力を持って我らが意志を押し通す!」
リーダーのその言葉に俺は心の中で舌打ちせずにはいられなかった。
「分かった。……皇帝陛下の身に危険が及ぶのは好ましくない。俺が先に執政官屋敷に入りお前達を引き込む。俺が合図を送るまでここで待機していてくれ」
「いいだろう……半時待って何の合図も無ければ強行突入する」
「……分かった」
光の神子様が神殿に入られて以来、光の神子様のご利益に預かろうと、人の出入りが極端に増え深夜になってもその人の出入りが絶えないシャイナ教大神殿とは対照的に、業務が終了し今は全く人の出入りが途絶えたジャカール帝国共同管理都市トーゲン執政官屋敷へと向かって俺は歩き出す。
俺がその執政官屋敷の出入口に近づくと、その両脇を固める衛兵が一瞬警戒するような気配を見せる。が、俺に気がつくとその二人の衛兵は姿勢を正し俺に敬礼をする。対して俺は軽く手を挙げる事でその二人の衛兵に応えた。
そして、衛兵の一人が扉をリズムよく叩き訪問者である俺の名を告げる。と、扉の内で閂が外される音かする。
俺はその扉を押し開き執政官屋敷の中へと入って行った。
(凰)
僕は少し冷たさを感じさせる柔らかくモフモフなものに優しく包み込まれているような感じを受けながら目を覚ました。
「光の神子様、目を覚ましたか?」
「……うん、これがフィーロさんの本当の姿なんだね。……すごく綺麗……」
「うむ、……恐れ入る」
「ところでフィーロさん、僕どれくらい寝てた?」
「……大体、一時ほどだ」
「そう……」
フィーロさんが人(獣人)の姿から本来の姿、暗い夜闇の中に輝く雪のような真っ白な体毛に映える黒い虎縞模様の白虎の美しい姿を僕が褒めると、フィーロさんは気恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
僕はそのフィーロさんの巨体に包まれるように体を委ねた状態で眠っていたのだ。
僕はそのフィーロさんの態度に可愛さを感じフィーロさんに体を摺り寄せるようにして白く美しい体毛を優しく撫でる。
そうするとフィーロさんは気持ち良さそうに喉を鳴らし嬉しそうに目を細めた。
・・・フィーロさんの体毛がヒンヤリするのは、フィーロさんが僕のために魔法で体毛を冷してくれているからかな?・・・
僕を包み込むような体勢でいるフィーロさんの周りには草木一本もない岩肌の地面が広がり、その地表は非常に高温になっているためか、その熱気に周りの大気が揺れ夜目にも分かるほど陽炎が立ち上っている。
ジャカール帝国には草木の生えた山はなく、岩山ばかりだと聞いていたけど、恐らく僕達のいる辺りだけでなく、炎神山の山頂から麓の先まで似たような状況なのだろう。
・・・これは、やっぱり火の神、天照〇神が暴走しているね。しかも、かなりヤバイ状態みたいだ・・・
僕はこの炎神山の状況を見て火の神、先代凰の造り出した気象管理装置【天照〇神】が危機的状況にあることを即座に理解した。
『……天照〇神って、何だかバチが当たりそうなネーミングだよね』
『お前が気象管理装置【テンテルダイジン】に勝手に天照〇神という四文字を当てているだけだろう』
あはは、『テンテルダイジンていう名前に何だか天照〇神の四文字が思い浮かんじゃって……』
『それよりも俺は先代凰のネーミングセンスを疑うな……まあそんな事はどうでもいい。もう夜半も疾うに過ぎているようだ、早くテンテルダイジンを直して共同管理都市トーゲンに戻るべきだろう』
『うん、そうだね』
僕は鳳に応えながら暗い夜の満天の星空を見上げた。
その時、ビクリとフィーロさんの体が振るえ美しい体毛が俄かに総毛立つ。と同時に、満天の夜空を覆い尽くすほどの流星群が現れた。
・・・いや、これは流星雨と言うべきだよね・・・
それほどまでの流星が一瞬の内に満天の夜空に降り注いだのだ。
「これは、……神界の神の障りだ。今この世界に干渉している鳳凰様や邪神以外の神界の神がこの世界に干渉しようとしてきている」
僕はその流星群に感動して見入りそうになっていたが、どうやらこの世界にとってこの流星群はとんでもない事の予兆だったらしい。
・・・うん、何事も見た目で判断しちゃダメだね・・・
