表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/67

第54話 戦国ブラック夜勤と、大物俳優??



 大広間の中庭で信長さんに鵜沼城の調略を吹き込み、見事に「便利な知恵袋」として目をつけられた俺と大森。


 その後、俺たちがどうやって小牧山城を下りてきたのか、実はあまり記憶がない。

 極度の緊張から解放された反動で、半分意識が飛んでいたのだと思う。

 気づけば、足は勝手に城下にある俺たちの拠点――平田屋敷へと辿り着いていた。


「……着いた。生きて帰ってきたぞ……」


「先輩、とりあえず倒れましょう。

 泥のように眠りましょう」


 俺たちは縁側に崩れ落ちようとした。

 だが、安息の時間は一秒たりとも与えられなかった。


「大森様! 

 平田様! 

 お戻りですか!」


 ドタドタと足音を立てて屋敷に飛び込んできたのは、俺たちが雇った若者の一人だった。

 息を切らし、顔はススと血で汚れている。


「店の方で、母栖もす様がお呼びです! 

 一刻も早く戻れと!」


「…………」


 俺と大森は無言で見つめ合った。

 そうだった。

 夢の結晶であるはずの俺たちの店舗「平田屋」は、今や敗残兵がひしめく地獄の野戦病院と化しているのだ。

 信長さんの治療に呼ばれて中座したが、あっちの惨状が終わったわけではない。


 重い足を引きずって、すぐ側の店へと向かう。

 入り口の板戸をくぐった瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


 店内は、血と汗とドクダミの強烈な臭いが充満していた。

 重傷度を色分けするトリアージ自体は粗方終わっているようだが、床に寝かされている兵士たちの腕や胸には、未だに「ヤバい色」――つまり、最優先で治療が必要な赤色や黄色の布切れが括り付けられている者が多くいる。


 その阿鼻叫喚の中心で、一人の女性が凄まじい気迫で指示を飛ばしていた。


「そっちの止血、甘い! 

 もっと強く縛って! 

 彩ちゃん、新しく沸かしたお湯を持ってきて! 

 ドクダミの在庫、裏から全部出して!」


 大森の彼女であり、俺たちの戦国スローライフのオカン的存在である母栖詩織さんだ。

 だが、その表情はもはやオカンのそれではない。

 修羅だ。戦女神ヴァルキリーか何かにクラスチェンジしてしまったかのような、人を寄せ付けない覇気を放っている。


「……なぁ大森」


「なんですか、先輩」


「あれ、母栖さん……女性やめてないか? 

 完全に戦場の鬼軍曹なんだけど」


 俺が震え声で呟くと、大森はサッと顔を青ざめさせた。


「先輩、絶対に詩織の前ではそれ言わないでくださいね。

 せっかく信長さんの前から首が繋がって帰ってきたのに、ここで嫁に首落とされること無いでしょう?」


 大森が冗談抜きで物騒な警告をしてくる。

 その時、俺たちの姿を捉えた鬼軍曹――いや、詩織さんが、血走った目でこちらを振り向いた。


「平田さん! 

 海図! 

 何ぼーっと突っ立ってるの! 

 帰ってきたらすぐ手を洗って、治療再開!!」


「「はいぃぃぃぃっ!!」」


 俺たちはビクッと直立不動になり、慌てて井戸へと走った。

 魔王より嫁の方が怖い。

 これは令和でも戦国でも変わらない真理らしい。


 そこからの数日間は、まさに地獄だった。

 俺はステープラーと果物包丁と特製ドクダミアルコールを手に、ヤバい色の札がついた患者から順にひたすら処置を続けた。

 寝る間もない。飯は歩きながらひえの握り飯をかじり、仮眠は土間の隅で十五分だけ。

 ステープラーの針を打ち込みながら、俺は涙目になっていた。


(おかしい……。

 俺は令和のブラック企業での理不尽なイジメから解放されて、戦国時代で大自然に囲まれたスローライフを目指していたはずなのに……なんでここでブラック夜勤してんだよ!)


