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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第五章 戦国の武将(仮)として??

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第27話 夜を徹してドクダミまみれ ― “本陣救急センター”開業!



 幸いなことに、俺たちが何をやっているのか、足軽たちはまったく理解していなかった。

 「治療する」と言われれば素直に従い、「並べ」と言われれば律儀に行列を作る。

 信長軍の規律、恐るべしである。


 おかげで“本陣内臨時救護所”の運営はスムーズに始まった。

 いや、正確には“地獄の流れ作業”である。


「次っ! 矢が刺さってる人、こちらにー!」


「は、はいぃぃぃ!!」


 矢を刺したまま突進してきた足軽が、腰を抜かしながら治療台に転がり込む。

 その横では、槍で刺された男が呻き声を上げ、そのまた横で「ちょっと転んだだけっす」と言いながら血を流している足軽がいる。

 おいおい、転んで血まみれってどんな転び方だ。


「先輩、この人、背中に刀の鞘刺さってるんすけど」


「……それはもう“装飾”扱いでいい。後回しだ!」


 矢傷、切り傷、転倒、誤爆(!)と、負傷の種類はカオスそのもの。

 それでも俺たちは手分けして、まずは出血のひどい者から手当てをしていった。

 矢が刺さっていれば抜いて、ドクダミ汁をぶっかける。


 刀傷には、ヨモギとドクダミをもんで作った謎ゲルを塗る。

 出血が止まらなければ、清潔(?)な布で縛って固定。

 完治ではないが、命はつなげる――そんな戦場医療(風)である。



 日が沈んでも治療の列は途切れなかった。

 かがり火を灯し、夜通しの作業に突入。

 ドクダミ臭と血の匂いが混ざり合い、もはや“薬臭い焼肉屋”状態だ。


「うわぁ……この匂い、慣れてくると逆に落ち着くっすね」


「それは感覚がバグってる証拠だぞ、大森」


 夜半を過ぎるころには、みんなの目が虚ろになってきた。

 針を縫う手つきも雑になり、「あっ」とか「うっ」とか言いながら糸を通す。

 中にはドクダミ汁と間違えて茶をぶっかけた奴もいたが、誰も気にしない。

 とにかく“生きている者を次に回す”ことが最優先だった。


 それでも――全員の治療は終わらなかった。

 かがり火が消えかける頃、ようやく信長様の幌衆が現れ、俺たちに一言。


「殿のご命令だ。休め。夜明けまで持たぬぞ。」


 その声には、どこか優しさすらあった。

 疲労と達成感が混ざり、俺たちはその場で崩れるように座り込んだ。

 空が白み始める。

 まるで、血と煙とドクダミのにおいの中に、朝が迷い込んできたようだった。



 翌朝。

 信長様は、小口城攻めを一旦断念した。

 戦果より被害が大きく、さらに負傷者が増えれば士気も下がる。

 “続ければ全滅”という判断だろう。さすが戦の天才だ。


 だがその裏には、俺たち救護班の事情も考慮されていたという。

 まだ重傷者の治療が終わっていない――それも撤収を三日遅らせる理由の一つになった。

 信長様の「血の冷たい戦鬼」というイメージが、だいぶ違って見えてきた。

 あの人、思ってたより“現場に優しい上司”かもしれん。



 重傷者たちは動かせない。

 そのため、信長様の本陣だった広間が、そのまま臨時病棟になった。


「殿の陣幕に、血まみれの足軽が寝てるって……大丈夫なんすかね」


「知らん。今さら消毒済みだからセーフってことにしとけ」


 木の床には寝具代わりの藁と布団。

 その上にずらりと横たわる兵士たち。

 まるで戦場版ナイチンゲール――いや、“ナイチンゲール前夜”だ。

 動ける軽傷者たちは次々と回復し、手足を引きずりながらも外へ出ていった。


 彼らが生きて帰ることを願うしかない。



 三日後、全ての軽症者と中傷者の治療を終え、俺たちはようやく撤収した。

