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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第6章 武将としての成り上がり

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第38話 人材募集:求む、留守番できる武人(未経験可)




「まずは、現状の『無理ゲー』具合を整理させてほしい」


 令和の世、犬山市の山奥にある古民家の居間で、俺はホワイトボード(大森がホームセンターで買ってきた)に向かってペンを走らせていた。

 目の前には、コタツに入ってスナック菓子を貪る茜さんと、分厚い歴史専門書を積み上げている澄田さん。そして、なぜか正座をして神妙な顔をしている大森がいる。


「信長さんから頂いたご褒美が、逆に俺たちの首を絞めている件についてだ」


 俺はボードに書かれた『課題』の文字をペン先で叩いた。


 1.身分:織田家の武将(武井夕庵様の与力)になってしまった。

 2.所領:二の山から楽田、大懸神社周辺の実効支配権(ただし、現在は敵地)。

 3.屋敷:小牧山城下に豪邸を拝領予定。


「……冷静に考えて、詰んでないか?」



「何言ってるんすか先輩! 成り上がりっすよ、成り上がり! 秀吉コース一直線じゃないっすか!」


 大森が目を輝かせて身を乗り出す。こいつは本当に気楽でいいな。


「あのな大森。俺たちは『月イチ・週末戦国トラベラー』なんだぞ? 半月単位で滞在できるようになったとはいえ、小牧山の城下町で毎日勤めに出るなんて物理的に不可能なんだよ」


 そう、最大の問題は『小牧山の屋敷』だ。

 拠点である廃村(イモ村)と、タイムトンネルである『祠』は絶対に守らなければならない。だから大森には村に残ってもらう必要がある。


 かといって、俺が小牧山に住み着けば、令和での生活が破綻する。

 だが、信長さんから「屋敷をやるから住め」と言われて「いや、通勤が大変なんで」と断れば、その場で物理的に首が飛ぶだろう。


「そこでだ。俺たちの秘密を守りつつ、小牧山の屋敷で『平田嶺』の代わりとして常駐してくれる、信頼できる管理人が必要になる」


「ふんふん、なるほどねぇ」


 ポテチの袋を逆さにして粉を口に流し込みながら、茜さんが頷いた。


「要は、平田くんがヘタレて逃げ回ってる間の『影武者』兼『留守番』を探せってことでしょ?」


「言い方はアレですけど、その通りです」


「私が立候補したいところですけど……」


 澄田さんが眼鏡のブリッジをくいっと持ち上げた。


「さすがに大学を辞めるわけにはいきませんし、何より私が戦国時代に行ったら、興奮して歴史に干渉しすぎてタイムパラドックスを起こす自信があります」


「澄田さんのその自信はなんなの。……まあ、現代人は無理ね。大森くんと詩織ちゃん以外に、この秘密を知られていい人間を増やすのはリスクが高すぎるわ」


 茜さんの冷静な指摘に、俺は深く頷いた。


「まあ、タイムパラドックスについては、今更感半端ないから良いとして、現地採用だ。永禄の尾張で、俺たちの手足となって動いてくれる人材を探す」


 俺は澄田さんに視線を送った。


「それもそうね。私たちが勝手に行き来している段階では、気にしても仕方がありませんね」


 彼女はニヤリと笑い、積み上げた本の中から一冊のノートを取り出した。


「ふふふ、そう来ると思って、リストアップしておきましたよ。この時期、尾張周辺でくすぶっている『将来の有名武将(SSR)』たちを!」


 澄田さんがバンッとテーブルにノートを叩きつける。

 そこには、俺でも名前を聞いたことのあるようなビッグネームが並んでいた。


「ターゲットは、木曽川流域を拠点とする『川並衆かわなみしゅう』および、その周辺の土豪たちです!」


          *


 かくして俺と大森は、再び永禄の世へと戻ってきた。

 