フィーロさん達天人はこの世界の守護を役目としている。
その役目の内、特に重要なものの一つが、この世界の崩壊につながりかねないこの世界に干渉しようとしてくる神界の神の監視と、その神が実際にこの世界に悪影響、若しくは崩壊をもたらす場合には速やかにその神をこの世界から排除すること。
その為、フィーロさん達天人は神界の神の干渉に敏感に反応するようになっている。
・・・天の神子選定の役目は僕達、当代鳳凰が先代鳳の心臓を取り戻すまでの期間限定の、言ってしまえば先代鳳凰の尻拭いの片棒を担がされている余分な仕事ということだよね・・・「……なんだか、ゴメンナサイ」
僕が蚊の鳴くような小さな声で謝ると、その声が聞こえたのかフィーロさんに不思議そうな顔をされた。が、フィーロさんは直ぐにその別嬪な白虎の顔を真剣な表情に、いや少し険しい表情にして夜空を睨む。
「しかし、なんというタイミングだ。まだ邪神の排除も出来ていないというのに、しかもその邪神のせいで天人界の門が封印されたままだというのに……」
「……フィーロさん、こんな時になんだけど一つ聞きいていいかな?」
「うむ、何だ?」
「その神界の邪神て、破壊邪神のこと?」
「うむ、……お恥ずかしい話だが、破壊邪神とは我が天人の一部族、青龍族の天の神子候補選定に当たっていた者が神界の邪神の力を借りて鳳様の心臓を取り込んだ者の事だ」
「なるほど、そうなんだ……」
「……光の神子、いえ、当代鳳凰様、謝罪が遅くなりましたが、他部族の者がしでかした事とはいえ、同じ天人として心よりお詫び申し上げる」
フィーロさんは美しく凛々しい白虎の顔に申し訳なさそうな落ち込んだような表情を見せ、その立派な髭も撓垂れさせる。
「ああ、いいよいいよ。元々を辿れば先代凰がその原因を作ったようなものなんだから……」
僕がそう言うと、一瞬先代凰の剥れたような表情が頭に浮かんだ気がした。
『……でも、おかしいと思っていたんだ。天人とはいえ先代鳳の心臓を丸々取り込むなんて事この世界の者では不可能だと思っていたんだ。けど、神界の神が関与していたんだね』
『そうだな、物語や人から聞いた話しだと二千百数十年前、天人の青年が最愛の人、その天人の青年が選んだ天の神子候補が死んで、この世界を怨み憎んでこの世界を破壊するために先代鳳の心臓を奪い破壊邪神になった。ということだったが……』
『うん、恐らくその天人の青年の強い負の感情が神界の邪神をこの世界に呼び寄せてしまったんだね。そして、その天人の青年の負の感情に邪神がつけこんで先代鳳の心臓を奪わせたんだろうね』
『ああ、邪神は人の心の闇により生まれた神だからな……それ故か、邪神は人の心の闇に付け入ってくる』
『そうだね、……先代の記憶だと、神界の神は、神界のエネルギー体がこの世界のような生命世界に数多く触れ数限りない生命達の感情や想い、願いに反応しその生命達の想いや願いに応じた現象を、それぞれの生命世界に起こさせる。その現象が生命達にとって最善、若しくは最悪の奇跡として認識されると、その現象を起こしたものは神と認知、知覚され、それによりその神界のエネルギー体は自我と神格を与えられ神たらしめられる、ということだよね』
『ああ、……そして、その神がどういった性質を持つ神か生命達が認知知覚する事により、生命の神や豊穣の神、または破壊神、邪神などその性質に則した神になる。そして、その神に対する生命達の畏怖や畏れ、信仰心が強ければ強いほどその神の自我と存在が強固なものとなる。ということは、邪神の場合、多くの生命達が邪神を邪悪で恐ろしい神と強く畏怖し畏れるほど邪神の自我と存在は強固なものとなる、ということだな』
『うん、……神界は弱肉強食の世界みたいだから、自我と存在が弱ければ他の神に自我を喰われエネルギー体として吸収されてしまう。自我と存在が強固なら襲われても吸収される可能性は低くなるし、場合によっては逆に襲ってきた相手を吸収する事も出来るから、神界の神達は生命世界の生命達から畏怖と信仰を集めようと躍起になってる』