 村に戻るころには、全員の顔色がドクダミ色に染まっていた。

 あの匂い、しばらく取れそうにない。


 後日、武井様から結果報告を聞かされた。

 なんと、あの救護所に運び込まれた者のうち、五分の一は助からなかったという。


 ――つまり、八割が生き延びた。


「え、それって結構すごくないっすか?」


「……ああ、戦国基準だと“奇跡”レベルだそうだ。」


 実際、信長様もお褒めの言葉をくださったらしい。

 ただし武井様曰く「笑ってはおられたが、目が怖かった」とのこと。

 ……褒められてるのか、監視されてるのか、どっちなんだ。



 とはいえ、俺は正直、もうあの現場には戻りたくなかった。

 戦場は……えぐい。

 血の色と人の呻き声が頭に焼き付いて離れない。


 俺は医者でも軍人でもない。

 ほんの数日前まで「ドクダミ茶の効能」について議論してた村人だぞ。

 それでも、許されない。


 俺たちはもう「衛生兵」として名を挙げてしまった。

 “結果を出した者”は次も呼ばれる。

 それが戦国のルールだ。



 小口城攻めは明らかに信長様の敗戦だった。

 兵の損耗は大きく、なかでも信長様お気に入りの岩室重休三という若者が戦死。

 そのほかにも多くの武将が命を落とした。


 後で澄田さんに調べてもらったところ、史実ではこの戦で十人以上の武将が戦死している。

 だが俺たちが救ったことで、三人は助かったらしい。

 つまり、歴史がちょっとだけ変わったのだ。


「まあ……多少変わってもいいじゃないですか。どうせ俺たちがいる時点で、もう別ルートですし」


「そうだな。どうせ“織田信長 ifルート”だ。」


 俺たちのせいで“歴史修正ドクダミ派”が誕生した瞬間であった。



 十日後。

 犬山攻めの反省会――いや、正式には「評定」が開かれた。

 敗戦の空気が漂う中、なぜか俺と大森も呼ばれた。


 まさか「ドクダミ反乱罪」ではあるまいな。


「ま、まさか処罰ですかね……」


「もしそうなったら、“ドクダミ汁攻撃”で最期を飾るしか……」


「やめろ、死因が臭すぎる」


 恐る恐る広間の外廊下で待機していると、襖の向こうから声がした。


「――嶺、大森、前へ!」


 武将たちの鋭い視線が突き刺さる中、俺たちは正座して進み出る。

 板の間に正座すると、足がしびれてもう限界。

 がまん、がまん。

 これが日本の礼儀だ。


 やがて信長様が立ち上がり、俺たちを見た。

 その口から出た言葉は、予想外のものだった。


「この度の働き、誠に見事であった。敗戦の中においても、命を救うという功、比類なし。」


 ――え、今、褒められた?

 本当に?

 まわりの武将たちもざわつく。


 信長様は続けて、感状を取り出し、俺たちに差し出した。


「貴様らの行い、戦における新たな道なり。以後も励め。」


 まさかの公認である。

 “衛生兵”という謎の職業が、正式に織田家の記録に刻まれた瞬間だった。



 評定が終わったあと、大森がぼそっと言った。


「……先輩、これ、もう後戻りできませんね」


「ああ。完全に“ドクダミ科 織田病院”の職員になっちまったな。」


「どうせなら、給料ドクダミじゃなくて銀子でほしいっす。」


「それ、俺も。」


 笑いながらも、俺は心のどこかで震えていた。

 戦場の現実と、そこに生まれた新しい“職業”。

 この先、どんな戦が待っていようとも――

 俺たちはまた呼ばれるのだ。


 「嶺殿、次の出陣、医療班同行せよ」


 その一言で、またドクダミの匂いに包まれる未来が見える。

 ……温泉帰りたい。

 いや、もう湯船の中でも血とヨモギの匂いがしそうだ。

 それでも。

 あの日救った命の重みを思えば、逃げるわけにはいかない。


 次の戦でも、俺たちは戦う。

 刀でも、槍でもなく――ドクダミと糸と、ちょっぴりの勇気で。





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