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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第五章 戦国の武将(仮)として??

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第32話 令和でのお正月と初詣




 そして、大晦日の夜がやってきた。

 俺と茜さんは、居間のこたつでぬくぬくと温まりながら、年越しそばをすすっていた。

 テレビ画面の中では、国民的歌合戦のフィナーレが華々しく繰り広げられている。


「いやあ、やっぱり年末はこれだよな。

 こたつにミカン、そして年越しそば。完璧な布陣だ」


「嶺くん、おじいちゃんみたいなこと言ってる。

 でも、わかるなあ。

 私も、こんなふうに誰かとテレビ見ながら年越しするの、本当に久しぶり」


 そう言って微笑む茜さんの横顔は、テレビの光に照らされて、いつも以上に綺麗に見えた。

 離婚したという過去のせいか、彼女の言葉には時折、寂しさの影が差す。

 だが、今はその笑顔に一点の曇りもない。


(俺が、この人を守る……なんて、大それたことは言えないけど。せめて、こうして隣で笑っていてほしい)


 そんなことを考えていると、テレビの向こうから賑やかなカウントダウンが始まった。


『3、2、1……あけましておめでとう!』


 俺たちは顔を見合わせ、同時に吹き出した。


「「あけましておめでとうございます」」


 律儀に頭を下げる。

 なんだか夫婦漫才みたいで、おかしいやら、照れくさいやら。


 ゴーン、ゴーンと、遠くの寺から除夜の鐘の音が聞こえてくる。厳かで、それでいて心の落ち着く音だ。


「よし、じゃあ初詣と行きますか!」


「え? 今から山降りるの?

 さすがに寒すぎない?」


「いやいや、ここにいらっしゃるじゃないか。

 俺たちを導いてくれる、ありがたい仏様が」


 俺はそう言って、先日二人で設置したばかりの、床の間に鎮座する仏壇を指さした。

 新しい欅の仏壇の中で、石仏様は心なしか満足げに見える。


「なるほど、天才だね嶺くん!」


 茜さんと二人、こたつから這い出して床の間の前に正座する。

 テレビの音は消し、静寂の中で厳かに鳴り響く除夜の鐘に耳を澄ませた。


「今年も一年、よろしくお願いします」


 俺と茜さんが、仏像に向かって静かに手を合わせた、その瞬間だった。

 ゴーン……という鐘の音が、ぷつりと途切れた。


 いや、違う。聞こえなくなったんじゃない。時間が引き延ばされたような、あの独特の浮遊感が全身を包み込む。何度も経験した、時空を超える感覚だ。


(……え? 嘘だろ!?)


 慌てて目を開けると、隣にいるはずの茜さんの姿がぐにゃりと歪み、次の瞬間、俺たちは見覚えのある薄暗い祠の中に立っていた。

 目の前には、仏壇に納める前の、むき出しの石仏様。


「「…………は?」」


 俺と茜さんの間抜けな声が、狭い祠の中に響き渡った。

 今日は年初、元旦。

 新月どころか、まん丸お月様の満月のはずだ。

 なんで、どうしてここに!?

 まさか、別の時代に飛ばされたとかいう、ラノベ的超展開か!?


 パニックに陥る頭で必死に状況を確認しようと祠の外へ飛び出すと、そこには見慣れた風景が広がっていた。

 俺が最初に整備した、祠の周辺。

 今は真冬だから雑草こそないが、雪がちらつく中、確かに俺たちの村の入り口だ。


 クシュン!


 隣で茜さんが、可愛らしいくしゃみを一つ。

 それもそのはず、俺たちは家の中でくつろいでいた格好のままなのだ。

 俺はスウェット、茜さんは薄手のセーター一枚。

 この永禄時代の、しかも山中の真冬の寒さは、現代のそれとはレベルが違う。


「まずい、風邪ひく! 戻るぞ!」


 俺は茜さんの腕を掴むと、再び祠の中へ駆け込み、一心不乱に石仏様に祈りを捧げた。

 頼む、戻ってくれ!

  新春早々、異世界で凍死なんて洒落にならない!


 ふわり、と視界が白む。

 次に目を開けた時、俺たちは無事、我が家の仏間の隣にある居間に戻ってきていた。


「良かった〜……! でも、あれ、何だったの!?」


「わ、わからん! でも、間違いなく永禄尾張の、俺たちの村だった……」


「だって、今日は満月だよ!? 新月じゃないのに!」


 茜さんの言う通りだ。

 転移の条件は新月の前後三日間。

 これは揺るぎないルールのはずだった。


「ひょっとして、元旦は特別なのか? ボーナスステージ的な?」


「何それ。じゃあ、もう一回行けるのかな?」


 確かに、検証は必要だ。俺は一人、再び床の間に向かい、先ほどと同じように手を合わせた。

 しかし、何も起こらない。ただ静かな時間が流れるだけだ。


「……ダメだ。一回だけみたいだ」


「一回だけ? 往復一回限定ってこと?」


「ああ。もしかしたら、先月の新月の時のように、何か制限があるのかもしれない。これは、次の満月にも試してみないと……」


「検証ねえ……。なんだか、私たちの年末年始って、どんどん普通じゃなくなっていくね」


 茜さんは呆れたように笑うが、その瞳は好奇心でキラキラと輝いている。

 まったく、この幼馴染は肝が据わりすぎている。


 結局、この謎の「元旦満月ワープ事件」のせいで、厳かな初詣の雰囲気はどこかへ消え去ってしまった。


 それでも、翌日からの三が日は、本当に穏やかに過ぎていった。

 麓の有名な神社に初詣に行くことも考えたが、この時期の参道は凄まじい渋滞になる。

 わざわざ人混みにもまれに行く気力もなく、俺たちは家でのんびりと正月特番を見たり、茜さんが作ってくれた絶品のおせちをつついたりして過ごした。


「嶺くん、足、こっち」


「うおっ!?」


 こたつの中で、茜さんの足が俺の足に大胆に絡みついてくる。

 その感触に心臓が跳ねるが、かといって振りほどくこともできない。


「……茜さん、それ、反則」


「ふふっ、ヘタレ」


 結局、そんな甘くて焦れったい攻防を繰り返すだけで、俺たちの関係に大きな進展はないまま、あっという間に正月休みは終わってしまった。

 まあ、俺らしいと言えば、俺らしい。


 正月気分もすっかり抜けた頃、俺は久しぶりに軽の4wdを走らせ、町へ買い出しに出かけた。

 もちろん、次の新月に永禄時代へ持っていくための物資の調達だ。


 ホームセンターで目をつけたのは、大小様々なサイズの鉄鍋やフライパン。

 これだけあれば、村の炊き出しも効率が上がるし、詩織さんが新しい料理を開発してくれるかもしれない。


 ついでに、澄田さんへのお土産として、最新の歴史雑誌と彼女が好きそうなキャラクターのキーホルダーもカゴに入れた。

 あいつ、どんな顔するかな。


 たくさんの物資を荷台に積み込み、俺は山奥の我が家へとアクセルを踏む。


 令和での穏やかな日常と、永禄時代での刺激的な非日常。

 二つの世界を股にかける俺の奇妙な生活は、新たな謎を抱えつつも、こうしてまた始まっていくのだった。


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