 完全に救急救命センターの激務である。

 時空を超えてもブラック労働からは逃れられない運命なのだろうか。

 だが、俺たちの不眠不休のブラック労働のおかげで、数日後にはなんとか重傷者のピークを越えることができた。


 さらに時は流れ、俺たちが現代へ帰還し、茜さんと澄田さんをこちらの世界へ連れてくるタイミングとなった。


 当初、俺のタイムスリップのゲートが開くのは「新月」の三日間だけだったはずなのだが、今回はなぜか石仏の気まぐれか、正確に言うと「満月」にゲートが開くようになっていたので、実質半月に一度令和に帰れる。


 細かいルールの変動にツッコミを入れる気力すらないが、ともかく二人が現代から合流してくれたのだ。


 トリアージと緊急手術からは解放されたので、俺と大森は一旦拠点のイモ村へ戻って休息を取ることができたが……「平田屋」には未だに入院患者(動けない重傷者)が多数滞在している。


「もうさ、あそこって『救急搬送指定病院』とかに看板掛け替えたほうがいいよね。

 店は別に構えるとか……ないな。無理だろ」


 村の縁側で、俺はお茶をすすりながら遠い目をした。


「一番ないのが人手ですよ。

 ただでさえ人員不足なのに、これ以上患者が増えたら我々が過労死します」


 そう冷静に指摘したのは、合流したばかりの澄田さんだ。彼女と茜さんは、現代の便利な衛生用品などを大量に持ち込み、すぐに店の看病を手伝ってくれている。


「人手の充実を目指さないと、組織ごと潰れますね」


「そんなこと言ってもさ、澄田さん。現代の医療知識や衛生観念を理解して、しかもこんなブラックな職場で働いてくれる優秀な人材なんて、この時代にそうそういないだろ」


 俺がボヤくと、澄田さんは眼鏡のブリッジをくいっと押し上げ、ニヤリと笑った。


「いますよ。

 ちょうどいいのが」


「えっ、いるの?」


「ええ。

 私の一推し武将が、もう直にフリー(浪人)になるはずですから、彼を調略してうちの参謀兼実務担当に引き入れましょう」


 澄田さんが自信満々に言い放つ。


「フリーになる武将? 

 誰のこと?」


「竹中様ですよ」


 澄田さんがドヤ顔で名前を出した瞬間。

 横で聞いていた茜さんが、ポンと手を打った。


「あー! 

 あの人ね! 

 いい味出してるわよねー、竹〇直人さん。

 確か……」


 すると、さっきまで鬼軍曹だったはずの詩織さんが、休憩のお茶請けを持ちながら目を輝かせて会話に混ざってきた。


「あ、わかります! 

 昔、大河ドラマで豊臣秀吉の役、してませんでしたか?」


「ちょっと詩織ちゃん、それは古いわね」


 茜さんが得意げに指を振る。


「今は松永久秀役よ! 

 本当にいやらしい、腹黒い戦国武将を演じさせたら、今の日本で彼の右に出る人はいないわ。最高よねぇ!」


「確かに! 

 あのネットリした演技、たまりませんよね!」


 キャッツキャと盛り上がるお姉さんたち。

 それを見た澄田さんが、顔を真っ赤にしてテーブルをバンッ!と叩いた。


「違いますよ!! 

 竹中半兵衛たけなかはんべえ様ですよ!! 

 なんでこの戦国時代に、令和の役者さんを調略で呼ばないといけないんですか!!」


「えー、でも竹〇直人さんなら、案外この時代でもアドリブで生きていけそうじゃない?」


「そういう問題じゃありません! 

 だいたい、あの方だって今は大河だか映画だかの収録途中でしょ! 

 ここ(永禄)に来る暇なんかないでしょうに!」


 ――いやいや。

 俺は心の中で、静かに、しかし強烈なツッコミを入れた。


(澄田さん……そこじゃない。

 そもそも、超有名な大物俳優を、何の伝もない一般人の俺たちが「呼べる」前提で話を進めるなよ。

 それに、「収録中だから暇がない」って……令和の役者と永禄の武将のスケジュールを、同じ次元で比べてどうするんだ)


「でも、もし竹〇直人さんがうちの店で接客してくれたら、客単価上がりそうよね」


「『心配ご無用!』とか言って、ドクダミ軟膏を売りさばいてくれそうですね!」


「だから! 

 半兵衛様ですってば!! 

 美濃の天才軍師!!」


 女性三人の、まったく噛み合わないカオスな会話が、のどかな村の空に響き渡る。

 推し武将と大物俳優の話題が同列に語られるこの謎空間。

 ツッコミを入れる気力すら尽き果てた俺は、ただ無言で温かいお茶をすすりながら、ブラック労働で荒んだ心を静かに癒やすのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