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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第64話 魔王の「お約束」と、新米軍師の初仕事 



 ポテチをつまみにコーラを飲み交わした、あのカオスな宴から一夜明けた。

 二日酔い……というよりは、胃もたれと精神的な疲労を抱えたまま、俺と大森は早朝から小牧山城へと呼び出された。

 待っていたのは、俺の直属の上司(?)である武井夕庵様と、織田家の実務を一手に担う丹羽長秀様だ。


「平田。

 昨晩、殿から『大沢を平田の屋敷で預かれ』との命が下ったことは承知しておるな」


 丹羽様の相変わらず低い声が、広間に響く。

 俺が「はい、すでに居座られております……」と力なく答えると、夕庵様が追い打ちをかけるように次のミッションを言い渡してきた。


「善は急げだ。

 早速鵜沼城へ出向き、大沢の奥方を迎えて参れ。

 城は大沢の嫡男に任せ、当の本人は『平田屋敷での隠居生活』を世間にアピールしてもらう」


 ……つまり、人質の確保を「平田屋へのホームステイ」というパッケージに偽装して完遂してこい、ということだ。

 竹中半兵衛さんの一族の引っ越し準備も重なり、平田屋(という名の修理拠点)はパンク寸前である。

 だが、初仕事として半兵衛さんに実績を作らせたいという織田側の思惑もあるのだろう。


「今回の任務、竹中半兵衛と前野将右衛門を付ける。

 大沢本人も同行させよ」


 俺が「承知しました」と立ち上がろうとした瞬間、広間の影から「待った!」と声が上がった。

 現れたのは、眼鏡をキラリと光らせた澄田さんだ。


「嶺さん。

 半兵衛様の初仕事に、私が同行しないなんて選択肢はありません。

 これは『軍師誕生』の歴史的なイベント、いわば公式ファンクラブによる最前線での現地レポートが必要なのです!」


「……澄田さん、これピクニックじゃないんだけど」


 呆れる俺を余所に、彼女のテンションは最高潮だ。

 結局、俺、大森、澄田さん、半兵衛さん、前野さん、そして大沢次郎左衛門という、奇妙極まりない一行で鵜沼城を目指すことになった。



 移動の道中。

 犬山城の織田信清が目を光らせているため、俺たちは山間を大きく迂回するルートを取った。


「嶺殿、この『地図』……あまりに正確すぎて、背筋が寒くなりますな」


 半兵衛さんが、俺が現代の航空写真をトレースして作った地図を見つめ、驚嘆の声を上げる。


「あ、いや、これは……秘伝の測量術といいますか……」


「平田さんの里では、鳥の目で地面を見る術があるんでしょ?」と、大沢さんが余計な助け舟を出す。……まあ、あながち間違っていない。


 鵜沼城に到着すると、大沢さんの息子さん――まだ若い嫡男が複雑な表情で出迎えた。

 そりゃそうだ、親父が急に「織田の家臣の屋敷に、奥さんと一緒にロングステイしてくる」と言い出したのだから。

 だが、半兵衛さんの立て板に水のような現状説明と、前野さんの威圧感、そして「このお菓子、奥様にどうぞ」と澄田さんが差し出した令和の文明(個包装のクッキー)により、交渉はスムーズに終了。


 大沢さんの奥方を連れて、一行は再び小牧山城下へと戻ってきた。



 そんな調略や引っ越しの手伝いに奔走しているうちに、半月は瞬く間に過ぎ去った。


 そして、運命の満月の夜。


「春休み、最高に楽しかったー!」


「農協の有給、まだ残ってるから次はゴールデンウィークにね!」と言い残し、賑やかすぎる茜さんと澄田さんが、祠の向こう側――令和へと消えていった。


 翌朝。


「嶺殿……茜殿と澄田殿の姿が見えぬが、もしや……」


「……あ、二人とも、修行のために急遽、里へ帰りまして。

 はい」


 半兵衛さんと大沢さんの不信感に満ちた視線が痛い。

 だが、彼らも織田家という荒波の中で生きるプロだ。

 「触れてはいけない秘伝」があることは察してくれたようで、深くは追求してこなかった。

 それよりも、半兵衛さんからもたらされた情報が、織田家を揺らした。


「有力な国人領主である大沢氏の離反、そして私……竹中半兵衛の織田入り。

 これにより、美濃の斎藤家内は疑心暗鬼の嵐となっております。

 龍興公は側近を疑い、家来たちは明日の身を案じております」


 この好機を逃す手はない。俺は再び信長様の御前に呼び出された。




「平田。此度の美濃の混乱、貴様ならどう動く」


 信長様の、あの射抜くような視線が俺を捉える。

 主語は相変わらず省かれているが、俺は覚悟を決めて、大河ドラマで得た知識を総動員して答えた。


「大殿様。

 美濃の根幹を支える『三人衆』――安藤、稲葉、氏家の三氏に、今こそ調略の網を広げるべきかと存じます。

 大沢氏を殺さず、厚遇しているという『実績』は、彼らにとって強力な安心材料になります。恐怖ではなく、信用で彼らの背中を押すのです」


 俺の提案に、重臣たちがどよめく。

 だが信長様は、ニヤリと不敵に笑った。


「信用、か。

 ……よかろう。

 平田、竹中を丹羽の配下として付けろ。

 二人で三人衆を切り崩せ」


 信長様という人は、ドラマや歴史書では冷酷なイメージが先行しているが、実際に接してみると、案外と情に厚く、何より領民や家臣をよく見ている。

 約束を反故にすることもまずない。


 前の職場のクソ上司のように、「あれ? そんなこと言ったっけ?」「お前の聞き間違いだろ」なんて無責任なハラスメントとは無縁だ。


(この人が上司で良かった……胃は痛いけど、やりがいはあるな)


 こうして、竹中半兵衛さんは正式に丹羽長秀様の参謀格として紹介され、戦国史上名高い「美濃三人衆の調略」というビッグプロジェクトが動き出した。


「嶺殿、私をこのような大舞台に上げてくださったこと、感謝いたしますぞ」


 半兵衛さんの澄んだ瞳に、軍師としての火が灯る。

 一方の俺は、隣で「よし、三人衆の調略が成功したら、次はホームセンターで何を仕入れようかな!」と鼻息を荒くする大森を見て、再び四瓶目の胃薬を鞄から取り出すのだった。


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