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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第五章 戦国の武将(仮)として??

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第28話 温泉大論争 ― “ヘタレ撲滅キャンペーン”発足!



 疲れた。

 本当に疲れた。

 戦なんて、二度とごめんだ――そう心に誓った俺だったが、論功行賞では信長様本人から褒められた。


 「命を救うという功、比類なし」だって。


 おいおい、“ドクダミ救命チーム”が織田家に正式登録されるとは、いったい誰が予想しただろうか。


 ……もう、逃げられねぇ。


 村に戻ると、みんなが拍手で迎えてくれた。

 あの地獄みたいな救護活動を終えて戻ってきた俺と大森を、村の子どもたちまでが「おかえりー!」と叫んでくれる。

 いや、なんか、ちょっと泣きそう。

 その後ろで茜さんが手を腰に当ててニヤリと笑った。


「よく頑張りましたね、嶺くん。

 でも……顔色、ドクダミ色してるわよ?」


「言わないでください……匂いもまだ取れません」


「まあまあ、これも“武功の香り”ってやつですわ」


 澄田さんがいつもの無表情でドライに返す。


「ただし、“芳香剤としては不合格”ですけどね」


 お前ら、本当に容赦ねえな。

 俺が命懸けで働いてたんだぞ。


 ……まあ、分かってる。

 この人たちのツッコミが、どれだけ心を軽くしてくれるか。

 戦場の地獄を思い出して眠れぬ夜を過ごすより、こうしてドクダミネタで笑ってられる方がよっぽど健全だ。


 さて、今回の功績を祝して、村ではちょっとした宴が開かれた。

 とはいえ、いつもの「松茸焼き+どぶろくパーティー」である。

 経済力のなさが泣けるが、これが“イモ村クオリティ”。


「じゃあ、嶺殿のご活躍に――かんぱーい!」


「かんぱーい!」


 木製ジョッキをぶつけ合い、どぶろくが跳ねる。

 詩織さんがにこにこしながら給仕して回るその横で、子どもたちは松茸の炭火焼きに夢中だ。

 大森はというと――


「ふはは、見よ! 俺のドクダミシールド!

 どんな蚊も寄せつけぬこの香気!」


「ただの臭いっすよ、それ」


 誰かが即座にツッコんだ。

 宴の笑いが絶えない。


 宴もたけなわ、俺は一人縁側に出て夜風を浴びた。

 ふぅ……。

 風が涼しい。ドクダミ臭とどぶろく臭が混ざって、妙にノスタルジックだ。

 と、背後で足音。


 振り返ると、浴衣姿の茜さんが立っていた。


「嶺くん、ちょっといい? 温泉、行きましょう」


「……はい?」


「あなた、相当疲れてるでしょ。

 温泉に浸かって、ちゃんと休みなさい」


 確かに、風呂は恋しかった。

 戦場では“ドクダミ湿布風呂”で我慢してたからな……。

 だが、俺が頷く間もなく、もう一人の声が響いた。


「抜け駆けは許しませんよ」


 ――澄田さんである。

 手には桶とタオル、そして何故か“戦国風のシャンプーブラシ”を持っている。


「ま、待ってください二人とも!? 俺、心の準備が――」


「嶺くん、準備は私がしてあげるから♪」


「必要なのは“覚悟”だけです」


 ああ、もうダメだ。

 戦場より逃げ場がない。


 温泉は、村の外れにある天然の湯。

 かつて祖母が掘り当てたという、ほぼ奇跡の泉だ。

 湯気が立ち込め、岩風呂の周囲には蛍が飛んでいる。


 ……幻想的な光景なのに、俺の頭の中は警報鳴りっぱなしだ。


「じゃ、背中流してあげるね、嶺くん」


「えっ、あ、あのっ……いや、その……!」


 茜さんの手が、泡立てた布を持って俺の背中へ――

 その瞬間、反対側から声が飛んだ。


「それは私の担当です」


「ちょっと澄田さん!? これは“年上の特権”よ!」


「いいえ、“共犯者の権利”です」


「うっ……! ぐぬぬ……!」


 泡立つ温泉の中で、まさかの“背中洗い主導権争奪戦”勃発。

 俺の背中は戦場よりも激しく攻められていた。

 逃げられない。


 いや、逃げたら確実に後で怒られる。


「嶺くん、力抜いて」


「はいぃ……」


「嶺さん、痛くないですか?」


「だ、大丈夫です……(心が限界ですけど)」


 もう、湯気で視界が霞むのか、羞恥で頭が真っ白なのか分からない。

 ただ、二人の笑い声が耳に残って、どうしようもなく温かかった。


 しばらくして、湯上がりの三人。

 茜さんがほっぺを上気させながらタオルで髪を拭いている。

 澄田さんは冷やした麦茶を手に、涼しい顔でこう言った。


「……それで、今後の衛生兵制度のことですが」


「お、おい、今このタイミングでその話!?」


「“リラックス状態の脳”の方が、発想が柔軟になるんですよ」


 くっ、学者ロジックで押してきた。

 茜さんも頷きながら言う。


「そうよ。私たちも協力するから、もう少し体制を整えましょう。

 戦はまた来るかもしれない。

 でも嶺くんなら、きっとまた誰かを救えるわ」


「……はい」


 素直に、そう答えていた。

 風が湯の残り香を運び、夜空には星が瞬いている。

 気づけば、あれほど嫌だった“ドクダミの匂い”が、少しだけ懐かしく感じた。


 翌日。

 二人を令和へ送り返す前、俺は松茸を詰めた箱を渡した。


「これ、10キロくらいあるんで。例の“令和交易ルート”で現金化お願いします」


「了解です、嶺さん」


「次は松茸以外も増やしましょう。タケノコとか、ドクダミ茶とか」


「お、おう……ドクダミはもう勘弁して……」


 彼女たちが光の中へ消えるのを見送りながら、俺は思った。

 戦場より怖いのは――

 たぶん、あの二人の“温泉強制イベント”だ。

 とはいえ、悪くない。


 あの夜の笑い声が、心の中で静かに響いていた。

 次の新月も、またこの村で。

 ドクダミと笑いと、ちょっぴりの勇気で。




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