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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第59話 講談師大森のピンチ



「はい!

 ええと…… 竹中半兵衛という男の身内の者が、人質として城内に仕えていたそうでございます。

 その者が重い病に伏したという知らせを受け、半兵衛は見舞いと称し、少数の家来を引き連れて城へ入ったと。

 その際、荷物の中に密かに武器を忍ばせており、中に入った後に一気に蜂起した…… と、私どもは考えております」


「ふん」


 信長様は、興味深そうに片方の眉を上げた。


「すると何か。

 人数は限られておるが、城に入るのには何ら抵抗すらなく入り、その上で城を乗っ取ったと申すか?」


「は、はい。

 それしか、あの堅城と名高い稲葉山城を、わずかな人数で落とす術はございませぬ」


 俺がそう答えた瞬間、列席していた重臣の一人が、大声を上げて鼻で笑った。

 柴田勝家。

 織田家随一の「脳筋」代表格の男だ。


「はっ!

 戯言を!

 そんな子供騙しのような少数で、一国の居城が落ちるわけがなかろう。

 そのような妄想を大真面目に語るとは、やはり商人の浅知恵。 殿、このような者の話、これ以上聞くだけ時間の無駄にございます!」


(話を聞くまでもないなら、最初から俺を呼ぶなよ!

 俺だって来たくて来たんじゃないんだよ! )


 心の中で精一杯の逆ギレをかましていると、さらに追い打ちがかかる。

 いつもは温厚で知性派の丹羽長秀様までもが、不審げな目を俺に向けてきた。


「確かに、柴田殿の言う通り。

 いくら無傷で入城できたとはいえ、城内には数百の兵が常駐しているはず。

 十数人の手勢でそれらを制圧するなど、いかに機略があろうとも物理的に不可能にございますな。

 平田殿、何か決定的な事実を隠しているのでは?」


 さすがの知能派、突っ込みが鋭い。

 俺は心の中で「そうだよ! 俺だって無理だと思うよ! 大河ドラマで散々演出を見て知ってるから言えるだけで、実際にそんなことできるわけないじゃん!」と絶叫していた。


 完全に窮地に立たされた。

 もう一度、夕庵様に「お願いだから、現代知識のない彼らにわかるように通訳してください!」と懇願の眼差しを向ける。


 だが、夕庵様はまるでそこに誰もいないかのように、天井の木目を熱心に観察し始めた。


(おい!

 天井のシミの数を数えてる場合かよ! )


 誰も味方がいない。

 冷や汗が首筋を伝い、床に落ちそうになったその時――。

 俺の隣で平伏していた大森が、不意に、しかし実によく通る声で発言の許可を求めた。


「失礼ながら、話をさせてください!」


 信長様が、大森をじろりと睨む。


「大森か。

 申せ」


 大森は、スッと上体を起こすと、まるで現代の敏腕営業マンか、あるいは講談師のような堂々とした態度で話し始めた。


「柴田様、丹羽様のお言葉、もっともにございます。

 普通に考えれば、十数人で城内の兵すべてを相手にするなど不可能です。

 ――ですが、もし、その兵たちとまともに戦う必要がなかったとしたら、いかがでしょう?」


「何……?」


 柴田が胡散臭そうに目を細める。


「半兵衛の狙いは、城内の制圧ではございません。

 彼の狙いはただ一つ。

 城主である、斎藤龍興の首、あるいはその身柄のみにございました!」


 大森の目が、歴史オタク特有の輝きを帯びる。

 彼は、かつて深夜に熱く語り合っていた歴史ドラマのワンシーンを、まるで実況中継するかのように、臨場感たっぷりに語り始めた。


「夜半、見舞い客として不審がられずに城の一角を占拠した半兵衛らは、闇に紛れて一気に城主の寝所へと突入いたしました!

 不意を突かれた龍興は、まともな護衛もつけられぬまま、寝巻き姿で取り押さえられたのです。

 半兵衛はその喉元に刃を突きつけ、こう脅しました。

『声を上げれば命はない。大人しく城を明け渡せ』と!」


 大森の語り口があまりにリアルで、大広間の空気が水を打ったように静まり返る。

 重臣たちも、思わず話に引き込まれて身を乗り出している。


「主君の命を人質に取られた城兵たちは、いかに多勢であっても手を出すことができません。

 半兵衛は、パニックに陥った龍興をそのまま裏門から、着の身着のままで城外へと追い出したのです!

 城主を失い、頭脳を乗っ取られた城は、戦うことなく降伏するしかございませんでした。

 これこそが、竹中半兵衛による、一世一代の『機略』の全貌にございます!」


 大森がビシッと話を締めくくると、静寂が広間を支配した。

 あまりの臨場感に、信長様はしばし沈黙した後、大森を凝視してポツリと言った。


「…… 大森。

 貴様、その場をそばで見ておったのか?」


「ひぇっ!?」


 俺と大森の心臓が、同時に跳ね上がった。

 マズい。

 オタクの妄想(大河ドラマの知識)を語るあまり、ディテールを詳細に話しすぎて、まるで現場にスパイとして潜入していたかのような不自然さを生んでしまった。


「あ、いや!

 滅相もございません!」


 俺は慌てて大森の前に出て、必死に手を振った。


「こ、これは、うちの者が城下で仕入れた、逃げ出した斎藤家の近習(側近)たちの愚痴や噂を、元ホームセンター…… ではなく、元大工の徒弟である大森が『自分ならどう城を乗っ取るか』と、職人の視点で組み立て直した推測にございます!

  決して現場で見ていたわけではございません!」


「そうっす!

 ただの妄想、シミュレーションっす!」


 大森も必死に頭を畳に擦りつける。

 信長様は、そんな俺たちの様子をしばらく無表情で見つめていたが、やがて、ふっと口元を緩めた。


「ふははは!

 面白い。 相分かった」


 その一言で、張り詰めていた空気が一気に弛緩した。


「平田、大森。

 美濃の動き、引き続き注視せよ。

 竹中半兵衛という男…… いずれ我が手元に引き入れたいものだな」


「は、ははっ! 

 承知いたしました!」


 信長様が立ち上がり、評定の終わりを告げると、重臣たちもぞろぞろと退室し始めた。

 俺と大森は、魂が口から抜け出たような顔で、その場にへたり込んだ。


「…… 大森、お前、心臓に悪いよ。

 でも、助かった」


「いやぁ、先輩。脳筋の柴田さんに絡まれた時は、マジで終わったと思いましたけど、ラノベと大河の知識が役に立ちましたね!」


「本当にな。頼りになるのは、やっぱりお前たち内輪だけだわ……」


 俺は、大広間の隅で、ようやくこちらを向いて「いやあ、よくやった」とばかりに小さく手を振っている武井夕庵様を、恨めしそうに睨みつけた。


(あの狸親父、後で絶対に高い現代のお茶でも売りつけてやる……! )


 寿命がまた数年縮まった気がしながら、俺たちは冷たい大広間を後にした。

 美濃の天才軍師・竹中半兵衛。

 いずれ彼をスカウトするための戦いが始まる予感に、俺は胃のあたりをさすりながら、静かにため息をつくのだった。


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