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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第五章 戦国の武将(仮)として??

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第35話 令和のハイテク諜報戦と「戦国パワポ」作成




「……というわけで、俺たちは一旦令和に戻って資料を作ってくる。もし武井様から呼び出しがあったら、山に入って測量中だと誤魔化しておいてくれ」


 俺がそう告げると、大森は頼もしく親指を立てた。


「任せてください先輩。俺たちの『現代知識無双』の見せ所っすね。俺もこっちで、山窩サンカや木地師の連中に根回ししておきます。『山の民ネットワーク』を使えば、実地踏査の裏付けも取れますから」


「頼んだぞ。あと、今回の調査も兼ねて満月の周期についても検証したい。俺の予測が正しければ、半月スパンでの往復が可能になるはずだ」


「了解です! 詩織ちゃんとの愛の巣を守るためにも、先輩のパシリ役、完璧にこなしてみせますよ!」


 大森の軽口に苦笑しつつ、俺は茜さんと澄田さんを連れ、祠から令和へと帰還した。


          *


 令和の冬、雪こそ降らないが、まだまだ寒い犬山の山奥。

 婆ちゃんの家に到着するなり、俺たちはすぐに動き出した。

 さすがに夜に令和に戻るので、その日は簡単にネット検索程度で調査を終えるが、明日からは現地調査もしていくつもりだ。


 今回のミッションは、信長様へのプレゼン資料作成だ。

 失敗すれば切腹、良くて追放。

 さすがに切腹は無いとは思うが……本当に無いよな。


「何を馬鹿なことを言っているのですか。それよりも時間は有効ですよ」


 呆れたような声で澄田さんが俺に言ってきた。

 俺の考えが読めるのか……エスパーかよ!って俺は昭和かよ。


「嶺さん、声に出てますよ」


 茜さんまでもが呆れていた。

 しかし、それでも戦国チート相手だ。

 元社畜としては、かつてのブラック企業時代よりも胃が痛くなる案件である。


「まずは現地調査だ。信長様が指定した『二宮山(本宮山)』へ登るぞ」


 俺の号令で、俺たちは登山スタイルに着替えて本宮山へ向かった。

 婆ちゃんの家がある山から尾根伝いに行けなくもないが、道なき道を行くのは現代人の足には酷だ。

 俺たちは車で麓まで移動し、一般的なハイキングコースからアタックすることにした。


「はぁ、はぁ……。結構、キツイね、これ……」


 茜さんが白い息を吐きながらだが、体の方は十分に暑くなる。

 標高は三百メートル弱だが、急勾配の山道は運動不足の身体に堪える。

 雪が積もっていないだけ助かるが、こんな時期にここに来ようとするようなものはいないな。

 クマが出ないだけ助かるくらいか。


「これ、美濃を攻める城としては最悪ですね」


 澄田さんが冷徹に切り捨てた。


「麓からのアクセスが悪すぎます。ここへ物資を運ぶだけで兵站へいたんが死にますよ。信長様が本気でここを拠点にするつもりなら、ただの馬鹿です。何より、ここへの移動で、毎回犬山城そばを通らないとまともに移動ができそうにありませんよ」


「だよな。俺もそう思う」


 俺はスマホのGPSアプリで地形を確認しながら頷いた。

 婆ちゃんの家の裏山へ続く谷筋を使えば、裏手からの侵入経路があるにはある。

 だが、大軍を動かす道ではない。


「要害堅固と言えば聞こえはいいが、人が住む場所じゃない。やはり、ここは澄田さんの言う通り『当て馬』なんだろうな」


 俺は展望台から眼下に広がる濃尾平野を見下ろした。

 ここからの眺めは絶景だが、逆に言えば「見ているだけ」で終わってしまう。天下布武の拠点としては、あまりに浮世離れしすぎていた。


          *


 家に戻ると、そこからは「株式会社・戦国コンサルティング(仮)」の開業だ。

 居間のテーブルにノートPCとプリンター、そして大量の和紙風コピー用紙を広げる。


「いいか、今回の目的は『二宮山は城に適さない』という事実を、角を立てずに信長様に理解してもらうこと。そして、代替案として『小牧山』を提示し、そちらへ誘導することだ」


