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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第61話 春休みと不穏な「おまけ」



 一方で、俺は別のストレスに晒されていた。

 あの評定の時、あからさまに目を逸らしたクソ上司(失礼)、武井夕庵様からの度重なる呼び出しだ。


「平田。

 お主の提案であった鵜沼城うぬまじょうの大沢氏調略だがな……」


 夕庵様は、まるで前の評定の「知らんぷり」などなかったかのように、淡々と仕事を押し付けてくる。

 俺に与えられた任務は、情報工作。


 稲葉山城下や鵜沼周辺に、「大沢氏はすでに信長公と密約を交わしているらしい」「斎藤龍興はあてにならない」といった噂を流すことだ。


 俺は津島や熱田の商人のネットワークを使い、立ち話のついでに「いやぁ、最近鵜沼の方では変な動きがあるみたいでねぇ」と、地味に、しかし確実に毒を撒いていった。


 元メーカーの修理担当として培った「世間話という名のヒアリング能力」が、まさか戦国時代のフェイクニュース拡散に役立つとは思わなかった。


 そんな工作を始めて半月。

 大沢氏への調略は丹羽長秀様主導で着実に進み、ついに面会の予定まで決まりつつあった。


 そして――待望の新月がやってきた。

 祠から現れたのは、いつもの二人。

 だが、今回の気合は違った。


「平田さーん! 春休みです! フルタイムで永禄にコミットしに来ましたよ!」


「私も、農閑期パワーで有休ガッツリ取ったから。満月まで帰らないわよ!」


 テンションMAXの澄田さんと、妙に艶やかな茜さん。

 屋敷に集まった内輪の会議(という名の飲み会)は、一気にカオスと化した。


「えっ、半兵衛様に会ったんですか!? 

 『孫子』のダイジェスト、刺さりました!? 

 よっしゃああ! 次は『君主論』の抜粋持ってきます!」


 鼻息を荒くして、堀尾さんに詰め寄る澄田さん。


「ねえ詩織ちゃん、あの『竹中さん』って、やっぱり例の大物俳優に似てる? 渋い感じ?」


「あ、いえ茜さん、どちらかというと線が細くてお綺麗な……」


 茜さんと詩織さんの会話は、もはや時空もドラマの配役も混ざり合って収集がつかない。


「……まあ、みんな元気で何よりだよ」


 俺が茶をすすりながら遠い目をしていると、ようやく騒ぎが落ち着いてきた。

 今後の鵜沼城調略の進展について、俺が「大沢氏も、もうこちらの条件を飲みそうです」と報告すると、茜さんが不意に思い出したように首を傾げた。


「そういえば嶺くん。

 さっきお客さん(患者)から聞いたけど、ノブさんが大沢さんを『切る』らしいわよ」


「ノブさんって……。

 で、信長様がなんて?」


 茜さんは、ポテトチップス(令和からの持ち込み)を齧りながら、さらりと言った。


「『大沢が膝を折ったら、煮るなり焼くなり……いや、首を切れ』って言ってたみたいなんだけど、あれってドラマだけの話じゃなかったのね」


 ――え。


「……茜さん。

 今、なんて?」


「だから、降伏した大沢さんを『切れ』って」


 一瞬、座が凍りついた。

 調略、つまり「味方になれば命は助ける」という約束で引き込もうとしている相手を、受諾した瞬間に殺せ……?

 それ、現代のビジネスで言えば「契約成立した瞬間に取引先を訴える」ような禁じ手、いや、戦国時代でも普通に大惨事になる裏切り行為だ。


「冗談……だよね? 

 あの信長様だし……」


 俺の知る信長さんって、確かに無理難題はてんこ盛りだし、話には主語を省くし、それこそドラマに出てくる信長さんとあまり変わらないけど、実際に会ってみると、あの人本当にやさしい人なんだよな。


 それに何より約束事は律義に守るから、安心して付いていける上司にしたい人ナンバーワンなんだけど(俺の中でのランキング、ちなみに武井様は最下位に近い)、素の信長さんがそんなことを言うこと自体信じられない。


「……平田さん。

 あの人、そういうの、やる時はやるタイプっすよ……」


 大森の顔が青ざめる。

 確かに、信長さんは領民にも、それこそ下級の配下にも優しい面があり、一部には舐める人もいなくはない。


 彼の弟の謀反だって、許されるだろうという甘えもあり二度も企てた面があるし、それを嫌う配下もいるから、裏切りそうな者は裏切られる前に処分してしまえといらぬ入れ知恵を入れる連中でもいたのかな。


 今おかれている美濃攻めでの問題点でもある犬山城主だって、一度は信長さんに降っていたと聞いたことがあるし……しかし、だからと言って調略した約束を反故にして命まで突なんて、悪手以外にない。


 今後の領地運営でも信用を無くせば何もできなくなるのに、あの信長さんがそんなことくらいわからなくもないだろうし……でも、大森の言う通りやると言ったらやる人だしな。


 せっかく地味な噂話で築き上げた調略の成果が、信長様の「気まぐれ」一つで、血の海に沈もうとしていた。


「……胃薬、もう一瓶持ってきておけばよかったですね」


 澄田さんの呟きが、俺の心象風景と完全に一致した。

 春休み早々、俺たちは戦国時代の「理不尽」の真髄に触れようとしていた。


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