『ああ、しかし、この世界に取り付いた邪神は依り代とする天人に先代鳳の心臓を取り込ませたところを見ると、畏怖と畏れを集め邪神としての自我と存在を強固なものにするだけでなく、この世界を破壊して、この世界を形成しているエネルギーも吸収しようとしているのかもしれんな』
『うん、……今も世界を産み続けるほどの神鳳凰が干渉している世界を破壊し吸収すれば、その邪神の恐怖は他の生命世界に伝播し、そこに生きる生命達から多くの畏れを集める事が出来る。そうなれば、その邪神の自我と存在は神界の他の神を遥かに凌駕する事になるだろうね。……本来ならば、このくらいまで成長した生命世界なら神界の神の干渉に対して抵抗力があるから、普通なら干渉を受けても何の問題も無いし、場合によっては逆に神界の神をその生命世界が取り込んでしまう事もある。でも、運悪くこの世界には先代鳳の心臓があった。依り代とした天人に先代鳳の心臓を取り込ませる事により天人界の門に封印を掛けるなどこの世界の抵抗力を弱めさせる事が出来てしまった』
『ああ、結局、先代鳳凰の過去の行いがこの世界に悪影響を与えている、という事だな』
僕は鳳のその言葉に乾いた笑いとため息が溢れた。すると、僕の脳裏に再び先代凰の剥れた顔が浮かんだ。
・・・ああ、はいはい、先代様は世界を産んで見守るばかりだけじゃなく、一度でいいから自分もその世界の生命達と一緒に暮らしてみたかったんだよね……にしても、眠りに就いた筈なのによく僕の意識の中に先代凰の顔が浮かぶよね・・・
「……まあ何にしても、そっちの事は今すぐどうこうという事は無いでしょう。なので今は、今やらなければならない事をしましょう」
僕はそう言ってフィーロさんから体を離し立ち上がる。
対して「……そうだな」とフィーロさんも僕の横に寄り添うように立ち上がった。
僕はフィーロさんにはまだ大丈夫なようなことを言ったが、今はまだ小さなものだが新たにこの世界に干渉しようとしている神界の神に対してのものなのか、それともこの世界を破壊し吸収しようとしている神界の邪神に対してのものなのか分からないが僕の心に不安の芽が生じ始めていた。
「さあ、とっとと片を付けてトーゲンに戻ろう」
僕はその不安を振り払うように元気な声を上げ、炎神山の山頂目指して歩き出す。
僕が数歩、炎神山の頂上に向かって歩くと火の神、気象管理装置【テンテルダイジン】の結界にぶち当たった。
僕が額を押さえてしゃがみ込んでいると、「大丈夫か? 光の神子様」と、後ろにいたフィーロさんが心配そうに声を掛けてくれる。
「……ああ、うん、ちょっと目の前に火花が飛んだけど……大丈夫」
流石は先代凰の遺物が張った結界だった。
僕は多少なりともダメージを受けた。
・・・まあ、ぶつかった衝撃に目の前に火花が散っただけだけどね……でもこれ、普通の人が触れたら死んじゃうんじゃないかな……いや、そもそもこの灼熱地獄のような所に近づける人なんて天人以外はエルフと先代鳳凰の身内かその力を受け継ぐ者くらいのものか・・・
僕はぶつけた額を右掌で押さえ立ち上がりながら、先代凰の記憶を思い出していた。
そもそも、何故先代凰は気象管理装置【テンテルダイジン】を作ったのか、それは・・・
神代の頃、この乾燥しきった砂漠に覆われたジャカール帝国のある地域一帯の気候は今とは正反対だった。
その当時、この地域一帯は一年中雨が降り沼地や湿地に覆われた高温多湿の大森林地帯となっていた。
そこは、衛生的に人が住むに適しているとは言いがたい環境だった。
そこに、まだ少数民族だった獣人達が他民族に追いやられ隠れるように住んでいた。のだが、高温多湿の上、一年中雨が降り日差しがある日が年に一週間も無い。その為、奇病、疫病が流行り獣人達は絶滅の危機に瀕していた。
そこを通りかけた先代凰がその状況を見かね、その気候を改善する為、今の炎神山の山頂に気象管理装置【テンテルダイジン】を設置したのだ。
それから数ヶ月でその気候は改善され人が住むに適度な雨量適度な日照適度な気温湿度となり湿地や沼地も減り、それから数年でこの世界でも有数の人が快適に住むに適した豊かな土地と気候になっていた。
そこで獣人達は人口を爆発的に増やしていき村を作り町を作り国を作り、幸せな生活を手に入れた。