 俺はホワイトボード(カレンダーの裏紙)に作戦概要を書き殴った。


「まずはPCで地形図を出力。それをベースに、俺が手書きで簡略化した図面を起こす。それを茜さんが、筆と墨で『それっぽい古文書風』に清書してくれ」


「はーい! お習字なら任せて!」



 茜さんが袖をまくり上げ、やる気満々ですずりに向かう。


「澄田さんは、俺が出したデータと史実の整合性チェックだ。信長様が好みそうな言葉選びや、当時の戦略的価値の補足を頼む」


「了解です。オタク知識と大学の講義が、まさか戦国サバイバルに役立つとは……」


 澄田さんはブツブツ言いながらも、目が輝いている。

 彼女もまた、この状況を楽しんでいる一人だ。

 作業は深夜まで続いた。


 国土地理院の地図データを加工し、等高線を筆でなぞり、要所要所に軍事的な注釈を入れる。

 俺がPCで作ったグラフや比較表を、茜さんが見事な達筆で『兵糧輸送難易度之図』や『地勢比較之表』へと変換していく。


 見た目は古風だが、中身は最新の地理データに基づいた超高精度な資料。

 これぞ、令和と永禄のハイブリッド、「戦国パワポ」の完成だ。


「……完璧だ。これならプレゼン負けはしない」


 出来上がった巻物風の資料を見つめ、俺は自画自賛した。


「でも嶺くん、小牧山のデータだけじゃ露骨すぎない?」


 茜さんが墨で汚れた指先を見ながら指摘する。


「『二宮山はダメ、小牧山は最高』ってだけだと、誘導してるのがバレバレじゃないかな」


「鋭いですね、茜さん」澄田さんが眼鏡(伊達だ)をクイッと上げる仕草をした。


「ビジネスでもそうですが、選択肢は三つ用意するのが定石です。『本命』『対抗』そして『捨て案』です」


「なるほど……」


 俺は唸った。確かに、二択だと押し付けがましい。

 もう一つ、もっともらしい候補地を混ぜることで、「我々は公平に調査しました」というポーズが取れる。


「よし、じゃあ追加調査だ。小牧山の近くにある別の丘……この『佐野遺跡』あたりはどうだ?」


 俺はPCで検索をかける。


「今は住宅街に埋もれてるが、地形的には小牧山に似た丘陵地帯だ。ここも候補に入れて、『比較検討の結果、やはり小牧山がベスト』という結論に持っていこう」


 翌日、俺たちは再び車を走らせた。

 向かうは令和の小牧山、そしてその周辺の丘陵地帯だ。

 現在の小牧山は、綺麗に整備された史跡公園になっており、山頂には模擬天守がそびえている。


「ここだ……」


 俺たちは山頂から、犬山方面(北)と清州方面(南)を見比べた。

 二宮山とは違い、平野の中にポツンと独立した山。川も近く、街道の要衝。誰がどう見ても、ここに城を建てろと言わんばかりの立地だ。


「信長様、最初からここ狙いだったんでしょうね」


 澄田さんが模擬天守を見上げながら呟く。


「二宮山への移転話は、家臣団に『あんな山奥に行くくらいなら、小牧山の方がマシだ』と思わせるための心理トリック。私たちは、そのトリックを裏付けるための『証拠作り』をさせられているわけです」


「完全に、上司の根回しに使われる下っ端社員だな……」


 俺はかつての記憶が蘇り、少し遠い目になった。

 だが、今の俺には頼れる仲間と、四百五十年分の知識がある。

 ただ使われるだけで終わるつもりはない。


 続けて、佐野遺跡周辺やその他の丘も回った。

 令和では住宅地が広がり、当時の面影を探すのは骨が折れたが、茜さんの農協ネットワーク(地元の古老からの聞き取り情報)と、澄田さんの考古学知識が火を吹いた。


「あそこに見える微高地、あれがかつての砦跡かもしれません!」


「この辺の地層、昔は湿地帯だったってじっちゃんが言ってたよ!」


 集めた情報を元に、さらに資料を量産していく。

 比較対象が増えるほど、小牧山の優位性が際立つ。

 俺たちは「二宮山がいかに不便か」を論理的に証明しつつ、「小牧山がいかに素晴らしいか」をさりげなく、しかし情熱的にアピールする資料を作り上げた。


          *


「できた……」


 すべての資料が完成したのは、令和に戻って十三日目の夜だった。

 机の上には、墨の香りが漂う数本の巻物。

 内容は、現代のコンサルタント顔負けの『尾張北部拠点移転に関するフィージビリティスタディ(実現可能性調査)』である。


「嶺くん、お疲れ様」


 茜さんが入れたての茶を出してくれる。


「これで信長様もイチコロだね」


「ああ。むしろ、出来が良すぎて怪しまれないかが心配なくらいだ」


 俺は苦笑しながら麦茶を煽った。


「平田さん、そろそろ時間です」


 結局、二の山(本宮山)と小牧山に佐野遺跡後をそれも小牧山以外は捨て案だと知りつつも同じ熱量で調べて資料を作ったので、余裕で半月を要してしまった。


 まあ、俺以外は二人とも昼にはそれぞれ自分の外せない用事がある。

 茜さんは農協があり、澄田さんも大学、それも今はテスト期間中だったはずなのに大丈夫だったのだろうか……。


「私は毎日きちんと勉強していますので、嶺さんに心配してもらう必要はありませんよ」


 また、声に出していたようだ。

 澄田さんから冷たく言われてしまった。


 なんだかんだと、満月には間に合い、満月移動の調査も兼ねて仏像の前に行く。

 今回の移動は俺だけだ。

 何せ、新月と違い、一回しか移動のチャンスが無いので、昼の令和に仕事や学校の用事を持つ二人には満月移動は無理だ。

 なので、俺は二人に協力してもらったお礼を言いながら永禄尾張に向かっていった。


「よし、行こう。俺たちの『プレゼン』で、戦国の歴史を少しだけ後押ししてやるんだ」


 俺は大量の「戦国パワポ」と、お土産の甘味をリュックに詰め込み、再び祠の前へと立った。


 待ってろよ、信長。

 元修理工兼社畜の底力、見せてやる。

 俺は覚悟を決め、時空を超える一歩を踏み出した。

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