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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第42話 野戦病院と進撃の巨人女子



 

 信長さんから「失敗したら焼き討ちな」という呪い付きの「お墨付き」を頂戴してから数ヶ月。

 俺こと平田嶺の胃袋は、今日もキリキリと悲鳴を上げている。

 舞台は小牧山城下。

 俺たちの城、もとい店舗兼住居の建設現場だ。


「先輩! 

 見てくださいよこの梁! 

 プレカット材じゃない手刻みのこの質感! 

 萌えますねえ!」


「……お前が元気で何よりだよ、大森」


 ねじり鉢巻の大森は、完全に水を得た魚だった。

 元ホームセンター店員の知識とDIYスキル、それにこの時代の職人たちとのコミュニケーション能力がいかんなく発揮されている。

 町割りの仕事まで任されている彼は、もはや俺より「顔役」としての貫禄が出てきていた。


 俺はというと、現場の指揮は大森と、配属された武士の堀尾さんに任せ、ひたすら裏方作業に徹していた。

 ちなみに、もう一人の武士、前野さんには見回りを頼んである。治安維持だ。


 俺と大森は、毎日日没の一刻(約二時間)前には小牧山を引き上げ、山奥の村(イモ村)へ帰ることにしている。

 理由は単純。

 夜道が怖すぎるからだ。

 街灯なんて文明の利器はない。

 現代の懐中電灯はあるが、そんな「太陽を携帯している」ような真似をすれば、目立ちすぎて野盗か忍びの餌食になる。


 信長さんや武井様には正体がバレているが、一般兵や農民にまで「光る筒を持つ妖術使い」として認知されるのは御免だ。

 だから、俺たちは夕焼けが空を染める頃には、そそくさと退散する「シンデレラ通勤」を徹底していた。


「しかし、先輩。

 この『溝』、本当にやるんですか?」


 大森が足元の地面を指差して言った。

 そこには、戦国時代には存在し得ない、滑らかな灰色の物体――プラスチック製のU字溝が埋められようとしていた。


「やるよ。これが生命線になるんだから」


 俺が計画しているのは、城下の屋敷と、山奥のイモ村を繋ぐホットラインの敷設だ。

 距離にして約十二キロ。

 現代から持ち込んだ有線ケーブルを、このU字溝の中、あるいは森の中では目立たない箱に入れて地中や木の上に這わせ、村まで物理的に繋ぐ。

 無線機だと山岳地帯では電波が不安定だし、盗聴のリスクもゼロではない。

 何より、有線なら電力供給も兼ねられる。


「武井様にはなんて説明したんですか?」


「『大地の気を整えるための龍脈を通す管です』って言ったら、なんか納得された」


「陰陽師か何かだと思われてますね、絶対」


 大森が呆れたように笑う。

 だが、この時代の人間は「見えない力」を信じる傾向がある。

 科学的な説明をするより、オカルトで誤魔化した方が話が早いのだ。


「よし、それじゃあこの調子で屋根には太陽光パネルを……」


「それは却下だ」


 俺は食い気味に否定した。


「なんでですか! エコですよ、エコ!」


「目立つだろ! 

 黒光りする謎の板が屋根に並んでたら! 

『あれはなんだ』って信長さんに聞かれたら、『太陽の力を吸い取る魔鏡です』とでも言うつもりか!」


「あ、それいいっすね。

 強そう」


「よくないわ! 

 ただでさえ怪しまれてるのに!」


 こんな漫才を繰り広げながら、俺たちの城下町建設は進んでいった。

 そんなある日、現代に戻った俺は、コンビニのバックヤードで澄田さんに進捗を報告していた。

 意気揚々とU字溝の写真を見せる俺に、澄田さんは冷ややかな視線を送ってきた。


「平田さん」


「はい?」


「そのインフラ整備、無駄とは言いませんけど……コスパ最悪ですよ」


「えっ」


 澄田さんは、廃棄のおにぎりを頬張りながら、歴史の教科書のような口調で告げた。


「信長公が小牧山城を拠点にするのは、せいぜい四年。

 永禄十年には美濃を攻略して、拠点を『岐阜城』に移します。

 つまり、あと二年ちょっとでその城下町、廃れますよ」


「……はい?」


「だから、十二キロもU字溝埋めても、二年後にはもぬけの殻です。ご愁傷様です」


 俺は膝から崩れ落ちた。

 歴史のネタバレ、残酷すぎる。


「ま、まあ、二年間の安全と通信確保だと思えば……安いもん……かな……」


「減価償却できるといいですね、そのU字溝」


 澄田さんのドライな慰めが、胸に刺さった。


 ***


 そんなこんなで月日は流れ、永禄六年も暮れようとしていた。

 店と屋敷は完成し、大森と詩織さんは村から引っ越して、城下の住人となった。

 だが、俺たちが思い描いていた「優雅な商家ライフ」は、訪れなかった。


 街並みが完成するにつれ、きな臭さが増していたのだ。

 北の美濃国、斎藤氏との小競り合いが激化していた。小牧山への築城自体が美濃攻略への布石なのだから当然だが、おかげで城下には頻繁に負傷兵が運び込まれるようになった。


「ひ、平田様! 

 また怪我人が!」


「こっちへ運んで! 

