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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第57話 澄田さんの夢……破れる??



 囲炉裏を囲んでの作戦会議は、夜が更けるとともに熱を帯びていった。

 だが、その熱気の大半は、歴史マニアと重度の「推し活」女子による、少々明後日の方向を向いたものだった。


「……あの、さっき聞き流しそうになったんだけど。

 澄田さん、さっき『堀尾茂吉さんの登場シーンが』って言わなかった?」


 俺の問いに、キャリーケースから『戦国武将・城郭大事典』を引っ張り出そうとしていた澄田さんが、ピタリと動きを止めた。


「言いましたよ。

 堀尾茂吉……後の堀尾吉晴。

 豊臣三中老の一人で、松江城の築城主。

 信長、秀吉に仕えた、それはもう素晴らしい知将にして人格者です。

 私の『推しリスト』のトップテンに入りますが、何か?」


「……あー、やっぱり。

 ひょっとして、うちの店(治療所)の管理を任せてる、あの堀尾さんのこと?」


 俺の言葉に、今度は茜さんが「えっ?」と声を上げた。


「嶺くん、それ本気?

 あの、いつも低姿勢で『平田様、次回の消毒液の入荷はいつ頃で……』って帳簿つけてる、あの真面目な堀尾さんが?」


「そう、その堀尾さん。

 ……じゃなくて、この前、前野(長康)さんの紹介で雇ったんだよ。

 小牧山の屋敷と、城下町の店の管理をお願いしてる。

 だって、前野さんが『こいつは気が利く』って言うから……」


 一瞬の静寂。

 その後、澄田さんの口から「ひぃっ」という、引きつったような悲鳴が漏れた。


「……嶺さん。

 貴方は、貴方はなんてことを!

 堀尾茂吉といえば、これから墨俣一夜城の築城で大活躍する、歴史のメインキャストですよ!?

 それを、コンビニの店長代理みたいな扱いで……!

 もったいない!

 宝の持ち腐れ!

  歴史への冒涜です!」


「いや、俺だってそんな大物だとは思わなかったんだよ!

 前野さんが『食い詰めてる知り合いがいる』って言うから、てっきり日雇い感覚で……

 そもそも、その前野さんを紹介……リストアップしたのって澄田さんじゃなかっけ。

 ついでに、この時期なら堀尾さんもいるとか」


「……」


 俺が頭を抱えると、横でスマホ(オフライン地図)を眺めていた大森が、ひょいと顔を上げた。


「平田さん、墨俣といえばさ。俺、こっちで聞き込みしたんだけど、墨俣には既に砦があったらしいっすよ。

 今は打ち捨てられてボロボロみたいですけど」


「え、一夜城じゃないの?」と、茜さんが目を丸くする。


「多分、あの有名な逸話って、その既存の砦を『超光速で修理して使えるようにした』ってのが真相なんじゃないかな。

 元ホームセンター店員としての勘ですけど、ゼロから建てるより、リフォームの方が圧倒的に早いですから」


 大森の現実的な指摘に、俺は妙に納得してしまった。元修理工の俺としても、「一晩で新築」より「一晩で大改修」の方が、まだ物理法則の範囲内に思える。


「……とにかく、堀尾さん本人には、彼が将来の『三中老』だなんて絶対に言わないでくれよ。

 もし自分が足軽組頭の、そのまた配下の雑用係みたいな扱いだって気づいたら、ショックで転職しちゃうかもしれないし」


「手遅れな気もしますが、善処します……」と、澄田さんが怨念のこもった声で頷いた。


「それよりもさ!」


 茜さんが、パンと手を叩いて話題を変えた。


「さっきから言ってる『竹中さん』のことだけど。もしうちが竹中さんを採用しちゃったら、どうなっちゃうの?

 やっぱり、あの大物俳優さんみたいな、渋い演技が見られたりするわけ?」


 俺は深く、深いため息をついた。


「茜さん……まだそのネタ引きずってたの?

 竹〇直人さんの出番はないから。

 来るのは竹中半兵衛っていう、ガチの天才軍師だから」


「えー、残念。

 あの『秀吉!』って叫ぶシーン、生で見たかったのに」


「それは大河ドラマの話でしょ!

 とにかく、大物俳優は来ない。

 来るのは、澄田さんが鼻血を出しそうなレベルの歴史上の有名人だ」


 そんなドタバタな夜が明け、翌朝。

 村の空気は、いつものように規則正しい「平田病院(治療所)」の開院準備で動き出した。

 俺は、さっそく指示を出すことにした。まずは、上司である武井夕庵様から依頼されていた、美濃の情勢調査だ。


「前野さん、堀尾さん。

 ちょっと二人に頼みがあるんだ」


 呼び出されたのは、脳筋(失礼)だが頼れる前野将右衛門と、未来の知将(現在は優秀な店長)である堀尾茂吉の二人だ。


「はっ、何なりと申し付けくだされ、平田様!」


 前野が威勢よく頭を下げる。一方の堀尾は、几帳面にメモの準備を整えていた。


「稲葉山城の周辺を探ってきてほしい。

 特に、例のクーデターの後の混乱ぶりをね。

 それと……ついでに、墨俣にある打ち捨てられた砦の状態も見てきてくれるかな。

 あくまで目立たないように、調査だけでいい」


「墨俣の砦……。

 あのような場所、今さら何に使うので?」


 不思議そうに首を傾げる堀尾に、俺は「いや、ちょっとDIYの素材にいいかなと思って」と適当な言い訳を繕った。

 未来の三中老に嘘をつくのは心苦しいが、今は仕方ない。

 そしてもう一組。


「大森、澄田さん。

 二人は『推し活』……じゃなくて、竹中半兵衛の行方を探してくれ。

 澄田さんの情報だと、彼は今、菩提山城か、その近くの栗原山周辺に蟄居しているはずだ」


「了解っす!

 伝説の軍師に、現代のホームセンターの便利グッズを叩き込んできます!」


「私はクラウゼヴィッツを武器に、半兵衛様を理論攻めにしてみせます!」


 ……正直、この二人が一番不安だが、知識量だけは確かだ。

 指示を出し終える頃には、無情にも「制限時間」が近づいていた。

 今回の滞在は、新月の前後三日間。茜さんと澄田さんの二人は、令和に帰らなければならない。


「あーあ、もう帰る時間かぁ。

 今回は荷運びと愚痴聞きだけで終わっちゃった気がする」


 茜さんが、空になったバックパックを背負いながら、名残惜しそうに村を見回した。


「いいところなしでしたね、私たち。でも嶺さん、次回の準備は任せてください」


 澄田さんの目が、眼鏡の奥で怪しく光る。


「次は大学の春休みです。

 まとまった休みが取れますから、今回持ち込めなかった『とっておきの献上品』を厳選してきます」


「……ほどほどにしてくれよ」


「私も、農繁期に入る前に有給全部ぶち込むからね!」


 茜さんが、力強くガッツポーズをした。

 二人は祠へと向かい、光の中に消えていった。

 静まり返った村の屋敷で、俺は一人、囲炉裏の火を見つめる。

 さて、次回は春休みか。


 女子大生の全開の推し活と、元農協職員の本気の農業支援。

 それに加えて、戦国史上名高い「軍師スカウト」と「一夜城リフォーム」。


「……これ、俺の胃がもつかな」


 俺は、令和から持ち込んだ胃薬の在庫を確認しながら、少しだけ賑やかになるであろう一ヶ月後の春を想像して、小さく笑った。





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