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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第62話 戦国版TSA(手荷物検査)と招かれざる貴賓客



 囲炉裏を囲んでの不穏な「ノブさん、大沢さんを『切る』ってよ」会議は、夜更けまで続いた。

 茜さんはテレビドラマや大河ドラマの知識が豊富すぎるあまり、史実とフィクションと「ノブさん(信長様)への勝手な親近感」がごちゃ混ぜになっている。

 当然、この時代にどっぷり移住している詩織さんからすれば、置いてけぼり状態なのだが、そこに救いの手を差し伸べた(?)のは、参謀オタクの澄田さんだった。


「嶺さん。

 茜さんの言っていることはあながち間違いではありません。

 この『大沢の一件』、もし信長様が約束を反故にして彼を処刑すれば、今後の美濃攻略における調略難易度がルナティック(狂気)モードに跳ね上がります。

 特に今、私が心血を注いでいる竹中半兵衛様の攻略に、致命的なバグが発生しかねません!」


 澄田さんの眼鏡がキラーンと光る。

 要するに「私の推し(半兵衛)をゲットする邪魔をするな」ということだ。

 分かりやすい。

 結局、俺が明日、武井夕庵様を訪ねて事実確認と「大沢氏の助命」を直訴しに行くことで話がまとまった。


 まだ、本当に約定を破りこの地で大沢次郎左衛門が殺されるとは聞いてはいないが、もし、本当にそのように信長さんが考えているとしたら戦国大名の決定を覆しに行くなんて、サラリーマン時代に「上司の決定を全否定する」以上の自殺行為だ。

 でも、胃薬はもう飲んだし大丈夫。

 やるしかない。


  翌朝。

 澄田さんはやる気満々だった。

 今日は堀尾さんと前野さんを引き連れ、大森を護衛にして、いよいよ本格的な竹中半兵衛の調略へ向かう日だ。


 だが、出発しようとする一団の前に、俺は立ちはだかった。


「はい、止まって。

 手荷物検査セキュリティーチェックをします」


「……嶺さん、ここ空港じゃないんですけど」


 澄田さんが露骨に嫌そうな顔をするが、俺は折れない。

 彼女のリュックを没収して中身をぶちまけると、出るわ出るわ、物騒な写しの数々。


「これ、没収。

 第一空挺団の訓練マニュアルのコピー、だめ。それから『スペツナズの奇襲戦術』、これもだめ。

 あとこの『アメリカ海軍特殊部隊式・精神鍛錬法』も没収。

 半兵衛さんがこれ読んで『寝るな! 泥水を啜れ!』とか言い出したらどうするんだよ」


「……知的好奇心のバラエティを広げようと思っただけなのに。

 チッ、検閲が厳しいですね」


 澄田さんは舌打ちしたが、俺は大森にも「ちゃんと釘を刺しておけよ。現代の過激な戦術を教えすぎて歴史を歪めるなよ」と厳命し、ようやく彼らを送り出した。


 残った茜さんと詩織さんに「屋敷の守りは任せたよ」と言い残し、俺は決死の覚悟で小牧山城へと向かった。


  城内では、武井夕庵様と丹羽長秀様が、鵜沼城の戦後処理について話し合っていた。

 俺は「平田屋」としての立場で、夕庵様の背後に(半ば無視されながら)控えていたが、ついに信長様との会見の場が設けられた。


 大広間。

 そこには信長様、夕庵様、丹羽様、そして俺。 今回は大森も澄田さんもいない、完全なソロプレイだ。正直、足が震えて止まらない。


(もういいよ、大沢さん……。

 大河ドラマの通り死んじゃっても、俺のせいじゃないし……ドラマでも死ぬことはなかったのですが)


 なんて投げやりな思考が脳裏をよぎるが、ここで折れたら澄田さんの毒舌と茜さんの追求が待っている。

 俺は勇気を振り絞って声を上げた。


「……大殿様!