 さっそく人材ハントに出かけたいところだが、その前にやっておくべき仕事があった。


「へえ、仏像……ですか?」


 村の木工所――元々はあばら家だったが、今では立派な工房になっている――で、木地師の棟梁が首を傾げた。

 その手には、現代の彫刻刀(俺が持ち込んだもの)が握られている。


「ああ。小牧山に屋敷を構えることになったからな。そこにも仏様をお招きしたいんだ」


 俺はもっともらしい顔で言った。

 この村での俺の立場は、半ば『修験者』であり、石仏の守護者だ。信仰という名の「村民の精神安定剤」として機能している以上、新しい拠点にも信仰の対象が必要だ。


 それに、宗教的なオブジェがあれば、屋敷の中を勝手に捜索されにくくなるという打算もある。


「承知しやした! 平田様のためなら、最高の木を使って彫り上げてみせまさぁ!」


 棟梁が胸を叩く。

 最近、彼らの技術力向上は目覚ましい。最初はネコグルマ(一輪車)の車輪を作るのが精一杯だったのに、今では複雑な歯車まで削り出すようになっている。


 彼らに仏像を任せておけば、きっと国宝級のものが出来上がるだろう。


「よし、村のことは頼んだぞ。……行くか、大森」


「ウィッス! SSR武将ガチャ、回しに行きましょう!」


 俺と大森、それに護衛としてついてきてくれた山窩サンカの若者数名を連れて、俺たちは山を降りた。

 目指すは尾張の北端、木曽川沿いの地域だ。


          *


「で、澄田さんのリストによると、最初の一人はこの辺りらしいんだが……」


 俺たちは、草深い街道のわきにある、ボロボロの辻堂つじどうの前にいた。

 澄田さんのリサーチによれば、ここに『将来の豊臣五奉行の一人』になる人物が、今は浪人として転がっている可能性があるという。


「先輩、いましたよ。あのむさ苦しい男っすか?」


 大森が指差した先には、お堂の縁側で腹をさすりながら空を見上げている大男がいた。

 着物は継ぎはぎだらけ、刀の鞘もボロボロ。だが、その体躯は立派で、眼光にはまだ力が残っている。


「……前野長康まえのながやす。通称、将右衛門しょうえもんか」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 歴史の教科書に出てくる人物が、目の前で空腹に耐えている。このシュールな光景。


