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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第56話 戦国軍師攻略セット(※同人誌含む)


 村はずれ、夕闇に包まれた祠の前で俺は一人、その時を待っていた。  今日は新月。

 令和と永禄、二つの世界が繋がる運命の三日間が始まる日だ。


「……竹〇直人、じゃなくて半兵衛だよな。うん、間違いない」


 自分に言い聞かせるように呟く。

 前回の転移直前、澄田さんが「推しの供給が止まらない!」と鼻息を荒くしていたのを思い出す。


 あのアカデミックかつオタク全開な女子大生が、歴史が動く瞬間に立ち会えると知ったらどうなるか。

 想像するだけで、胃のあたりに微かな痛みが走る。


 日の暮れたことを確認してから祠の中に入り、仏像にお参りをして令和に移るのを待った。

 暗い仏間に着くと、そこには既に準備万端の二人が大きな荷物を一杯入れてあるバックを持って俺を待っていた。


「またすごい荷物だよね」


「だって先日あっちの店での消費が凄いじゃない。

 会うたびにモスさんが全然足りないなんて言うものだからね」


 茜さんが、持ち込むのは最近は同じものがたくさん

 消毒液やら、ステープルの芯やら、包帯なんかもあり、また、抗生剤入りの軟膏なんかもある。

 みんな店の商品??

 ……絶対に違うよな。


 まあ、いいか。

 それよりさっさと向こうに行くとしよう。

 仏間にお祀りしてある仏像にこっちでも拝み、永禄の尾張に移るのを待つ。

 と言ってもすぐなんだけどもね。

 で、さっきの仏間よりも格段に暗い祠の中に着く。


 月明りもない祠から、外に出て暗い中を歩いて拠点を置いてある村の屋敷に向かう

 途中で、大きな荷物を持つ澄田さんが俺に聞いてきた。 


「平田さん、……今、何時何分ですか?

 永禄七年における正確なタイムスタンプをお願いします」


「ええと、今は……多分、十九時を回ったくらいかな」


「時間じゃないよ、いつなんですか、何年何月」


「え~と、永禄7年の2月11日だと思うけど。

 それが何?」


 俺が苦笑しながら彼女の荷物を持とうと手を伸ばすと、ずしりと腕が抜けるような重さが伝わってきた。


「……っ!?

  重っ! 何これ、石でも入ってるの!?」


 澄田さんの荷物を持ったら異常に重かったので、先の話が途切れて別の話題に変わっていった。

 いつかなんか別にどうでもいいことなのだろう。

 ただ、俺の思わずこぼした言葉にも反応してくるから、機嫌でも悪かったのかな。


「失礼な。

 知の集積ですよ、嶺さん。

 ……ところで」


 澄田さんの目が、眼鏡の奥で鋭く光った。


「岐阜城……いえ、今はまだ稲葉山城ですね。

 あそこ、落城しましたか?

 竹中半兵衛様による十六人でのクーデター。

 私が算出した歴史の特異点によれば、そろそろのはずですが」


「ああ、それならさっき武井様から聞いたよ。

 誰かに乗っ取られたって大騒ぎになってた。

『これで美濃攻略も楽になりますね』って言ったら、なぜか武井様にめちゃくちゃ怒られたけど」


 俺の言葉を聞いた瞬間、澄田さんの顔から表情が消えた。

 いや、正確には「情報の処理中」といった体で固まった。


「嶺さん。

 貴方は……貴方は何を言っているのですか!」


「えっ、何が?」


「美濃攻略は『これから』が本番でしょう!

 墨俣の一夜城はどうするんですか!

 木下藤吉郎の立身出世、そして何より堀尾茂吉さんの登場シーン!

 ドラマ的な山場を端折ってどうするんですか!

 歴史のライブ感を蔑ろにするのは重罪ですよ!」


「いや、俺に言われても……。

 これ以上『山場』なんてあったら、平田屋がまた戦傷者で溢れかえって、今度こそ母栖さんの頭に本物の角が生えるんだけど」


「角って、そんなこと考えているだけでも二人から怒られるわよ」


 茜さんが、俺の意図を完全にくみ取り、その上で注意してきた。

 考えているだけでもだめらしい。

 わめく澄田さんを宥めつつ、俺たちは村長屋敷(という名の古民家)へと向かった。


 囲炉裏を囲んで、まずは令和から持ち込んだ物資の検分を始める。


「さっちゃん、これ……本当に全部持ってきたの?」


  茜さんが、澄田さんのキャリーケースから溢れ出した本の山を見て、呆れたような声を上げた。


「もちろんです、茜さん。

 竹中半兵衛は知的好奇心の塊。

 そんな彼を『落とす』には、こちらの知的水準をアピールする献上品が不可欠です。

 いわばこれは、戦国版の釣り餌です!」


 俺は嫌な予感がして、その「釣り餌」を手に取った。

 表紙のタイトルを見て、変な汗が背中を流れる。


戦争論クラウゼヴィッツ

君主論マキャベリ

『魏武注孫子』

『韓非子』

『老子の世界感』中には俺でも首をかしげる『般若心経が示す宇宙の神秘』なんていうのまであった。


 だが、ここまではいい。

 百歩譲って、天才軍師へのプレゼントとしては最高級だろう。

 だが、その下から出てきたのは……。


「……『ネイビーシールズの強さの秘密』?

『私はこれで第一空挺団を首になりました』!?

澄田さん、これ、どう見ても軍事マニアの同人誌……というか、実録暴露本だよね?」


「それは、より実践的な近現代戦術の資料としてですね……。

 あ、こっちの『第一狂ってる団』の訓練様子をまとめた一冊は、精神論の極致として武家の方々に刺さるかと思いまして」


「刺さりすぎるよ!

 下手したら織田家が全隊員にパラシュートなしの自由落下を命じかねないだろ!」


 俺は慌てて、物騒な現代兵法書を隠した。


「澄田さん、いい?

  こっちで出していいのは、せめてマキャベリまで。

 ネイビーシールズとか、陸自の空挺団とか、絶対に誰にも見せないでね。

 あと、そのうちわも」


「チッ、検閲ですか。

 ……わかりました。マキャベリの『君主論』なら信長様への献上にも耐えうるでしょう。

 ……でも嶺さん、もし半兵衛様に会えたら、ツーショットの……いえ、なんでもありません」


「……最後、写真撮ろうとしただろ」


 そんなやり取りをしているうちに、夜は更けていく。

  もともと日没後に転移してきたのだ。

 外は漆黒の闇に包まれ、虫の声だけが響いている。


「さて、明日からは忙しくなるよ。

 武井様も情報を求めてるし、何より半兵衛さんが今後どう動くか……」


 俺がそう言うと、澄田さんは不敵な笑みを浮かべた。


「ふふふ。

 任せてください。

 歴史の参謀役、この澄田幸代が、クラウゼヴィッツを叩き込んだ究極の外交戦を見せてあげますから」


「……不安しかないんだけど」


 俺は深いため息をつきながら、明日の「平田病院」の再診予定と、軍師スカウト大作戦のスケジュールを頭の中で整理し始めた。

  戦国時代の夜は、現代よりもずっと暗い。

 だが、この屋敷の中だけは、妙な熱気と「推し」への執念で、明日への嵐を予感させていた。


 尤もここは令和から持ち込んだ太陽光パネルと蓄電池、それにLED照明まで完備しているので令和と変わらずの明るさはあるのだけどもね。







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