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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第五章 戦国の武将(仮)として??

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第34話 永禄での正月と大評定



 皆が思い思いの祈りを捧げ終えると、俺は改めて全員の前に立った。


「えー、皆。あけましておめでとう。俺は別に教祖様になるつもりはないが、この仏様が俺たちを繋ぎ、守ってくれているのは事実だ。これからも、皆で感謝の気持ちを忘れずに、この村を盛り立てていこう!」


 俺の拙い挨拶に、再び「おおー!」という歓声が上がる。なんだか少し恥ずかしい。


「さあ、新年のお祝いだ! とっておきの酒を振る舞うぞ!」


 大森が待ってましたとばかりに叫ぶ。

 令和から持ち込んだ酒もいいが、今日の主役は別だ。

 村で初めて収穫した芋から作った、出来立ての芋焼酎である。

 その芳醇な香りが焚き火の煙と共に立ち上ると、大人たちの顔が一層緩んだ。


「お兄ちゃん、これ、お酒くさい」


「彩、こっちにおいで。もう眠いだろう?」


 詩織さんが優しく茂助と彩を促し、澄田さんと共に子供たちを大森たちの住居へ連れて行ってくれた。

 澄田さんはお酒に弱いので、そのまま寝かしつけ役をかって出てくれたようだ。

 助かる。

 残った大人たちでささやかな宴会が続く中、俺は明日の清州行きを考え、杯を舐める程度に留めていた。

 そんな俺の様子に気づいた茜さんが、隣からクスクスと笑う。


「嶺くんは真面目だねぇ。たまには羽目を外せばいいのに」


「いや、そういうわけには……」


 からかうような視線に、俺はたじろぐしかなかった。

 翌朝、まだ薄暗い中、俺は澄田さんに叩き起こされた。


「平田さん! いつまで寝てるんですか! 戦国の年始挨拶は元日からが本番です! 武家の『御礼始め』を舐めてはいけません!」


 寝ぼけ眼の俺に、オタクモード全開の澄田さんがまくし立てる。

 どうやら彼女の中では、俺たちも立派な武家の仲間入りらしい。

 大慌で支度を済ませ、お年賀の芋焼酎を数本携えて、俺と澄田さんは馬で清州へと向かった。


 澄田さんの解説付き道中は、さながら戦国歴史ツアーだ。

 武井様の屋敷に到着し、芋焼酎を献上すると、武井様は興味深そうにそれを手に取った。


「ほう、これはまた珍しい。平田殿の村で作らせたのか」


「は、はい。芋から作った『焼酎』と申します」


「焼酎……。面白い。実に面白い」


 武井様はいたく気に入った様子で、俺たちに思いがけないことを言った。


「ちょうど良い。貴殿らも上様への挨拶があるだろう。儂と共に行けば話が早い」


 こうして俺たちは、あれよあれよという間に武井様の従者という形で清州城へ初登城することになったのだ。


 城内は、鎧兜をまとった武将たちではないが、全員が正装姿の武将たちでごった返していた。


 信長様への謁見では緊張のあまり頭が真っ白になったが、隣の澄田さんが小声で「頭を下げてください」「献上の品を前に」と的確に指示をくれ、なんとか大役を果たした。


 信長様から直々に酒を賜った際には、その鋭い眼光に射抜かれて寿命が縮む思いだった。

 だが驚いたことに、俺たちの顔は意外と知られていたらしい。


「おお、あの時の修験者殿か」


「商人になったと聞いたが、達者そうで何より」


 先の戦で負傷者の治療を手伝ったことが、思わぬ形で俺たちの立場を保証してくれていた。


 やがて、城の大広間で新年の大評定が始まった。

 居並ぶ重臣たちの末席に座る俺は、ただただ息を殺しているのが精一杯だ。

 信長様が今年の抱負として「美濃を獲る」と高らかに宣言すると、家臣たちの士気が一気に高まるのが肌で感じられた。

 だが、事件はその直後に起こる。


「ついては、この清州から拠点を移す!」


 信長様の一言に、あれほど沸き立っていた広間が水を打ったように静まり返った。

 次の瞬間、家臣たちの間から「な、何ですと!?」「この尾張の中心たる清州を捨てるというのですか!」と、堰を切ったような動揺が広がった。


「黙れ!」


 信長様の一喝が、すべての声を黙らせる。


「美濃を攻めるに清州は遠い! これは決定事項である!」


 その有無を言わさぬ迫力に、誰も反論することはできなかった。

 評定の後、なぜか俺と大森(いつの間にか呼び出されていた)は、柴田勝家殿や丹羽長秀殿といった錚々たる顔ぶれが揃う重臣だけの宴席に末席ながら参加を許された。


 完全に場違いな俺たちは、借りてきた猫のように縮こまるばかりだ。

 その席で、信長様は大きな地図を広げ、一つの山を指し示した。


「移動先の候補地は、ここだ。二宮山よ」


 二宮山……現在の本宮山。

 それは、俺たちの村のすぐ裏手にある山だった。

 家臣たちが「あのような不便な山奥に……」と不満の声を漏らす中、信長様の視線が、俺たちを捉えた。


「修験者崩れの商人と、その手下よ。貴様らの村はあの山の近くだったな。山の様子を隈なく調べ、絵図も加えて報告せよ! これは最初の命じゃ、抜かるなよ!」


 断れるはずもない。

 俺は助けを求めるように武井様を見た。

 武井様は、俺の視線に気づくと、わずかに頷いてみせた。

 それで覚悟を決めた俺は、床に頭がつくほど下げて、その命を拝命した。

 宴席から解放され、命からがら城を出た俺たちの元へ、武井様が追いついてきた。


「貴様は修験者でもあったし、あの辺りには詳しいだろうから大丈夫だろうが、殿の命だ、しっかり励むように」


 その声には、どこか含みがあるように感じられた。

 村への帰り道、俺は澄田さんに自分の推測を話した。


「もしかして、信長様の本命は別の場所なんじゃないか? 二宮山は、家臣たちの反発を計算した上での『当て馬』で……」


「小牧山ですね」


 俺の言葉を継いだのは澄田さんだった。


「史実通りなら、移転先は小牧山です。いきなり本命を出すのではなく、まず実現不可能なほど不便な二宮山を提示することで、家臣たちの不満の矛先をそちらに向けさせる。その上で小牧山を提示すれば、『あそこよりはマシか』と受け入れやすくなる……一種の交渉術ですね」


「じゃあ、俺たちの調査はただの無駄骨ってことかよ!」


 大森が悔しそうに叫ぶ。


「いや、そうじゃない」俺は首を横に振った。


「殿の命令を忠実にこなせば、それは俺たちの功績になる。武井様は、きっとそれを言いたかったんだ。俺たちは、とんでもない政治劇の駒にされたみたいだな」


 戦国時代のスケールのデカさにため息をつきつつも、俺たちは与えられた役割を全力で全うすることを心に誓うのだった。俺たちの波乱万丈な永禄四年が、こうして幕を開けた。





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