 俺は深呼吸をして、あらかじめ用意していた『必殺の武器』を取り出した。


「そこの御仁。少々、道をお尋ねしたいのだが」


「……あぁ? なんだ、俺は腹が減っててそれどころじゃ……」


 男が気だるげにこちらを向いた瞬間、俺は武器――『塩むすび』の包みを開いた。

 ふわわ……と、炊きたての白米と海苔の香りが漂う。

 現代の炊飯器で炊いたコシヒカリだ。この時代においては、砂金よりも価値があるかもしれない暴力的な芳香。


「グゥゥゥゥ……ッ!!」


 男の腹が、雷鳴のような音を立てた。

 効果てきめんだ。


「これは失礼。実は商談の途中でしてな。良ければこれを召し上がりながら、話を聞いてはもらえぬか」


「く、食って……良いのか?」


「どうぞ」


 俺が握り飯を差し出した瞬間、男の動きが獣のように俊敏になった。

 ひったくるように握り飯を掴み、大口を開けてかぶりつく。


「う、うめぇ……! なんだこの米は!? 一粒一粒が立ってやがる! それにこの塩加減……!」


 男――前野長康は、涙を流さんばかりに感動していた。

 よし、落ちた。チョロいぞ、戦国武将。

 俺はニッコリと、悪徳商人のような笑みを浮かべた。


「我らは織田家の武井夕庵様の与力、平田と申す。……どうだ、腹いっぱい飯が食える仕事に興味はないか?」


「あります! やらせてください! 門番でも人足でもなんでも!」


 即決だった。

 やはり「衣食足りて礼節を知る」以前に、「食欲はすべてに優先する」のだ。

 こうして、小牧山屋敷の管理人(警備員)第一号として、前野長康を確保することに成功した。


 彼には当面、屋敷の留守番と、周辺の治安維持を任せることになる。見た目が強面なので、誰も寄り付かないだろうという期待も込めて。


「へへっ、平田の旦那。俺の知り合いに、頭の回るやつがいるんですが、そいつも誘っていいですかね?」


 腹が満たされた前野さんが、楊枝をくわえながら言った。

 その名前を聞いて、俺と大森は顔を見合わせた。


堀尾茂吉ほりおもきち……のちの堀尾吉晴か!」


 仏の茂助と呼ばれる温厚な武将。内政や交渉に長けた人物だ。

 願ったり叶ったりだ。脳筋……いや、腕力担当の前野さんだけでは不安だったが、事務処理ができそうな堀尾さんが加われば、屋敷の運営は盤石になる。


「ぜひ紹介してくれ! 待遇は保証する!」


「へい! すぐ連れてきやす!」


 ここまでは順調だった。

 そう、ここまでは。


          *


 調子に乗った俺たちは、澄田さんリストの最上位、SSRキャラにアタックをかけることにした。


 場所は木曽川沿い、土豪たちがたむろする一帯。

 ターゲットの名は、蜂須賀小六はちすかころく

 太閤記などで有名な、あの大親分だ。


「……で? 清州の犬っころが、俺になんの用だ?」


 通された屋敷の奥で、眼光鋭い男がドカッと座っていた。

 周囲には、見るからにガラの悪い男たちが十数人。

 空気が重い。重すぎる。

 前野さんの時とはレベルが違う。これは「おにぎり」でどうにかなる相手ではない。


「あ、いえ、その……当方、珍しい品を扱っておりまして……ご挨拶に……」


 俺の声が裏返る。

 蜂須賀小六は、俺が献上した砂糖の袋を鼻先で嗅ぐと、フンと鼻を鳴らした。


「甘い匂いだ。……だが、俺たちが喰らいたいのは斎藤(美濃)の飯だ。織田の飯は、どうも泥臭くて気に入らねぇ」


 現在、蜂須賀党などの川並衆は、地理的にも美濃の斎藤家との結びつきが強い。

 信長さんの勢力が伸びているとはいえ、まだ彼らはどちらにつくか見定めている段階なのだ。


 俺のような新参者がノコノコやってきて「部下になってください」と言える雰囲気ではない。


「そ、そうですか……。では、本日は顔見せだけでもということで……」


「おう。帰んな。……だが、その砂糖は置いてけ。土産にもらっといてやる」


 完全にカツアゲである。

 俺は震える手で砂糖を差し出し、逃げるようにその場を去った。


「先輩……怖すぎっすよ、あの人……」


「ああ……さすがに大物は一筋縄じゃいかないな……」


 帰り道、俺と大森はげっそりと肩を落としていた。

 だが、収穫はあった。

 前野長康と、交渉中の堀尾茂吉。


 この二人がいれば、とりあえず小牧山の屋敷は「空き家」ではなくなる。

 俺が現代に戻っている間も、彼らが「殿はただいま修行中(または商談中)」と言って誤魔化してくれるはずだ。


「ま、蜂須賀さんは今後の課題だな。まずは前野さんに、お腹いっぱいご飯を食べさせて、信長さんの悪口を言わせないように教育することから始めよう」


「了解っす。詩織ちゃんの料理攻めで胃袋を完全に掴みましょう」


 夕暮れの尾張平野を歩きながら、俺はふと思った。

 引きこもりの元修理工だった俺が、いつの間にか戦国武将を面接し、家臣団を作ろうとしている。


 これ、本当に俺の人生か?


「……給料、いくらにすればいいんだろ」


 現実的な悩みを呟くと、カラスがアホウと鳴いて飛び去っていった。

 小牧山城の完成まで、あと少し。

 俺たちの二重生活は、ますますカオスになっていきそうだ。







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