 お聞きください。

 大沢氏は確かに油断ならぬ相手なれど、ここで彼を斬れば、美濃の国人衆は皆、信長様を『約束を守らぬ御方』と恐れ、二度と調略には応じなくなります。

 それは竹中半兵衛のような賢才を招く際の、大きな障害となるやもしれませぬ!」


 俺の言葉に、信長様が鋭い視線を向ける。

 広間に沈黙が流れる。

 終わった。切腹だ。

 せめて苦しまないようにDIYでギロチンでも作っておけばよかった……。


「……フン。

 平田、貴様にしてはまともなことを言う」


 信長様が、鼻で笑った。


「大沢ごとき、この信長を裏切るだけの器量もなかろう。

 よかろう、裏切りの疑いをもたれるような“不審な素振り”を見せぬ限りは、約束通り命は取らぬ。丹羽、そのように差配せよ」


「ははっ、承知いたしました」


 ……勝った。

 言質をいただいた!

 「不審な素振り」という条件が、信長様のさじ加減次第という、極めて不安定な執行猶予ではあるが、ひとまず処刑は免れた。

 全身の力が抜けそうになったその時、丹羽長秀様が俺の方を向いて、ニヤリと笑った。


「ときに平田。

 これほどの助命、大沢本人にその有り難みを骨身に沁み込ませねば慢ぬ。

 ……そこでだ、平田がここで面倒を見ろ」


「……はい?」

 

 丹羽様の主語の抜けた指示に一瞬フリーズしたが、すぐに意味を理解して絶望した。


「丹羽様配下の木下藤吉郎が、たった今大沢氏を連れてきた。

 平田、お主が拝領しておる屋敷で、彼をしっかりと『接待』し、織田の威光を教え込んでやれ。

 預けたぞ」


 数時間後。

 俺は死んだ魚のような目で、自分の屋敷の門前に立っていた。

 目の前には、丹羽様の配下として鼻息荒くやってきた木下藤吉郎氏と、そして「約定通り命は安堵されたものの、織田の監視付きで押し込められる」という現状に、どこか憮然とした面持ちの大沢次郎左衛門氏の一行がいた。


「いやぁ、平田殿!

 殿も丹羽様も、平田殿を信頼し切っておられる!

 この大沢殿を、平田殿の屋敷で丁重に……いや、厳重に預かれとの仰せでございます!

 がっはっは!」


 藤吉郎氏はそう言い残すと、複雑な表情のまま腕を組んで佇む大沢氏を俺の屋敷に押し込むようにして去っていった。


「……貴殿が、平田殿か。

 下々の者どもは『大沢は生きては戻れぬ』などとかしましく噂しておったが、織田の殿様は辛うじて約定を守る度量はおありだったようだな。

 ……フン、これよりはこの屋敷で、私を飼い殺すおつもりか」


 屋敷の土間に毅然と立ち、低い声で鋭い皮肉を放つ戦国武将。

 命は取られないと分かっていても、かつての城主としてのプライドが、織田の若き家臣に素直に頭を下げることを拒んでいる。

 まさに大河ドラマに出てくる「一筋縄ではいかない頑固な国人領主」そのものの重厚なオーラに、胃がキリキリと鳴る。


 そこへ、奥から「おかえりー、嶺くん!」と呑気な茜さんの声と、詩織さんの優しい笑顔がやってきた。


「……茜さん、詩織さん。

 今日から新しい居候が増えたよ」


「えっ、大沢さん? 本物!?

 すごい、これ歴史の目撃者じゃない!」


 はしゃぐ茜さんと、対照的に「ふん、織田の女が……不届きな。身の程を弁えよ」と苦々しく眉をひそめつつも、あまりの緊張感のなさに完全に毒気を抜かれて呆然とする大沢氏。


 俺の戦国スローライフ(仮)は、ついに現役の武将を「ホームステイ」させるという、未知の領域に突入してしまった。

 澄田さんたちが半兵衛を連れて帰ってきたら、この屋敷はどうなるんだ……。


 俺は天井を仰ぎ、早くも三瓶目となる胃薬を口に放り込むのだった。





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