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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第65話 不本意な一番槍と赤い十字のヘルメット



 竹中半兵衛という「知の怪物」を丹羽長秀様に引き合わせ、美濃三人衆の調略という歴史的プロジェクトが動き出した矢先、俺の元には新たな「無理難題」が届けられた。

 発信源は、俺の直接の上司のはずである武井夕庵様だ。


「平田。

 三人衆の件は丹羽殿に任せ、お主は別の任に当たれ。殿が犬山城攻略の軍議に、お主をメンバーとして加えるよう仰せだ」


 夕庵様の淡々とした言葉に、俺の胃は五瓶目の胃薬を求めて悲鳴を上げた。

 この上司、肝心な評定で俺が吊し上げられている時には天井のシミを数えて助けてくれないくせに、こういう面倒な仕事だけは光の速さで持ってくる。


 正直、魔王と呼ばれる信長さんよりも、この無表情な中間管理職の方が付き合いにくい。


「……あの、軍議って。俺、ただの修理屋兼、衛生兵のまとめ役ですよ?」


「何を言う。

 殿はすでにお主の『戦後処理』まで決めておられる。

 犬山城を落とした暁には、楽田城をお主に拝領させ、城持ちの武将として取り立てるとな」


 ――はい、詰んだ。

 俺の希望なんて一ミリも考慮されていない。

 俺が望んでいたのは、信長さんの庇護の下で、たまに現代の道具を持ち込みつつ、のんびり商売をする「戦国スローライフ」だったはずだ。

 それがどうして、知らぬ間に衛生兵部隊を率いる夕庵様の右腕にされ、ついには城主にまで押し(吊るし)上げられようとしているのか。

 しかも、信長さんの要求はそれだけでは終わらなかった。

 無理やり参加させられた軍議の席で信長さんはとんでもないことを言ってきた。


「平田。

 貴様を城持ちにする以上、家臣団に示しがつく『武功』が必要だ。

 今回の犬山攻め、貴様に一番槍を命ずる」


 城の最深部、大広間で信長さんにそう告げられた時、俺は本気で白目を剥いて倒れそうになった。

 一番槍。

 つまり、真っ先に敵陣に突っ込む特攻隊長だ。

 元修理工の俺に、そんなデタラメな真似ができるわけがない。


「流石に殿もお主が剣を振るえぬことは承知しておられる。

 ゆえに、此度降ったばかりの大沢勢百名を貴様の配下に付ける。

 大沢次郎左衛門と共に、先陣を駆けよ」

 

 俺のことを慰めようとしたのか、丹羽様は人事面で配慮したことを言ってくれる。

 この人神だ。

 悪魔ばかりが集まる信長勢の中にあって唯一の神かもしれない。


 で、俺に無理なんだを押し付けてくる信長さんはというと不敵に笑ってた。

 なるほど、武勇で名高い大沢勢を俺に預けることで、形の上での「一番槍」という実績を作らせ、周囲の重臣たちを黙らせる算段か。


 合理的だが、恐ろしすぎる。

 俺は大沢さんと一緒に、部隊の後ろに控えていればいいらしいが、それでも城壁のすぐ近くまで進むことになる。

 流れ矢一本で俺の戦国ライフが強制終了する未来しか見えない。



 迎えた準備期間。

 幸いにも新月の三日間が重なった。

 俺と大森は、死に物狂いで「現代の防御装備」を買い漁るために令和へと戻った。


「平田さん、これっすよ! 

 軍用の防刃チョッキと、防弾・防破片ヘルメット!」


 大森が中野のミリタリーショップやネットオークションでかき集めてきたのは、本物の軍事用中古品だった。

 工事現場用のプラスチック製ヘルメットとはわけが違う。

 ケブラー繊維や強化樹脂で作られた「本物」の重みが、俺の生存確率を数パーセントだけ底上げしてくれる。


「……かなり異質だな。

 でも、命には代えられない」


 俺たちは永禄の世に戻り、その装備を「改造」した。

 真っ白な布を縫い合わせた衛生兵の衣装をまとい、その下には現代の防刃チョッキを仕込む。

 そして仕上げに、米軍の放出品らしきヘルメットを白く塗装し、赤ペンキで大きく「十字」のマークを書き込んだ。


 赤十字は襲ってはダメなんですからね。

 いいですか、犬山の皆様。

 これだけはお兄さん(俺のこと)とのお約束ですよ……という気持ちを精一杯込めての準備だ。


「いいか大森、俺たちの目的はあくまで負傷者の救護だ。

 一番槍と言っても、大沢勢が道を切り開いた後に、真っ先に戦場に飛び込んで怪我人を回収する。

 これが俺たちの『武功』だ」


「了解っす! 

 戦国時代に国際赤十字の理念を持ち込む一番槍、胸熱っすね!」



 そして、ついに犬山城攻略作戦が始まった。

 戦国最強クラスの重武装を施した大沢勢が、怒号と共に城門へと肉薄する。

 そのすぐ後ろ、矢が雨のように降り注ぐ中を、奇妙な格好をした二人の男が走っていた。


「ひぃっ! 

 大沢さん、もっと前、もっと前で盾になってください!」


「がっはっは! 

 平田殿、そのヘルメット、実によく目立ちますな! 

 まさに一番槍にふさわしい!」


 大沢さんは豪快に笑いながら槍を振るうが、俺はそれどころではない。

 ヘルメットに「カキン!」と流れ矢が当たるたびに、心臓が口から飛び出しそうになる。

 防弾仕様でなければ、今頃俺の頭はスイカ割り状態だっただろう。

 真っ白な服に、赤い十字のマーク。

 戦国時代の常識を置き去りにした「衛生兵一番槍」が、地獄のような戦場へと踏み込んでいく。


 織田軍の将兵たちが「なんだあの異形の集団は……?」と呆気に取られる中、俺は震える手で救急箱を抱え、ただひたすらに叫んだ。


「怪我人はどこだ! 

 死ぬな、死んだら修理……じゃなくて、治療できないだろ!」


 俺の戦国スローライフは、今、最もスローから遠い「最前線」で激しく火花を散らし始めていた。


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