それを見届けた先代凰はその気候管理装置【テンテルダイジン】の管理者キーを獣人の国の長に託してその地を去った。
・・・という事らしい。
その気象管理装置【テンテルダイジン】が何故火の神と呼ばれるようになったのか、ハッキリしたことは分からないが、恐らく雨雲を退け太陽を呼ぶということで日の神と呼ばれるようになり長い年月の内に気象管理装置【テンテルダイジン】という名は忘れられていったのだろう。
そして、その日の神は何らかのトラブルで暴走し大気と地表から水分を奪い続けるようになり火の神と呼ばれるようになったんじゃないだろうか。
僕が聴いた話だと、その気象管理装置【テンテルダイジン】のトラブル(火の神の怒り)の原因となったという事件は、二千百数十年前の天の神子選定の混乱期に起きたという。
※
二千百数十年前の天の神子選定の混乱期、獣人の国々がまだ緑豊かだった頃、一人の天才的な獣人の盗人がいた。
その盗人は各国の王族が持つ秘宝や迷宮に隠された宝など、盗み出すことは不可能だと言われていた宝を次々と盗み出していた。
そんなある日、誰かが言った「流石に天才的な盗人でも日の神の宝を盗むことは出来ないだろう」と、それを聞いた盗人は「俺に盗めぬ物など無い!」と日の神山(今の炎神山)へと向かったという。
その獣人の盗人は、まず下見をしよう、と日の神が住まうという日の神山の山頂を目指した。
だが、どんなルートを通ろうともその盗人は山頂へ辿り着く事が出来なかった。
獣人の盗人が諦めかけた時、真っ黒なローブを着込んだ男がその盗人に話しかけてきた。
そのローブの男は黒いフードで顔をスッポリと隠し、その中を覗き込んでも怖毛の立つような夜闇よりも冥い闇があるだけで顔を確認する事は出来なかったという。
その黒尽くめの男は獣人の盗人に日の神山の山頂に至る方法を教えたという。
その男の言うことには「日の神の居る山頂まで行くには鍵が必要だ」ということだった。
獣人の盗人ははじめの内、その余りにも胡散臭い男の言うことを信じてはいなかったが、他に手立てがなかった為その黒尽くめ男の言う鍵を盗み出すことにした。
その鍵は日の神山の麓に住む、ある獣人の部族が御神宝として社を建てて大切に保管しているということだった。
その獣人の盗人にとっては、そんな小さな部落の社から鍵を盗み出すなどお茶の子さいさいで何の苦もなく鍵を手に入れることが出来た。のだが、鍵を御神宝として崇めている部族の者達が黙って見ている訳もなく、即座に獣人の盗人に対して追っ手をかけた。
盗人は追っ手を巻きつつ日の神山の山頂へと向かい、追っ手もまた山頂を目指したという。が、それから暫く経った頃、日の神山が大きく鳴動したかと思うと山頂から麓にかけて地面から熱が吐き出したという。
それから直ぐに日の神山の水と緑は全て枯れ、その現象は徐々に獣人の国々に広がっていき、雨さえも降らなくなったという。
そして、数年もせずに獣人の国々は沙漠に覆われてしまった。
それから盗人とそれを追って行った者達は二度と戻って来なかったという。
日の神の居所に無断で立ち入った盗人とその追っての者達が日の神の怒りに触れ、その怒りが獣人の国々に広がり今に続いている、と伝えられている。
※
『……という事らしいんだけど、鳳はどう思う?』
『突然、どう思う、と言われてもな……この話だけではよく分からんが、もしかしたら破壊邪神の手の者が関わっているのかもな』
『うん、僕もそう思う。黒尽くめの男というのが怪しいよね。管理者キーで先代凰が作った気象管理装置の構造に手を加える事なんて出来ないし、ただの獣人がその気象管理装置を破壊する事が出来るとも思えない。……それに、例え破壊邪神の手の者が関わったにしても、ガルー・ドラグルレベルの邪王や邪神将でも先代凰の作った気象管理装置を破壊する事は出来ないと思うんだけど……』
『まあ、ここで悩んでいても仕方が無いだろう。……中に入れば何か分かるんじゃないか?』
『うん、そうだね……』
僕は一旦鳳との会話を切り上げ、火の神の結界に先代凰の神印を描き神力を流し込む、と同時に、僕は何かに体を引っ張られる感覚を受け「えっ?!」と驚きの声をあげた。