 詩織ちゃん、お湯とドクダミ軟膏!」


「はい!」


 完成したばかりの『平田屋』の店頭は、商売をするスペースなど微塵もなく、怪我人で溢れかえっていた。

 現代から持ち込んだ消毒液や包帯、そして村で大量生産した「ドクダミエキス」を配合した特製軟膏が、驚くほどの効き目を見せたのが運の尽きだ。

 ドクダミの強烈な匂いが充満する店内は、もはや甘味処ではなく野戦病院と化していた。


「……大森、これ商売になってるのか?」


 血まみれの足軽に包帯を巻きながら俺が問うと、大森は帳簿を見ながら苦笑した。


「店舗売上はゼロですけど、治療代として織田家から手当が出てます。

 あと、評判を聞きつけた武将たちが『陣中見舞い』としてクッキーや焼酎を大量買いしていくので、外商部門は絶好調っす」


「完全に業態が変わってるな……」


 とはいえ、人命救助は徳を積む行為だ。

 詩織さんも、親を亡くした茂助と彩の兄妹と共に、献身的に看護にあたってくれている。

 その姿は「戦場の天使」として、荒くれ者の兵士たちからも崇められ始めていた。

 これもまた、村を守るための「信頼」という資産になるだろう。

 そう思うことにした。

 そんなある日のことだ。

 現代から、あのお二人が視察にやってきた。


「わあ、これが戦国の城下町! 

 すごい、本当に時代劇のセットみたい!」


「茜さん、声が大きいです。

 目立ちますよ」


 大峰茜さんと、澄田幸代さんだ。

 二人は村で用意した着物に着替え、町娘風の格好をしている。

 髪もそれらしく結い上げ、見た目は完全に戦国の人……のはずだった。

 だが、致命的な問題があった。


「……ねえ、なんかみんな、私たちのことジロジロ見てない?」


 茜さんが首を傾げる。

 俺はため息をついて答えた。


「そりゃ見ますよ。

 二人とも、デカいんですもん」


「はあ? 

 失礼ね! 

 私まだ二十代よ!」


「年齢じゃなくて、背丈の話です!」


 現代人の平均身長は、戦国時代に比べて圧倒的に高い。

 特に栄養状態の良い現代日本で育った二人は、茜さんが165センチ、澄田さんも160センチはある。

 対して、この時代の女性の平均身長は140センチ台後半。

 男性ですら160センチあれば大柄とされる時代だ。


 つまり、二人はこの城下町において、周囲の男たちを見下ろすほどの「進撃の巨人女子」なのである。


「それに肌の艶も髪の質も違いすぎます。

 遠目に見ても『ただ者じゃないオーラ』が出まくってるんですよ」


 澄田さんが眼鏡(この時代に合わせて外しているが、癖で指が動く)の位置を直す仕草をして言った。


「盲点でしたね。

 栄養状態の格差が、ここまで視覚的な違和感になるとは」


「まあ、美人が目立つのはいいことじゃない?」


 茜さんはポジティブだが、そのポジティブさが仇となった。

 当然のように、その噂は山頂の「魔王」の耳にも届いたのだ。


「平田よ」


 数日後、城に呼び出された俺を待っていたのは、ニヤリと笑う信長さんだった。


「は、はっ」


「城下で妙な噂を聞いてな。

 平田屋には、天女のように美しく、かつ六尺(約180cm※誇張)の大男とも渡り合う背丈の女たちが現れたと」


「(六尺は言い過ぎだろ……!)」


 噂に尾ひれがつきすぎて、二人がアマゾネスか何かのように伝わっている。


「異界の女か?」


 信長さんの目が鋭く光る。

 興味津々だ。これはまずい。


「は……左様にございます。

 我が故郷より、商いの手伝いに参った者たちで……」


「ほう。一度顔を見せよ。

 異界の女子おなごがどのような面構えか、興味がある」


 やっぱりそうなった!

 茜さんなら物怖じせずに信長さんと渡り合うかもしれないが、澄田さんは毒舌で不敬罪になりかねない。

 何より、二人を権力争いや政略結婚の道具にされるリスクは絶対に避けたかった。

 俺は必死に脳を回転させ、冷や汗を流しながら口を開いた。


「あ、ありがたき幸せにございますが……! 

 あいにくと、彼女らはすでに帰路についております!」


「なに? 

 もう帰ったのか?」


「は、はい! 

 彼女らは……その、『月の満ち欠け』に合わせて動く体質でして! 

 新月の間しかこちらの空気に馴染めぬのです! 

 無理に留めれば、体が霞のように消えてしまうという……!」


 かぐや姫もびっくりな大嘘である。

 だが、信長さんは「ふむ」と顎を撫でた。


「月の満ち欠けか。

 ……貴様が新月や満月の前後にしか姿を見せぬのも、その理屈か」


「さ、左様でございます! 

 我が一族特有の『呪い』のようなもので……」


 俺はもっともらしく伏し目がちに語った。


「左様か。

 ならば致し方あるまい。

 ……だが、来月には来るのであろう?」


「へ?」


「来月、再び新月が巡った時、連れて参れ。茶の湯でもてなしてやる」


 信長さんは不敵に笑い、扇子でパンと膝を打った。


「逃げられると思うなよ、平田」


「……は、ははーっ!!」


 城を退出した俺は、その場にへたり込みそうになるのを必死で堪えた。

 時間切れで今回は逃げ切った。

 だが、来月には「進撃の巨人女子」たちを連れて、魔王との面接に挑まなければならない。

 空を見上げると、冬の寒空に細い月がかかっていた。


 ドクダミの匂いが染み付いた体で、俺は重い足取りで下山する。

 とりあえず、現代に帰ったら茜さんと澄田さんに土下座して頼み込もう。

 そして、澄田さんには信長対策マニュアルを、茜さんには「うっかり失言防止マスク」を用意してもらわなければ。


 俺の戦国ライフは、スローライフとは程遠い、綱渡りの毎日のままだ。


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